イケメン店主に秘密の片想いのはずが何故か溺愛されちゃってます

波木真帆

文字の大きさ
104 / 121

ようやく前に

しおりを挟む
こんなふうに笑って藤乃くんを出迎えることができるなんて思ってなかった。
本当に昨日までは、俺の顔を見てとんでもない空気になってしまうのを覚悟していたのに。

驚きすぎて目を丸くしたままの藤乃くんは

「実はね、あの会社を告発してくれたのは彼だったんだ」

と社長に教えられて、さらに驚きの表情になっていた。

俺自身はその映像を見ていない。
あの時は尋ねられるがままに無我夢中に喋っていたから、どんな感じのを藤乃くんが見たのかわからないけれど、藤乃くんには社長たちが動いていたことは内緒だって言われているから、

「俺……藤乃くんがあんなふうに辞めさせられてから許せなくて……それでマスコミとかに情報流して告発したんだ。倉橋社長は俺が告発者だって知って、俺を雇ってくれたんだよ」

ということにしておいた。

社長はすぐに俺の言葉に乗ってくれて、

「航があんなひどい目にあってたのを勇気を出して告発してくれたからね、お礼というわけじゃないが、うちで働いてもらうことにしたんだ。もし前の会社の奴らに知られてもこんなとこまで彼を捕まえにはこないだろうなと思ったから」

と話を合わせて伝えてくれた。

社長、さすがだな。
藤乃くんも俺の言ったことをすっかり信じてくれてる。
まぁ社長の話しているのはほぼほぼ事実だしな。

藤乃くんは社長の懐の広さに感動したようで泣いている。
相変わらず優しくていい子だな。

「俺としてもいい人材を雇うことができて良かったんだ。砂川と名嘉村に教育係を頼んでるんだが、平松くんはかなり優秀らしい。なぁ、砂川」

「はい。私としても喜んでいるんですよ、これで社長の仕事で東京に行く時もこちらのことをあまり心配せずとも良くなったので。平松さん、すごくよく頑張ってくださってるので助かっています」

思いがけず、社長と直属の上司である砂川さんからお褒めの言葉をいただいて顔が熱くなる。

こうやってみんなの前で褒められるってちょっと恥ずかしいけど、ものすごく嬉しい。

藤乃くんが辞めさせられた時、助けることもしなかった俺のことを恨んでいるかもしれないと思っていたのが嘘のように

「平松さん、良かったですね。俺も嬉しいです」

と笑顔を見せてくれる。

――彼が恨んだり、怒ったりしないと思いますよ。

砂川さんが言ってくれた通りだった。
俺の幸せを喜んでくれる子だったんだな。

「藤乃くんのおかげで俺も一歩踏み出せたよ。ありがとう」

藤乃くんの気持ちが嬉しくて、感謝を伝えたくて手を差し出すと、藤乃くんが伸ばしてくれた手を社長がさっと掠め取った。

「えっ?」

俺も、藤乃くんもあまりにも素早い動きにキョトンとしてしまった。

けけれど社長は俺たちのそんな様子を見ながら真剣な表情で、握手はいらないと言い切った。

砂川さんは俺たちが久しぶりの対面なのだからと言ってくれたけれど、社長は決して藤乃くんの手を離すことはなく、それどころか、

「航は俺のものだからな。平松くんもその点を理解しておいてもらわないと困るぞ」

と堂々と言い切った。
その潔さに思わず笑ってしまう。
見れば藤乃くんも笑っているのが見えた。

この様子だと社長はいつもこんな感じなのだろう。
こんなにも愛されている藤乃くんを見ると、ただただ喜びしかない。
本当に俺には藤乃くんに対して恋愛感情など何もなかったんだなと改めて思う。

