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母の優しさ
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「じゃあ、何かあれば連絡してくれ」
「はい。承知しました」
後のことを志摩くんに任せて、洋菓子店に向かう。
ひかるにお土産のプリンを買っていきたいと話をしたら、志摩くんがここを勧めてくれた。
甘いもの好きな彼のおすすめなら間違いはないだろう。
なんといってもここはプリン専門店。
ひかると出会わずにいたら一生入ることはなかっただろう店だが、専門店というだけあって私の前に数人並んでいたが品揃えは多く、ゆっくりと選べそうだ。
ショーケースの中にはいろいろなプリンが並んでいる。
小さな瓶の中に入ったトロトロとした柔らかそうなプリン。
そして、昔ながらのと書かれているのは、先日シェフが作ってくれたようなあの硬めのプリンだろう。
スポンジケーキの上にプリンやフルーツが載っているプリンアラモードもひかるは好きそうだ。
牛乳プリンや黒糖プリンなんてものもある。
どれにしようかと悩んだが、いろんな味を食べ比べるのも楽しいかもしれない。
気に入ればまた買いに来たらいい。
とりあえず今日は柔らかいプリンと硬めのプリンそしてプリンアラモードを母の分と2個ずつ買うことにした。
せっかくなら全種類買ってやりたいが、ひかるはまだそこまでたくさん食べられないだろうからな。
自宅に帰り、プリンの入った箱を持ったままひかるがいる部屋に向かうと、ひかるは気持ちよさそうに眠っていた。
「今頃寝てるのか?」
「ええ。今日はお客さんが来るでしょう? だから少し早めに昼食をとらせて寝かせたの。寝ることはひかるくんの身体にとって重要だからね」
「ああ、そうだな。だがちょっとがっかりしたな」
「えっ? 何かあったの?」
「いや、プリンを買ってきたんだ。ひかるの喜ぶ顔が見られると思って帰ってきたから……」
「ふふっ。あなたもすっかり変わったわね」
母が面白いものでも見たように私に笑いかける。
「何が?」
「わからない? あなたがこんなに感情を表すことなんてなかったでしょう? 玄哉さんが亡くなってからは特にね。でもここ最近はあなたのいろんな表情を見られて嬉しいのよ」
「ああ、志摩くんにも同じようなことを言われたよ。ひかると出会ってから私に感情が見えるようになったって」
「あら、さすが志摩さんね。あなたのことをよく見てくれているわ。もういい加減、自分でもわかっているんでしょう?」
そう言われてドキッとする。
母は私の気持ちに気づいているんだ。
なら、隠し通すなんてできるはずがないな。
「母さんには敵わないな。ああ、わかってるよ。自分でも認識した。私にとってひかるが大事な存在だって……」
「よかったわ。あなたにそんな相手ができて」
ひかるがまだ成人になったばかりの一回り以上も年下で、しかも男だってことを気にするようなそぶりも全く見せず、心から喜んでくれているような母の笑顔に救われる。
「母さんはそれでいいのか? そもそもひかるに私の思いが伝わるかもわからないし、もしうまくいったとしても子どもは一生望めないぞ」
「ふふっ。親はね、子どもが幸せになってくれることが嬉しいのよ。あなたが会社のために好きでもない人と結婚して子どもを作ってもそれは幸せではないでしょう? 玄哉さんだってきっと同じことを言うはずよ。私は征哉が本気で好きになれる人ができただけで幸せよ。たとえそれが報われなくてもこの気持ちは無駄なことではないわ」
「母さん……」
「今はまだひかるくんは自分の置かれた環境に馴染むことに必死で、あなたに対する思いはもちろん、恋愛なんてことを考えられないかもしれないけど、それでも変わらずそばにいてやれる自信がある?」
「ああ、それはもちろん!」
「なら、私は何も言わないわ。私は中立的な立場で見守らせてもらうから」
「母さん、ありがとう」
「ふふっ。今の笑顔を玄哉さんに見せてあげたいわ。ひかるくん、もう少ししたら起きるはずだから、それまでついててあげて」
