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第一章
自我が芽生える
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<sideルーディー>
マクシミリアンの尻尾に触りたいと言い出した時にはどうなることかと思ったが、やはり賢いアズールだけあって、すぐに私の話を理解してくれたようだ。
だが、アズールにしてみれば、自分と同じような形の尻尾を持ったものに初めて出会ったのだから、興味を持つのも無理はない。
それなのに、突然大きな声をあげて叱ったりして悪かったな。
そんな申し訳なさを誤魔化すように、アズールに外の印象を尋ねてみれば、
「あじゅーる、おちょと、ちゅきー」
と可愛い声を返してくれた。
どうやらさっき叱ったことはもうアズールの中では忘れてくれたようだ。
よかった。
無闇矢鱈に叱る奴だと思われたら嫌だからな。
アズールは私の腕の中から周りをキョロキョロと見回しながら、
「あじゅーる、おちょと、あるけりゅ?」
と尋ねてきた。
正直なことを言えば、アズールほど歩けるようになれば、外を歩いても問題はないだろう。
だが、それは道を歩くということに関してであって、安全かということではない。
この世のものとは思えないほど可愛いアズールはそこに存在するだけで目を惹く。
それなのに、アズールを歩かせでもしたら、可愛さが何倍にも膨れ上がる。
いや、抱っこをしていても可愛さが増すことは変わりないが、私の腕の中にいるだけで安全も格段に増すのだ。
アズールが安心して歩ける家の中はともかく、危険だらけの外でアズールを歩かせる選択肢は私にはない。
小さくて軽いアズールは抱いて歩いてもなんの支障もないし、なんなら何かあった時にすぐにアズールを連れて逃げられる利点の方が多い。
というわけで、アズールが外を自分の足で歩くことは当分ないだろうな。
外を歩くのは難しいといえば、悲しげな表情を見せるだろうかと心配したが、アズールは特に気にする様子もなく、それどころか私の抱っこが好きだと言ってくれた。
ああ、もうこれで決まった。
アズールは絶対に私の腕から下ろしはしない。
そんな嬉しいことを言ってくれたアズールを連れ、アズールの好きなものでも食べに行こうと声をかけると、私の腕の中で可愛らしく身体を跳ねさせて喜んでいた。
ふふっ。本当に可愛らしい。
いつもより力強く飛び跳ねているが、私にとっては可愛く跳ねるアズールを間近で見られてご褒美でしかないな。
「マクシミリアン、あの店に入るから先に行って店員に話をしてきてくれ」
「はっ。承知いたしました」
急いで駆け出していくマクシミリアンを見送り、通りすがりに咲いている花をアズールと共に愛でながら歩いていると、マクシミリアンが店の扉を開け、こちらを向いているのが見える。
どうやら、交渉はうまく行ったようだ。
扉の前で待ち構えるマクシミリアンと、店主らしき者に近づき、
「突然で悪いな」
と声をかけると、
「い、いいえ。もったいないお言葉。ぜひ、ごゆっくりお過ごしください」
と少し震える声で返してくれた。
きっと私の顔が怖いのだろう。
頭を下げたままの店主に、
「ねこちゃんらぁ!!」
とアズールが可愛らしい声をかける。
確かに店主の頭には猫耳が見えるがアズールはマクシミリアンの尻尾といい、よく知っているものだと感心してしまう。
その声に店主は驚きながら、顔をあげアズールと目を合わせると一気に顔を赤らめてその場にへたり込んだ。
「らいどーぶ?」
心配そうに声をかけるアズールに店主はさらに顔を赤らめ、
「は、はひ。だいじょーぶでござりまするです」
と不思議な言葉を返しながら必死に立ち上がっていた。
「あのちと、らいどーぶ、かなぁ?」
「ああ、心配しないでいいよ。これがここでは普通なんだ。さぁ、中に入ろう」
これ以上はアズールに付き合わせたくないし、そして店主もおかしなことになってしまうと考え、さっさと中に入った。
最近流行っているというお店だけあって、店内はかなり混雑していた。
我々の姿を見てあちらこちらからいろんな声が飛び交っているのがわかる。
アズールに対しては皆、好意的で可愛い、可愛いという言葉ばかりだが、私に対しては怖そうというものが多い。
仕方がないと思いつつ、直接入ってくる言葉は少し辛いものはある。
店員もそれがわかったのが、それともトラブルを避けるためなのか、すぐに我々を奥の個室に案内しようとしてくれた。
だが、肝心のアズールは
「やぁーっ、あじゅーる、こりぇ、みりゅー!」
とショーケースに手を伸ばして離れたがらない。
きっと自分で選びたいんだろう。
爺も言っていた。
――そろそろアズールさまには自我が芽生えて、自分でなんでもなさりたがる時期がやってまいります。その時は決して、否定なさらず、アズールさまのお好きなようにやらせてあげてくださいませ。ただし、命に関わるときは決して許してはなりませぬ。そこは決して違えてはなりませぬぞ。
と。
おそらく爺の言っていたのはこのことだろう。
私はそのことを思い出し、店の奥に案内しようとする店員を遮って、
「アズール、自分で選びたいのならここで気が済むまで選んでいこう」
と声をかけると、アズールは嬉しそうに笑っていた。
「こりぇ、おいちちょー! こっちもおいちちょー! るー、ろうちよう。ろれもおいちちょうで、むじゅかちぃ」
ふふっ。悩む姿も実に可愛らしいな。
「アズール、食べたいものは全て頼んだらいい。アズールが食べきれないものは私が全部食べるから心配はいらないよ」
そういうとアズールの目が輝いた。
「るー、らいちゅき!!」
ギュッと抱きしめてくれるアズールの可愛らしい姿に、店内が一瞬しんと静まり返った。
