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我が家での楽しい時間
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<side一眞>
「お父さん、ただいま!」
満面の笑みを浮かべた一花が私の目を見てそう言ってくれる。
「――っ!! 一花っ!! ただいまと言ってくれるのか?」
「だって、ここは僕の実家、なんですよね?」
「ああ、そうだとも! ああ、一花。おかえり」
私がおかえりと告げると、一花に笑顔で見つめられる。
ああ、本当に一花が帰ってきてくれたんだ。
征哉くんに抱きかかえられた一花の腕には以前も連れてきてくれた、麻友子の作ったベビー服を着たぬいぐるみが見える。
ライオンの征哉くんも一緒だ。
「一花、またこの子たちを連れてきてくれたのか? 麻友子が喜ぶよ」
「あの……実は、このぬいぐるみたちをお父さんとお母さんにプレゼントしたいなって思って……」
「えっ? 私たちに、このぬいぐるみを? だが、いいのか? 一花と征哉くんのために作ってもらったんじゃないのか?」
「僕、このぬいぐるみたちはこの家に置いておいて欲しいなって思ったんです。だって、この子は小さな僕だから……」
「一花……」
一花の気持ちがこの上なく嬉しい。
この子は本当に心の綺麗な優しい子に育ってくれたものだ。
「それで、小さな僕の隣には征哉さんも一緒に置いて欲しいんです。いいですか?」
「ああ、もちろんだよ!! じゃあ、早速麻友子のところに連れて行こう」
私の案内に征哉くんが一花を抱きかかえてついてくる。
その動きにはなんの心配も感じられないし、一花も完全に全てを預けているようだ。
まぁ、医師としても、そして恋人としても一花のそばについていてくれるのだから、心配などする必要もないか。
父親としては少し寂しさもあるが、一花の幸せな姿を見られるのはいい。
麻友子の部屋に連れて行くと、一花がぬいぐるみを麻友子の仏壇に綺麗に並べてくれる。
「お母さん、これからはずっと一花と征哉さんが一緒だよ」
そのことにきっと麻友子が喜んでいる。
よかったな、ずっと抱っこしたかった小さな一花が戻ってきたぞ。
これからはずっと一緒だ。
――ふふっ。一眞さん、私……嬉しい。もうこれで寂しくないわ。
麻友子がそう言って笑っている気がする。
本当に私たちは幸せだ。
麻友子への挨拶を終え、リビングに案内すると、二階堂がすぐに飲み物を運んでくる。
一花には、征哉くんにあらかじめ聞いておいた、一花の好きな林檎ジュースだ。
私と征哉くんの前にはコーヒーを置くと、一花の前にだけ小さな焼き菓子の入った小皿を置いた。
「えっ、これ……」
「お食事前ですから、少しだけお持ちしました。奥さまがお好きだった、クッキーでございます」
「お母さんが、好きなもの……。ありがとうございます、二階堂さん」
「いえいえ。どうぞお召し上がりください」
一花はそれを手に取る前に、征哉くんにそっと視線を向けた。
征哉くんが頷くのを見ると、嬉しそうにその小さな焼き菓子に手を伸ばした。
一花の身体のことは征哉くんが一番よくわかっているという表れだな。
お菓子を食べすぎて、食事が入らないことがないようにいつも気遣ってあげているのだろう。
そして、一花は征哉くんのいうことをよく聞く。
これがこの数ヶ月で培った二人の過ごし方なのだろうな。
「んっ! 美味しいっ!!」
「ふふっ。喜び方が麻友子によく似ている。やはり親子なのだな」
「お母さんに似てますか?」
「ああ、そっくりだよ」
一花はそれが嬉しかったのか、噛み締めるようにクッキーを味わっていた。
「昼食までは部屋でゆっくり休むといい。昼食後は地下のシアターで一緒に映画を見よう」
「しあたー? えいが?」
一花は私の言った言葉が理解できないようだった。
今まで映画も見たことないだろうからそれも当然か。
なんと言ってわかりやすく伝えようかと考えていると、
「一花がいつも聴いているオーディオブックがあるだろう? あれは声だけで物語を聴かせてくれるが、映画はそれを人が演じて物語を見せてくれるのだよ。シアターはそれを映像として映す場所だ」
と征哉くんが説明してくれていた。
「わぁー、楽しそうです!」
「一花が好きそうなものをいくつか用意してみたのだが征哉くん、どれがいと思う?」
本当なら父として好みをわかっておくべきなのだろうが、ここは仕方がない。
なんせ、一花とこうした時間を過ごすのは初めてなのだから。
一花のために用意しておいた映画のラインナップを見せると、
「ああ、これならきっと一花も楽しめると思いますよ」
と教えてくれた。
「そうか、じゃあそれにしよう」
「ここにはシアターがあるのですね。素晴らしい」
「いや、君の家にもあるだろう?」
「私は音楽が好きなのでオーディオルームはあるのですが、今日一花が気にいるようなら我が家にも作りますよ」
「ふふっ。それがいい。のんびりと映画を楽しむ時間もいいぞ」
征哉くんとこんな話ができるようになるとはな。
一花がいてくれるだけで関係も大きく変わる。
「二階堂、一花を部屋に案内するぞ。部屋は整っているか?」
「はい。旦那さま」
「よし、じゃあ一花の部屋に行こう」
