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気になる応募者
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親友であり、芸能事務所『テリフィックオフィス』の共同経営者でもある蓮見が恋人である南條くんとの5年にも渡る愛を実らせ、先日カナダで結婚式をあげた。
俺ともう1人の親友兼共同経営者である浅香と共にカナダでの挙式に参列し、俺たちはそのままハネムーンを過ごすという2人を置いていち早く日本へ帰国の途についた。
帰りの飛行機はもちろんファーストクラス。
これは蓮見たちから用意されたものだ。
俺は仕事で東京と沖縄をよく往復するが、やはり海外航路のファーストクラスは時間も長いだけあって至れり尽くせりで心地良い。
どうせ日本に帰れば山ほどの仕事が待っているんだ。
ここでくらいゆっくりしてもいいだろう。
機内で仕事に没頭している浅香をよそに俺は日本までのひとときをゆっくりと過ごした。
日本に着くと、浅香から『交代だ』と仕事を渡され、俺はそれを手に自宅へと帰った。
都内にある一人暮らしには有り余るほど広い家は、子どもの頃から住み慣れた実家だ。
父と母は健在だが、一軒家の手入れが大変なのだと俺に自宅を託し、自分達は仕事場である病院近くのタワマンに引っ越して悠々自適の生活を送っている。
タクシーを降り家に入ると、締め切っていた部屋の独特な匂いが鼻についた。
すぐに窓を開けると、庭を通り抜けてきた風がひんやりとする。
東京はだいぶ涼しくなってきたようだ。
しばらく窓を開け放して、空気の入れ替えをしていると急に自宅の電話が鳴り響いた。
こんな時間に誰だ?
そう思いながら受話器を取った。
ーもしもし。
ー社長。砂川ですが。
その少し怒っているような一言でスマホを機内モードにしていたままだったことを思い出した。
ーああ、悪い。
ーはぁーっ。まぁ、お疲れでしょうから仕方ないと思いますが。
ご無事の到着で安心いたしました。
ーああ。ありがとう。それでどうした? 何かあったのか?
ーいいえ。無事にご帰宅されたかの確認と、昨日から求人広告を出しましたので、そのご報告をと思いまして。
砂川は俺が沖縄の西表島でやっている観光ツアー会社<K.Yリゾート>の社員だ。
社員と言っても、東京の仕事を掛け持ちでやっている俺がいない間は社長代理を務めてくれている。
いわば実質的な社長と言ってもいいかもしれない。
ーそうだったな。どうだ、応募は来ているか?
ーはい。今のところ数十名の応募は来ていますが、まだ書類審査を通過する人材はおりませんね。
ーそうか。まぁ、でもまだ昨日出したばかりだろう? もうしばらく様子見というところだな。
ーはい。書類審査を通過する応募がございましたらご連絡いたします。
ーああ。頼むよ。
砂川との電話を終え、俺は持ち帰った仕事に手を伸ばした。
素晴らしい人材が来てくれることを夢見ながら……。
それから二日後、砂川から書類審査を通過したという応募者の詳細がメールで届いた。
<藤乃 航> ××県出身 23歳。
県立 山紅館高等学校を卒業後、『玻名崎商会』に就職。
営業事務として5年勤めた会社を先日一身上の都合で退職。
山紅館高校といえば、××県で不動のトップを誇る進学校だ。
東大、京大、旧帝大などの入学者数が全国の県立高校としてはベスト5に入るほどだというのに、彼は高校卒業後すぐに就職……。ふぅん、少し気になるな。
しかも、こんな良い高校を出て就職先があまりいい噂の聞かない『玻名崎商会』?
何か裏があるか?
いや、すぐに勘ぐってしまうのは俺の悪い癖だが、砂川がこの人物を選んだのも何かあるとしか考えられない。
俺は気になってすぐにスマホを手に取り、砂川に電話をかけた。
ーはい。砂川です。
ーああ、メール見たぞ。
ー社長、どう思われましたか?
ー気になるな。お前もそう思ったんだろう?
