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私が守ってみせる!
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<side征哉>
何だろう、この気持ち。
まさか、私は彼に……?
そんなこと、あるはずない。
だって、彼はまだ中学生か、高校生。
こんな幼い彼にそんな思いを抱いてはいけないのに。
けれど、どうしても目が離せない。
少しだけ……。
少し触れるだけなら許してもらえるだろうか。
そっと手を伸ばし、彼の頬に触れる。
この年代ならもっとふくよかな膨らみがあってもいいのに、彼はすぐに頬骨に触れてしまう。
こんなに痩せているなんて……どれほど食事を与えられていないのか。
彼の置かれた環境を想像するだけで心が痛くなる。
「う、ん……っ」
「――っ!!」
まずい、起こしてしまう。
慌てて触れていた頬から手を離すと、
「ご、めん……な、さい…‥」
と涙を流す。
ああ、この子は一体……どんな辛い思いをしてきたのか。
彼を助けてやりたい。
そんな感情が湧き上がるのに時間は掛からなかった。
このまま一人にするのは心配だったが、この様子ならしばらく起きそうにない。
その前に榎木先生のところに話を聞きに行った方がいいか。
そう思い、後ろ髪をひかれつつも病室を離れた。
榎木先生から彼の養父母、いや戸籍に入れていないのだから他人か……そいつらとの電話のやり取りを聞いたが、本当に彼を労働力としか見ていないのがすぐにわかった。
使えなくなったらすぐにお払い箱というわけか。
だが、他人だというのなら何の問題もない。
徹底的にやっつけて二度と彼に近づけないようにしてやろう。
「母さん、家まで送るよ」
「大丈夫。タクシーで戻るわ。それよりも征哉はひかるくんのことを早く進めてちょうだい」
「ああ、わかった。ありがとう」
ふっと優しい笑みをむけてくれたのを見て、もしかしたら母さんは私がこんなにも彼のために動いている理由に気づいているのかもしれないと思ったが、彼への思いが同情なのか、恋愛の情なのか自分でもまだよくわかっていない。
今はただ、彼を助けるだけだ。
母さんをタクシーに乗せ、もう一度榎木先生の元に向かった。
「ああ、征哉さん。先ほどお話しした情報はたった今全てお送りしましたよ」
「ああ、ありがとう。ここから先は彼の主治医としての見解を伺いたいのだが……」
「はい。どうぞ」
「彼はリハビリをしても元のように戻るのは難しいか?」
「ああ……そうですね。征哉さん、これをご覧ください」
そういうと榎木先生は彼のレントゲン写真を前の画面にに映して見せてくれた。
「ああっ、これは……ひどいな」
元々の骨が10代とは思えないほど細く脆いのが一目瞭然だ。
「この骨がトラックに潰されたわけですから、歩けるようになるだけで御の字かと」
「そう、だな……。ここまで酷いとは思わなかったな」
「ここで治療を続けながら同時に身体の健康を取り戻してやりたいと思っています。リハビリは……本人の気力次第ですね。もしかしたら一生車椅子生活ということも十分あり得ます」
「わかった」
「あの……征哉さん、彼をどこまで面倒見るおつもりですか?」
「どこまでというと?」
「先ほども申し上げましたようにひかるくんは一生治療が必要になるでしょう。彼は実の両親に捨てられ、引き取られた養父母に裏切られ、さらにこれから一生歩けないかもしれない足を抱え、そんな不安と絶望で苦しむことになるんです。もしかしたらこれからの将来を悲観して、全てを投げ出してしまうことも考えられます。征哉さんはそんなひかるくんを温かく見守り最後まで面倒を見る覚悟がありますか?」
「ああ、そんなことですか。もちろんだ。もし、彼が一生歩けなくても私が彼の足になる覚悟だよ。私が彼に生きる希望を与えてやろう」
自分の口から自然に吐いて出た言葉に、自分でも一瞬驚いたがその気持ちに嘘はない。
母の恩人だからという義務感でそう言っているわけではない。
さっき見た、あの彼を私が守って救ってやりたい。
本気でそう思ったんだ。
「なるほど。征哉さんの口からしっかりとその言葉が聞けて安心しました。これから、ひかるくんの保護者として、いろいろとお話しすることも増えるでしょうが、どうぞよろしくお願いします」
「ああ。こちらこそよろしく」
保護者として……その言葉が私の心に刺さったが、今は何も言えない。
なんせ自分でも彼への気持ちが本物なのかわからないのだから。
「奴らの件はこれから早速――」
「榎木先生! 大変です!! 先生に会わせろと騒いでいる方が! きゃーっ!!」
突然、ナースステーションからの呼び出しに驚くが、看護師の声の後で
――早く、榎木を出せっつってんだろっ! 俺の息子を返せっ!!
