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第二章

アズールを守るために

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<sideルーディー>

『あお』がいた世界では、あの白い蜜が死ぬサイン。
『あお』は本当にその白い蜜が出てすぐに死んでしまったから間違い無いと思ったのだろう。

だから、アズールは自分の下着に白い蜜が出ているのを見て、自分が死ぬと思い、あんなにも目を腫らすほど涙を流した。
それは紛れもない事実だ。

だが……アズールの話を聞く限り、それが真実では無いのではないかと思った。
それはアリーシャ殿も同じだったようだ。

「アズール……ひとつ聞きたいのだが、その下着が濡れていたことに気づいたとき、『あお』はそのことを誰かに尋ねたのか?」

「えっ? ううん。誰にも言ってないよ。だって、ただでさえ、病気ばっかりで迷惑ばっかりかけているのに、これ以上病気が増えたとか、もうすぐ死んじゃうとか話したら余計に迷惑かけちゃうかなって……」

「そうか。それで『あお』は心の中に留めて一人で悩んでいたのだな?」

「うん。汚れた下着を見つからないように隠して……その時はドキドキしちゃった。見られたらもうすぐ死んじゃうって話をしないといけなくなっちゃうもんね」

「ねぇ、アズール。『あお』はそれまで白い蜜が出ることについて誰かに教えてもらったことはなかったのかしら?」

私とアズールとのやりとりを黙って聞いていたアリーシャ殿が、そうアズールに尋ねると

「ううん、なかったよ。教えてもらっていたら、あんなに驚いてドキドキすることもなかったのにね。でも、もしかしたら本当はちゃんと教えてくれるつもりだったけど、思っていたよりも早く僕に白い蜜が出ちゃったのかも。僕が思ったよりも早く病気が進行しちゃっていたのかもね」

と昔を思い出しながら教えてくれた。

「その白い蜜が出た頃、そんなに体調が悪かったのか?」

「うーん、そうでも無いかな。というか、むしろあの頃は今までより調子がいい日が多かったかも。ご飯を完食できる日も多かったし、このまま元気な日が続いたら、外に散歩に行ける許可が出るかもって言われてたんだ。でもあの白い蜜を見て、死んじゃうって思ったらご飯食べる意味もないなって思っちゃって……そういえばお外に散歩に行けなかったのは残念だったな……。僕がいたところの中庭は、ここの中庭によく似ているの。お花もいっぱいで……だから、僕……うちのお庭が好きなんだ」

「そう。アズールは赤ちゃんの頃からお庭が好きだものね。抱っこしてお散歩したら嬉しそうに笑っていたわ」

「うん。覚えてる。僕ね、あのお庭を走り回れるのが嬉しいんだ。ずっと外を駆け回りたいって思っていたから」

「それは神さまが願いを叶えてくださったのかもしれないわね。『あお』の叶えられなかった夢がここでは全て叶うようにしてくださっているのかも。だから、ここではアズールが心配することは何も起こらないわ。王子もそうお思いになるでしょう?」

「えっ、ああ。そうだな。アズールは神に守られているのだから何も心配はいらないんだ。だから、アズールは困ったことやいつもと違うこと、気になることがあったらどんな小さなことであっても必ず私たちに話をするんだぞ」

アリーシャ殿からの突然の呼びかけに慌てながらも、話の意図を掴み賛同すると、

「どんなに、小さなことでもいいの? 迷惑だったりしない?」

アズールは少し申し訳ないような表情を見せたが、私たちに隠し事をして一人で悩んでいる姿を見る方がよっぽど心臓に悪い。

「迷惑なんてあるはずがない。アリーシャ殿、そうだろう?」

「ええ。アズールの話なら、どんなことでも知っておきたいわ」

そういうと、素直なアズールは顔を綻ばせながら頷いた。

アズール、いや『あお』は自分の身体の変化に驚き、誰にも話さなかった結果、それを死ぬサインだと思い込み、生きることを放棄したのだ。
元々余命宣告を受けていたことや、母親から生まれたことを否定されていたばかりに、あれが死ぬサインならと自分に都合のいいように解釈をしてしまったのかもしれない。

だが、話を聞く限り『あお』には直ちに死ぬような兆候はなかった。
いや、それよりも体調が良くなってきたからこそ、それまで止まっていた身体の成長が進んだのではないか。

やはり、あの白い蜜はあちらでもこちらと同じ、大人になった証だったのではないだろうか。

今となればそれはもう推測の域を出ないが、私はそれが真実だと思っている。
おそらくアリーシャ殿も同じ気持ちだろう。

『あお』があれが原因で死んでしまったのか、そうでないのかは今は問題ではない。

アズールがあの時と同じように悩みを持った時に自分で解釈し、間違った方向に進んでしまわないようにすることが大事なのだ。

やはり『あお』について情報を共有しなければな。

私はアズールを取り巻く皆全てに『あお』の存在を知らせるように心に誓った。
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