そう言うと、母は部屋を出て行った。
部屋の中にある冷蔵庫にプリンをしまい、私はジャケットを脱いでひかるの横に体を滑らせ、ひかるの首の下にそっと腕を差し込んだ。
するとすぐにひかるが私の方に顔を向けたと思ったら、嬉しそうに微笑む。
夢の中でも私を認識してくれているのか。
ああ、本当に愛おしい。
しばらくひかるの寝顔を堪能していると、ゆっくりとひかるの瞼が開いていく。
「ふふっ。ひかる、おはよう」
「んっ……せい、やさん……?」
まだ寝ぼけているようだ。
私がなぜいるのかわかっていないのだろうな。
そんなところも可愛い。
「ああ、私だ。よく眠っていたな」
「あれ、どうして?」
「昼に帰ってくると言ったろう? プリンも買ってきたよ」
「ぷ、りん……あっ!!」
「ふふっ。私よりプリンを待っていたか?」
「ちが――っ!」
「冗談だよ。食べられるなら、プリンを食べようか?」
恥ずかしそうに小さく頷くひかるを一度ギュッと抱きしめてから、冷蔵庫にプリンの箱を取りに行く。
そして三種類のプリンを並べて説明してあげると、ひかるは笑顔で悩み始めた。
ひかるが選んだのは小さな瓶に入ったトロトロとした柔らかめのプリン。
それを小さなスプーンで掬って口に運ぶと、目を丸くして驚いた。
「わぁー! これ、すっごく美味しいです。あっという間に消えてっちゃうから勿体ないですね」
「ははっ。大丈夫、気に入ったならまたいつでも買ってきてあげるよ」
ひかるが喜ぶなら何度でも食べさせるよ。
ああ、ひかるの笑顔が見られて幸せだな。
そうこうしている間にあっという間に約束の時間。
「旦那さま。上田先生とお連れさまがお越しになりました」
「ああ、通してくれ」
私の言葉にひかるの身体が少し震える。
「大丈夫か?」
「あ、大丈夫です……」
ひかるを轢いた運転手がトラウマになっているかと思ったが、ひかるは感謝しているとさえ言っていた。
今身体が震えているのはきっと、いつも大人に大声で恫喝されていたから知らない大人に会うことに緊張しているのかもしれない。
「心配しなくていい。私がそばについているから」
そう言うと、ひかるがホッとしたように見えて私も安堵した。
「はい。承知しました」
後のことを志摩くんに任せて、洋菓子店に向かう。
ひかるにお土産のプリンを買っていきたいと話をしたら、志摩くんがここを勧めてくれた。
甘いもの好きな彼のおすすめなら間違いはないだろう。
なんといってもここはプリン専門店。
ひかると出会わずにいたら一生入ることはなかっただろう店だが、専門店というだけあって私の前に数人並んでいたが品揃えは多く、ゆっくりと選べそうだ。
ショーケースの中にはいろいろなプリンが並んでいる。
小さな瓶の中に入ったトロトロとした柔らかそうなプリン。
そして、昔ながらのと書かれているのは、先日シェフが作ってくれたようなあの硬めのプリンだろう。
スポンジケーキの上にプリンやフルーツが載っているプリンアラモードもひかるは好きそうだ。
牛乳プリンや黒糖プリンなんてものもある。
どれにしようかと悩んだが、いろんな味を食べ比べるのも楽しいかもしれない。
気に入ればまた買いに来たらいい。
とりあえず今日は柔らかいプリンと硬めのプリンそしてプリンアラモードを母の分と2個ずつ買うことにした。
せっかくなら全種類買ってやりたいが、ひかるはまだそこまでたくさん食べられないだろうからな。
自宅に帰り、プリンの入った箱を持ったままひかるがいる部屋に向かうと、ひかるは気持ちよさそうに眠っていた。
「今頃寝てるのか?」
「ええ。今日はお客さんが来るでしょう? だから少し早めに昼食をとらせて寝かせたの。寝ることはひかるくんの身体にとって重要だからね」
「ああ、そうだな。だがちょっとがっかりしたな」
「えっ? 何かあったの?」
「いや、プリンを買ってきたんだ。ひかるの喜ぶ顔が見られると思って帰ってきたから……」
「ふふっ。あなたもすっかり変わったわね」
母が面白いものでも見たように私に笑いかける。
「何が?」
