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第七章 共闘
5 宵待ち
しおりを挟むダイダロスが地球を発って半月あまりが過ぎた。
「う~ん。今夜も来ねえつもりなのかな、あいつ」
夜。自室の寝台の上でリョウマはすでに何度目かの寝返りをうったところだ。
このところ、あまり魔王がやってこない。リョウマにはあまりそうした話はしてくれないが、やはり、彗星のことで相当多忙なのだろうと思われる。
彗星に対応する作戦は、おもに魔王国内部の一部、特に魔王軍に所属する兵らを中心に組織されている。とはいえすべての兵にこの事実が知らされているわけではない。あくまでも、この作戦に従事することが決まっている一部の士官たちに限られる。
トリーフォンから聞いたところによれば、その作戦は彗星が地球に接近するまでに二十以上の「防衛ライン」を含むものだった。すでに何年も前から準備されてきた防衛線だが、そのうち半分ほどは、大した成果もないまま彗星に突破された形なのだという。だからこそ、四天王の一人ダイダロスが前線に赴いたわけだ。
その成果についてもっと詳しく訊きたいと思っているのに、このところはリョウマも魔王となかなか顔を合わせることもできずにいる。毎日、彼が自室に戻ってくるのは夜もかなり更けたころになるらしく、リョウマの方がついつい先に眠ってしまうのだ、悔しいことに。
もちろんリョウマだって「起きて待っていよう」と毎晩一生懸命がんばっている。が、いかんせん睡魔に負けてしまうのだ、どうしても。疲れているとき、重くなった自分の瞼ほど最強なものはない。というわけで、もうずっとこの戦いにおいてのリョウマは連敗つづきなのである、情けないことに。
しかしそれも無理はなかった。実は魔王に内緒でいろいろな活動を秘密裏におこなうようになってから、リョウマもかなり多忙になってしまったのだ。ゆえにこのところ、どうしても疲労が蓄積しているのである。
(けどっ。今夜はぜってー起きてたいっ。ぜったい、ぜったいに……!)
たまに「配殿下」として御前会議に参加させてもらうことはあるが、このところはそれ以外ではあまり魔王と顔を合わせることも話をすることもできずにいる。
なんだか次第に、イライラが募ってきているのをイヤでも自覚してしまう。
……要するに、欲求不満なのだ、いろんな意味で。
(くっそう。向こうが押せ押せだったくせによー。なんで俺が今更、こんな気持ちになんなきゃなんねーんだっつの)
そう考えるとやっぱり少し悔しい。それに、「こんな風に相手を欲しているのが自分だけだったらどうしよう?」と、そんな不安も頭をもたげてきてしまう。
「は~あ……。早く戻って来いよ。エル……」
《リョウマ? 寝ずに待ってくれているのか?》
「うえっ!?」
びっくりして飛び起きた。左手の薬指にはまった指輪の紅い石から、魔王の声が聞こえてきている。
《しばらく放っておいて済まなかった。……そちらに向かってもよいか》
「えっ。あ……う、うん」
《入浴はもう済んだか》
「うん、一応。あっ、でもお前がまだなら一緒に入ってもいいぜ~」
《まことか? それは嬉しいな》
声色が、なんだか本当に嬉しそうな響きを帯びたのがわかってちょっと嬉しくなってしまう。
「うん。じゃ、俺もすぐに湯殿に行くわ」
知らず、こちらの声もはずんでしまう。そのままぽんと寝床から跳ね起きて、リョウマは急ぎ足に魔王専用の湯殿に向かった。
足取りが勝手に軽くなる。やっと少しはゆっくりと時間を取って、あいつと話ができるかと思うと、勝手にうきうきしてしまう心は到底抑えようもなかった。
◇
「エル、来たぜ~。って、おわっ」
湯殿の脱衣所に足を踏み入れたとたん、リョウマはぎゅっと魔王に抱きしめられた。
「いきなりだな~、お前」
「ずっとこうしたかった。ずっと多忙で、すまなかったな」
「は~。マジそうな。なんか、ちゃんと顔みるの久しぶりだなあ」
「まことに」
ようやく少し体を離して、魔王はつくづくとリョウマの顔を見つめ、微笑んだ。そのままちゅっと軽く唇に口づけが降りてくる。
「寂しくさせただろうか。すまぬ」
「いやいや。俺は俺でアレコレやんなきゃなんねーことあるし。こういうときだ、しょーがねーわ」
「……うむ」
「さっ、入ろうぜ、入ろうぜ~」
言ってさっさとガウンや夜着などを脱ぎ捨てると、ふたりはともに湯舟に浸かった。
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