という怒鳴り声が聞こえる。
「どうやらこっちから乗り込む必要はなかったようですね」
「そのようだな。すぐに行こう」
私は榎木先生と共に、急いでナースステーションに向かった。
「さっさと榎木を呼んでこいよ! さっさとしろよ!!」
ナースステーションの台を蹴り飛ばしながら、大声を上げる男に
「何をやっているんですか! いい加減に騒ぐのをやめないと警察を呼びますよ」
と榎木先生が怒鳴りつけた。
「ああ、やっと来たか。おせーんだよ」
「一体何ですか? あなたは一体誰ですか?」
「ああ? さっきお前が電話してきたんだろ? うちの大事な息子が事故に遭ったから来いって。それなのに、駆けつけてきた親が息子に会わせろと言ってもそんな患者はいないの一点張りで、ふざけてんのか? ああっ?」
「何を言っているんですか? あなたが自分たちには関係ないから連絡するなと言って電話を切ったんでしょう?」
「ふざけんな。そんなこと言ってない。さっさと俺の息子に会わせろ!」
どうやら、何かを知ったようだな。
それで慌てて乗り込んできたか。
本当に汚い奴らだ。
それならこっちも思う存分やってやるさ。
覚悟しておくんだな。
何だろう、この気持ち。
まさか、私は彼に……?
そんなこと、あるはずない。
だって、彼はまだ中学生か、高校生。
こんな幼い彼にそんな思いを抱いてはいけないのに。
けれど、どうしても目が離せない。
少しだけ……。
少し触れるだけなら許してもらえるだろうか。
そっと手を伸ばし、彼の頬に触れる。
この年代ならもっとふくよかな膨らみがあってもいいのに、彼はすぐに頬骨に触れてしまう。
こんなに痩せているなんて……どれほど食事を与えられていないのか。
彼の置かれた環境を想像するだけで心が痛くなる。
「う、ん……っ」
「――っ!!」
まずい、起こしてしまう。
慌てて触れていた頬から手を離すと、
「ご、めん……な、さい…‥」
と涙を流す。
ああ、この子は一体……どんな辛い思いをしてきたのか。
彼を助けてやりたい。
そんな感情が湧き上がるのに時間は掛からなかった。
このまま一人にするのは心配だったが、この様子ならしばらく起きそうにない。
その前に榎木先生のところに話を聞きに行った方がいいか。
そう思い、後ろ髪をひかれつつも病室を離れた。
榎木先生から彼の養父母、いや戸籍に入れていないのだから他人か……そいつらとの電話のやり取りを聞いたが、本当に彼を労働力としか見ていないのがすぐにわかった。
使えなくなったらすぐにお払い箱というわけか。
だが、他人だというのなら何の問題もない。
徹底的にやっつけて二度と彼に近づけないようにしてやろう。
「母さん、家まで送るよ」
「大丈夫。タクシーで戻るわ。それよりも征哉はひかるくんのことを早く進めてちょうだい」
「ああ、わかった。ありがとう」
ふっと優しい笑みをむけてくれたのを見て、もしかしたら母さんは私がこんなにも彼のために動いている理由に気づいているのかもしれないと思ったが、彼への思いが同情なのか、恋愛の情なのか自分でもまだよくわかっていない。
今はただ、彼を助けるだけだ。
母さんをタクシーに乗せ、もう一度榎木先生の元に向かった。
「ああ、征哉さん。先ほどお話しした情報はたった今全てお送りしましたよ」
「ああ、ありがとう。ここから先は彼の主治医としての見解を伺いたいのだが……」
「はい。どうぞ」
「彼はリハビリをしても元のように戻るのは難しいか?」
「ああ……そうですね。征哉さん、これをご覧ください」
