111 / 214
第七章 共闘
4 移住地にて
しおりを挟む
そこからのリョウマは忙しかった。
まずは「様子を見にいってくる」と、例の《新・人類保護区》に出向き、移住を決めて《勇者の村》からやってきた人々と面会し、ついてきているサクヤとコジロウに会うことにしたのだ。
ちなみに護衛の武人ダンパは、リョウマが何をどう言っても同行すると言って聞かないので、仕方なく随行してもらっている。実は彼はトリーフォンとの密談の時もついてきており、扉の外に立っていた。だから話の内容までは聞いていなかったが、賢いこの男のことだ、ある程度は予想がついているだろうと思う。
いざとなればこの男はリョウマが計画しているもろもろのことを魔王に語ってしまうだろう。だが、そうなるとしても仕方がない。魔王エルケニヒには、理解してもらうしかないと思ったのだ。
移住を決意した村人は、やはり子どもをつれた若い夫婦が多かった。もちろんそれぞれに悩んだことだろうが、子どもの未来を考えれば、結局は移住を決意せざるを得なかったのだということが、話を聞いているとよくわかった。
みんなとの顔合わせのあと、住居や環境についての感想や今後の改善点などを聞き取ったり、その後の歓迎会としての食事会に参加したりしていたら、その日はすぐに夜になってしまった。
だがリョウマの訪問の真の目的はここからだった。
「古老たちと話がしたいって? どういうことよ」
《BLイエロー》サクヤが不審そうな顔で訊いてくる。
村人たちがすでにそれぞれの住居に引き取って寝静まったころになってから、リョウマはサクヤとコジロウを村はずれに呼び出したのだ。周囲にはもちろん、ダンパ以外の他の人間たちはいない。
「あっちにはもう連絡してあんだ。コレでよ」そう言って、リョウマはふたりに自分の赤い指輪を見せた。
《勇者の村》には、こちらから魔王が送った水晶の通信機がある。それを使えば、あちらとこちらで話し合いができるのだ。映像での通信も可能だが、今回は音声のみにする予定だった。そのほうがエネルギーの消費量が格段に少なくて済むからだ。
約束していた時刻がやってきて、リョウマは自分の指輪にそっと話しかけた。
「長老さまたち。俺です、リョウマです」
《リョウマっ! 無事か!?》
「って。その声はケントか? 無事に決まってんだろーが、なに言ってんだ」
ちょっと呆れる。が、いきなりでかい声が聞こえてきて少し慌てた。ダンパが見張りに立ってくれるとはいえ、屋外では、誰かに聞かれないとも限らない。リョウマはサクヤとコジロウに目配せをし、ふたりにあてがわれている宿舎へと場所を移した。
すでにあちらでは、長老たちと残りの《レンジャー》が集まっているようだった。まず、重々しく口を開いたのはゲンゴだった。
《彗星の件についてはすでに聞かされておるが、村人はやはり、その事実を知らぬため、全員が移動するのは難しいようじゃ。村を離れたくないと申す者が多くてのう》
「やっぱ、そうッスか……」
《して、此度はなんの連絡じゃ? リョウマ》
次に訊ねてきたのはムサシだった。
「あー、はい。今回はちょっと、長老のじっちゃんたちに折り入って相談と、お願いがあって」
《ふむ。話してみよ》
そこからリョウマは、これまでの彗星殲滅作戦の流れと今後の流れについておおまかに説明し、トリーフォンとの話し合いについても簡単に説明した。
隣で聞いているサクヤもコジロウも、あちらで聞いている古老たちやケント、ハルトたちも次第に緊張していくのが聞いているだけでもわかった。
リョウマが話し終えてからも、しばらくは口を開く者もいなかった。が、ようやくムサシの重苦しい声が聞こえた。
《いや……そうじゃな。実現できるならば、それ以上のことはないのであろうが。しかし……》
「なんもしねえよりかはいいと思うんスよ。俺らだって《レンジャー》だ。《レンジャー》は、どんなに絶望的な状況になっても絶対に未来を諦めない。そういうヤツでなきゃ《レンジャー》にはなれない。そう教えてくれたのは長老と、先輩のみなさんでしょ」
ここで言う「先輩」というのはもちろん、《レンジャー》の先代たちのことを指す。その中にはこのムサシが当然含まれていた。ムサシは少し前の《レッド》。つまりリョウマにとって大先輩にあたる人だからだ。
《……うむ。リョウマの申す通りじゃな》
言ったのはゲンゴだった。他の長老たちも「うむ」「左様じゃの」とうなずきあっているのが雰囲気から伝わってくる。
そこからもしばらく込み入った話し合いが続き、最終的な結論が出るまでには日をまたいでしまったが、最後はムサシがこう言って話を締めくくった。
《よくわかった。ではこちらも、できるだけのことはしよう。すべては我ら人間と、この地球の未来のためじゃ。以降のことはトリーフォン殿ともよくよく相談することと致そう》と。
まずは「様子を見にいってくる」と、例の《新・人類保護区》に出向き、移住を決めて《勇者の村》からやってきた人々と面会し、ついてきているサクヤとコジロウに会うことにしたのだ。
ちなみに護衛の武人ダンパは、リョウマが何をどう言っても同行すると言って聞かないので、仕方なく随行してもらっている。実は彼はトリーフォンとの密談の時もついてきており、扉の外に立っていた。だから話の内容までは聞いていなかったが、賢いこの男のことだ、ある程度は予想がついているだろうと思う。
