運命の出会いは空港で 〜クールなイケメン社長は無自覚煽りの可愛い子ちゃんに我慢できない

波木真帆

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同姓同名の彼

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実は、安慶名さんはうちの顧問弁護士としての仕事の他にもう一つ、違う仕事を持っている。
彼は料理好きが高じて弁護士でありながら調理師免許を取得し、料理人と弁護士という二足のわらじを履いているのだ。
一度うちで安慶名さんの料理を食べさせてもらった俺は、その料理の腕に惚れ込んで俺は親友である浅香に彼を紹介した。

なぜ浅香に紹介したのかというと、浅香は俺と蓮見で共同で経営している芸能事務所の他に、
<イリゼリゾート>というホテルを経営しているのだ。

<イリゼリゾート>のホテルは国内に数カ所、そのいくつかが沖縄にあるのだが、俺の会社がある西表島に程近い石垣島にも浅香のホテルがあり、そこの料理人となるべく人材をずっと探していたのを知っていたからだ。
浅香もまた俺と同様に一度食べて彼の料理に惚れ込み、石垣島のホテルの料理人として働いてもらうことになったという経緯がある。

その浅香のホテル<イリゼリゾート>は、実は東京・銀座にも系列ホテルがあり、そのホテルにここ最近都内のホテル業界で話題になっているという要注意人物の話が回ってきたそうだ。

その要注意人物とはGK興業の沼田という男。
会社では部長という役職についているそうだが、実はこの沼田という男、取引先の男性社員を無理やり都内のホテルに呼び出し、無理やり関係を迫っているというホテル業界では悪い噂の絶えない奴らしい。

しかし、被害者たちは一様に世間体や体裁を考え泣き寝入りを選んでしまい、事件として発覚したことはない。
が、自身のホテルでそのようなことがまかり通っていることを危惧したホテル業界が、都内のホテルで連携し沼田からの予約があれば部屋を巡回し、何かしらの事件が発生していないかの確認を取るようにしていたのだという。
その話を聞いた浅香はは念の為にということで都内のホテルだけでなく、<イリゼリゾート>全体に重要事項として通達していた。

そして先日、浅香の東京のホテルにその要注意人物・沼田からの予約が入ったそうだ。

浅香からその男について十分警戒するようにと通達がなされていたことで、ホテル全体で奴の動向を注視していたところ、夜遅くに奴の部屋に呼ばれたという若い男性が現れたそうだ。

小柄で可愛らしい見た目の、まさに沼田好みの若い男性社員。
彼はフロントで沼田の部屋番号を確認し、慌てた様子で奴の部屋に向かった。

念の為にとフロントの社員がしばらく時間を置いて、ルームサービスのふりをして部屋に見に行くとその時点では何もなかったが、出てきた時の奴の表情が怪しいと睨んで部屋の近くで動向を見守っていた。
するとそれからすぐに沼田の部屋から大急ぎで出ていく若い男性の姿があった。

彼のその慌てた様子に何かあったらしいと確信したフロントの社員はもう一度沼田の部屋に足を運び、
『大きな物音がしたが大丈夫か?』と声をかけると今度は沼田は出てこず扉越しに
『なんでもない、さっさと戻れ』と怒鳴る声が聞こえたのだそうだ。

若い男性が部屋に入ってから出ていくまでの時間を考えて、そして、部屋に残された奴の態度を考えて、何かある前に彼は逃げ出したのだとフロントの社員はとりあえず安心してその部屋から離れ通常業務に戻ったのだという。
そして、その日沼田の部屋を訪れるものはなかったらしい。

フロントでその若い男性の名前を記入してもらっていた社員は、もし彼が再び沼田の部屋を訪ねてくることがあった時のためにと浅香へ報告した。
そして、それが料理人であり弁護士でもある安慶名さんの元へと報告がきたそうだ。

その名前を記憶していた安慶名さんは、西表島で砂川が気になる履歴書があると見せられた名前がホテルの彼と同姓同名なことに気づいた。

彼が離職した日を踏まえて、彼・藤乃くんが沼田と何かしらあったかもしれないホテルの彼ではないかという推測に辿り着いたのだ。

ーというわけで、彼のことが気になって、社長に話をと思いましてご連絡いたしました。

砂川も安慶名さんから話を聞いて、俺と同じことを思ったに違いない。
もし彼がそのホテルの彼だったとしたら、彼のいた会社があまり良い噂の聞かない『玻名崎商会』であったことも鑑みて彼は沼田から逃げ出したことで会社を解雇されたのではないかということを。

浅香のホテルであった事件でもあるし、もし彼がそうだとしたら何があったのか話を聞いてみたい。
彼が俺の会社の求人に応募してきたのも何かの縁だろう。

ーそれから、履歴書に書かれていた高校での彼の様子を調査したところ、彼はあの・・山紅館高校で入学から卒業まで首席だったことがわかりました。

ー ――っ! 首席? それなのに就職?

あの高校で首席ならば、東大どころか海外の難関大学だって余裕で行けるはずなのになぜ就職?
しかも、あの・・『玻名崎商会』に?
うーん、やっぱり何かがあったに違いない。
そう、彼が就職を選ばざるを得なかった何かが……。

ー社長、どうされますか?

ーわかっているだろう? 彼に航空券を送るんだ。

俺はそのまま彼の書類審査合格を認め、西表島での面接を彼に連絡するように砂川に指示して電話を切った。

彼が浅香のホテルで起きたあの事件の被害者だから同情で合格を決めたわけではない。
確かにそれは理由の一端でもある。
だが、それ以上に彼のような優秀な人物があんな会社に就職を決めたことがどうしても気になったのだ。
彼のことがどうしても惹かれる何かがあったとしか思えない、そんな気持ちが俺の心に働いたんだ。

俺は元々、面接に来る者の顔写真は見ないことにしている。
顔には多少なりとも本人の為人ひととなりが現れるものだ。
写真で顔を見て余計な先入観を持ちたくないというのが大きな理由だ。
砂川も俺のその考えを理解しているからこそ、今回の彼の詳細にも顔写真はついていなかった。

<藤乃 航>
一体どんな人物なのだろう。
俺はまだ見ぬ彼に思いを馳せていた。
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