「わからない? あなたがこんなに感情を表すことなんてなかったでしょう? 玄哉さんが亡くなってからは特にね。でもここ最近はあなたのいろんな表情を見られて嬉しいのよ」
「ああ、志摩くんにも同じようなことを言われたよ。ひかると出会ってから私に感情が見えるようになったって」
「あら、さすが志摩さんね。あなたのことをよく見てくれているわ。もういい加減、自分でもわかっているんでしょう?」
そう言われてドキッとする。
母は私の気持ちに気づいているんだ。
なら、隠し通すなんてできるはずがないな。
「母さんには敵わないな。ああ、わかってるよ。自分でも認識した。私にとってひかるが大事な存在だって……」
「よかったわ。あなたにそんな相手ができて」
ひかるがまだ成人になったばかりの一回り以上も年下で、しかも男だってことを気にするようなそぶりも全く見せず、心から喜んでくれているような母の笑顔に救われる。
「母さんはそれでいいのか? そもそもひかるに私の思いが伝わるかもわからないし、もしうまくいったとしても子どもは一生望めないぞ」
「ふふっ。親はね、子どもが幸せになってくれることが嬉しいのよ。あなたが会社のために好きでもない人と結婚して子どもを作ってもそれは幸せではないでしょう? 玄哉さんだってきっと同じことを言うはずよ。私は征哉が本気で好きになれる人ができただけで幸せよ。たとえそれが報われなくてもこの気持ちは無駄なことではないわ」
「母さん……」
「今はまだひかるくんは自分の置かれた環境に馴染むことに必死で、あなたに対する思いはもちろん、恋愛なんてことを考えられないかもしれないけど、それでも変わらずそばにいてやれる自信がある?」
「ああ、それはもちろん!」
「なら、私は何も言わないわ。私は中立的な立場で見守らせてもらうから」
「母さん、ありがとう」
「ふふっ。今の笑顔を玄哉さんに見せてあげたいわ。ひかるくん、もう少ししたら起きるはずだから、それまでついててあげて」
そう言うと、母は部屋を出て行った。
部屋の中にある冷蔵庫にプリンをしまい、私はジャケットを脱いでひかるの横に体を滑らせ、ひかるの首の下にそっと腕を差し込んだ。
するとすぐにひかるが私の方に顔を向けたと思ったら、嬉しそうに微笑む。
夢の中でも私を認識してくれているのか。
ああ、本当に愛おしい。
しばらくひかるの寝顔を堪能していると、ゆっくりとひかるの瞼が開いていく。
「ふふっ。ひかる、おはよう」
「んっ……せい、やさん……?」
まだ寝ぼけているようだ。
私がなぜいるのかわかっていないのだろうな。
そんなところも可愛い。
「ああ、私だ。よく眠っていたな」
「あれ、どうして?」
「昼に帰ってくると言ったろう? プリンも買ってきたよ」
「ぷ、りん……あっ!!」
「ふふっ。私よりプリンを待っていたか?」
「ちが――っ!」
「冗談だよ。食べられるなら、プリンを食べようか?」
恥ずかしそうに小さく頷くひかるを一度ギュッと抱きしめてから、冷蔵庫にプリンの箱を取りに行く。
そして三種類のプリンを並べて説明してあげると、ひかるは笑顔で悩み始めた。
ひかるが選んだのは小さな瓶に入ったトロトロとした柔らかめのプリン。
それを小さなスプーンで掬って口に運ぶと、目を丸くして驚いた。
「わぁー! これ、すっごく美味しいです。あっという間に消えてっちゃうから勿体ないですね」
「ははっ。大丈夫、気に入ったならまたいつでも買ってきてあげるよ」
ひかるが喜ぶなら何度でも食べさせるよ。
ああ、ひかるの笑顔が見られて幸せだな。
そうこうしている間にあっという間に約束の時間。
「旦那さま。上田先生とお連れさまがお越しになりました」
「ああ、通してくれ」
私の言葉にひかるの身体が少し震える。
「大丈夫か?」
「あ、大丈夫です……」
ひかるを轢いた運転手がトラウマになっているかと思ったが、ひかるは感謝しているとさえ言っていた。
今身体が震えているのはきっと、いつも大人に大声で恫喝されていたから知らない大人に会うことに緊張しているのかもしれない。
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