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「おっほん! あの堅物で有名なレイーシャ殿下がようやく春を迎えたのはいいが、ここは医務室じゃあ。場所を弁えて欲しいんだが。イチャイチャは自分の部屋でしてくれないかのお」
「い、いや、別にリーナと私にはなにもない、が、リーナは魔力がゼロで他の誰より守らないといけない存在だ。別に春が来たなど、ないからな。
勘違いして変なことを言うんじゃない」
レイーシャさまは里奈のことを魔力がゼロだから哀れんでいたんだ。一瞬、里奈のことを好きになってくれたと、そんな風に浅はかな思いを抱いた自分が哀れになった。
「ほっほっほっほ、そうかそうか。今日はとりあえず氷で頬を冷やしておけばいい。レイーシャ殿下、氷を出してくれ」
「自分ですればいいではないか」
レイーシャさまはタラードさまの前だと小さな子どものようにすねている。以外なレイーシャさまの顔を見れて嬉しい。
たとえ里奈はレイーシャさまの横に並ぶなんて一生ないと知っているけれど。今こうして彼が、ちっぽけで非人で、なにも持っていない里奈を気にしてくれただけで十分だ。
レイーシャさまはタラードさまにブツブツ文句を言った後、なにか呪文を唱えた。彼の手の平が淡い光が出て、透明な水晶のような氷が現れる。
「綺麗……ダイヤモンドみたい」
サーラン語を覚えはじめた時に、一番最初に興味があったのは色彩だった。里奈にとって生きていると言うことは全部、鮮やかな色彩が中心だった。土の色、空の色、木の色や野菜果物の色。だから真っ先に「この色はなあに?」と教えてもらった。大体宝石は地球と同じだった。非人に友好的な下級司書官のおじさんに宝石の本を見せてもらった時に名前を教えてもらった。
「ダイヤモンドを見たことがあるのかい?」
タラードさまが不思議な顔で、それでいてなにか考えている顔で聞いた。
「……はい」
よく考えれば、この国で宝石をしているのは貴族や偉い人たちだ。非人で洗濯場の下女が宝石を見る機会などない。普通の平民さえダイヤモンドなど見る機会などない。
この中世に似た世界の街にある宝石店の店先で、窓越に宝石を見るなどと言うこともない。
「本で見せてもらった」
これは嘘ではない。優しい下級司書官のおじさんに宝石の種類の本を見せてもらった。でもそこにはただのイラストが描かれていて、地球のように繊細な写真ではないから、本物宝石を見ることはやっぱり里奈の境遇ではありえないことだ。
「そうか……。ほら氷が解ける前にハンカチーフに包んで頬に当てなさい」
タラードさまが言った。里奈はハンカチーフなんて持っていない。日本では持っていたけれど、ここではハンカチーフは持っていなかった。里奈は恥ずかしくなって下を向いた。
「きゃっ」
頬に冷たい感触がした。
「早く腫れが引くといいな」
レイーシャさまが微笑むと八重歯がちらっと見える他に、釣り目が少し下がると知った。
氷はレイーシャさまのハンカチーフで包まれていた。
(レイーシャさまの笑顔が好き)
自分でも真っ赤な顔をしていると思う。頬に当たる氷があってよかった。
「リーナさん。怪我をした時は、真っ先にわしのところへ来るようにな。ここの医務員たちにもリーナさんのことを伝えておくから、すぐに対応できるようにしておくよ」
「あ、ありがとうございました」
医療に携わる人だからかな。身分が高い人なのに、非人の里奈に優しくしてくれる。
「そうだ。リーナ、なにかあったら真っ先に私のところへ来い、いいな」
レイーシャさまがまるでタラードさまに対抗している発言をして、子どもぽくって笑った。
それから、タラードさまに、「年寄りの前でイチャイチャは心臓に悪い」と言われて、医務室を追い出された。
