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そんな偶然あるわけない!
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「平松くん、お待たせー!」
着替えを済ませ、冷蔵庫に入れてあったタッパーをいくつか取り出して、空のタッパーにとりわけ終わった頃、インターフォンが鳴り、名嘉村さんの声が聞こえた。
急いで玄関を開けながら、
「もう料理できたんですか?」
と尋ねると、
「簡単なのにしたからね。まぁ、大したものじゃないけど、不味くはないはずだから安心して」
と笑顔で返ってくる。
いやいや、簡単のって言ってもこんなに早くできるもの?
俺なんて着替えて、出来上がった料理を詰め替えただけなのに……。
やっぱり名嘉村さんってすごいなぁ。
「もう少しで準備できるんで中に入って待っててください」
「うん、ありがとう。わっ、なんかいい匂いすると思ったら、これ? 八尋さんの作り置きって」
「あっ、はい。そうです。たくさんあるので、何種類か分けて持っていこうかと思って」
「でも、こんなに持って行って、八尋さんが帰ってくるまで平松くんの分、持つ? まだ日数かかるなら、置いててもいいよ」
「多分大丈夫です。八尋さん、早ければ明日には帰って来れるかもしれないって仰ってたので……。もう少し滞在が伸びるかもとも仰ってましたけど、それでも十分過ぎるほど作り置きしていただいてるんで大丈夫です」
「そう? それならいいけど。でも、八尋さん……早ければ明日か。早く帰ってきてくれたらいいね」
「えっ?」
「仲間さんたち常連さんも八尋さんのところで呑めなくなってるから寂しがってるはずだよ」
「あ、ああ。そうですね。いつもあの店で呑んでらっしゃいましたもんね」
「そうそう。あの店は本当に地元の人の癒しだから」
一瞬びっくりしてしまった。
もしかしたら名嘉村さんに俺の気持ちがバレているのかと思った。
でも、バレるわけないよな。
だって、俺は隠し通すって決めたんだから。
「じゃあ、砂川さん家に行こうか」
「はい」
俺は八尋さんの料理が入ったタッパーを紙袋に入れて名嘉村さんと家を出た。
外はまだ明るい。
明るい時間なのにもう仕事も終わってるなんて本当に最高だな。
「あの、名嘉村さんの料理はどんなのですか?」
「メインがローストビーフだって言ってたから、アヒージョにしようと思って鍋ごと持ってきたんだよ。あとは砂川さん家で温めればできるから」
「あひーじょ? ってなんですか?」
「オリーブオイルとニンニクを入れた鍋にいろんな具材を入れて煮るだけのものなんだけど、どんな具材を入れても美味しいからおすすめだよ。今日はカマンベールチーズとトマト、あとは茸とブロッコリー入れてきたかな」
名嘉村さんが細かく説明してくれるけど、ほとんどわからない。
こんなすごいのが簡単だなんてやっぱりすご過ぎる。
「砂川さん、パンも用意してくれているみたいだから、パンと一緒に食べると美味しいよ」
「そうなんですね、初めてなのですごく楽しみです」
この島に来て、食べさせてもらう料理のほとんどが初めてのものばかり。
俺がいかに食に興味がなかったかがよくわかる。
母さんの料理は美味しかったけれど、肉じゃがとか筑前煮とか煮物系が多かった覚えがある。
母さんがいなくなってからは自炊はできないし、お金も時間もなかったし、そもそも食事なんてお腹を満たせればいいと思ってた。
空腹さえ凌げればよかったんだ。
でも、ここに来て食事を楽しんでいる俺がいる。
その楽しさを教えてくれたのは八尋さんだ。
早く八尋さんに会いたいな……。
そんな思いが込み上げてくる。
「――つくん? 平松くん? どうかした?」
「えっ? あっ、なんでもないです。今日の夕食が楽しみでぼーっとしてました」
「ふふっ。そう? ならいいけど。あっ、砂川さん家に着いたよ」
この間来た時よりも明るいから今度ははっきりと見える。
やっぱりこの家広くてすごい。
「平松くんは、砂川さん家に入ったことある?」
「あ、はい。この前、少しだけ中に入らせてもらいました」
「ああ、そうなんだ。窓が大きくて景色が綺麗だよね」
「暗くてその時は外が見えなかったんですけど、窓から海が見えるとは聞きました」
「そうそう。今日なら見えるんじゃないかな」
そういいながら、名嘉村さんが玄関ベルを鳴らすと、
「はーい」
という声かけに続いて、ガチャンと鍵が開く音がする。
「わっ、すごい!」
「この家は社長が特にセキュリティを強化しているからね」
「そうなんですか?」
「うん、それくらい社長にとって砂川さんは大事な存在ってことだよ」
砂川さんが、大事な存在……。
藤乃くんのことを知る前なら、もしかしたら社長と砂川さんは……なんて思ってしまうところだけれど、社長には藤乃くんが、砂川さんには伊織さんがいるんだから、そういう意味合いじゃないってことだよな。
そもそも砂川さんのお相手は女性なんだし、もし藤乃くんがいなくても社長が相手にはならないか。
ついつい、自分が八尋さんに惹かれているからそんなことを考えてしまうけれど、名嘉村さんも社長も同性カップルで、砂川さんまで……なんてそんな偶然あるわけない。
自分が男性に惹かれたからついそんな目で見てしまうんだろうな。
着替えを済ませ、冷蔵庫に入れてあったタッパーをいくつか取り出して、空のタッパーにとりわけ終わった頃、インターフォンが鳴り、名嘉村さんの声が聞こえた。
急いで玄関を開けながら、
「もう料理できたんですか?」
と尋ねると、
「簡単なのにしたからね。まぁ、大したものじゃないけど、不味くはないはずだから安心して」
と笑顔で返ってくる。
いやいや、簡単のって言ってもこんなに早くできるもの?
