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俺は幸せだ

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少し身体が楽になったという航を連れ、このホテルで美味しいと評判の寿司屋で食べさせようかと思っていたのだが、夕方をすぎてもまた艶っぽい航の顔を誰にも見せる気になれず、やはり部屋に運んでもらうことにした。
航にはずっと部屋にいさせたままで申し訳なかったが、『祐悟さんと2人がいい』と可愛いことを言ってくれるものだから、つい甘えてしまう。

俺が今まで食べた中でこの寿司が一番美味しく感じたのは、きっと目を輝かせながら寿司を頬張る航と一緒だったからだろう。

食事を終え、風呂までは必死に耐えたが寝室に入って『ぎゅーってしてください』と甘えてくる航にどうにもこうにも我慢しきれず、今日も航の奥まで可愛がってしまった。
それでも必死に2回で終わらせたのは、この後電話をしなければいけなかったからだ。
航の身体を清めベッドに寝かせてから、俺が蓮見に電話をかけたのはもう夜の12時を回っていた。

もう寝てるんじゃないか? と思いつつ、電話をかけるとワンコールですぐにつながった。

ーもしも――

ー遅いっ!! お前、何してたんだ?

ーいや、どうした? 何怒ってるんだ? 何があったんだ?

いつもの蓮見らしくないその様子に驚いて尋ねるが、

ー何があったじゃないだろうっ!!! お前、朝陽に何を言ったんだ?!!

とヒートアップするばかり。

ーえっ? 朝陽くんに? いや、特に何も……。あっ、今度会うとき店と俺の家とどっちがいいかって――

ーそんなことはどうでもいいんだよ! 朝陽が自分が囮になるって言い出したんだ!!

ーはっ? 囮?? ってどういうことだ? 詳しく話せよ!

ー朝陽が沼田を落とすための囮には自分がなるって言い張ってるんだ。

ーなんでいきなりそんなことに?

ーなんだ、てっきりお前が朝陽に頼んだのかと思ってたんだが……お前のその様子だと違うようだな。

ーああ。俺は別に何も。だって、もう新川くんたちに頼んでただろう?

ーそうなんだが、もう朝陽がやるって言ってるから。ほら、お前も知ってるだろう?
朝陽は言い出したら聞かない性格だってことは。

ーじゃあ、やらせるのか? 俺としては朝陽くんがやってくれるなら万々歳だが。

ーはぁーーっ。仕方ないだろう。だから、今、新川くんたちも一緒に3人で囮になってもらう計画を立ててる。
3人なら朝陽だけに危険が及ぶことは避けられるだろうしな。

ーだが、朝陽くんは相当変装させないとまずいだろう? それに警護の方はお前1人じゃ難しくないか?

ーああ。それはちゃんと考えてる。浅香の友人の特殊メイクやってる人に朝陽とわからないようにしてもらうさ。
それに警護の方は兄貴も協力してくれるって。浅香にも頼んで3人で固めようと思ったんだが、兄貴が許可してくれなくて。仕方ないから2人でやるよ。ったく、俺は朝陽を出すっていうのにさ。浅香は絶対にダメだっていうんだよ。

周平さんはよっぽど浅香が大事みたいだな。
この前の梅崎と違って沼田の方は男が好みだからな。
沼田は可愛い子が好みだと聞いているが、俺たちの中では浅香はまぁ可愛い部類に入るだろう。
だからこそ、奴の目に浅香を入れたくないんだろうな。

ーてっきりお前が朝陽を焚きつけたと思ってたから……いきなり怒って悪かったな。

ーいや、気にしないでいい。多分、一昨日航と2人で話をした時に航からいろいろ話を聞いたんだろう。
朝陽くんも昔いろいろあっただろう? それで航に感情移入しちゃったんじゃないか?

そう、航と朝陽くんは心に傷があるという点においてはよく似ている。
だからこそ、朝陽くんは自ら囮になると言ってくれたに違いない。

ーああ、そうかもしれないな。だが、朝陽がここまでのめり込むのも珍しいんだ。
お前の大切な人のこと、よっぽど気に入ったらしいな。

ーああ。たった数時間の間にかなり仲良くなってて驚いたよ。
また近いうちに会いたいって言ってたから、どっか店借りるか、うちで集まろうぜ。
アレ・・が終わった後にでも……

ーああ、そうだな。じゃあ、お前んちにしよう。人数も多くなりそうだし、朝陽をゆっくりさせてあげたいから。
お前の食事も頼むよ。

ーふふっ。ああ、わかった。じゃあ、例の件、頼むな。

ーああ、朝陽がやると決まればさっさと終わらせてやるさ。任せとけ。

ー心強いな。じゃあな。


俺は電話を切った後で、良い仲間に恵まれて本当に幸せだと改めて思った。



そんなスイートでの夜を過ごしてから、数日後の今日。
約束通り俺の家で食事会を開催した。

今回の表向きの目的は航をみんなに紹介すること。
裏向きには、俺と航の幸せのために尽力してくれた友人たちへの感謝を伝えることが目的だ。
もちろん航には裏で俺たちが動いていたことは全て内緒だが。
まぁ、航は何も知らなくていいんだ。

出席者は俺と航も入れて総勢8人の大所帯となったが、久々に料理を振る舞えるとあって腕がなる。
航にも腕の見せ所とばかりに、朝から料理に勤しんだ。

大体のものは昨日から仕込んでいるから今日は大してやることは少ない。
手伝いたいと言い出した航には火傷や怪我をしないようにレタスをちぎったり、皿を並べたりそれくらいのことにさせておいたが、航は嬉しそうにしていて、俺も楽しかった。

ああ、こんなに楽しい料理は久しぶりだな。

ちょうど広間に料理を並べ終わったタイミングでやってきたのは蓮見と朝陽くん。

蓮見は初めてみる航に興味津々の様子だったが、朝陽くんに航を預け、俺は蓮見と共にキッチンへと向かった。

手土産のケーキを冷蔵庫に入れていると、

「倉橋、これ返すよ」

と渡されたのは、俺の事務所の机に置いているからと渡しておいた例のアレ・・
そう、沼田を嵌めるために使った特製の睡眠薬だ。

あいつが航を襲うつもりで持っていた睡眠薬の成分は、航から聞いてあの部屋の観葉植物の土から採取して調べ上げていた。
周平さんの知り合いの研究員に調べてもらったところ、自分で媚薬と市販の睡眠薬を調合して作った薬だとわかった。
素人の調合した薬なんて本当に危ない。
航がシャンパンの異常にすぐに気づいて飲まなくて本当によかった。
もし、一口でも口にしていたら、元々栄養状態の悪い航のことだ、すぐに昏倒していたかもしれない。

「この薬、さすがだな。効くまでの速さも、そして切れる時間もバッチリだったぞ」

「ああ、そうだろう。素人の調合とは違うからな」

「……お前、この残ったやつ、彼に使うつもりじゃないだろうな?」

「そんなわけないだろうがっ! 大体、航には薬なんか使わなくても俺のですぐにグズグズになるからいいんだよ」

「グズグズって……いくら親友とはいえ、そんな話は聞きたくないんだが……」

「お前が変なこと言うからだろっ! ほら、もう行くぞ!」

俺はちょっと引き気味の蓮見を置いて、広間へと向かった。
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