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心から好きな相手とだけ……

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「一花、ただいま」

「あっ、お帰りなさい」

「母さんも、ただいま」

「ふふっ。お帰りなさい」

まず先に一花に挨拶をしても、母は喜ぶだけだな。
うちは嫁姑問題など永遠に訪れそうにない。

「編み物をしていたのか? ずいぶん進んだな」

「はい。今日は急遽リハビリが早く終わって、尚孝さんが志摩さんと帰られたので、未知子お母さんに編み物の続きを教えてもらいながら一緒にしてました。みてください、もうすぐ完成ですよ!!」

マフラーは一般的に身長より+10cm程度だと言われているから、一花の編んでいるマフラーはもう一花よりもずいぶんと長くなっている。

それにしても初心者だというのに、かなり凝った編み方をしている。
プロ級の腕前を持つ母がつきっきりで教えているからかもしれないが、それでもかなり難しいのにうまくできている。
一花にはこうしてじっくりと時間をかけてやる作業が性に合っているのかもしれない。

温泉旅行に出掛けていたり、リハビリの時間が増えたりでここ最近は編み物をする時間がなかったようだから、今日は編み物をする時間ができて、一花も喜んでいるようだ。

志摩くんも今頃は愛しい恋人と甘く幸せな時間を過ごしていることだろう。
突然の早退だったが、双方にとっていい結果となったようだな。

これで明日志摩くんが今日の分まで頑張ってくれるなら何も問題はない。

「じゃあ、征哉も帰ってきたし、今日の編み物はこの辺にしておきましょうか。征哉、夕食にする?」

「少し一花と話があるからその後にしよう」

「わかったわ。それなら30分後に夕食にできるように話をしてくるわ」

そう言って母が部屋から出て行った。

「一花、大事な話があるんだ。あっ、一花にとって良いことだよ」

大事な話と聞いて一瞬顔を強張らせたのに気づいて、急いで言葉を付け足すと一花はホッとした表情を見せた。

なかなか昔のトラウマは拭えないようだ。
私が決して一花と離れたりすることがないということを毎日じっくりと教え込むしかないようだな。

「浅香さんから連絡があってね、浅香さんのホテルにスイーツを食べに来ないかと誘いを受けたんだ」

「えっ? 浅香さんのホテルって……この前のマンゴータルトの?」

「ああ、そうだよ。一花がすごく気に入っていると話したら、今度は宅配ではなくホテルで出来上がったばかりのものを食べてほしいと仰ってね、だから、今度の土曜日に行くことになった」

「土曜日? わぁー! 嬉しいです!!」

「ふふっ。ねっ、一花にとって良いことだっただろう?」

「はい。木曜日はお父さんと、麻友子お母さんのお墓参りに行けるし、土曜日は浅香さんのホテルでケーキが食べられるなんて!! 嬉しいことばっかりです」

よほど嬉しいのだろう。目をキラキラと輝かせているのが実に可愛い。

「体調を崩すとどちらもいけなくなるから、しばらくは無理はしないように。編み物もしっかりと休憩をとりながらするんだぞ」

「はい! わかりました」

一花は本当に素直だな。

そういえば、あのキスで悩んでいると言っていたか……。
息が苦しいからやり方を谷垣くんに聞くなんて。
でもそれくらい、私とのフレンチキスが気に入ってくれたということなのだろう。

あの映像を見ていたとは言えないから、一花の方から尋ねてきてくれるようにしないといけないな。

「一花……」

そっと顔を近づけて重ねるだけのキスをした。

「愛しているよ……」

甘い言葉を囁いて、もう一度唇を重ねようとすると、

「あ、あの……征哉さん……」

と一花の小さな声が耳に届いた。

「どうした?」

「あの……僕……征哉さんと……その、深いキス、がしたくて……」

「うん、一花がしたいと思ってくれて嬉しいよ」

「あの、でも……息が苦しくなって……それで、やり方を、教えてほしいなって……」

「一花はあのキスが気に入ったのか?」

そう尋ねると、頬を真っ赤に染めながら頷いてみせた。
ああ、もう本当に可愛いな。

「征哉さんの、舌に絡みつかれると……身体の奥がきゅってなって、気持ちいいから……」

「一花……嬉しいよ」

ギュッと抱きしめると、

「征哉さんは、嬉しいですか?」

と尋ねられる。

「ああ、キスをして気持ちがいいと思えるのは心から好きになった相手だけだからな。一花が私のことを好きだと思ってくれているということだろう?」

「はい。僕……征哉さんが大好きです……」

ああ、もうこの子は……。
惜しみない愛を全身で表してくれるのだな。

「私も、一花が大好きだ。愛しているよ」

チュッと重ねるだけのキスをする。

「えっ……」

「ふふっ。心配しないでいい。もうすぐ夕食だから、お風呂に入って夜寝るときにたっぷりとキスの仕方を教えてあげよう」

「わぁーっ、嬉しいっ!!」

無邪気に笑顔を見せる一花を見て、多分キスだけに終わりそうにないことを私は予感していた。
そしてそれは現実のものとなるのだった。
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