俺なんて着替えて、出来上がった料理を詰め替えただけなのに……。
やっぱり名嘉村さんってすごいなぁ。
「もう少しで準備できるんで中に入って待っててください」
「うん、ありがとう。わっ、なんかいい匂いすると思ったら、これ? 八尋さんの作り置きって」
「あっ、はい。そうです。たくさんあるので、何種類か分けて持っていこうかと思って」
「でも、こんなに持って行って、八尋さんが帰ってくるまで平松くんの分、持つ? まだ日数かかるなら、置いててもいいよ」
「多分大丈夫です。八尋さん、早ければ明日には帰って来れるかもしれないって仰ってたので……。もう少し滞在が伸びるかもとも仰ってましたけど、それでも十分過ぎるほど作り置きしていただいてるんで大丈夫です」
「そう? それならいいけど。でも、八尋さん……早ければ明日か。早く帰ってきてくれたらいいね」
「えっ?」
「仲間さんたち常連さんも八尋さんのところで呑めなくなってるから寂しがってるはずだよ」
「あ、ああ。そうですね。いつもあの店で呑んでらっしゃいましたもんね」
「そうそう。あの店は本当に地元の人の癒しだから」
一瞬びっくりしてしまった。
もしかしたら名嘉村さんに俺の気持ちがバレているのかと思った。
でも、バレるわけないよな。
だって、俺は隠し通すって決めたんだから。
「じゃあ、砂川さん家に行こうか」
「はい」
俺は八尋さんの料理が入ったタッパーを紙袋に入れて名嘉村さんと家を出た。
外はまだ明るい。
明るい時間なのにもう仕事も終わってるなんて本当に最高だな。
「あの、名嘉村さんの料理はどんなのですか?」
「メインがローストビーフだって言ってたから、アヒージョにしようと思って鍋ごと持ってきたんだよ。あとは砂川さん家で温めればできるから」
「あひーじょ? ってなんですか?」
「オリーブオイルとニンニクを入れた鍋にいろんな具材を入れて煮るだけのものなんだけど、どんな具材を入れても美味しいからおすすめだよ。今日はカマンベールチーズとトマト、あとは茸とブロッコリー入れてきたかな」
名嘉村さんが細かく説明してくれるけど、ほとんどわからない。
こんなすごいのが簡単だなんてやっぱりすご過ぎる。
「砂川さん、パンも用意してくれているみたいだから、パンと一緒に食べると美味しいよ」
「そうなんですね、初めてなのですごく楽しみです」
この島に来て、食べさせてもらう料理のほとんどが初めてのものばかり。
俺がいかに食に興味がなかったかがよくわかる。
母さんの料理は美味しかったけれど、肉じゃがとか筑前煮とか煮物系が多かった覚えがある。
母さんがいなくなってからは自炊はできないし、お金も時間もなかったし、そもそも食事なんてお腹を満たせればいいと思ってた。
空腹さえ凌げればよかったんだ。
でも、ここに来て食事を楽しんでいる俺がいる。
その楽しさを教えてくれたのは八尋さんだ。
早く八尋さんに会いたいな……。
そんな思いが込み上げてくる。
「――つくん? 平松くん? どうかした?」
「えっ? あっ、なんでもないです。今日の夕食が楽しみでぼーっとしてました」
「ふふっ。そう? ならいいけど。あっ、砂川さん家に着いたよ」
この間来た時よりも明るいから今度ははっきりと見える。
やっぱりこの家広くてすごい。
「平松くんは、砂川さん家に入ったことある?」
「あ、はい。この前、少しだけ中に入らせてもらいました」
「ああ、そうなんだ。窓が大きくて景色が綺麗だよね」
「暗くてその時は外が見えなかったんですけど、窓から海が見えるとは聞きました」
「そうそう。今日なら見えるんじゃないかな」
そういいながら、名嘉村さんが玄関ベルを鳴らすと、
「はーい」
という声かけに続いて、ガチャンと鍵が開く音がする。
「わっ、すごい!」
「この家は社長が特にセキュリティを強化しているからね」
「そうなんですか?」
「うん、それくらい社長にとって砂川さんは大事な存在ってことだよ」
砂川さんが、大事な存在……。
藤乃くんのことを知る前なら、もしかしたら社長と砂川さんは……なんて思ってしまうところだけれど、社長には藤乃くんが、砂川さんには伊織さんがいるんだから、そういう意味合いじゃないってことだよな。
そもそも砂川さんのお相手は女性なんだし、もし藤乃くんがいなくても社長が相手にはならないか。
ついつい、自分が八尋さんに惹かれているからそんなことを考えてしまうけれど、名嘉村さんも社長も同性カップルで、砂川さんまで……なんてそんな偶然あるわけない。
自分が男性に惹かれたからついそんな目で見てしまうんだろうな。
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