111 / 189
第七章 共闘
4 移住地にて
しおりを挟む
そこからのリョウマは忙しかった。
まずは「様子を見にいってくる」と、例の《新・人類保護区》に出向き、移住を決めて《勇者の村》からやってきた人々と面会し、ついてきているサクヤとコジロウに会うことにしたのだ。
ちなみに護衛の武人ダンパは、リョウマが何をどう言っても同行すると言って聞かないので、仕方なく随行してもらっている。実は彼はトリーフォンとの密談の時もついてきており、扉の外に立っていた。だから話の内容までは聞いていなかったが、賢いこの男のことだ、ある程度は予想がついているだろうと思う。
いざとなればこの男はリョウマが計画しているもろもろのことを魔王に語ってしまうだろう。だが、そうなるとしても仕方がない。魔王エルケニヒには、理解してもらうしかないと思ったのだ。
移住を決意した村人は、やはり子どもをつれた若い夫婦が多かった。もちろんそれぞれに悩んだことだろうが、子どもの未来を考えれば、結局は移住を決意せざるを得なかったのだということが、話を聞いているとよくわかった。
みんなとの顔合わせのあと、住居や環境についての感想や今後の改善点などを聞き取ったり、その後の歓迎会としての食事会に参加したりしていたら、その日はすぐに夜になってしまった。
だがリョウマの訪問の真の目的はここからだった。
「古老たちと話がしたいって? どういうことよ」
《BLイエロー》サクヤが不審そうな顔で訊いてくる。
村人たちがすでにそれぞれの住居に引き取って寝静まったころになってから、リョウマはサクヤとコジロウを村はずれに呼び出したのだ。周囲にはもちろん、ダンパ以外の他の人間たちはいない。
「あっちにはもう連絡してあんだ。コレでよ」そう言って、リョウマはふたりに自分の赤い指輪を見せた。
《勇者の村》には、こちらから魔王が送った水晶の通信機がある。それを使えば、あちらとこちらで話し合いができるのだ。映像での通信も可能だが、今回は音声のみにする予定だった。そのほうがエネルギーの消費量が格段に少なくて済むからだ。
約束していた時刻がやってきて、リョウマは自分の指輪にそっと話しかけた。
「長老さまたち。俺です、リョウマです」
《リョウマっ! 無事か!?》
「って。その声はケントか? 無事に決まってんだろーが、なに言ってんだ」
ちょっと呆れる。が、いきなりでかい声が聞こえてきて少し慌てた。ダンパが見張りに立ってくれるとはいえ、屋外では、誰かに聞かれないとも限らない。リョウマはサクヤとコジロウに目配せをし、ふたりにあてがわれている宿舎へと場所を移した。
すでにあちらでは、長老たちと残りの《レンジャー》が集まっているようだった。まず、重々しく口を開いたのはゲンゴだった。
《彗星の件についてはすでに聞かされておるが、村人はやはり、その事実を知らぬため、全員が移動するのは難しいようじゃ。村を離れたくないと申す者が多くてのう》
「やっぱ、そうッスか……」
《して、此度はなんの連絡じゃ? リョウマ》
次に訊ねてきたのはムサシだった。
「あー、はい。今回はちょっと、長老のじっちゃんたちに折り入って相談と、お願いがあって」
《ふむ。話してみよ》
そこからリョウマは、これまでの彗星殲滅作戦の流れと今後の流れについておおまかに説明し、トリーフォンとの話し合いについても簡単に説明した。
隣で聞いているサクヤもコジロウも、あちらで聞いている古老たちやケント、ハルトたちも次第に緊張していくのが聞いているだけでもわかった。
リョウマが話し終えてからも、しばらくは口を開く者もいなかった。が、ようやくムサシの重苦しい声が聞こえた。
《いや……そうじゃな。実現できるならば、それ以上のことはないのであろうが。しかし……》
「なんもしねえよりかはいいと思うんスよ。俺らだって《レンジャー》だ。《レンジャー》は、どんなに絶望的な状況になっても絶対に未来を諦めない。そういうヤツでなきゃ《レンジャー》にはなれない。そう教えてくれたのは長老と、先輩のみなさんでしょ」
ここで言う「先輩」というのはもちろん、《レンジャー》の先代たちのことを指す。その中にはこのムサシが当然含まれていた。ムサシは少し前の《レッド》。つまりリョウマにとって大先輩にあたる人だからだ。
《……うむ。リョウマの申す通りじゃな》
言ったのはゲンゴだった。他の長老たちも「うむ」「左様じゃの」とうなずきあっているのが雰囲気から伝わってくる。
そこからもしばらく込み入った話し合いが続き、最終的な結論が出るまでには日をまたいでしまったが、最後はムサシがこう言って話を締めくくった。
《よくわかった。ではこちらも、できるだけのことはしよう。すべては我ら人間と、この地球の未来のためじゃ。以降のことはトリーフォン殿ともよくよく相談することと致そう》と。