いざとなればこの男はリョウマが計画しているもろもろのことを魔王に語ってしまうだろう。だが、そうなるとしても仕方がない。魔王エルケニヒには、理解してもらうしかないと思ったのだ。
移住を決意した村人は、やはり子どもをつれた若い夫婦が多かった。もちろんそれぞれに悩んだことだろうが、子どもの未来を考えれば、結局は移住を決意せざるを得なかったのだということが、話を聞いているとよくわかった。
みんなとの顔合わせのあと、住居や環境についての感想や今後の改善点などを聞き取ったり、その後の歓迎会としての食事会に参加したりしていたら、その日はすぐに夜になってしまった。
だがリョウマの訪問の真の目的はここからだった。
「古老たちと話がしたいって? どういうことよ」
《BLイエロー》サクヤが不審そうな顔で訊いてくる。
村人たちがすでにそれぞれの住居に引き取って寝静まったころになってから、リョウマはサクヤとコジロウを村はずれに呼び出したのだ。周囲にはもちろん、ダンパ以外の他の人間たちはいない。
「あっちにはもう連絡してあんだ。コレでよ」そう言って、リョウマはふたりに自分の赤い指輪を見せた。
《勇者の村》には、こちらから魔王が送った水晶の通信機がある。それを使えば、あちらとこちらで話し合いができるのだ。映像での通信も可能だが、今回は音声のみにする予定だった。そのほうがエネルギーの消費量が格段に少なくて済むからだ。
約束していた時刻がやってきて、リョウマは自分の指輪にそっと話しかけた。
「長老さまたち。俺です、リョウマです」
《リョウマっ! 無事か!?》
「って。その声はケントか? 無事に決まってんだろーが、なに言ってんだ」
ちょっと呆れる。が、いきなりでかい声が聞こえてきて少し慌てた。ダンパが見張りに立ってくれるとはいえ、屋外では、誰かに聞かれないとも限らない。リョウマはサクヤとコジロウに目配せをし、ふたりにあてがわれている宿舎へと場所を移した。
すでにあちらでは、長老たちと残りの《レンジャー》が集まっているようだった。まず、重々しく口を開いたのはゲンゴだった。
《彗星の件についてはすでに聞かされておるが、村人はやはり、その事実を知らぬため、全員が移動するのは難しいようじゃ。村を離れたくないと申す者が多くてのう》
「やっぱ、そうッスか……」
《して、此度はなんの連絡じゃ? リョウマ》
次に訊ねてきたのはムサシだった。
「あー、はい。今回はちょっと、長老のじっちゃんたちに折り入って相談と、お願いがあって」
《ふむ。話してみよ》
そこからリョウマは、これまでの彗星殲滅作戦の流れと今後の流れについておおまかに説明し、トリーフォンとの話し合いについても簡単に説明した。
隣で聞いているサクヤもコジロウも、あちらで聞いている古老たちやケント、ハルトたちも次第に緊張していくのが聞いているだけでもわかった。
リョウマが話し終えてからも、しばらくは口を開く者もいなかった。が、ようやくムサシの重苦しい声が聞こえた。
《いや……そうじゃな。実現できるならば、それ以上のことはないのであろうが。しかし……》
「なんもしねえよりかはいいと思うんスよ。俺らだって《レンジャー》だ。《レンジャー》は、どんなに絶望的な状況になっても絶対に未来を諦めない。そういうヤツでなきゃ《レンジャー》にはなれない。そう教えてくれたのは長老と、先輩のみなさんでしょ」
ここで言う「先輩」というのはもちろん、《レンジャー》の先代たちのことを指す。その中にはこのムサシが当然含まれていた。ムサシは少し前の《レッド》。つまりリョウマにとって大先輩にあたる人だからだ。
《……うむ。リョウマの申す通りじゃな》
言ったのはゲンゴだった。他の長老たちも「うむ」「左様じゃの」とうなずきあっているのが雰囲気から伝わってくる。
そこからもしばらく込み入った話し合いが続き、最終的な結論が出るまでには日をまたいでしまったが、最後はムサシがこう言って話を締めくくった。
《よくわかった。ではこちらも、できるだけのことはしよう。すべては我ら人間と、この地球の未来のためじゃ。以降のことはトリーフォン殿ともよくよく相談することと致そう》と。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!
あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。
かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き)
けれど…
高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは───
「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」
ブリッコキャラだった!!どういうこと!?
弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。
───────誰にも渡さねぇ。」
弟×兄、弟がヤンデレの物語です。
この作品はpixivにも記載されています。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる