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危険を回避するために
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楽しい時間はあっという間。
砂川さんと安慶名さんは明日東京に行くと言っていたし、そろそろ帰った方がいいだろうな。
そう思っていると、
「平松くん、そろそろお暇しようか」
と名嘉村さんが声をかけてくれた。
「はい。あの、今日はごちそうさまでした。ローストビーフもアヒージョもすっごく美味しかったです」
「ふふっ。帰ってきたらまた食事会しましょうね」
「はい! 楽しみにしてます」
こんなに優しい上司に恵まれるなんて、俺……幸せすぎるな。
「伊織さん、散歩がてら平松くんたちを送りに行きましょうか」
「ええ、そうしましょう」
「そんな……っ、わざわざ悪いですよ」
「いいえ、ちょっと食べ過ぎて運動したかったのでちょうどいいんですよ」
そう笑顔で言われたらそれ以上言えなくなってしまう。
申し訳ないなと思いつつ、名嘉村さんと俺は、砂川さんと安慶名さんに送ってもらうことになった。
「今日は月明かりが眩しいから普段より危険は少ないでしょうけど、普段は一人では歩かない方がいいですよ。平松くんはまだ慣れなからできるだけ誰かと一緒に行動してくださいね」
こんなにも静かな夜道を歩きながら、砂川さんに真剣な顔つきでそんなことを言われる。
この辺に住んでいる人たちに悪い人はいないだろうに、確か前に八尋さんにも危ないからって言われて送ってもらった覚えがある。
あの時はなんだったっけ。
そうだ。転んだら危ないからって言われたんだ。
あの日はここまで明るくなかったから心配してくれたのかもしれないけど、今日はこんなに明るいのに……。
「あの、ここってそんなに治安が悪いんですか? 前に八尋さんにも危ないって言われたんですけど、そんなふうには見えないし……」
気になって尋ねると、砂川さんと安慶名さんが顔を見合わせて笑みを浮かべる。
そして、その笑顔のまま俺に教えてくれた。
「治安はいいから安心してください。危ないのは動物ですよ。毒を持っているハブは夜行性なので、あそこにあるような草むらから急に出てくることがあるんです」
「えっ……ハブってこんな人がいるところにもいるんですか?」
この前八尋さんと出かけた森の中とか川の辺りにはそういうのがいるだろうと思っていたし、そんな話も聞いたけれどさすがにこんな人がいるところに現れるとは思ってなかった。
「ええ。普通にいますよ。私たちはここで暮らして長いのでどこに潜んでいるかもわかりますが、平松くんはわからないから危険なんです。もしここでハブに噛まれて診療所で対応できない場合は石垣に行かないと治療ができないこともありますし、時間が経てば経つほど命の危険もありますから。そうならないためにも、夜道は一人では歩かないように気をつけてくださいね。あ、朝もたまにハブが出てくることがありますので、朝も気をつけた方がいいですよ」
「は、はい。俺、絶対に一人で歩きません!」
「ふふっ。いい心がけです」
砂川さんの笑顔にホッとする。
本当に俺のことを心配してくれていたんだな。
でも、これでよくわかった。
いつも八尋さんが店からの帰りに俺をわざわざ送ってくれるのも、名嘉村さんが朝、俺を迎えにきてくれるのもそれを心配してくれていたんだってことが。
ここの人たちって本当に優しい人たちばっかりだな。
「じゃあ、平松くん。ゆっくり休んでください。明日からよろしくお願いしますね」
「はい。砂川さんと安慶名さんも気をつけて行ってきてください。今日はありがとうございました。おやすみなさい」
玄関を閉めて、鍵をかけると一気に一人の空間が広がった。
この家……本当はすごく居心地がいいのに、今は広過ぎて寂しくなる。
八尋さん……明日帰ってくるかな?
砂川さんもいなくなるのに、八尋さんもいないと寂しさが増す気がする。
ああ、だめだ、だめだ。
そんなことばかり考えてたらどんどん寂しくなってくる。
さっさとお風呂に入って寝よう。
ピッとスイッチを押して湯を溜め、着替えを持って脱衣所に向かった。
湯船に溜まっていくお湯を洗面器で掬い、わざと乱暴にわしゃわしゃと顔を洗って、目の前の鏡を見つめる。
いつも寝不足で目の下にクマを作ってたのに、今はその面影もない。
痩せて頬骨が浮き出ていたのに、今は目立たなくなってきている気がする。
太ったというよりは全体的に健康的になったんだろう。
それはそうか。
ここにきてから栄養のあるものしか食べてないんだから。
それでも一向に髭は生える様子は見えない。
多分これは栄養とかそういう以前の問題なんだろう。
思い出してみると、父さんもそんなに髭とか濃い方じゃなかったしな。
俺自身は母さんによく似ていたし、遺伝子的に体毛は少ない家系なのかもしれない。
ふと下に目をやると、そこもあまり多いとは言えない。
いや、他の人の実物を見たことがないからよくわからないけれど、昔Barで働いていた頃、先輩のバーテンダーに見せられたあっち系のビデオでは黒々としていたから――モザイクがあって本物かはわからないけれど――それと比べたら、少ない方なんだろう。
八尋さんは……どうなんだろう……。
ものすごく……おっきそうだな。
いやいや、毛のことを考えていたはずなのになんでそっちを考えてるんだ!
