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第一章
至福のひととき
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<sideルーディー>
アズールが私を大好きだと言いながら、抱きついてきた瞬間、一瞬の静寂の後に店内が
「きゃーっ!!」
「わぁーっ!!」
という地鳴りのような大きな声に包まれた。
と同時に一斉に椅子やらテーブルやらがガタガタと倒れ、その音にアズールは
「うにゃあっ!!」
と怯えた声をあげながら私の上着の中に隠れた。
尻尾も耳もピクピクと震わせて可哀想だが、それ以上に可愛すぎる。
「マクシミリアン、あとは頼むぞ。ショーケースの中のものを全て持ってくるようにも伝えてくれ」
その姿を誰にも見せたくなくて、私は急いでアズールを上着の中に隠したまま、マクシミリアンの返事も聞く前に案内されていた奥の個室に飛び込んだ。
「ふぅ。アズール、もう大丈夫だぞ」
そう声をかけたものの、アズールはまだ私の上着の中でプルプルと震えている。
可哀想で仕方がないのに、可愛くてどうしようもない。
二つの気持ちが交錯するままに、アズールを抱きしめながら落ち着くのを待っていると、
「るー、こわい、ない?」
と小さくくぐもった声が聞こえてきた。
「ああ、もう大丈夫だ。私たちだけだぞ」
そう言って上着の上からアズールの身体を撫でると、ようやく私の上着から長くて可愛らしい耳をぴょんと出し、様子を伺い始めた。
まだ少し怯えながらも、ゆっくりと顔を出してくれたアズールは私の顔を見ると、嬉しそうに笑った。
「びっくりちた」
「ああ、でももう大丈夫だぞ」
「にゃに、あっちゃの?」
「んっ? ああ、何やら虫が出たみたいだな」
「むち……ちょっか。びっくりちたね」
「ああ。でもアズールはすぐに私の上着に隠れて偉かったぞ。何かあったらいつでも私のところに隠れるんだ。そうしたら守りやすいからな」
「わかっちゃー」
そんな話をしていると、トントントンと扉が叩かれた。
その音にアズールは一瞬身体をびくつかせたが、先ほどの騒ぎよりは随分と小さな音にもう怖がりはしなかった。
「入れ」
扉の外に声をかければ、失礼しますと言いながら店員達が次々とショーケースにあったものをテーブルに並べていく。
「わぁーっ、おいちちょー」
アズールは目を輝かせながらも、私に抱きついたままだ。
ふふっ。本当に愛おしい。
店員達はアズールが私から全然離れないことに驚いた様子を見せながらも、可愛いアズールに笑みを浮かべながら部屋を出て行った。
「るー、いっぱい、ありゅー」
「ああ、どれから食べたい?」
「あじゅーる、このあかいの、たべりゅ」
「赤いの? ああ、いちごのケーキだな」
「いちご、ちゅきー」
「じゃあ、いちごから食べるとしよう」
フォークでいちごを刺して、アズールの口の前に持って行ってやると、アズールは小さな口を開けてカプッと半分食べた。
「あまーいっ! おいちぃーっ!」
「ふふっ。そうか。ほら、まだ半分残ってるぞ」
フォークに残ったままの半分のいちごを、アズールの口の前に持って行ってやる。
「ううん、そりぇ、るーの」
「えっ? 私の? アズールが好きなものだろう? 食べていいんだぞ」
「ううん。あじゅーる、るーと、はんぶんじゅっこ、しゅりゅー!」
そう言って駄々をこねる。
これも自我の目覚めなのか?
いや、私にとっては嬉しいご褒美でしかない。
「アズールがそう言ってくれるなら、半分もらおうか」
「やぁーっ、あじゅーる、たべちゃちぇてあえるー!」
手に持っていたフォークで食べようとすると、大きな声をあげて止められた。
「アズールが?」
驚く私を横目にアズールは、私が持っていたフォークに刺さっていたいちごを手でとり、
「あい、どーじょ」
と差し出してきた。
――っ!!
これはいつぞやのあの人参の再来!!
あの時限りだと思っていたご褒美がまたやってきたのだ!!!
ああ、神よ!
私はなんて幸せ者なんだ!!!