「社長、失礼しました。一切手出しは致しませんとお約束します」

そういうと、社長は、初めて見る笑顔で、いい社員を持ったと言ってくれた。
本当に社長は怖い人じゃなかったんだとこの時、俺は初めて知ったのだった。

その後、社長は藤乃くんを連れて社長室に入り、仕事に取り掛かった。

砂川さんは俺たちと同じ部屋にあるもう一つの砂川さんのデスクで仕事を始めた。
社長がいる時はいつもこうらしい。

なんだか砂川さんを見ながら仕事ができるのが新鮮な感じがして楽しい。

そんないつもより違った高揚感を感じながら、あっという間に定時を迎えた。

「藤乃くんも久しぶりに平松さんに会えて嬉しいでしょうし、一緒に夕食でもどうですか?」

社長室から出てきた藤乃くんと社長に砂川さんが誘いの声をかけると、藤乃くんはすぐにOKしてくれて、社長は藤乃くんがオッケーなら喜んでと言った様子であっという間に食事会が決定した。

場所はもちろん八尋さんのお店。
すでに貸切になっているから、ゆっくりとおしゃべりができる。

他の社員さんたちは俺が藤乃くんと話したいだろうと気遣ってくれて、名嘉村さんは今日も松川さんとビデオ通話で夕食を食べる約束をしているということで、俺と砂川さん、藤乃くんと社長の四人で八尋さんのお店に向かった。

「こんばんは」

藤乃くんが嬉しそうに声をかけると、すぐに八尋さんがやってきて

「ああ、久しぶりだね。ふふっ。航くんが歩いているところ初めて見たな」

と揶揄うように声をかけていた。

歩いているところを初めてみたってことは……もしかして、ずっと抱きかかえてたってこと?
それはすごいな……。

――倉橋くんがあんなに溺愛しているところを初めてみたよ。

八尋さんが話していた通りだったな。
俺もその場にいたら絶対に驚く自信がある。
本当に特別な存在ってことなんだろう。


今日は貸切だし、いつも仲間さんたちが呑んでいるお店の真ん中でみんなで呑むのかと思ったら、大きな個室に案内された。

俺も初めて入る部屋だ。

部屋に入る時に、

「今日も黒糖ゼリー用意しているからね」

とこっそり耳打ちされる。
八尋さんの声をそんな間近で聞くだけで身体の奥がずくんと感じてしまう。
ああ、もう本当に最近の俺は我慢ができなくなっている。


すでに部屋の中にはいくつかの料理が並べられていて、揚げたてや焼きたてのものは俺たちが席に着いている間に次々と運び込まれ、テーブルの上はあっという間に料理でいっぱいになっていた。

お酒は泡盛がボトルごと数本用意され、そのほかウーロン茶やジュースも用意されていてまさに至れり尽くせりだった。

砂川さんが俺がいつも呑んでいる薄めの泡盛を作ってくれて、藤乃くんには俺よりももっと薄いものを渡してあげていた。
さすが藤乃くんがそこまで酒に強くないことをよくわかっているみたいだ。

食事と会話を楽しんで、テーブルの上の料理が最初の量の五分の一くらいになった頃、砂川さんのスマホに着信が入った。
そそくさと部屋を出ていくのを見ると、きっと相手は安慶名さんなんだろう。
名嘉村さんといい、砂川さんといい、相変わらず恋人さんとラブラブだな。

そう思っていたけれど、社長も一緒に部屋を出て行ったところを見るともしかしたら仕事の話かもしれない。
それならすぐには帰ってこないだろう。

俺はこのチャンスに藤乃くんに謝っておこうと声をかけた。

藤乃くんが頑張っていたことをわかっていながら守ることもできなくて後悔していることを告げると、藤乃くんは

「俺、今すごく幸せなのでもういいんです」

と笑顔で言ってくれた。
ああ、俺は本当にここから先に進めるんだ。

そう思うだけで幸せな気分になっていた。

  *   *   *

次回、おそらくX DAY。
いや、序章までかも(笑)
どうぞお楽しみに♡
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...