ペントハウスでイケメンスパダリ紳士に甘やかされています

波木真帆

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魔法の手

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俺のアパートにそぐわない高級車が停まったせいか、なんとなく視線を感じる気がする。
けれど、涼平さんはなんの気にも留めていない様子だ。

「朝陽、どこに止めたらいい?」

「あっ、隣に空き地があるのでそこにお願いします」

「了解」

少し草が茂った中、汚れることなど気にもしていないのかなんの躊躇いもなく止める涼平さんに好感が持てる。
本当のお金持ちって細かいことを気にしない人が多いっていうけど、みんなこんな感じなんだろうか。

「小さな部屋で驚くかもしれませんけど……」

と部屋に案内すると、涼平さんは嬉しそうに

「いや、朝陽の匂いでいっぱいで感動するよ」

と少し変態チックな答えを返してきた。
それがちっとも嫌だとも思わない俺はきっともう涼平さんにすっかりまいってしまってるんだろうな。

「綺麗に使っていたんだな」

「はい。ここに住んで5年くらいですけど、それまで実家暮らしで初めて自分の城ができた気がして……」

「ああ。わかるよ、その気持ち。初めて一人暮らしした部屋はいつまでも忘れないからな」

「涼平さんもそうだったんですか?」

「ああ。私の場合は幼い時から両親は働き詰めで実家でもほとんど1人だったが、それでも高校を出て一人暮らしを始めた時は感動したもんだ。これで自分の力を試せると思ってね……」

「すごい、さすがですね」

「ふふっ。朝陽にそんな誉められると嬉しくなるな」


涼平さんはその後、部屋の中を一通り見て回ってどこかに電話をかけ始めた。

どうやら相手は浅香さんのようだ。
スピーカーにして俺にもやりとりを聞かせてくれている。

ーもしもし。

ーああ、東京に着いたのか?

ー今、朝陽のアパートに来てるんだが……

ーもう? ははっ。流石に早いな。

ーああ、善は急げって言うだろう。それで、早速荷物を運び出すんだが……そうだな、本が多いから、段ボールは20箱ぐらいになりそうだな。あと衣装ケースが3ケース。

ーそうか、わかった。すぐに業者を手配して段ボールを持ってこさせよう。
明日の昼には荷物は運び出せるぞ。

ーわかった、頼む。


「と言うわけだ」

にっこり笑ってるけど、いやいや、もう引っ越し??
いくらなんでも早すぎない??

「あの、不動産屋さんとか……そっちへの連絡もしないといけないし……今日明日にすぐ引っ越しっていうわけには……」

「ああ、大丈夫。もうそれは終わらせてるから、あとは荷物を運び出すだけだ」

「えっ?」

俺は驚きすぎてもはや言葉が続かなかった。
一体いつの間に?
俺が住んでるところとかいつ調べたんだろう?
ってか、もう手続きすら終わってるって……。
俺はもう涼平さんの手際の良さにびっくりしすぎて茫然としてしまった。

それからすぐにチャイムが押され、段ボールが山のように運び込まれた。

俺は涼平さんに尋ねられるがままにいるものといらないものを答えているうちに、驚くほどの手際の良さで俺の部屋のものは全て段ボールに梱包されていた。

「あとは明日運び出すだけだな。明日業者が来る時間に合わせてまた来よう」

「は、はい」

まだこれが現実だと思えないほど、ふわふわした気持ちで車へと戻ると、乗せてもらった時と同じように優しく助手席に乗せられた。

車が走り出して少し経ってから、

「……朝陽、怒っているか?」

と涼平さんにしては珍しい小さくおどおどした様子の声がかけられた。

「えっ? 怒ってないですよ」

「そうか? 朝陽の意見も聞かずに勝手に引っ越しの手配をして荷物まで梱包してしまったから、朝陽に嫌われたんじゃないかと思って……」

「あまりにもあっという間すぎて驚いただけです。
涼平さんと住むのは俺も楽しみにしてましたし……ただこんなにすぐにとは思ってなかったから、本当に驚いただけです」

「本当に?」

「はい。本当です。涼平さん、どうしたんですか? いつもの涼平さんっぽくないですよ」

「私はもう朝陽と離れていたくなくて、すぐにでも朝陽を私の元に留めておきたかったんだ。
ほんの少しでも朝陽を1人にしたら、私と住むのを断られそうで……」

叱られた犬のように悲しげな目つきでしょんぼりと俺を見る涼平さんの姿に母性? 本能がくすぐられる思いがする。
なんだ、これっ。
すっごく可愛いっ!

「ふふっ。大丈夫です。涼平さんの行動力に驚いちゃっただけです。
俺もこんなに早く涼平さんと住めることになって嬉しいですよ」

そう言うと涼平さんは満面の笑みを浮かべ、『そうか、そうか』と何度も嬉しそうに言っていた。

そのまま、涼平さんのおすすめのお店で食事をとってまたあのマンションへと戻ってきた。
夜になるとまた煌びやかな感じがして足がすくんでしまうけれど、ここが俺の新しい家なんだと言い聞かせてドキドキしながら涼平さんと共にエントランスに入った。

「彼は南條なんじょう朝陽あさひくんだ。今日から私の部屋に住むことになった。登録を頼む」

コンシェルジュさんにそう言うと、『こちらにお願いします』と何やら機械の上に手を置くように言われた。
その通りに手を置くと『登録しました』と機械的な声が聞こえた。

「登録が完了いたしました」

「ああ。ありがとう。彼は私の大切な人だからこれから頼むよ」

「はい。かしこまりました。南條さま、我々はいつでも24時間何にでもご対応いたします。何なりとお申し付けくださいませ」

「えっ、あ、はい。ありがとうございます」

なんとか笑顔で返すと、コンシェルジュさんの頬が少し赤くなった気がした。
なんか俺、おかしなこと言ったっけ?

『んっ?」
小首を傾げて涼平さんを見ると、少し眉を顰めていた涼平さんの頬も少し赤らんでいた。
一体、なんなんだろう?

「朝陽、行くぞ」

そのまま涼平さんに手を引かれ、エレベーターホールへとやってきた。

「朝陽が開けてごらん」

と促され、あのエレベータが開く壁に手をかざすと扉がサーっと開いた。
何度見てもこれは驚いてしまう。
だって、一見ただの壁のように見えてエレベーターが出てくるようには到底思えないんだもん。
なんだか絵本の中に出てくる魔法の扉を開けている気分だ。

「朝陽の手が鍵になっているからな」

俺は自分の右の手のひらを見つめながら、この手が俺の全ての運命を変えたのだと思うとなんだか感慨深いものを感じていた。
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