真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

文字の大きさ
47 / 296
第一章

自我が芽生える

しおりを挟む
<sideルーディー>

マクシミリアンの尻尾に触りたいと言い出した時にはどうなることかと思ったが、やはり賢いアズールだけあって、すぐに私の話を理解してくれたようだ。

だが、アズールにしてみれば、自分と同じような形の尻尾を持ったものに初めて出会ったのだから、興味を持つのも無理はない。
それなのに、突然大きな声をあげて叱ったりして悪かったな。

そんな申し訳なさを誤魔化すように、アズールに外の印象を尋ねてみれば、

「あじゅーる、おちょと、ちゅきー」

と可愛い声を返してくれた。
どうやらさっき叱ったことはもうアズールの中では忘れてくれたようだ。
よかった。
無闇矢鱈に叱る奴だと思われたら嫌だからな。

アズールは私の腕の中から周りをキョロキョロと見回しながら、

「あじゅーる、おちょと、あるけりゅあるける?」

と尋ねてきた。

正直なことを言えば、アズールほど歩けるようになれば、外を歩いても問題はないだろう。
だが、それは道を歩くということに関してであって、安全かということではない。

この世のものとは思えないほど可愛いアズールはそこに存在するだけで目を惹く。
それなのに、アズールを歩かせでもしたら、可愛さが何倍にも膨れ上がる。

いや、抱っこをしていても可愛さが増すことは変わりないが、私の腕の中にいるだけで安全も格段に増すのだ。

アズールが安心して歩ける家の中はともかく、危険だらけの外でアズールを歩かせる選択肢は私にはない。

小さくて軽いアズールは抱いて歩いてもなんの支障もないし、なんなら何かあった時にすぐにアズールを連れて逃げられる利点の方が多い。

というわけで、アズールが外を自分の足で歩くことは当分ないだろうな。

外を歩くのは難しいといえば、悲しげな表情を見せるだろうかと心配したが、アズールは特に気にする様子もなく、それどころか私の抱っこが好きだと言ってくれた。

ああ、もうこれで決まった。

アズールは絶対に私の腕から下ろしはしない。

そんな嬉しいことを言ってくれたアズールを連れ、アズールの好きなものでも食べに行こうと声をかけると、私の腕の中で可愛らしく身体を跳ねさせて喜んでいた。

ふふっ。本当に可愛らしい。
いつもより力強く飛び跳ねているが、私にとっては可愛く跳ねるアズールを間近で見られてご褒美でしかないな。

「マクシミリアン、あの店に入るから先に行って店員に話をしてきてくれ」

「はっ。承知いたしました」

急いで駆け出していくマクシミリアンを見送り、通りすがりに咲いている花をアズールと共に愛でながら歩いていると、マクシミリアンが店の扉を開け、こちらを向いているのが見える。

どうやら、交渉はうまく行ったようだ。

扉の前で待ち構えるマクシミリアンと、店主らしき者に近づき、

「突然で悪いな」

と声をかけると、

「い、いいえ。もったいないお言葉。ぜひ、ごゆっくりお過ごしください」

と少し震える声で返してくれた。

きっと私の顔が怖いのだろう。
頭を下げたままの店主に、

「ねこちゃんらぁだぁ!!」

とアズールが可愛らしい声をかける。

確かに店主の頭には猫耳が見えるがアズールはマクシミリアンの尻尾といい、よく知っているものだと感心してしまう。

その声に店主は驚きながら、顔をあげアズールと目を合わせると一気に顔を赤らめてその場にへたり込んだ。

らいどーぶだいじょうぶ?」

心配そうに声をかけるアズールに店主はさらに顔を赤らめ、

「は、はひ。だいじょーぶでござりまするです」

と不思議な言葉を返しながら必死に立ち上がっていた。

あのちとあのひと、らいどーぶ、かなぁ?」

「ああ、心配しないでいいよ。これがここでは普通なんだ。さぁ、中に入ろう」

これ以上はアズールに付き合わせたくないし、そして店主もおかしなことになってしまうと考え、さっさと中に入った。

最近流行っているというお店だけあって、店内はかなり混雑していた。
我々の姿を見てあちらこちらからいろんな声が飛び交っているのがわかる。

アズールに対しては皆、好意的で可愛い、可愛いという言葉ばかりだが、私に対しては怖そうというものが多い。
仕方がないと思いつつ、直接入ってくる言葉は少し辛いものはある。
店員もそれがわかったのが、それともトラブルを避けるためなのか、すぐに我々を奥の個室に案内しようとしてくれた。

だが、肝心のアズールは

「やぁーっ、あじゅーる、こりぇこれみりゅーみるー!」

とショーケースに手を伸ばして離れたがらない。

きっと自分で選びたいんだろう。

爺も言っていた。

――そろそろアズールさまには自我が芽生えて、自分でなんでもなさりたがる時期がやってまいります。その時は決して、否定なさらず、アズールさまのお好きなようにやらせてあげてくださいませ。ただし、命に関わるときは決して許してはなりませぬ。そこは決して違えてはなりませぬぞ。

と。

おそらく爺の言っていたのはこのことだろう。

私はそのことを思い出し、店の奥に案内しようとする店員を遮って、

「アズール、自分で選びたいのならここで気が済むまで選んでいこう」

と声をかけると、アズールは嬉しそうに笑っていた。

「こりぇ、おいちちょおいしそうー! こっちもおいちちょー! るー、ろうちようどうしようろれもどれもおいちちょうで、むじゅかちぃむずかしい

ふふっ。悩む姿も実に可愛らしいな。

「アズール、食べたいものは全て頼んだらいい。アズールが食べきれないものは私が全部食べるから心配はいらないよ」

そういうとアズールの目が輝いた。

「るー、らいちゅきだいすき!!」

ギュッと抱きしめてくれるアズールの可愛らしい姿に、店内が一瞬しんと静まり返った。
しおりを挟む
感想 570

あなたにおすすめの小説

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

処理中です...