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楽しい酒の席
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「これ、オオタニワタリと島ラッキョウの天ぷら。塩で食べると美味しいよ」
「オオタニワタリってなんですか?」
「石垣とか西表とか八重山地方によく生えている葉っぱでね、新芽は天ぷらとかお浸しにすると美味しいんだよ。コリっとした食感がクセになるよ」
「へぇー」
初めて聞く料理にドキドキしながらも、名嘉村さんの真似をして塩をつけて食べてみる。
「んんっ!! これ、すっごく美味しいです」
「でしょ? お酒が進むよね。こっちの島ラッキョウも美味しいよ」
勧められるままに島ラッキョウにも手を伸ばす。
俺の知ってるラッキョウより小ぶりだけど、香りがいい。
シャキシャキとした歯応えが最高だ。
「んんっ! これも美味しいですね!! 塩、最高です!」
「この塩も沖縄のだよ。やっぱり地のものは美味しいよね。こっちのラフテーも美味しいよ」
とろとろに煮込まれたこのお肉は食欲をそそる。
分厚いのに箸を入れるとそのままちぎれてしまいそうなくらいとろとろでご飯に乗せて食べると最高に美味しい。
「んーっ!! このお肉、すごく柔らかくて美味しいです!」
「平松くんってすっごく美味しそうに食べてくれるから勧めがいがあるよ。ここの料理はきっとどれも平松くんの口に合いそうだね」
「もうずっとこんな美味しい料理食べてなかったんで、ほっぺたがびっくりしてますよ」
「良かった。ずっと緊張しているように見えたから、自然な笑顔が見られてホッとしたよ」
「名嘉村さん……」
名嘉村さんの俺を見る目が優しい。
こんな上司、始めてだ。
「今日はいっぱい食べよう。社長の奢りだから」
「えっ? そんなっ、いいんですか?」
「もちろん! 社長から平松くんへのお礼だよ、ずっと頑張ってくれてたんだからね。社長だけでなく、僕も砂川さんもみんな平松くんには感謝してるんだよ」
そう言われて本当に自分のしてきたことが無駄じゃなかったんだって思えてくる。嬉しすぎて涙がこぼれそうになるのを必死に抑えて、俺はグラスをクイッと煽った。
「さぁ、食べて。こっちのクーブイリチーも美味しいよ」
それからもずっと聞いたことのない料理を勧められるままに食べて、俺はいつぶりだかわからないほど心の底から幸せな時間を過ごした。
部屋の外がずいぶん騒がしくなってきた。
ざわざわとしている中で一際大きな声を出している人がいる。
「いつもは静かなんだけどね、観光客の人たちがテンション上がってるみたいだね」
そういえば、今日は予約がって店主さんが話してたっけ。
でもテンションが上がるのもわかる。
だって、ここは日常とかけ離れた楽園みたいな島だから。
「友人たちと騒ぎあうなんて、俺の人生にはなかったな……」
ポツリと零れ落ちてしまった言葉に名嘉村さんがはっと息を呑むのがわかった。
あっ、せっかくの楽しい時間を自分のせいで台無しにしてしまった。
慌てて話題を変えるように、
「あ、あの……名嘉村さんはここの出身なんですか?」
と声をかけた。
「ううん、僕は隣の石垣島の出身なんだ。高校まで石垣で過ごして、大学で沖縄本島に出たんだよ。ちなみに砂川さんは宮古島出身で、同じ大学なんだよ。五つ上だから僕が入学した時にはもう卒業してたけどね」
「へぇー、そうなんですか」
「でもね、僕が大学三年の時に砂川さんが大学に呼ばれて在校生に話をする機会があって、その時に話をしたんだ。それでこの会社を勧められて、就職したんだよ」
「ええー、それはすごいですね」
「あの時の砂川さん、すっごく輝いて見えたよ。今の仕事がどれだけ楽しいか、力説しててね。砂川さん以外にも何人か呼ばれてたけど、みんな砂川さんの話に夢中になって……だから、一緒に働けることになって嬉しいんだ」
名嘉村さんの表情が本当に幸せそうで羨ましかった。
俺は、ずっと仕事の意味もわからずにただその日を無事に過ごすことだけを必死に生きてきたから。
「俺も……名嘉村さんのように、仕事が楽しいって思えるようになりますか?」
「もちろん。僕が砂川さんに教えられたように、僕も平松くんにしっかり教えるから安心して。どんと任せてよ!」
笑顔でそう言ってくれたのが、すごく心強かった。
「ありが――」
「あれー? こんなところに部屋があるー」
突然簾を上げられたと思ったら、ガタイの大きな男が現れた。
「なんですか?」
名嘉村さんが声をかけるとニヤッと笑って俺の方にも視線を向けた。
「二人で呑んでんのー? せっかくだからあっちで一緒に呑もうぜー。奢ってやるから」
「いえ、結構です」
「そんなつれないこと言うなよー。じゃあ、わかった。俺がこっちに入ってやるよー」
「ちょっと、やめてくださいっ」
男は相当酔っ払っているのか、部屋に上がり込んでこようとする。
俺はどうしていいかわからずにいると、名嘉村さんはテーブルに置いていたあのタブレットの端にさっと触れながら、その男を中に入れまいと制している。
「一緒に呑もうって誘ってやってるだけだろ、かたい事言うなよ! ほら、行こうぜ」
俺の腕を掴もうと、その男が身を乗り出して腕を伸ばした瞬間、さっと簾が上がり、
