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奴らを絶対に許さない!
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<side征哉>
「一体どういう風の吹き回しですか? さっきとあまりにも対応が違いますね」
「はぁ? 何言ってるんだかわかんねぇな。良いからさっさと息子を出せよ! こっちは大事な話があるんだよ!」
「大事な話とは何ですか?」
「そんなことお前に関係ないだろうが! 良いからさっさと息子をよこせよ!」
顔を真っ赤にして榎木先生を怒鳴りつけているが、まぁ無理もない。
奴らにとっては一分一秒も惜しいだろうからな。
こんなに大急ぎで駆けつけてきたところを見ると、かなりの金額を提示されたか。
「ははっ。必死ですね」
奴の前に笑って出てやると、奴は私をギロリと睨んだ。
「なんだ、お前は? 勝手に話に割り込んでくるなよ!」
「おおかた、事故の加害者の勤め先から連絡が来たのでしょう? 彼を轢いたのは大手企業の社長の息子さんでしたからね。多額の示談金の申し出がありましたか?」
「な――っ、お、お前には関係ないだろ!」
図星だな。
彼を轢いた運転手は私の取引先の一つである中小企業の社長の息子。
本来は営業マンだが、体調不良により運転手が数人休んでしまい、急遽彼がトラックを運転することになったらしい。
免許を持っているとはいえ、大型トラックの運転に慣れない彼は死角にいた母とひかるくんを見逃してしまい、轢いてしまったというのが真相のようだ。
警察がようやくひかるくんの身元を割り出し、双方に事故の詳細を知らせたのだろう。
運転手の父である社長は、ひかるくんのことはともかく、私の母を事故に巻き込んだ事を知り、焦った。
しかも、母が被害者であるひかるくんをかなり心配していたことを知り、ひかるくんにしっかりとした賠償をしておいた方が私にとっても心証がいいと考えたに違いない。
まぁ、それもそのはず。
警察には加害者の会社や家族に連絡するときには、母がどれだけひかるくんを心配しているかを知らせるようにと頼んでおいたからな。
きっと社長はひかるくんが私や母とかなり親しい間柄であると考えたに違いない。
私の思惑通りに社長は奴らの元に連絡を入れ、事故の慰謝料を相場よりもかなり多く上乗せして示談金を提示したのだろう。
ここで困ったのは奴らだ。
なんせ、ひかるくんをすでに追い出してしまったのだから。
このままでは彼を手元に置いておけば入ってくるはずの多額の示談金が手に入らないと焦ったのだろう。
ひかるくんに大事な話と言っていたから、おそらく恫喝でもして養子縁組の書類に判でも押させるつもりか。
流石にすでに成人しているひかるくんの書類を勝手に偽造するわけにはいかないからな。
こんなことになって幸いと言ってはいけないが、ひかるくんがすでに成人で、しかも奴らと養子縁組をしていなくて本当に良かった。
「関係ない? いやいや、あなた方の方が関係ないでしょう? 彼とは全くの他人なのですから」
「なんだと? 俺たちは息子を引き取って大切に育ててきたんだ。他人なわけないだろうが!」
「おかしいですね、あなた方は彼を籍にも入れていないと仰っていたのでしょう? 先生、そうですよね」
「ええ、確かにそう仰ってましたね。戸籍なんかに入れるわけない、ただの労働力だから怪我しても関係ない、とね」
「そ、そんなこと言うわけないだろ! あんた、そんな嘘つくなんて頭おかしいんじゃないか?」
「ははっ。頭がおかしいのはそちらでしょう。ここは病院ですが、あなたの頭を治すのは難しいでしょうね」
「なんだと?! こっちが大人しくしてればいい気になりやがって! そんなこと言うなら、証拠出してみろよ!! 出来ねぇくせに嘘ばっかり吐いてんじゃねぇぞ!!」
そう言われて、先生は上着のポケットからそっと小さなボイスレコーダーを取り出した。
――もともと養子にもしてないよ。あんなやつ、うちの戸籍に入れるわけないだろ! ただの労働力としておいてやってただけだ。そんな奴が怪我しようがどうってことないんだよ。もう成人してるんだし、そっちで勝手にやってくれ! もう二度と電話してくんなよ!! 迷惑なんだよ!!!