自分で自分がよくわからなくなっている。
それでも八尋さんのソレを思い浮かべて、少し反応してしまっているのをみると、やっぱり俺はそういう意味で八尋さんを好きなんだろうなと思ってしまった。
砂川さんと安慶名さんは明日東京に行くと言っていたし、そろそろ帰った方がいいだろうな。
そう思っていると、
「平松くん、そろそろお暇しようか」
と名嘉村さんが声をかけてくれた。
「はい。あの、今日はごちそうさまでした。ローストビーフもアヒージョもすっごく美味しかったです」
「ふふっ。帰ってきたらまた食事会しましょうね」
「はい! 楽しみにしてます」
こんなに優しい上司に恵まれるなんて、俺……幸せすぎるな。
「伊織さん、散歩がてら平松くんたちを送りに行きましょうか」
「ええ、そうしましょう」
「そんな……っ、わざわざ悪いですよ」
「いいえ、ちょっと食べ過ぎて運動したかったのでちょうどいいんですよ」
そう笑顔で言われたらそれ以上言えなくなってしまう。
申し訳ないなと思いつつ、名嘉村さんと俺は、砂川さんと安慶名さんに送ってもらうことになった。
「今日は月明かりが眩しいから普段より危険は少ないでしょうけど、普段は一人では歩かない方がいいですよ。平松くんはまだ慣れなからできるだけ誰かと一緒に行動してくださいね」
こんなにも静かな夜道を歩きながら、砂川さんに真剣な顔つきでそんなことを言われる。
この辺に住んでいる人たちに悪い人はいないだろうに、確か前に八尋さんにも危ないからって言われて送ってもらった覚えがある。
あの時はなんだったっけ。
そうだ。転んだら危ないからって言われたんだ。
あの日はここまで明るくなかったから心配してくれたのかもしれないけど、今日はこんなに明るいのに……。
「あの、ここってそんなに治安が悪いんですか? 前に八尋さんにも危ないって言われたんですけど、そんなふうには見えないし……」
気になって尋ねると、砂川さんと安慶名さんが顔を見合わせて笑みを浮かべる。
そして、その笑顔のまま俺に教えてくれた。
「治安はいいから安心してください。危ないのは動物ですよ。毒を持っているハブは夜行性なので、あそこにあるような草むらから急に出てくることがあるんです」
「えっ……ハブってこんな人がいるところにもいるんですか?」
この前八尋さんと出かけた森の中とか川の辺りにはそういうのがいるだろうと思っていたし、そんな話も聞いたけれどさすがにこんな人がいるところに現れるとは思ってなかった。
「ええ。普通にいますよ。私たちはここで暮らして長いのでどこに潜んでいるかもわかりますが、平松くんはわからないから危険なんです。もしここでハブに噛まれて診療所で対応できない場合は石垣に行かないと治療ができないこともありますし、時間が経てば経つほど命の危険もありますから。そうならないためにも、夜道は一人では歩かないように気をつけてくださいね。あ、朝もたまにハブが出てくることがありますので、朝も気をつけた方がいいですよ」
「は、はい。俺、絶対に一人で歩きません!」
「ふふっ。いい心がけです」
砂川さんの笑顔にホッとする。
本当に俺のことを心配してくれていたんだな。
でも、これでよくわかった。
いつも八尋さんが店からの帰りに俺をわざわざ送ってくれるのも、名嘉村さんが朝、俺を迎えにきてくれるのもそれを心配してくれていたんだってことが。
ここの人たちって本当に優しい人たちばっかりだな。
「じゃあ、平松くん。ゆっくり休んでください。明日からよろしくお願いしますね」
「はい。砂川さんと安慶名さんも気をつけて行ってきてください。今日はありがとうございました。おやすみなさい」
玄関を閉めて、鍵をかけると一気に一人の空間が広がった。
この家……本当はすごく居心地がいいのに、今は広過ぎて寂しくなる。
八尋さん……明日帰ってくるかな?
砂川さんもいなくなるのに、八尋さんもいないと寂しさが増す気がする。
ああ、だめだ、だめだ。
そんなことばかり考えてたらどんどん寂しくなってくる。
さっさとお風呂に入って寝よう。
ピッとスイッチを押して湯を溜め、着替えを持って脱衣所に向かった。
湯船に溜まっていくお湯を洗面器で掬い、わざと乱暴にわしゃわしゃと顔を洗って、目の前の鏡を見つめる。
いつも寝不足で目の下にクマを作ってたのに、今はその面影もない。
痩せて頬骨が浮き出ていたのに、今は目立たなくなってきている気がする。
太ったというよりは全体的に健康的になったんだろう。
それはそうか。
ここにきてから栄養のあるものしか食べてないんだから。
それでも一向に髭は生える様子は見えない。
多分これは栄養とかそういう以前の問題なんだろう。
思い出してみると、父さんもそんなに髭とか濃い方じゃなかったしな。
俺自身は母さんによく似ていたし、遺伝子的に体毛は少ない家系なのかもしれない。
ふと下に目をやると、そこもあまり多いとは言えない。
いや、他の人の実物を見たことがないからよくわからないけれど、昔Barで働いていた頃、先輩のバーテンダーに見せられたあっち系のビデオでは黒々としていたから――モザイクがあって本物かはわからないけれど――それと比べたら、少ない方なんだろう。
八尋さんは……どうなんだろう……。
ものすごく……おっきそうだな。
いやいや、毛のことを考えていたはずなのになんでそっちを考えてるんだ!
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