イケメン店主に秘密の片想いのはずが何故か溺愛されちゃってます

波木真帆

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思い出づくり

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「うわーっ、どうしようっ!!」

自分がとんでもない約束をしてしまったことに気づいてしまってベッドに寝転んでバタバタと悶えていると。扉をノックする音が聞こえて焦って跳ね起きた。

「は、はいっ」

ノックに反応するように大きな声で返事をしてしまった。

やばいと思ったけれど、もうどうしようもない。

ゆっくりと扉が開いていくの目で追っていると、

「そろそろ食事にしようかと思ったんだけど、もしかして二度寝してるかと思って様子見に来たんだよ。大丈夫?」

と声をかけられた。

「は、はい。大丈夫です。あっ、八尋さんが洗面所終わったなら借りますね。すぐに用意します」

「いや、焦らなくていいよ。ちょっと気になって様子見に来ただけだから」

そう言われたけれど、八尋さんの顔を見ているとさっき思いっきり抱きしめられていたのを思い出しちゃって、ドキドキが止まらなくなってしまう。

急いで洗面所に入り、冷たい水で顔を洗った。

火照った顔が急激に冷えていく感じがする。
これならなんとかバレないかな?

洗面所を出ると、味噌汁のいい匂いが漂ってきてお腹がすぐに反応してしまう。
でもそれも仕方がない。
ずっと八尋さんの作る味噌汁が飲みたかったんだ。

「もうできてるから、座って待ってて」

手伝おうと思ったけれど、あとはご飯茶碗だけみたい。
邪魔になるかもしれないと思って、大人しく席に着いた。

キラキラと輝く朝食のメニューに覚えのあるものが見えて、

「あっ、これ……」

と声をあげてしまった。

「ああ、知ってる? 銀鱈の味醂漬け」

「はい。この前、名嘉村さんが食べさせてくれて……すごくおいしかったので、また食べられて嬉しいです」

「ああ、そうか。確かに名嘉村くんなら知ってるな。もしかして、初めてだった?」

「えっ? あ、はい。うちの家、父親が肉好きだったんで食卓に魚が並ぶことが少なかったんですよね。だから、食べさせてもらった時、こんなに美味しいものがあるんだってびっくりしました」

「そうなのか。じゃあ、美味しい魚をこれから私がたくさん教えるよ」

「はい。嬉しいです!」

優しく微笑まれて嬉しくなる。
ああ、本当に優しいな。八尋さんって。


ほかほかご飯に出汁の効いた味噌汁。
銀鱈の甘辛い味が食欲をそそり、あっという間に完食してしまった上にご飯をおかわりもしてしまった。

そして、お腹がいっぱいになるとすぐに眠くなる。

これから仕事なのにやばい。

明日から朝ごはんは腹七分にしておこう。
でもそう思っても美味しすぎて食べちゃうんだよな。


「お弁当にも魚を入れておいたから、楽しみにしてて」

「わぁ! ありがとうございます!!」

「あと、今日までは店を休むつもりだから、夕食はここで食べよう」

「えっ、でもいいんですか?」

「もちろん! 一人分も二人分も変わらないって言っただろう? 仕事が終わる頃、迎えにいくから会社から出ないで待ってて」

「迎えまで……いいんですか?」

「ああ。夕方はまだ日が残ってても活動の早いハブが出てくることはあるからね。それに砂川さんが帰ってきてたら挨拶もしておきたいし」

そうか。
俺はついでだ。
そうだよな。

でもついででもいいんだ。
八尋さんと少しでも長く過ごせるのなら。

藤乃くんが来るまであと数日。
再会した瞬間、藤乃くんの中で嫌な記憶が甦ったりしたら……。
俺は潔くここを去ると決めたんだ。

それまでは最後の思い出作りしとかないとな。

「あの、今日の夕食も楽しみにしてます」

「ああ、腕を振るうよ。期待してて」

「はい」

こんなふうに言ってもらえる仲になれただけで、俺は幸せなんだよな。

八尋さんの家から会社までの道のりはあっという間だけど、その時間でさえもすごく幸せに感じられたのは八尋さんがすぐ隣にいてくれたからだ。

八尋さんがいない間、いつも迎えにきてくれていた名嘉村さんには申し訳ないけど、本当に嬉しい。

「はい。お弁当」

「ありがとうございます」

「帰り迎えに来るからね」

「はい。待ってます」

八尋さんは俺の言葉を聞くと、帰って行った。
今からきっと休むんだろう。
一瞬でも俺のことを思い出してくれたら嬉しいけどな。

そんなありえないことを考えながら、俺は会社の中に入った。

「あっ、おはよう。平松くん。早いね」

「おはようございます。名嘉村さんこそ早いですね」

「うん。僕は砂川さんの代わりに少しやっておくことがあったから、ちょっと早めにきたんだ」

「俺も手伝いますよ」

「大丈夫。ちょうど今終わったんだ。付き合ってくれるなら、一緒に休憩しようよ」

来たばかりで休憩もどうかと思ったけれど、一人では休憩しにくいかも……と思って、喜んで付き合うことにした。

名嘉村さんはすぐに給湯室から温かいお茶を持ってきて俺にも渡してくれた。
そういえば、この会社に来て初めて、緑茶って熱々じゃないほうが美味しいって気づいたんだよな。
この会社に来てから、初めて知ることばかりで驚いてしまう。

「今日の昼過ぎには砂川さん、帰ってくるみたいだよ」

「連絡があったんですか?」

「うん。伊織さんから連絡が来たって浩輔さんが教えてくれたんだ。同じ職場だからね」

「ああ、なるほど。でも砂川さんが帰ってきてくれるのって、やっぱり心強いですね」

「僕だけじゃ頼りない?」

「あっ、そうじゃなくて……」

「ふふっ。冗談だよ。ほんと、砂川さんがいてくれるだけで安心感が増すよね」

余裕で砂川さんの代わりをこなせている名嘉村さんでもそう思うんだ。
やっぱり砂川さんってすごいよね。
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