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第二章
真実を話そう
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<sideヴェルナー>
アズールさまの部屋の前で気合いをいれる。
そうしてから部屋に入らないと、王子のマーキングに負けてしまうのだ。
それでも長居は禁物だ。
アズールさまを起こさないように神経を集中させながらも、急いで寝室に入りアズールさまをベッドに寝かせる。
すると、すぐにアズールさまの手が何かを探すようにベッドの上を滑っていく。
ああ、アズールさまの必需品か。
少し離れた場所にあった柔らかなブランケットをそっとアズールさまに近づける。
できるだけ私の指の匂いがつかないように配慮しながら近づけると、アズールさまはそれに抱きつくようにギュッと握り締め、嬉しそうにブランケットの隅を口に含んでそのまま深い眠りに落ちていった。
これでしばらくは大丈夫だろう。
急いで部屋を出てほっと一息ついてから、私は応接室へ向かった。
さて、どうやって話を始めたらよいか……。
そこが問題だな。
やはり全て正直に包み隠さず直球でお伝えするのが良いか……
――昨夜、王子と一緒にお風呂に入られたところ、アズールさまのお大事なところが反応なさったので、そろそろ精通もあるかと……
いやいや、ヴォルフ公爵はアズールさまをまだまだ幼い天使のように思っておられるのだ。
そんな話を耳に入れるだけであまりのショックにお倒れになるかもしれない。
アズールさまのお大事な場所が反応なさったことは隠しておいた方がいいか……
――特段何かあったわけではございませんがアズールさまももう12歳ですし、そろそろ性教育も必要かと……
いやいや、それならわざわざ時間をとっていただいてまで話す内容でもない。
それにクレイさまには内緒にとお伝えしているのだ。
ヴォルフ公爵は何か隠していることなどすぐにお気づきになるだろう。
ああ、どうやって話を進めたら良いか……
だが、せっかく時間を頂戴したのだ。
アリーシャさまもいらっしゃることだし、ここはしっかりと全てを打ち明けて共有した方がいいのかもしれない。
そうだな。
私一人ではどうしていいかわからないのだから。
よし!
私はもう一度気合を入れて、応接室の扉を叩いた。
「入れ」
その声にふぅと息を吐きながら、部屋に入ると少し緊張した面持ちの公爵さまと、にこやかな笑顔を浮かべ落ち着いた様子のアリーシャさまが並んで座っていらした。
あの笑顔……もしかしたらアリーシャさまは何かをお気付きでいらっしゃるのかもしれない。
そう思いつつ、入り口近くで立っていると
「ヴェルナー、そこに座ってくれ」
と声をかけられた。
指示された通り、その場所に腰を下ろすとどうにも我慢できないと言った様子で公爵さまが口を開いた。
「それで、アズールの話とはなんだ?」
「は、はい。それが……」
あまりにも話の内容が気になって昂っていらっしゃるのだろう。
無意識に放たれる狼の威嚇に身体が震える。
「あなたっ! 少しは落ち着いてください。そんなに威圧を与えたらヴェルナーさんも恐怖でお話ししたくてもできませんよ」
「あ、ああ。悪い。つい、アズールのことが気になってしまってな。ヴェルナー、申し訳ない」
アリーシャさまの一喝でふっと威圧が解かれてほっとする。
やはりアリーシャさまにもご同席いただいてよかった。
「ヴェルナーさん。ごめんなさいね。この人、アズールのことに関しては冷静でなくなってしまうの」
「いいえ。突然このような時間を設けていただいたので、ご心配になるのも当然でございます」
「落ち着いたら、少しずつでいいからお話いただけるかしら。大丈夫、包み隠さずお話いただいて結構よ。私たちはアズールの親なのですから、アズールのことはなんでも知っていておきたいの」
「アリーシャさま……はい。ありがとうございます」
少しでも隠したほうが良いかと考えた私が恥ずかしい。
アズールさまにはこんなにも真正面から受け止めてくださるご両親がいらっしゃるのだから、最初から隠し立てなどなんの意味もなかったのだな。
ようやく素直に息が吸える。
私は深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた。
「実は、今朝アズールさまをお迎えに上がった時に、王子からアズールさまの……その、性教育の教師にと任命されたのです」
「な――っ、せ、性教育、だと? それは、アズールにはまだ時期尚早ではないか? 見ただろう、ヴェルナーも。あんなにもあどけない表情で眠っていたアズールを。まだそのようなことには全くもって無縁なアズールにわざわざ知識を与える必要がどこにあるんだ? 王子との結婚が近づいてからでも十分だろう」
ヴォルフ公爵の言葉も一理ある。
私もあのアズールさまのお姿を拝見する前はそう思っていたのだから。
けれど、それでは遅いのだ。