まずは「様子を見にいってくる」と、例の《新・人類保護区》に出向き、移住を決めて《勇者の村》からやってきた人々と面会し、ついてきているサクヤとコジロウに会うことにしたのだ。
ちなみに護衛の武人ダンパは、リョウマが何をどう言っても同行すると言って聞かないので、仕方なく随行してもらっている。実は彼はトリーフォンとの密談の時もついてきており、扉の外に立っていた。だから話の内容までは聞いていなかったが、賢いこの男のことだ、ある程度は予想がついているだろうと思う。
いざとなればこの男はリョウマが計画しているもろもろのことを魔王に語ってしまうだろう。だが、そうなるとしても仕方がない。魔王エルケニヒには、理解してもらうしかないと思ったのだ。
移住を決意した村人は、やはり子どもをつれた若い夫婦が多かった。もちろんそれぞれに悩んだことだろうが、子どもの未来を考えれば、結局は移住を決意せざるを得なかったのだということが、話を聞いているとよくわかった。
みんなとの顔合わせのあと、住居や環境についての感想や今後の改善点などを聞き取ったり、その後の歓迎会としての食事会に参加したりしていたら、その日はすぐに夜になってしまった。
だがリョウマの訪問の真の目的はここからだった。
「古老たちと話がしたいって? どういうことよ」
《BLイエロー》サクヤが不審そうな顔で訊いてくる。
村人たちがすでにそれぞれの住居に引き取って寝静まったころになってから、リョウマはサクヤとコジロウを村はずれに呼び出したのだ。周囲にはもちろん、ダンパ以外の他の人間たちはいない。
「あっちにはもう連絡してあんだ。コレでよ」そう言って、リョウマはふたりに自分の赤い指輪を見せた。
《勇者の村》には、こちらから魔王が送った水晶の通信機がある。それを使えば、あちらとこちらで話し合いができるのだ。映像での通信も可能だが、今回は音声のみにする予定だった。そのほうがエネルギーの消費量が格段に少なくて済むからだ。
約束していた時刻がやってきて、リョウマは自分の指輪にそっと話しかけた。
「長老さまたち。俺です、リョウマです」
《リョウマっ! 無事か!?》
「って。その声はケントか? 無事に決まってんだろーが、なに言ってんだ」
ちょっと呆れる。が、いきなりでかい声が聞こえてきて少し慌てた。ダンパが見張りに立ってくれるとはいえ、屋外では、誰かに聞かれないとも限らない。リョウマはサクヤとコジロウに目配せをし、ふたりにあてがわれている宿舎へと場所を移した。
すでにあちらでは、長老たちと残りの《レンジャー》が集まっているようだった。まず、重々しく口を開いたのはゲンゴだった。
《彗星の件についてはすでに聞かされておるが、村人はやはり、その事実を知らぬため、全員が移動するのは難しいようじゃ。村を離れたくないと申す者が多くてのう》
「やっぱ、そうッスか……」
《して、此度はなんの連絡じゃ? リョウマ》
次に訊ねてきたのはムサシだった。
「あー、はい。今回はちょっと、長老のじっちゃんたちに折り入って相談と、お願いがあって」
《ふむ。話してみよ》
そこからリョウマは、これまでの彗星殲滅作戦の流れと今後の流れについておおまかに説明し、トリーフォンとの話し合いについても簡単に説明した。
隣で聞いているサクヤもコジロウも、あちらで聞いている古老たちやケント、ハルトたちも次第に緊張していくのが聞いているだけでもわかった。
リョウマが話し終えてからも、しばらくは口を開く者もいなかった。が、ようやくムサシの重苦しい声が聞こえた。
《いや……そうじゃな。実現できるならば、それ以上のことはないのであろうが。しかし……》
「なんもしねえよりかはいいと思うんスよ。俺らだって《レンジャー》だ。《レンジャー》は、どんなに絶望的な状況になっても絶対に未来を諦めない。そういうヤツでなきゃ《レンジャー》にはなれない。そう教えてくれたのは長老と、先輩のみなさんでしょ」
ここで言う「先輩」というのはもちろん、《レンジャー》の先代たちのことを指す。その中にはこのムサシが当然含まれていた。ムサシは少し前の《レッド》。つまりリョウマにとって大先輩にあたる人だからだ。
《……うむ。リョウマの申す通りじゃな》
言ったのはゲンゴだった。他の長老たちも「うむ」「左様じゃの」とうなずきあっているのが雰囲気から伝わってくる。
そこからもしばらく込み入った話し合いが続き、最終的な結論が出るまでには日をまたいでしまったが、最後はムサシがこう言って話を締めくくった。
《よくわかった。ではこちらも、できるだけのことはしよう。すべては我ら人間と、この地球の未来のためじゃ。以降のことはトリーフォン殿ともよくよく相談することと致そう》と。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる