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18 ながめこし ※
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海斗はしばらく言葉を失っていた。
「そんなことは……しないと、申し──」
「ああ、言った。それに、わかってる」
律は両手で彼の体を抱き寄せた。そのままぎゅっと抱きしめる。
「クソ真面目なそなたは、どんなにつらくともその約束を守ろうとするのだろうということは。私だってわかっている。……でも、いいじゃないか。ほんの少しだけ、試してみるぐらいのことは」
「との」
「ほんとに!」
彼の胸を軽く拳でつついて、律は笑って見せた。
「ほんとに、ほんっっと──に、クソ真面目なのだからな、そなたは! そのうえ融通がきかない。昔からそれで、ずいぶん苦労だってしたのだろうに」
「恐れ入ります」
やっと少し体から力を抜いて、海斗も微笑んだ。
「ご指摘されるまでもなきことです……この固い頭のために、ずいぶんと下の者らにも苦労を掛けたものです」
「ははっ。そうだろうなあ。……だからさ」
もう一度、律は自分の腰を彼のそこにくっつけた。海斗が「ふっ」と息を止め、なにかを堪える顔になる。
「もう『泰時』ではなくなったそなたなのだから。『海斗さん』としてもう少し、余裕をもってものを考えてみてもよいと思う。私もいつまでも、そなたの『殿』でいたくない。それは何度も言ったとおりだし」
「……はい」
「だから……少しだけ。トライしてみるのはどうだろう。……というか、お願い」
「との……」
「というか、そなためちゃくちゃつらそうじゃないか! いい加減どうにかしたいだろう、ソレを」
「とのっ!」
海斗の耳が赤くなり、ぎゅっと目をつぶった。そういうところは一応、年相応の青年に見えて、ちょっと可愛いかもしれない。
「ふふ。本当はわたしだってかなりつらい。だから、これを何とかしよう。……ちょっと、試しにやってみてからね。どうかな?」
「…………」
海斗は少し沈黙したが、意を決したようにこちらを見据えた。
「わかりました。ですが、これだけはお約束を。少しでもご不快や痛みなどがありましたら、必ずおっしゃってください。よろしいですか?」
「わかったわかった」
「本当にですよ」
「しつこいよ。私だって、つらいのはイヤなんだから、さすがに」
「承知いたしました」
溜め息とともにやっとそう言うと、海斗は律の腰の下に枕を挟み込んだ。律が、「最初に後ろ向きはいやだ」と言ったためだ。本来は、最初なら後ろからのほうがやりやすい、ということは知っていたが、彼の顔が見えない状態になるのはどうも不安な気がしたからである。
海斗が自分のそれにゴムをつけ、また潤滑剤をぬかりなくまとわせたあと、指先で律のその場所を撫でて確認してくる。やがてその先端が、律にひたりと添わされた。
「ん……っ」
「参りますよ。よろしいですか」
「う、ん……っ」
どきどきと、自分の心音がまたうるさくなってくる。
「どうか緊張なさらずに。入るときには、息を吐いてくださいませ」
「うん」
「少し深呼吸してみましょうか」
「う、うん」
言われた通り、何度か大きく深呼吸を繰り返した。
最後にふうう、と息を吐いていくタイミングで、彼の質量がぐっと自分の中へと侵入してくる感覚がやってきた。
「ん……っ!」
かなり慣らしてもらっていたと思うのに、やはり本物の質量は半端ないものがあった。単に大きさのみならず、硬さといい熱さといい、段違いだ。表面に走る血管のふくらみが、強い律動を伝えてくる。
(これは……リアリティが)
すごい、などと考えたのは無意識のことで、律にはもうそんな余裕はなかった。
「は……あっ」
「大事ないですか。律くん」
「ん、んん~……っ」
最初の最も大きな部分が押し入ってくると息が詰まった。力を入れてはいけないと頭ではわかっているが、どうしても思うようにはいかない。ついつい力が入ってしまって、彼の侵入を勝手に体が阻止しようとしてしまう。
「ご、ごめん……」
「いえ。やはり」
やめましょう、と言いかける海斗の言葉を遮るように、律は彼の体にしがみついた。ついでに足も回して、逃れられないように抱え込む。
「いやだ。やめないっ」
「……との」
「いやだ、と言ってるんだっ。つ、つづけてっ」
「……痛くはないのですか」
「うん。痛みは、ない……。苦しい、けど」
海斗はしばらく、困ったようにそのままの姿勢でいた。でも、もう律にだってわかっている。自分の中にいる海斗のそれは、確実に刺激を求めている。こんな風に先だけを挿れた刺激などではない、「もっと包み込まれたい、もっと突きたい」という欲望。それが如実に、ダイレクトに伝わってくるのだ。
「はあ……あっ。もっと……いれ、て」
「との……!」
「あ、ああっ!」