私はもう一度意を決して、伝えた。
「アズールさまのお大事なところが反応なさったのです」と。
アズールさまの部屋の前で気合いをいれる。
そうしてから部屋に入らないと、王子のマーキングに負けてしまうのだ。
それでも長居は禁物だ。
アズールさまを起こさないように神経を集中させながらも、急いで寝室に入りアズールさまをベッドに寝かせる。
すると、すぐにアズールさまの手が何かを探すようにベッドの上を滑っていく。
ああ、アズールさまの必需品か。
少し離れた場所にあった柔らかなブランケットをそっとアズールさまに近づける。
できるだけ私の指の匂いがつかないように配慮しながら近づけると、アズールさまはそれに抱きつくようにギュッと握り締め、嬉しそうにブランケットの隅を口に含んでそのまま深い眠りに落ちていった。
これでしばらくは大丈夫だろう。
急いで部屋を出てほっと一息ついてから、私は応接室へ向かった。
さて、どうやって話を始めたらよいか……。
そこが問題だな。
やはり全て正直に包み隠さず直球でお伝えするのが良いか……
――昨夜、王子と一緒にお風呂に入られたところ、アズールさまのお大事なところが反応なさったので、そろそろ精通もあるかと……
いやいや、ヴォルフ公爵はアズールさまをまだまだ幼い天使のように思っておられるのだ。
そんな話を耳に入れるだけであまりのショックにお倒れになるかもしれない。
アズールさまのお大事な場所が反応なさったことは隠しておいた方がいいか……
――特段何かあったわけではございませんがアズールさまももう12歳ですし、そろそろ性教育も必要かと……
いやいや、それならわざわざ時間をとっていただいてまで話す内容でもない。
それにクレイさまには内緒にとお伝えしているのだ。
ヴォルフ公爵は何か隠していることなどすぐにお気づきになるだろう。
ああ、どうやって話を進めたら良いか……
だが、せっかく時間を頂戴したのだ。
アリーシャさまもいらっしゃることだし、ここはしっかりと全てを打ち明けて共有した方がいいのかもしれない。
そうだな。
私一人ではどうしていいかわからないのだから。
よし!
私はもう一度気合を入れて、応接室の扉を叩いた。
「入れ」
その声にふぅと息を吐きながら、部屋に入ると少し緊張した面持ちの公爵さまと、にこやかな笑顔を浮かべ落ち着いた様子のアリーシャさまが並んで座っていらした。
あの笑顔……もしかしたらアリーシャさまは何かをお気付きでいらっしゃるのかもしれない。
そう思いつつ、入り口近くで立っていると
「ヴェルナー、そこに座ってくれ」
と声をかけられた。
指示された通り、その場所に腰を下ろすとどうにも我慢できないと言った様子で公爵さまが口を開いた。
「それで、アズールの話とはなんだ?」
「は、はい。それが……」
あまりにも話の内容が気になって昂っていらっしゃるのだろう。
無意識に放たれる狼の威嚇に身体が震える。
「あなたっ! 少しは落ち着いてください。そんなに威圧を与えたらヴェルナーさんも恐怖でお話ししたくてもできませんよ」
「あ、ああ。悪い。つい、アズールのことが気になってしまってな。ヴェルナー、申し訳ない」
アリーシャさまの一喝でふっと威圧が解かれてほっとする。
やはりアリーシャさまにもご同席いただいてよかった。
「ヴェルナーさん。ごめんなさいね。この人、アズールのことに関しては冷静でなくなってしまうの」
「いいえ。突然このような時間を設けていただいたので、ご心配になるのも当然でございます」
「落ち着いたら、少しずつでいいからお話いただけるかしら。大丈夫、包み隠さずお話いただいて結構よ。私たちはアズールの親なのですから、アズールのことはなんでも知っていておきたいの」
「アリーシャさま……はい。ありがとうございます」
少しでも隠したほうが良いかと考えた私が恥ずかしい。
アズールさまにはこんなにも真正面から受け止めてくださるご両親がいらっしゃるのだから、最初から隠し立てなどなんの意味もなかったのだな。
ようやく素直に息が吸える。
私は深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた。
「実は、今朝アズールさまをお迎えに上がった時に、王子からアズールさまの……その、性教育の教師にと任命されたのです」
「な――っ、せ、性教育、だと? それは、アズールにはまだ時期尚早ではないか? 見ただろう、ヴェルナーも。あんなにもあどけない表情で眠っていたアズールを。まだそのようなことには全くもって無縁なアズールにわざわざ知識を与える必要がどこにあるんだ? 王子との結婚が近づいてからでも十分だろう」
ヴォルフ公爵の言葉も一理ある。
私もあのアズールさまのお姿を拝見する前はそう思っていたのだから。
けれど、それでは遅いのだ。
私はもう一度意を決して、伝えた。
「アズールさまのお大事なところが反応なさったのです」と。
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