里奈もハンナお母さんが心配だから、早く彼女の元へ行きたかった。医務室を出る時に、レイーシャさまが里奈を抱っこしようとしたから、猛反対で止めてもらった。もちろんタラードさまの説得でお姫さま抱っこは免れたが、右手をしっかり繋がらされた。最初は腕を組んでエスコートされる予定だったが、身長差が激しく早く歩くのには不遇だったから手を繋ぐことになった。
里奈の歩幅に合わせてくれるのは紳士的だが、やっぱり一人で帰りたかった。医務室へ行く時は抱っこされて顔を隠すことができたけれど、いまはみんなに顔を見られてしまっている。
リーナはレイーシャさまに「先に行ってください」と言ったのに、「君と一緒にいたい」と勘違いしそうな台詞を言われた。
王族はたくさんの側室や妾がいるって言っていたから、レイーシャさまの女性の扱いに慣れているのかな。今は側室が一人しかいないけれど……それでも一人いるんだ。
レイーシャさまの中で里奈は一体どんな風に位置づけされたのだろう。それが決して恋する人じゃないって恋愛経験ゼロの里奈にも分かっている。
レイーシャさまはハンナお母さんたちのいる取り締まり室へ連れて行ってくれると思ったけれど、里奈の部屋の前まで送ってくれた。今日は仕事を休んで部屋で休むように言われた。部屋に送ってくれている間も、洗濯下女の仕事は危ないから他の仕事に移った方がいいのでは、とか言われた。でも里奈はハンナお母さんやミイシャたちと慣れた仕事場でいたかったから断った。
レイーシャさまは納得しない顔をしていた。
(どうしてそんなに私のことを心配してくれるの……)
里奈は「どうしてそんなに私によくしてくれるのですか?」と聞くことはできなかった。
レイーシャさまが去って、一時間したころにハンナお母さんが戻って来た。
最初マーシャさんはミイシャのことを訴えると騒いでいたが、ハンナお母さんが姪のマレーナさんの婚約資金を出すと言ったら訴えないと言ったらしい。
ハンナお母さんもミイシャも、今日は仕事を休んでいいとレイーシャさまに言われたらしい。
一通りの状況を説明した後にハンナお母さんはミイシャの部屋へ行った。ハンナお母さんはミイシャのことも自分の娘のように大切にしている。
「い、いや、別にリーナと私にはなにもない、が、リーナは魔力がゼロで他の誰より守らないといけない存在だ。別に春が来たなど、ないからな。
勘違いして変なことを言うんじゃない」
レイーシャさまは里奈のことを魔力がゼロだから哀れんでいたんだ。一瞬、里奈のことを好きになってくれたと、そんな風に浅はかな思いを抱いた自分が哀れになった。
「ほっほっほっほ、そうかそうか。今日はとりあえず氷で頬を冷やしておけばいい。レイーシャ殿下、氷を出してくれ」
「自分ですればいいではないか」
レイーシャさまはタラードさまの前だと小さな子どものようにすねている。以外なレイーシャさまの顔を見れて嬉しい。
たとえ里奈はレイーシャさまの横に並ぶなんて一生ないと知っているけれど。今こうして彼が、ちっぽけで非人で、なにも持っていない里奈を気にしてくれただけで十分だ。
レイーシャさまはタラードさまにブツブツ文句を言った後、なにか呪文を唱えた。彼の手の平が淡い光が出て、透明な水晶のような氷が現れる。
「綺麗……ダイヤモンドみたい」
サーラン語を覚えはじめた時に、一番最初に興味があったのは色彩だった。里奈にとって生きていると言うことは全部、鮮やかな色彩が中心だった。土の色、空の色、木の色や野菜果物の色。だから真っ先に「この色はなあに?」と教えてもらった。大体宝石は地球と同じだった。非人に友好的な下級司書官のおじさんに宝石の本を見せてもらった時に名前を教えてもらった。
「ダイヤモンドを見たことがあるのかい?」
タラードさまが不思議な顔で、それでいてなにか考えている顔で聞いた。
「……はい」
よく考えれば、この国で宝石をしているのは貴族や偉い人たちだ。非人で洗濯場の下女が宝石を見る機会などない。普通の平民さえダイヤモンドなど見る機会などない。
この中世に似た世界の街にある宝石店の店先で、窓越に宝石を見るなどと言うこともない。