ぐぐっと押し入ってきた熱の大きさに、律は呼吸ができなくなった。
ながめこし 花もむなしく 散りはてて はかなく春の 暮れにけるかな春ふかみ
『金槐和歌集』113
「そんなことは……しないと、申し──」
「ああ、言った。それに、わかってる」
律は両手で彼の体を抱き寄せた。そのままぎゅっと抱きしめる。
「クソ真面目なそなたは、どんなにつらくともその約束を守ろうとするのだろうということは。私だってわかっている。……でも、いいじゃないか。ほんの少しだけ、試してみるぐらいのことは」
「との」
「ほんとに!」
彼の胸を軽く拳でつついて、律は笑って見せた。
「ほんとに、ほんっっと──に、クソ真面目なのだからな、そなたは! そのうえ融通がきかない。昔からそれで、ずいぶん苦労だってしたのだろうに」
「恐れ入ります」
やっと少し体から力を抜いて、海斗も微笑んだ。
「ご指摘されるまでもなきことです……この固い頭のために、ずいぶんと下の者らにも苦労を掛けたものです」
「ははっ。そうだろうなあ。……だからさ」
もう一度、律は自分の腰を彼のそこにくっつけた。海斗が「ふっ」と息を止め、なにかを堪える顔になる。
「もう『泰時』ではなくなったそなたなのだから。『海斗さん』としてもう少し、余裕をもってものを考えてみてもよいと思う。私もいつまでも、そなたの『殿』でいたくない。それは何度も言ったとおりだし」
「……はい」
「だから……少しだけ。トライしてみるのはどうだろう。……というか、お願い」
「との……」
「というか、そなためちゃくちゃつらそうじゃないか! いい加減どうにかしたいだろう、ソレを」
「とのっ!」
海斗の耳が赤くなり、ぎゅっと目をつぶった。そういうところは一応、年相応の青年に見えて、ちょっと可愛いかもしれない。
「ふふ。本当はわたしだってかなりつらい。だから、これを何とかしよう。……ちょっと、試しにやってみてからね。どうかな?」
「…………」
海斗は少し沈黙したが、意を決したようにこちらを見据えた。
「わかりました。ですが、これだけはお約束を。少しでもご不快や痛みなどがありましたら、必ずおっしゃってください。よろしいですか?」
「わかったわかった」
「本当にですよ」
「しつこいよ。私だって、つらいのはイヤなんだから、さすがに」
「承知いたしました」
溜め息とともにやっとそう言うと、海斗は律の腰の下に枕を挟み込んだ。律が、「最初に後ろ向きはいやだ」と言ったためだ。本来は、最初なら後ろからのほうがやりやすい、ということは知っていたが、彼の顔が見えない状態になるのはどうも不安な気がしたからである。
海斗が自分のそれにゴムをつけ、また潤滑剤をぬかりなくまとわせたあと、指先で律のその場所を撫でて確認してくる。やがてその先端が、律にひたりと添わされた。
「ん……っ」
「参りますよ。よろしいですか」
「う、ん……っ」
どきどきと、自分の心音がまたうるさくなってくる。
「どうか緊張なさらずに。入るときには、息を吐いてくださいませ」
「うん」
「少し深呼吸してみましょうか」
「う、うん」
言われた通り、何度か大きく深呼吸を繰り返した。
最後にふうう、と息を吐いていくタイミングで、彼の質量がぐっと自分の中へと侵入してくる感覚がやってきた。
「ん……っ!」
かなり慣らしてもらっていたと思うのに、やはり本物の質量は半端ないものがあった。単に大きさのみならず、硬さといい熱さといい、段違いだ。表面に走る血管のふくらみが、強い律動を伝えてくる。
(これは……リアリティが)
すごい、などと考えたのは無意識のことで、律にはもうそんな余裕はなかった。
「は……あっ」
「大事ないですか。律くん」
「ん、んん~……っ」
最初の最も大きな部分が押し入ってくると息が詰まった。力を入れてはいけないと頭ではわかっているが、どうしても思うようにはいかない。ついつい力が入ってしまって、彼の侵入を勝手に体が阻止しようとしてしまう。
「ご、ごめん……」
「いえ。やはり」
やめましょう、と言いかける海斗の言葉を遮るように、律は彼の体にしがみついた。ついでに足も回して、逃れられないように抱え込む。
「いやだ。やめないっ」
「……との」
「いやだ、と言ってるんだっ。つ、つづけてっ」
「……痛くはないのですか」
「うん。痛みは、ない……。苦しい、けど」
海斗はしばらく、困ったようにそのままの姿勢でいた。でも、もう律にだってわかっている。自分の中にいる海斗のそれは、確実に刺激を求めている。こんな風に先だけを挿れた刺激などではない、「もっと包み込まれたい、もっと突きたい」という欲望。それが如実に、ダイレクトに伝わってくるのだ。
「はあ……あっ。もっと……いれ、て」
「との……!」
「あ、ああっ!」
ぐぐっと押し入ってきた熱の大きさに、律は呼吸ができなくなった。
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