「これはあなたの声ですよね、はっきり戸籍に入れてないと仰ってますが」
「な――っ、こ、こんなの捏造だ! そもそも俺の声だって明確な証拠だってないだろうが! 俺を嵌めようとしてもそうはいかないんだからな!」
「ふっ。本当に何も考えてないんですね。もちろん、動画も撮っているに決まっているでしょう? 特別室には念のためにカメラをつけているんですよ」
榎木先生の言葉に奴はがっくりと項垂れた。
「カ、カメラ……嘘、だろ……」
「残念でしたね。これであなた方がどれだけ主張しても、事故の示談金を手に入れることはないですね」
「くそっ!」
「ああ、それからもう一つ教えてあげましょうか。彼には示談金だけじゃなく、素晴らしい保護者がついたんですよ」
「保護者、だと?」
「ええ。彼が誰かを庇って事故に遭ったことを警察から聞きましたか?」
「ああ、ババアを庇って怪我したってな。それがなんだよ!」
「彼が庇ったのは、貴船コンツェルンの前会長の妻なんですよ」
「はぁ? き、貴船コンツェルン? まさか……」
「ええ、彼女が彼の新しい保護者になったんです。もう彼はあなた方とは違う世界の人間になったんです。ですから、二度と会うこともないでしょうね」
そう言ってやると、奴はさっきまでの勢いが嘘のようにがっくりと膝から崩れ落ちた。
「――っ!!! なんてことだ!! いや、ちょっと待てよ! 俺は戸籍には入れてなくてもずっとあいつを養ってやってたんだ! あいつだって俺に感謝しているはずなんだよ! だから、俺にだって少しくらい恩恵があっていいはずだろう! あいつばっかり、いい思いしやがってふざけんなよ!」
「はぁ? 何を言い出すかと思えば、恩恵? お前の方こそふざけたことを言うな!」
「ひぃ――っ!」
「彼に十分な食事も与えず、睡眠も取らさず、超過労働をさせた上に一銭の給料も与えない。それのどこが養っているって言うんだ!」
奴の暴言に腑が煮え繰り返るほど苛立ち、感情を抑えられなかった。
あんな骨と皮になってでも必死に生きてきたような彼を見て、何も思わなかった非道な奴め!
しかもこれから先歩けるかどうかもわからない彼が、いい思いをしているだと?
この暴言の数々を私は絶対に許さないからな!
「一体どういう風の吹き回しですか? さっきとあまりにも対応が違いますね」
「はぁ? 何言ってるんだかわかんねぇな。良いからさっさと息子を出せよ! こっちは大事な話があるんだよ!」
「大事な話とは何ですか?」
「そんなことお前に関係ないだろうが! 良いからさっさと息子をよこせよ!」
顔を真っ赤にして榎木先生を怒鳴りつけているが、まぁ無理もない。
奴らにとっては一分一秒も惜しいだろうからな。
こんなに大急ぎで駆けつけてきたところを見ると、かなりの金額を提示されたか。
「ははっ。必死ですね」
奴の前に笑って出てやると、奴は私をギロリと睨んだ。
「なんだ、お前は? 勝手に話に割り込んでくるなよ!」
「おおかた、事故の加害者の勤め先から連絡が来たのでしょう? 彼を轢いたのは大手企業の社長の息子さんでしたからね。多額の示談金の申し出がありましたか?」
「な――っ、お、お前には関係ないだろ!」
図星だな。
彼を轢いた運転手は私の取引先の一つである中小企業の社長の息子。
本来は営業マンだが、体調不良により運転手が数人休んでしまい、急遽彼がトラックを運転することになったらしい。
免許を持っているとはいえ、大型トラックの運転に慣れない彼は死角にいた母とひかるくんを見逃してしまい、轢いてしまったというのが真相のようだ。
警察がようやくひかるくんの身元を割り出し、双方に事故の詳細を知らせたのだろう。
運転手の父である社長は、ひかるくんのことはともかく、私の母を事故に巻き込んだ事を知り、焦った。
しかも、母が被害者であるひかるくんをかなり心配していたことを知り、ひかるくんにしっかりとした賠償をしておいた方が私にとっても心証がいいと考えたに違いない。
まぁ、それもそのはず。
警察には加害者の会社や家族に連絡するときには、母がどれだけひかるくんを心配しているかを知らせるようにと頼んでおいたからな。
きっと社長はひかるくんが私や母とかなり親しい間柄であると考えたに違いない。
