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第二章

お母さまの子どもに生まれてよかった

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<sideアズール>

――アリーシャ殿に『あお』の話をしてみないか?

ルーからそう言われた時、胸がドキッとした。
蒼央のことは隠しておかないといけないことだと思っていたから。

僕が寝言で喋ってしまったせいで、ルーには随分前に知られてしまったけど、ルーは二人だけの秘密だと言って蒼央のことを内緒にしてくれていた。

だって、生まれる前の記憶があるなんて言ったら、みんなにおかしな子だと思われると思ったから。

でもお母さまなら疑ったりしないってルーが言ってくれたんだ。

確かにお母さまはいつだって僕の話をしっかりと目を見て聞いてくれた。
そんなお母さまなら、蒼央の話をしても信じてくれるかもしれない。
そう思えたんだ。

だから、僕は思い切って話をしてみた。

アズールとして生まれる前の、蒼央の記憶があること。
蒼央はこことは違う世界に生まれて、病気で、ずっとひとりぼっちだったこと。

ドキドキしたけど、お母さまは一ミリも疑う様子もないどころか、蒼央がひとりぼっちでいた理由を尋ねてくれた。

どうして僕がひとりぼっちだったか……

あれは今でも忘れられないまま、ずっと耳に残っている。

――あんたなんか、ほんと産まなきゃよかった! なんであの時死ななかったのよ!!! 死んでくれたら私は幸せになれたのに!!!

憎しみがこもったあのつんざくようなお母さんの声。
あれがお母さんの本心だったんだ。

それがわかったから、あの日を最後に僕はもう会うのを諦めた。
そして、僕の最期の時まで来てくれることはなかった。

でも……もし、最期だけでも来てくれたなら……。
生まれてきてくれてよかった……そう言ってくれたなら、きっと僕は今までの苦しみも悲しみも全て忘れただろうに。

だからかな。
僕は全ての記憶を残したまま、アズールとなって生まれ変わった。

暗い世界から一人で外に出てきて不安でいっぱいだったけど、お母さまが

――可愛い私の息子。生まれてきてくれてありがとう。愛しているわ

僕のことを優しい目で見つめながらそう言ってくれて、そしてほっぺに優しくキスしてくれて……僕は初めて幸せってこういうことなんだって知ったんだ。

「お母さまが、僕を抱っこして『生まれてきてくれてありがとう』って言ってくれたの。ずっと……僕は生まれてきちゃいけなかったんだって思ってたから、お母さまの言葉がすごく嬉しかった」

「――っ!! アズールっ!! ああ、もう……なんてこと……っ」

「ああ、お母さま……ごめんなさい。泣かないで……」

お母さまの涙を見るだけで辛くなる。
僕はいつも笑顔のお母さまを泣かせてしまったんだ……。

「いいえ、違うのよ。悲しくて泣いているんじゃないの。私はね、アズールの母に選ばれたのが嬉しいの。辛く悲しい思いをした『あお』の記憶を失くせるくらいに幸せに出来る母だって、神さまが選んでくれたのよ。そのおかげで、私は今すごく幸せよ。こんなに可愛いアズールの母になれたのだもの」

「お母さま……っ」

「ねぇ、アズールも幸せでしょう? だからきっと『あお』も幸せに感じているはずだわ」

「うん、僕も蒼央もすごく幸せ。お母さまが蒼央を知ってくれて幸せが増えたかも」

「ふふっ。それならよかったわ。これからもいっぱい『あお』のことを教えてちょうだい。悲しいことも辛いこともみんなで分け合ったらいつか消えてなくなるわ」

「お母さま……ありがとう」

「アズール……あなたが大人になった日に、もう一人の息子の存在を知ることができて嬉しいわ」

「ふふっ。お母さま。僕、お母さまが大好き」

「ええ、私も大好きよ」

ギュッと抱きしめてくれるお母さまの優しい匂い。
初めて抱っこされた時と同じだ。

もうここには悲しい思いをした蒼央はいない。
だって、蒼央も幸せなんだから。

「アズール、よかったな」

「うん。ルー、ありがとう。ルーがお母さまに話そうって言ってくれたおかげだよ」

「いや、アズールの力になれて嬉しいよ。ついでにもう一つ、私とアリーシャ殿に教えて欲しいことがあるのだが、聞いてもいいか?」

「んっ? なぁに?」

ルーが僕に教えて欲しいことってなんだろう?

「アズールが蜜が出たから大人になったと教えてくれた時、目を腫らしていたように見えたのだが、あれはどうしたんだ? 大人になったのが嬉しくて泣いたのか?」

あっ、やっぱりルーには気づかれていたんだ。
心配かけないようにお薬で治したのにな。
でも、もう隠し事はしないでいいんだよね。

「違うの。あのね、蒼央がいたところはあの白い蜜が出ると、死んじゃうの。だから、アズール……もうすぐ死んじゃうんだと思って、悲しくなっちゃったの。ルーにもお母さまにももう会えなくなっちゃうと思ったら悲しかったの」

「まぁ、アズール……それで泣いてしまったのね。怖かったでしょう」

背中を撫でてくれるお母さまの手がものすごく優しい。

「うん。すごく怖かった。蒼央の時、朝起きたら下着が濡れてて……何もわからなかったから最初おねしょだって思ったの。でも見たら白くって、びっくりして……ずっと病気だったから、とんでもない病気がまた増えちゃったんだって思ったんだ。でも、元々20歳までは生きられないって言われていたから、とうとうお迎えが来たのかなって思ったの。もうすぐ死んじゃうならもうご飯も食べなくていいかなって思って、ご飯食べなくなったらすぐに身体が動かなくなって……それで、すぐに死んじゃったの」

僕がそう話すと、ルーとお母さまは目を丸くして僕を見つめていた。
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