マクシミリアンの尻尾に触りたいと言い出した時にはどうなることかと思ったが、やはり賢いアズールだけあって、すぐに私の話を理解してくれたようだ。
だが、アズールにしてみれば、自分と同じような形の尻尾を持ったものに初めて出会ったのだから、興味を持つのも無理はない。
それなのに、突然大きな声をあげて叱ったりして悪かったな。
そんな申し訳なさを誤魔化すように、アズールに外の印象を尋ねてみれば、
「あじゅーる、おちょと、ちゅきー」
と可愛い声を返してくれた。
どうやらさっき叱ったことはもうアズールの中では忘れてくれたようだ。
よかった。
無闇矢鱈に叱る奴だと思われたら嫌だからな。
アズールは私の腕の中から周りをキョロキョロと見回しながら、
「あじゅーる、おちょと、あるけりゅ?」
と尋ねてきた。
正直なことを言えば、アズールほど歩けるようになれば、外を歩いても問題はないだろう。
だが、それは道を歩くということに関してであって、安全かということではない。
この世のものとは思えないほど可愛いアズールはそこに存在するだけで目を惹く。
それなのに、アズールを歩かせでもしたら、可愛さが何倍にも膨れ上がる。
いや、抱っこをしていても可愛さが増すことは変わりないが、私の腕の中にいるだけで安全も格段に増すのだ。
アズールが安心して歩ける家の中はともかく、危険だらけの外でアズールを歩かせる選択肢は私にはない。
小さくて軽いアズールは抱いて歩いてもなんの支障もないし、なんなら何かあった時にすぐにアズールを連れて逃げられる利点の方が多い。
というわけで、アズールが外を自分の足で歩くことは当分ないだろうな。
外を歩くのは難しいといえば、悲しげな表情を見せるだろうかと心配したが、アズールは特に気にする様子もなく、それどころか私の抱っこが好きだと言ってくれた。
ああ、もうこれで決まった。
アズールは絶対に私の腕から下ろしはしない。
そんな嬉しいことを言ってくれたアズールを連れ、アズールの好きなものでも食べに行こうと声をかけると、私の腕の中で可愛らしく身体を跳ねさせて喜んでいた。
ふふっ。本当に可愛らしい。
いつもより力強く飛び跳ねているが、私にとっては可愛く跳ねるアズールを間近で見られてご褒美でしかないな。
「マクシミリアン、あの店に入るから先に行って店員に話をしてきてくれ」
「はっ。承知いたしました」
急いで駆け出していくマクシミリアンを見送り、通りすがりに咲いている花をアズールと共に愛でながら歩いていると、マクシミリアンが店の扉を開け、こちらを向いているのが見える。
どうやら、交渉はうまく行ったようだ。
扉の前で待ち構えるマクシミリアンと、店主らしき者に近づき、
「突然で悪いな」
と声をかけると、
「い、いいえ。もったいないお言葉。ぜひ、ごゆっくりお過ごしください」
と少し震える声で返してくれた。
きっと私の顔が怖いのだろう。
頭を下げたままの店主に、
「ねこちゃんらぁ!!」
とアズールが可愛らしい声をかける。
確かに店主の頭には猫耳が見えるがアズールはマクシミリアンの尻尾といい、よく知っているものだと感心してしまう。
その声に店主は驚きながら、顔をあげアズールと目を合わせると一気に顔を赤らめてその場にへたり込んだ。
「らいどーぶ?」
心配そうに声をかけるアズールに店主はさらに顔を赤らめ、
「は、はひ。だいじょーぶでござりまするです」
と不思議な言葉を返しながら必死に立ち上がっていた。
「あのちと、らいどーぶ、かなぁ?」
「ああ、心配しないでいいよ。これがここでは普通なんだ。さぁ、中に入ろう」
これ以上はアズールに付き合わせたくないし、そして店主もおかしなことになってしまうと考え、さっさと中に入った。
最近流行っているというお店だけあって、店内はかなり混雑していた。
我々の姿を見てあちらこちらからいろんな声が飛び交っているのがわかる。
アズールに対しては皆、好意的で可愛い、可愛いという言葉ばかりだが、私に対しては怖そうというものが多い。
仕方がないと思いつつ、直接入ってくる言葉は少し辛いものはある。
店員もそれがわかったのが、それともトラブルを避けるためなのか、すぐに我々を奥の個室に案内しようとしてくれた。
だが、肝心のアズールは
「やぁーっ、あじゅーる、こりぇ、みりゅー!」
とショーケースに手を伸ばして離れたがらない。
きっと自分で選びたいんだろう。
爺も言っていた。
――そろそろアズールさまには自我が芽生えて、自分でなんでもなさりたがる時期がやってまいります。その時は決して、否定なさらず、アズールさまのお好きなようにやらせてあげてくださいませ。ただし、命に関わるときは決して許してはなりませぬ。そこは決して違えてはなりませぬぞ。
と。
おそらく爺の言っていたのはこのことだろう。
私はそのことを思い出し、店の奥に案内しようとする店員を遮って、
「アズール、自分で選びたいのならここで気が済むまで選んでいこう」
と声をかけると、アズールは嬉しそうに笑っていた。
「こりぇ、おいちちょー! こっちもおいちちょー! るー、ろうちよう。ろれもおいちちょうで、むじゅかちぃ」
ふふっ。悩む姿も実に可愛らしいな。
「アズール、食べたいものは全て頼んだらいい。アズールが食べきれないものは私が全部食べるから心配はいらないよ」
そういうとアズールの目が輝いた。
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ギュッと抱きしめてくれるアズールの可愛らしい姿に、店内が一瞬しんと静まり返った。
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