「本で見せてもらった」
これは嘘ではない。優しい下級司書官のおじさんに宝石の種類の本を見せてもらった。でもそこにはただのイラストが描かれていて、地球のように繊細な写真ではないから、本物宝石を見ることはやっぱり里奈の境遇ではありえないことだ。
「そうか……。ほら氷が解ける前にハンカチーフに包んで頬に当てなさい」
タラードさまが言った。里奈はハンカチーフなんて持っていない。日本では持っていたけれど、ここではハンカチーフは持っていなかった。里奈は恥ずかしくなって下を向いた。
「きゃっ」
頬に冷たい感触がした。
「早く腫れが引くといいな」
レイーシャさまが微笑むと八重歯がちらっと見える他に、釣り目が少し下がると知った。
氷はレイーシャさまのハンカチーフで包まれていた。
(レイーシャさまの笑顔が好き)
自分でも真っ赤な顔をしていると思う。頬に当たる氷があってよかった。
「リーナさん。怪我をした時は、真っ先にわしのところへ来るようにな。ここの医務員たちにもリーナさんのことを伝えておくから、すぐに対応できるようにしておくよ」
「あ、ありがとうございました」
医療に携わる人だからかな。身分が高い人なのに、非人の里奈に優しくしてくれる。
「そうだ。リーナ、なにかあったら真っ先に私のところへ来い、いいな」
レイーシャさまがまるでタラードさまに対抗している発言をして、子どもぽくって笑った。
それから、タラードさまに、「年寄りの前でイチャイチャは心臓に悪い」と言われて、医務室を追い出された。
里奈もハンナお母さんが心配だから、早く彼女の元へ行きたかった。医務室を出る時に、レイーシャさまが里奈を抱っこしようとしたから、猛反対で止めてもらった。もちろんタラードさまの説得でお姫さま抱っこは免れたが、右手をしっかり繋がらされた。最初は腕を組んでエスコートされる予定だったが、身長差が激しく早く歩くのには不遇だったから手を繋ぐことになった。
里奈の歩幅に合わせてくれるのは紳士的だが、やっぱり一人で帰りたかった。医務室へ行く時は抱っこされて顔を隠すことができたけれど、いまはみんなに顔を見られてしまっている。
リーナはレイーシャさまに「先に行ってください」と言ったのに、「君と一緒にいたい」と勘違いしそうな台詞を言われた。
王族はたくさんの側室や妾がいるって言っていたから、レイーシャさまの女性の扱いに慣れているのかな。今は側室が一人しかいないけれど……それでも一人いるんだ。
レイーシャさまの中で里奈は一体どんな風に位置づけされたのだろう。それが決して恋する人じゃないって恋愛経験ゼロの里奈にも分かっている。
レイーシャさまはハンナお母さんたちのいる取り締まり室へ連れて行ってくれると思ったけれど、里奈の部屋の前まで送ってくれた。今日は仕事を休んで部屋で休むように言われた。部屋に送ってくれている間も、洗濯下女の仕事は危ないから他の仕事に移った方がいいのでは、とか言われた。でも里奈はハンナお母さんやミイシャたちと慣れた仕事場でいたかったから断った。
レイーシャさまは納得しない顔をしていた。
(どうしてそんなに私のことを心配してくれるの……)
里奈は「どうしてそんなに私によくしてくれるのですか?」と聞くことはできなかった。
レイーシャさまが去って、一時間したころにハンナお母さんが戻って来た。
最初マーシャさんはミイシャのことを訴えると騒いでいたが、ハンナお母さんが姪のマレーナさんの婚約資金を出すと言ったら訴えないと言ったらしい。
ハンナお母さんもミイシャも、今日は仕事を休んでいいとレイーシャさまに言われたらしい。
一通りの状況を説明した後にハンナお母さんはミイシャの部屋へ行った。ハンナお母さんはミイシャのことも自分の娘のように大切にしている。
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