「何をしているんですか?」
低く冷ややかな声が聞こえた。
「オオタニワタリってなんですか?」
「石垣とか西表とか八重山地方によく生えている葉っぱでね、新芽は天ぷらとかお浸しにすると美味しいんだよ。コリっとした食感がクセになるよ」
「へぇー」
初めて聞く料理にドキドキしながらも、名嘉村さんの真似をして塩をつけて食べてみる。
「んんっ!! これ、すっごく美味しいです」
「でしょ? お酒が進むよね。こっちの島ラッキョウも美味しいよ」
勧められるままに島ラッキョウにも手を伸ばす。
俺の知ってるラッキョウより小ぶりだけど、香りがいい。
シャキシャキとした歯応えが最高だ。
「んんっ! これも美味しいですね!! 塩、最高です!」
「この塩も沖縄のだよ。やっぱり地のものは美味しいよね。こっちのラフテーも美味しいよ」
とろとろに煮込まれたこのお肉は食欲をそそる。
分厚いのに箸を入れるとそのままちぎれてしまいそうなくらいとろとろでご飯に乗せて食べると最高に美味しい。
「んーっ!! このお肉、すごく柔らかくて美味しいです!」
「平松くんってすっごく美味しそうに食べてくれるから勧めがいがあるよ。ここの料理はきっとどれも平松くんの口に合いそうだね」
「もうずっとこんな美味しい料理食べてなかったんで、ほっぺたがびっくりしてますよ」
「良かった。ずっと緊張しているように見えたから、自然な笑顔が見られてホッとしたよ」
「名嘉村さん……」
名嘉村さんの俺を見る目が優しい。
こんな上司、始めてだ。
「今日はいっぱい食べよう。社長の奢りだから」
「えっ? そんなっ、いいんですか?」
「もちろん! 社長から平松くんへのお礼だよ、ずっと頑張ってくれてたんだからね。社長だけでなく、僕も砂川さんもみんな平松くんには感謝してるんだよ」
そう言われて本当に自分のしてきたことが無駄じゃなかったんだって思えてくる。嬉しすぎて涙がこぼれそうになるのを必死に抑えて、俺はグラスをクイッと煽った。
「さぁ、食べて。こっちのクーブイリチーも美味しいよ」
それからもずっと聞いたことのない料理を勧められるままに食べて、俺はいつぶりだかわからないほど心の底から幸せな時間を過ごした。
部屋の外がずいぶん騒がしくなってきた。
ざわざわとしている中で一際大きな声を出している人がいる。
「いつもは静かなんだけどね、観光客の人たちがテンション上がってるみたいだね」
そういえば、今日は予約がって店主さんが話してたっけ。
でもテンションが上がるのもわかる。
だって、ここは日常とかけ離れた楽園みたいな島だから。
「友人たちと騒ぎあうなんて、俺の人生にはなかったな……」
ポツリと零れ落ちてしまった言葉に名嘉村さんがはっと息を呑むのがわかった。
あっ、せっかくの楽しい時間を自分のせいで台無しにしてしまった。
慌てて話題を変えるように、
「あ、あの……名嘉村さんはここの出身なんですか?」
と声をかけた。
「ううん、僕は隣の石垣島の出身なんだ。高校まで石垣で過ごして、大学で沖縄本島に出たんだよ。ちなみに砂川さんは宮古島出身で、同じ大学なんだよ。五つ上だから僕が入学した時にはもう卒業してたけどね」
「へぇー、そうなんですか」
「でもね、僕が大学三年の時に砂川さんが大学に呼ばれて在校生に話をする機会があって、その時に話をしたんだ。それでこの会社を勧められて、就職したんだよ」
「ええー、それはすごいですね」
「あの時の砂川さん、すっごく輝いて見えたよ。今の仕事がどれだけ楽しいか、力説しててね。砂川さん以外にも何人か呼ばれてたけど、みんな砂川さんの話に夢中になって……だから、一緒に働けることになって嬉しいんだ」
名嘉村さんの表情が本当に幸せそうで羨ましかった。
俺は、ずっと仕事の意味もわからずにただその日を無事に過ごすことだけを必死に生きてきたから。
「俺も……名嘉村さんのように、仕事が楽しいって思えるようになりますか?」
「もちろん。僕が砂川さんに教えられたように、僕も平松くんにしっかり教えるから安心して。どんと任せてよ!」
笑顔でそう言ってくれたのが、すごく心強かった。
「ありが――」
「あれー? こんなところに部屋があるー」
突然簾を上げられたと思ったら、ガタイの大きな男が現れた。
「なんですか?」
名嘉村さんが声をかけるとニヤッと笑って俺の方にも視線を向けた。
「二人で呑んでんのー? せっかくだからあっちで一緒に呑もうぜー。奢ってやるから」
「いえ、結構です」
「そんなつれないこと言うなよー。じゃあ、わかった。俺がこっちに入ってやるよー」
「ちょっと、やめてくださいっ」
男は相当酔っ払っているのか、部屋に上がり込んでこようとする。
俺はどうしていいかわからずにいると、名嘉村さんはテーブルに置いていたあのタブレットの端にさっと触れながら、その男を中に入れまいと制している。
「一緒に呑もうって誘ってやってるだけだろ、かたい事言うなよ! ほら、行こうぜ」
俺の腕を掴もうと、その男が身を乗り出して腕を伸ばした瞬間、さっと簾が上がり、
「何をしているんですか?」
低く冷ややかな声が聞こえた。
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