そういうと榎木先生は彼のレントゲン写真を前の画面にに映して見せてくれた。
「ああっ、これは……ひどいな」
元々の骨が10代とは思えないほど細く脆いのが一目瞭然だ。
「この骨がトラックに潰されたわけですから、歩けるようになるだけで御の字かと」
「そう、だな……。ここまで酷いとは思わなかったな」
「ここで治療を続けながら同時に身体の健康を取り戻してやりたいと思っています。リハビリは……本人の気力次第ですね。もしかしたら一生車椅子生活ということも十分あり得ます」
「わかった」
「あの……征哉さん、彼をどこまで面倒見るおつもりですか?」
「どこまでというと?」
「先ほども申し上げましたようにひかるくんは一生治療が必要になるでしょう。彼は実の両親に捨てられ、引き取られた養父母に裏切られ、さらにこれから一生歩けないかもしれない足を抱え、そんな不安と絶望で苦しむことになるんです。もしかしたらこれからの将来を悲観して、全てを投げ出してしまうことも考えられます。征哉さんはそんなひかるくんを温かく見守り最後まで面倒を見る覚悟がありますか?」
「ああ、そんなことですか。もちろんだ。もし、彼が一生歩けなくても私が彼の足になる覚悟だよ。私が彼に生きる希望を与えてやろう」
自分の口から自然に吐いて出た言葉に、自分でも一瞬驚いたがその気持ちに嘘はない。
母の恩人だからという義務感でそう言っているわけではない。
さっき見た、あの彼を私が守って救ってやりたい。
本気でそう思ったんだ。
「なるほど。征哉さんの口からしっかりとその言葉が聞けて安心しました。これから、ひかるくんの保護者として、いろいろとお話しすることも増えるでしょうが、どうぞよろしくお願いします」
「ああ。こちらこそよろしく」
保護者として……その言葉が私の心に刺さったが、今は何も言えない。
なんせ自分でも彼への気持ちが本物なのかわからないのだから。
「奴らの件はこれから早速――」
「榎木先生! 大変です!! 先生に会わせろと騒いでいる方が! きゃーっ!!」
突然、ナースステーションからの呼び出しに驚くが、看護師の声の後で
――早く、榎木を出せっつってんだろっ! 俺の息子を返せっ!!
という怒鳴り声が聞こえる。
「どうやらこっちから乗り込む必要はなかったようですね」
「そのようだな。すぐに行こう」
私は榎木先生と共に、急いでナースステーションに向かった。
「さっさと榎木を呼んでこいよ! さっさとしろよ!!」
ナースステーションの台を蹴り飛ばしながら、大声を上げる男に
「何をやっているんですか! いい加減に騒ぐのをやめないと警察を呼びますよ」
と榎木先生が怒鳴りつけた。
「ああ、やっと来たか。おせーんだよ」
「一体何ですか? あなたは一体誰ですか?」
「ああ? さっきお前が電話してきたんだろ? うちの大事な息子が事故に遭ったから来いって。それなのに、駆けつけてきた親が息子に会わせろと言ってもそんな患者はいないの一点張りで、ふざけてんのか? ああっ?」
「何を言っているんですか? あなたが自分たちには関係ないから連絡するなと言って電話を切ったんでしょう?」
「ふざけんな。そんなこと言ってない。さっさと俺の息子に会わせろ!」
どうやら、何かを知ったようだな。
それで慌てて乗り込んできたか。
本当に汚い奴らだ。
それならこっちも思う存分やってやるさ。
覚悟しておくんだな。
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