スッと一花を抱きかかえる征哉くんとともに、私たちはリビングを出た。
「お父さん、ただいま!」
満面の笑みを浮かべた一花が私の目を見てそう言ってくれる。
「――っ!! 一花っ!! ただいまと言ってくれるのか?」
「だって、ここは僕の実家、なんですよね?」
「ああ、そうだとも! ああ、一花。おかえり」
私がおかえりと告げると、一花に笑顔で見つめられる。
ああ、本当に一花が帰ってきてくれたんだ。
征哉くんに抱きかかえられた一花の腕には以前も連れてきてくれた、麻友子の作ったベビー服を着たぬいぐるみが見える。
ライオンの征哉くんも一緒だ。
「一花、またこの子たちを連れてきてくれたのか? 麻友子が喜ぶよ」
「あの……実は、このぬいぐるみたちをお父さんとお母さんにプレゼントしたいなって思って……」
「えっ? 私たちに、このぬいぐるみを? だが、いいのか? 一花と征哉くんのために作ってもらったんじゃないのか?」
「僕、このぬいぐるみたちはこの家に置いておいて欲しいなって思ったんです。だって、この子は小さな僕だから……」
「一花……」
一花の気持ちがこの上なく嬉しい。
この子は本当に心の綺麗な優しい子に育ってくれたものだ。
「それで、小さな僕の隣には征哉さんも一緒に置いて欲しいんです。いいですか?」
「ああ、もちろんだよ!! じゃあ、早速麻友子のところに連れて行こう」
私の案内に征哉くんが一花を抱きかかえてついてくる。
その動きにはなんの心配も感じられないし、一花も完全に全てを預けているようだ。
まぁ、医師としても、そして恋人としても一花のそばについていてくれるのだから、心配などする必要もないか。
父親としては少し寂しさもあるが、一花の幸せな姿を見られるのはいい。
麻友子の部屋に連れて行くと、一花がぬいぐるみを麻友子の仏壇に綺麗に並べてくれる。
「お母さん、これからはずっと一花と征哉さんが一緒だよ」
そのことにきっと麻友子が喜んでいる。
よかったな、ずっと抱っこしたかった小さな一花が戻ってきたぞ。
これからはずっと一緒だ。
――ふふっ。一眞さん、私……嬉しい。もうこれで寂しくないわ。
麻友子がそう言って笑っている気がする。
本当に私たちは幸せだ。
麻友子への挨拶を終え、リビングに案内すると、二階堂がすぐに飲み物を運んでくる。
一花には、征哉くんにあらかじめ聞いておいた、一花の好きな林檎ジュースだ。
私と征哉くんの前にはコーヒーを置くと、一花の前にだけ小さな焼き菓子の入った小皿を置いた。
「えっ、これ……」
「お食事前ですから、少しだけお持ちしました。奥さまがお好きだった、クッキーでございます」
「お母さんが、好きなもの……。ありがとうございます、二階堂さん」
「いえいえ。どうぞお召し上がりください」
一花はそれを手に取る前に、征哉くんにそっと視線を向けた。
征哉くんが頷くのを見ると、嬉しそうにその小さな焼き菓子に手を伸ばした。
一花の身体のことは征哉くんが一番よくわかっているという表れだな。
お菓子を食べすぎて、食事が入らないことがないようにいつも気遣ってあげているのだろう。
そして、一花は征哉くんのいうことをよく聞く。
これがこの数ヶ月で培った二人の過ごし方なのだろうな。
「んっ! 美味しいっ!!」
「ふふっ。喜び方が麻友子によく似ている。やはり親子なのだな」
「お母さんに似てますか?」
「ああ、そっくりだよ」
一花はそれが嬉しかったのか、噛み締めるようにクッキーを味わっていた。
「昼食までは部屋でゆっくり休むといい。昼食後は地下のシアターで一緒に映画を見よう」
「しあたー? えいが?」
一花は私の言った言葉が理解できないようだった。
今まで映画も見たことないだろうからそれも当然か。
なんと言ってわかりやすく伝えようかと考えていると、
「一花がいつも聴いているオーディオブックがあるだろう? あれは声だけで物語を聴かせてくれるが、映画はそれを人が演じて物語を見せてくれるのだよ。シアターはそれを映像として映す場所だ」
と征哉くんが説明してくれていた。
「わぁー、楽しそうです!」
「一花が好きそうなものをいくつか用意してみたのだが征哉くん、どれがいと思う?」
本当なら父として好みをわかっておくべきなのだろうが、ここは仕方がない。
なんせ、一花とこうした時間を過ごすのは初めてなのだから。
一花のために用意しておいた映画のラインナップを見せると、
「ああ、これならきっと一花も楽しめると思いますよ」
と教えてくれた。
「そうか、じゃあそれにしよう」
「ここにはシアターがあるのですね。素晴らしい」
「いや、君の家にもあるだろう?」
「私は音楽が好きなのでオーディオルームはあるのですが、今日一花が気にいるようなら我が家にも作りますよ」
「ふふっ。それがいい。のんびりと映画を楽しむ時間もいいぞ」
征哉くんとこんな話ができるようになるとはな。
一花がいてくれるだけで関係も大きく変わる。
「二階堂、一花を部屋に案内するぞ。部屋は整っているか?」
「はい。旦那さま」
「よし、じゃあ一花の部屋に行こう」
スッと一花を抱きかかえる征哉くんとともに、私たちはリビングを出た。
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