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第五章 和平会談
10 色仕掛け
しおりを挟む「なんかゾッコンらしいですよ~? 魔王、こいつに」
「うっ、うるせえっ! 黙ってろよサクヤ!」
「あ~ら。だってほんとのことじゃない? じゃなきゃ『子どものときからの許嫁だ』なんて言っちゃった《ブルー》のこと、あんな睨まないでしょうに。そのうえ、あんたと引き換えにあっちに連れてったりしないでしょうよ。一緒にいさせるのすらイヤだったってことでしょうが」
「え、ええっ……?」
なんだ? つまりあれって、そういう意味だったのか。
ほんとうに今更だ。今更なのに、またもや勝手に耳のあたりがかあっと熱くなって、リョウマはひとり、どぎまぎした。
「まことか? まことにあの魔王がこのリョウマを?」
別の古老が口を挟むと、「ええ、まちがいなく!」とサクヤが大きくうなずいた。リョウマはぐわわっと体全体が熱くなった。
「ちっ、ちげえっ。別にそんなんじゃねえ! 俺は別にっ、ま、魔王とそういう……」
「そういうって、どういう? っていうかあんたの方だって、すっかりベタ惚れにしか見えないんだけど?」
「ベッ……? なわけねっ……!」
「ちがうって言うんなら、なによあの通信のときの二人だけの甘~い空気は! そこんとこどうなのよ実際。ちゃんと教えなさいよっ」
「おっ、教えるって、んなことなんもねーんだから。教えられることなんてねーよっ」
「あ、ごめんね。ベタ惚れなのはあっちか。ケントとあんたを見てるときのあいつの目、完全に『嫉妬にトチ狂ってる男の目』だったもんねえ。すんごいわねえあんた。魔王を手のひらで転がしちゃってさあ。そういう才能があったのね。知らなかったわ~」
「な、なに言ってんだボケェ! んなことしてねーわ!」
「あっ、そうか。《レンジャー》なんかやってるより、最初からそっちで攻めたほうがよかったんじゃない? 今からでも遅くないわよ。あいつをあんたの色仕掛けでメロメロにさせちゃって、あたしたちにとってなるべく有利な条件で、あれこれ合意に持っていけるように尽力してくれりゃあいいのよ。でしょ? そう思いません? 長老さまがた」
「いっ、いいいい、色仕掛けってなんだこのアマァ!」
しまいにゃ怒るぞ、と思わずげんこつを振り上げたが、その腕はあっさり隣にいるダンパに握られて、ゆっくりと膝に下ろされてしまった。なんだかまるで子ども扱いである。
「……ほむ」
「なるほど」
「その視点はなかったかもしれぬの」
長老たちの中には呆気にとられている者も多かったが、それぞれ顎をなでたり腕組みをしたりしながら、互いに顔を見合わせ、ぼそぼそと言葉を交わす者もいる。
(いやいやいや。待てやぁ!)
なんだその「色仕掛け」っていうのは。
そんなもの、自分に求められても困る。というか、あの魔王がなぜにどうして、自分なんかを気に入ってくれたのやらサッパリわからないというのに!
「んじゃ、長老さまがた。いろいろ、細かいこと詰めましょうよ。それで『ここはどーしても譲れない!』っていうのがあったらこいつによーく言い含めておくの。それで、うまいこと魔王に『うん』って言わせられりゃ御の字ってもんでしょう?」
「うむ。表現は色々とアレではあるが……」
「一理あるやもしれぬな」
「いかにも、いかにも」
古老、長老とも偉そうなしかつめらしい顔をしているが、完全にサクヤのアイデアに乗せられているように見えて非常に不安である。
「いやちょ、ちょっと待ってよ長老どの! 俺ほんっとうに、魔王とそんなんじゃないですって。俺の言うことなんでも聞いてくれるとか、そんなん幻想ですってば! ちょっと! 聞いてくれよおおっ」
必死になってそう言い募るのに、もうすっかり古老たちとサクヤは頭を寄せ合って「ああでもない、こうでもない」と《勇者の村》側の要求案について相談を始めてしまった。
(ああああ……そんなあ。どーすんだよ、俺ぇ!)
完全に頭を抱えて、床にゴンと額をぶっつけるリョウマであった。
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