真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

文字の大きさ
48 / 296
第一章

至福のひととき

しおりを挟む
<sideルーディー>

アズールが私を大好きだと言いながら、抱きついてきた瞬間、一瞬の静寂の後に店内が

「きゃーっ!!」
「わぁーっ!!」

という地鳴りのような大きな声に包まれた。
と同時に一斉に椅子やらテーブルやらがガタガタと倒れ、その音にアズールは

「うにゃあっ!!」

と怯えた声をあげながら私の上着の中に隠れた。
尻尾も耳もピクピクと震わせて可哀想だが、それ以上に可愛すぎる。

「マクシミリアン、あとは頼むぞ。ショーケースの中のものを全て持ってくるようにも伝えてくれ」

その姿を誰にも見せたくなくて、私は急いでアズールを上着の中に隠したまま、マクシミリアンの返事も聞く前に案内されていた奥の個室に飛び込んだ。

「ふぅ。アズール、もう大丈夫だぞ」

そう声をかけたものの、アズールはまだ私の上着の中でプルプルと震えている。

可哀想で仕方がないのに、可愛くてどうしようもない。

二つの気持ちが交錯するままに、アズールを抱きしめながら落ち着くのを待っていると、

「るー、こわい、ない?」

と小さくくぐもった声が聞こえてきた。

「ああ、もう大丈夫だ。私たちだけだぞ」

そう言って上着の上からアズールの身体を撫でると、ようやく私の上着から長くて可愛らしい耳をぴょんと出し、様子を伺い始めた。

まだ少し怯えながらも、ゆっくりと顔を出してくれたアズールは私の顔を見ると、嬉しそうに笑った。

「びっくりちた」

「ああ、でももう大丈夫だぞ」

にゃになにあっちゃのあったの?」

「んっ? ああ、何やら虫が出たみたいだな」

「むち……ちょっかそっか。びっくりちたね」

「ああ。でもアズールはすぐに私の上着に隠れて偉かったぞ。何かあったらいつでも私のところに隠れるんだ。そうしたら守りやすいからな」

「わかっちゃー」

そんな話をしていると、トントントンと扉が叩かれた。
その音にアズールは一瞬身体をびくつかせたが、先ほどの騒ぎよりは随分と小さな音にもう怖がりはしなかった。

「入れ」

扉の外に声をかければ、失礼しますと言いながら店員達が次々とショーケースにあったものをテーブルに並べていく。

「わぁーっ、おいちちょー」

アズールは目を輝かせながらも、私に抱きついたままだ。

ふふっ。本当に愛おしい。
店員達はアズールが私から全然離れないことに驚いた様子を見せながらも、可愛いアズールに笑みを浮かべながら部屋を出て行った。

「るー、いっぱい、ありゅあるー」

「ああ、どれから食べたい?」

「あじゅーる、このあかいの、たべりゅ」

「赤いの? ああ、いちごのケーキだな」

「いちご、ちゅきー」

「じゃあ、いちごから食べるとしよう」

フォークでいちごを刺して、アズールの口の前に持って行ってやると、アズールは小さな口を開けてカプッと半分食べた。

「あまーいっ! おいちぃーっ!」

「ふふっ。そうか。ほら、まだ半分残ってるぞ」

フォークに残ったままの半分のいちごを、アズールの口の前に持って行ってやる。

「ううん、そりぇ、るーの」

「えっ? 私の? アズールが好きなものだろう? 食べていいんだぞ」

「ううん。あじゅーる、るーと、はんぶんじゅっこはんぶんずっこしゅりゅするー!」

そう言って駄々をこねる。
これも自我の目覚めなのか?

いや、私にとっては嬉しいご褒美でしかない。

「アズールがそう言ってくれるなら、半分もらおうか」

「やぁーっ、あじゅーる、たべちゃちぇてあえるたべさせてあげるー!」

手に持っていたフォークで食べようとすると、大きな声をあげて止められた。

「アズールが?」

驚く私を横目にアズールは、私が持っていたフォークに刺さっていたいちごを手でとり、

「あい、どーじょ」

と差し出してきた。

――っ!!
これはいつぞやのあの人参の再来!!

あの時限りだと思っていたご褒美がまたやってきたのだ!!!

ああ、神よ!
私はなんて幸せ者なんだ!!!

あまりの嬉しさに昇天しそうになるのを必死にとどめ、口を開けるとアズールが嬉しそうに小さな指で摘んだいちごを口の中に入れてくれた。

アズールの指だけでなく、手のひらごと長く大きな舌で包み込み、たっぷりとアズールの手を味わいながら、甘い甘いいちごを堪能した。

もうどれがいちごなのかもわからないほど、甘く美味しい味に酔いしれていた。

「るー、おいちぃ?」

「ああ、アズール。こんなに美味しいいちごは食べた事がないな」

「ふふっ。よかっちゃー」

「アズール、次はどれが食べたい?」

それから、アズールが指さすもの全て二人で分け合って食べていくという至福の時間を過ごしたが、4つほど食べたところで、アズールがお腹いっぱいだと言い出した。

と言っても、ケーキはほとんど口にしておらず、上に乗っていたフルーツばかり食べていたのだがアズールが満足してくれただけで十分だ。

「るー、のこり、たべりぇる?」

まだ10枚以上残った皿を見て、不安そうにしているがこんなの造作もない。

あっという間に全てを平らげれば、アズールがキラキラとした目で私を見てくれた。

「るー、ちゅごいねすごいね

「ふふっ。大したことはないよ。じゃあ、行こうか」

部屋の外に出るのを思い出し、アズールは慌てて私の上着の中に隠れたのは、よほどあれが怖かったからだろう。

あれはアズールの可愛さに店にいるもの全てがやられただけだ。
もう本当にアズールはその空間にいるもの全てを落としてしまう。
今日出かけたことでそれがよくわかった。

外に出る時は絶対にアズールから目を離してはいけないな。
しおりを挟む
感想 570

あなたにおすすめの小説

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

処理中です...