イケメン店主に秘密の片想いのはずが何故か溺愛されちゃってます

波木真帆

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番外編

社長のおかげ

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自分の席に戻ると、もう誰からも好奇の視線を受けることはなかった。
もしかしたら名嘉村さんがみんなに声をかけてくれたのかもしれない。

そんな上司の優しさにホッとしつつ、俺は与えられた仕事を始めた。
パンフレットの仕事がうまく行ったこともあって、俺はやる気にみなぎっていた。
久しぶりの仕事だからなんだか楽しくて仕方がない。

もうすぐきりのいいところまで終わるなと思っていると、突然肩を叩かれた。

「平松さんっ!」

「えっ?」

驚いて振り向くと、そこには藤乃くんの姿があった。

「ど、どうかした?」

社長室にいるはずの藤乃くんが急に現れて思わず声が上擦ってしまった。

「やっぱり気づいてないんですね。もう休憩時間ですよ」

「えっ?」

慌てて時計を見ると本当に十時になっている。

「うそっ、はやっ」

「平松さん、集中すると時間を忘れるから声をかけてきて欲しいって砂川さんに頼まれて声かけに来たんです」

「そうなんだ。ありがとう」

砂川さんはいつも俺のことを心配してくれるな。
さっきといい、今といい、こんなに気を遣ってもらって逆に申し訳ないくらいだ。

「あの……さっきはごめんなさい。僕……」

「気にしないでいいよ。確かにちょっと恥ずかしかったけど、藤乃くんが心配してくれたのは伝わったし。それより休憩しよう」

砂川さんと話せたおかげでこうして藤乃くんに対しても普通に対応することができてよかったな。

「あっ、おやつですよね! 祐悟さん……あ、社長が美味しいお菓子を用意してくれてますよ」

「そうなんだ。社長のお菓子、いつも美味しいから楽しみだな」

俺が笑顔で返すと、藤乃くんはホッとしたように笑った。

「みんなでお茶にしましょうか」

その声に振り向くと、少し大きなトレイにお茶とお菓子を載せて砂川さんがやってきていた。

近くにあるテーブルに集まると、それぞれの前にお茶を置いてくれた。

俺の隣には名嘉村さん。
向かいには藤乃くんと砂川さんが座った。

「これ、すっごく美味しいですよ」

「ありがとう」

渡されたのは、きんつば。
しかも栗入りと書かれている。

きんつば、か……母さんが好きだったな。
もうしばらく食べていないからどんな味だったかも忘れてしまったな。

そっと包みを開けると硬めのあんこに薄く白いのが纏っている。

半分に割ると、粒あんの中に食べやすい大きさにカットされた栗がゴロゴロと入っているのがわかる。

「美味しそう!」

俺が知っているきんつばとは違ったけれど、きっと母さんがこれを見ても美味しそうと言っただろう。

口に入れると、あんこの硬さと栗の食感がなんとも言えないくらい美味しい。

「幸せそうですね、平松くん」

「本当、すごく嬉しそう」

「そんなに気に入りましたか?」

あまりにも美味しくて幸せを感じていると、口々に声をかけられて恥ずかしくなる。
でも本当に幸せなんだから仕方がない。

「これ、すっごく美味しいです。母さんがきんつばが好きだったからつい思い出しちゃって……」

「お母さまが……そうなんですね。社長もいいものを選んでくれましたね」

倉橋社長……最初会った時は途轍もなく怖い人だと思ったけれど、すごく優しい人なのかもな。

考えてみれば俺って倉橋社長に救ってもらったおかげで、ここに来れて大きな仕事も任せてもらえて充実しているばかりか、崇史さんとも出会えて幸せになれたんだ。

何もかも倉橋社長のおかげじゃないか。

もっと倉橋社長のために、そしてこの会社のためにも必要な存在にならないとな!

美味しいお茶とお菓子で楽しい休憩時間も終わり、また午後休憩に向けて仕事を始める。
昼休憩まで二時間くらいしかないけれど、それが返って集中できるから仕事の効率もいい。

休憩も何も取れない前の会社と比べたら天と地ほど違うけど、思いっきり仕事も捗るからこの仕事のやり方が正解なんだろう。こんなシステムを作り出した倉橋社長って、本当すごいな。

仕事をしているうちにあっという間に昼食になり、砂川さんの部屋でいつものように食事を摂る事になった。

「あれ? 藤乃くんは?」

「藤乃くんなら、社長と一度ご自宅に戻りました。昼休憩が終わったら戻ってくるはずですから気にしないでいいですよ」

砂川さんは俺には笑顔でそう話していたけれど、小声でぼそっと

「本当に社長には困ったものです」

と呟く声と共にため息のようなものが聞こえた気がした。

何かあったんだろうか? 

砂川さんの様子が少し気になったけれど、崇史さんが作ってくれたお弁当を見たらすっかりその事は吹き飛んでしまっていた。
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