あまりの嬉しさに昇天しそうになるのを必死にとどめ、口を開けるとアズールが嬉しそうに小さな指で摘んだいちごを口の中に入れてくれた。
アズールの指だけでなく、手のひらごと長く大きな舌で包み込み、たっぷりとアズールの手を味わいながら、甘い甘いいちごを堪能した。
もうどれがいちごなのかもわからないほど、甘く美味しい味に酔いしれていた。
「るー、おいちぃ?」
「ああ、アズール。こんなに美味しいいちごは食べた事がないな」
「ふふっ。よかっちゃー」
「アズール、次はどれが食べたい?」
それから、アズールが指さすもの全て二人で分け合って食べていくという至福の時間を過ごしたが、4つほど食べたところで、アズールがお腹いっぱいだと言い出した。
と言っても、ケーキはほとんど口にしておらず、上に乗っていたフルーツばかり食べていたのだがアズールが満足してくれただけで十分だ。
「るー、のこり、たべりぇる?」
まだ10枚以上残った皿を見て、不安そうにしているがこんなの造作もない。
あっという間に全てを平らげれば、アズールがキラキラとした目で私を見てくれた。
「るー、ちゅごいね」
「ふふっ。大したことはないよ。じゃあ、行こうか」
部屋の外に出るのを思い出し、アズールは慌てて私の上着の中に隠れたのは、よほどあれが怖かったからだろう。
あれはアズールの可愛さに店にいるもの全てがやられただけだ。
もう本当にアズールはその空間にいるもの全てを落としてしまう。
今日出かけたことでそれがよくわかった。
外に出る時は絶対にアズールから目を離してはいけないな。
アズールが私を大好きだと言いながら、抱きついてきた瞬間、一瞬の静寂の後に店内が
「きゃーっ!!」
「わぁーっ!!」
という地鳴りのような大きな声に包まれた。
と同時に一斉に椅子やらテーブルやらがガタガタと倒れ、その音にアズールは
「うにゃあっ!!」
と怯えた声をあげながら私の上着の中に隠れた。
尻尾も耳もピクピクと震わせて可哀想だが、それ以上に可愛すぎる。
「マクシミリアン、あとは頼むぞ。ショーケースの中のものを全て持ってくるようにも伝えてくれ」
その姿を誰にも見せたくなくて、私は急いでアズールを上着の中に隠したまま、マクシミリアンの返事も聞く前に案内されていた奥の個室に飛び込んだ。
「ふぅ。アズール、もう大丈夫だぞ」
そう声をかけたものの、アズールはまだ私の上着の中でプルプルと震えている。
可哀想で仕方がないのに、可愛くてどうしようもない。
二つの気持ちが交錯するままに、アズールを抱きしめながら落ち着くのを待っていると、
「るー、こわい、ない?」
と小さくくぐもった声が聞こえてきた。
「ああ、もう大丈夫だ。私たちだけだぞ」
そう言って上着の上からアズールの身体を撫でると、ようやく私の上着から長くて可愛らしい耳をぴょんと出し、様子を伺い始めた。
まだ少し怯えながらも、ゆっくりと顔を出してくれたアズールは私の顔を見ると、嬉しそうに笑った。
「びっくりちた」
「ああ、でももう大丈夫だぞ」
「にゃに、あっちゃの?」
「んっ? ああ、何やら虫が出たみたいだな」
「むち……ちょっか。びっくりちたね」
「ああ。でもアズールはすぐに私の上着に隠れて偉かったぞ。何かあったらいつでも私のところに隠れるんだ。そうしたら守りやすいからな」
「わかっちゃー」
そんな話をしていると、トントントンと扉が叩かれた。
その音にアズールは一瞬身体をびくつかせたが、先ほどの騒ぎよりは随分と小さな音にもう怖がりはしなかった。
「入れ」
扉の外に声をかければ、失礼しますと言いながら店員達が次々とショーケースにあったものをテーブルに並べていく。
「わぁーっ、おいちちょー」
アズールは目を輝かせながらも、私に抱きついたままだ。
ふふっ。本当に愛おしい。
店員達はアズールが私から全然離れないことに驚いた様子を見せながらも、可愛いアズールに笑みを浮かべながら部屋を出て行った。
「るー、いっぱい、ありゅー」
「ああ、どれから食べたい?」
「あじゅーる、このあかいの、たべりゅ」
「赤いの? ああ、いちごのケーキだな」
「いちご、ちゅきー」
「じゃあ、いちごから食べるとしよう」
フォークでいちごを刺して、アズールの口の前に持って行ってやると、アズールは小さな口を開けてカプッと半分食べた。
「あまーいっ! おいちぃーっ!」
「ふふっ。そうか。ほら、まだ半分残ってるぞ」
フォークに残ったままの半分のいちごを、アズールの口の前に持って行ってやる。
「ううん、そりぇ、るーの」
「えっ? 私の? アズールが好きなものだろう? 食べていいんだぞ」
「ううん。あじゅーる、るーと、はんぶんじゅっこ、しゅりゅー!」
そう言って駄々をこねる。
これも自我の目覚めなのか?
いや、私にとっては嬉しいご褒美でしかない。
「アズールがそう言ってくれるなら、半分もらおうか」
「やぁーっ、あじゅーる、たべちゃちぇてあえるー!」
手に持っていたフォークで食べようとすると、大きな声をあげて止められた。
「アズールが?」
驚く私を横目にアズールは、私が持っていたフォークに刺さっていたいちごを手でとり、
「あい、どーじょ」
と差し出してきた。
――っ!!
これはいつぞやのあの人参の再来!!
あの時限りだと思っていたご褒美がまたやってきたのだ!!!
ああ、神よ!
私はなんて幸せ者なんだ!!!
あまりの嬉しさに昇天しそうになるのを必死にとどめ、口を開けるとアズールが嬉しそうに小さな指で摘んだいちごを口の中に入れてくれた。
アズールの指だけでなく、手のひらごと長く大きな舌で包み込み、たっぷりとアズールの手を味わいながら、甘い甘いいちごを堪能した。
もうどれがいちごなのかもわからないほど、甘く美味しい味に酔いしれていた。
「るー、おいちぃ?」
「ああ、アズール。こんなに美味しいいちごは食べた事がないな」
「ふふっ。よかっちゃー」
「アズール、次はどれが食べたい?」
それから、アズールが指さすもの全て二人で分け合って食べていくという至福の時間を過ごしたが、4つほど食べたところで、アズールがお腹いっぱいだと言い出した。
と言っても、ケーキはほとんど口にしておらず、上に乗っていたフルーツばかり食べていたのだがアズールが満足してくれただけで十分だ。
「るー、のこり、たべりぇる?」
まだ10枚以上残った皿を見て、不安そうにしているがこんなの造作もない。
あっという間に全てを平らげれば、アズールがキラキラとした目で私を見てくれた。
「るー、ちゅごいね」
「ふふっ。大したことはないよ。じゃあ、行こうか」
部屋の外に出るのを思い出し、アズールは慌てて私の上着の中に隠れたのは、よほどあれが怖かったからだろう。
あれはアズールの可愛さに店にいるもの全てがやられただけだ。
もう本当にアズールはその空間にいるもの全てを落としてしまう。
今日出かけたことでそれがよくわかった。
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