私の思惑通りに社長は奴らの元に連絡を入れ、事故の慰謝料を相場よりもかなり多く上乗せして示談金を提示したのだろう。
ここで困ったのは奴らだ。
なんせ、ひかるくんをすでに追い出してしまったのだから。
このままでは彼を手元に置いておけば入ってくるはずの多額の示談金が手に入らないと焦ったのだろう。
ひかるくんに大事な話と言っていたから、おそらく恫喝でもして養子縁組の書類に判でも押させるつもりか。
流石にすでに成人しているひかるくんの書類を勝手に偽造するわけにはいかないからな。
こんなことになって幸いと言ってはいけないが、ひかるくんがすでに成人で、しかも奴らと養子縁組をしていなくて本当に良かった。
「関係ない? いやいや、あなた方の方が関係ないでしょう? 彼とは全くの他人なのですから」
「なんだと? 俺たちは息子を引き取って大切に育ててきたんだ。他人なわけないだろうが!」
「おかしいですね、あなた方は彼を籍にも入れていないと仰っていたのでしょう? 先生、そうですよね」
「ええ、確かにそう仰ってましたね。戸籍なんかに入れるわけない、ただの労働力だから怪我しても関係ない、とね」
「そ、そんなこと言うわけないだろ! あんた、そんな嘘つくなんて頭おかしいんじゃないか?」
「ははっ。頭がおかしいのはそちらでしょう。ここは病院ですが、あなたの頭を治すのは難しいでしょうね」
「なんだと?! こっちが大人しくしてればいい気になりやがって! そんなこと言うなら、証拠出してみろよ!! 出来ねぇくせに嘘ばっかり吐いてんじゃねぇぞ!!」
そう言われて、先生は上着のポケットからそっと小さなボイスレコーダーを取り出した。
――もともと養子にもしてないよ。あんなやつ、うちの戸籍に入れるわけないだろ! ただの労働力としておいてやってただけだ。そんな奴が怪我しようがどうってことないんだよ。もう成人してるんだし、そっちで勝手にやってくれ! もう二度と電話してくんなよ!! 迷惑なんだよ!!!
「これはあなたの声ですよね、はっきり戸籍に入れてないと仰ってますが」
「な――っ、こ、こんなの捏造だ! そもそも俺の声だって明確な証拠だってないだろうが! 俺を嵌めようとしてもそうはいかないんだからな!」
「ふっ。本当に何も考えてないんですね。もちろん、動画も撮っているに決まっているでしょう? 特別室には念のためにカメラをつけているんですよ」
榎木先生の言葉に奴はがっくりと項垂れた。
「カ、カメラ……嘘、だろ……」
「残念でしたね。これであなた方がどれだけ主張しても、事故の示談金を手に入れることはないですね」
「くそっ!」
「ああ、それからもう一つ教えてあげましょうか。彼には示談金だけじゃなく、素晴らしい保護者がついたんですよ」
「保護者、だと?」
「ええ。彼が誰かを庇って事故に遭ったことを警察から聞きましたか?」
「ああ、ババアを庇って怪我したってな。それがなんだよ!」
「彼が庇ったのは、貴船コンツェルンの前会長の妻なんですよ」
「はぁ? き、貴船コンツェルン? まさか……」
「ええ、彼女が彼の新しい保護者になったんです。もう彼はあなた方とは違う世界の人間になったんです。ですから、二度と会うこともないでしょうね」
そう言ってやると、奴はさっきまでの勢いが嘘のようにがっくりと膝から崩れ落ちた。
「――っ!!! なんてことだ!! いや、ちょっと待てよ! 俺は戸籍には入れてなくてもずっとあいつを養ってやってたんだ! あいつだって俺に感謝しているはずなんだよ! だから、俺にだって少しくらい恩恵があっていいはずだろう! あいつばっかり、いい思いしやがってふざけんなよ!」
「はぁ? 何を言い出すかと思えば、恩恵? お前の方こそふざけたことを言うな!」
「ひぃ――っ!」
「彼に十分な食事も与えず、睡眠も取らさず、超過労働をさせた上に一銭の給料も与えない。それのどこが養っているって言うんだ!」
奴の暴言に腑が煮え繰り返るほど苛立ち、感情を抑えられなかった。
あんな骨と皮になってでも必死に生きてきたような彼を見て、何も思わなかった非道な奴め!
しかもこれから先歩けるかどうかもわからない彼が、いい思いをしているだと?
この暴言の数々を私は絶対に許さないからな!
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