ーはい。実は伊織さんから気になる話を聞きまして……。
伊織とは、俺の会社<K.Yリゾート>の顧問弁護士を任せている安慶名伊織弁護士のことだ。
そして、砂川の数年来の恋人でもある。
そういえば、今日は仕事の関係で安慶名さんが西表に来る日だったな。
おそらく、届いていた求人を見せて安慶名さんに相談でもしたのだろう。
砂川の気になる話……それは実に不快な事件の話だった。
俺ともう1人の親友兼共同経営者である浅香と共にカナダでの挙式に参列し、俺たちはそのままハネムーンを過ごすという2人を置いていち早く日本へ帰国の途についた。
帰りの飛行機はもちろんファーストクラス。
これは蓮見たちから用意されたものだ。
俺は仕事で東京と沖縄をよく往復するが、やはり海外航路のファーストクラスは時間も長いだけあって至れり尽くせりで心地良い。
どうせ日本に帰れば山ほどの仕事が待っているんだ。
ここでくらいゆっくりしてもいいだろう。
機内で仕事に没頭している浅香をよそに俺は日本までのひとときをゆっくりと過ごした。
日本に着くと、浅香から『交代だ』と仕事を渡され、俺はそれを手に自宅へと帰った。
都内にある一人暮らしには有り余るほど広い家は、子どもの頃から住み慣れた実家だ。
父と母は健在だが、一軒家の手入れが大変なのだと俺に自宅を託し、自分達は仕事場である病院近くのタワマンに引っ越して悠々自適の生活を送っている。
タクシーを降り家に入ると、締め切っていた部屋の独特な匂いが鼻についた。
すぐに窓を開けると、庭を通り抜けてきた風がひんやりとする。
東京はだいぶ涼しくなってきたようだ。
しばらく窓を開け放して、空気の入れ替えをしていると急に自宅の電話が鳴り響いた。
こんな時間に誰だ?
そう思いながら受話器を取った。
ーもしもし。
ー社長。砂川ですが。
その少し怒っているような一言でスマホを機内モードにしていたままだったことを思い出した。
ーああ、悪い。
ーはぁーっ。まぁ、お疲れでしょうから仕方ないと思いますが。
ご無事の到着で安心いたしました。
ーああ。ありがとう。それでどうした? 何かあったのか?
ーいいえ。無事にご帰宅されたかの確認と、昨日から求人広告を出しましたので、そのご報告をと思いまして。
砂川は俺が沖縄の西表島でやっている観光ツアー会社<K.Yリゾート>の社員だ。
社員と言っても、東京の仕事を掛け持ちでやっている俺がいない間は社長代理を務めてくれている。
いわば実質的な社長と言ってもいいかもしれない。
ーそうだったな。どうだ、応募は来ているか?
ーはい。今のところ数十名の応募は来ていますが、まだ書類審査を通過する人材はおりませんね。
ーそうか。まぁ、でもまだ昨日出したばかりだろう? もうしばらく様子見というところだな。
ーはい。書類審査を通過する応募がございましたらご連絡いたします。
ーああ。頼むよ。
砂川との電話を終え、俺は持ち帰った仕事に手を伸ばした。
素晴らしい人材が来てくれることを夢見ながら……。
それから二日後、砂川から書類審査を通過したという応募者の詳細がメールで届いた。
<藤乃 航> ××県出身 23歳。
県立 山紅館高等学校を卒業後、『玻名崎商会』に就職。
営業事務として5年勤めた会社を先日一身上の都合で退職。
山紅館高校といえば、××県で不動のトップを誇る進学校だ。
東大、京大、旧帝大などの入学者数が全国の県立高校としてはベスト5に入るほどだというのに、彼は高校卒業後すぐに就職……。ふぅん、少し気になるな。
しかも、こんな良い高校を出て就職先があまりいい噂の聞かない『玻名崎商会』?
何か裏があるか?
いや、すぐに勘ぐってしまうのは俺の悪い癖だが、砂川がこの人物を選んだのも何かあるとしか考えられない。
俺は気になってすぐにスマホを手に取り、砂川に電話をかけた。
ーはい。砂川です。
ーああ、メール見たぞ。
ー社長、どう思われましたか?
ー気になるな。お前もそう思ったんだろう?
ーはい。実は伊織さんから気になる話を聞きまして……。
伊織とは、俺の会社<K.Yリゾート>の顧問弁護士を任せている安慶名伊織弁護士のことだ。
そして、砂川の数年来の恋人でもある。
そういえば、今日は仕事の関係で安慶名さんが西表に来る日だったな。
おそらく、届いていた求人を見せて安慶名さんに相談でもしたのだろう。
砂川の気になる話……それは実に不快な事件の話だった。
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