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第五章 和平会談
11 鎧装
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「あ~もう。なんだってんだよ。冗談じゃねえよ……」
ぶつくさ言いながら、リョウマはいま、みんなから離れていつもの訓練場所に向かっていた。
もちろん《BLレンジャー》としての訓練場所である。ダンパはできれば外してほしかったのだが、「どうしても同行いたします。空気のように思って頂ければよいので」と言って聞かないので、仕方なくついてきてもらっている。
地下の深い穴にも、あちこち地上につながる大穴が開いている場所があり、そこだけは陽の光が入る。そこは畑をやったり、放し飼いの牛や羊を飼うなど、ここで暮らす人々にとって重要な場所になっているのだ。
それらの一角に、少し開け広場になっている場所があり、そこを歴代の《レンジャー》たちは戦闘訓練の場所として使ってきたのである。
(しっかし、大丈夫なんかな……。ほんとに俺なんか、魔王に発言権があるわけでもなんでもねーのに。あんな期待されても、マジ困るんだけど)
あれから結局、長老会は「こちらの村の人民を魔王に保護してもらう」という方向で話を決めていくことになった。村人の反対はあるかもしれないが、ここに残りたい者については本人の自由意思に任せるのだそうだ。
とはいえ、今でもすでに「限界集落」に近い村だ。大勢が転出していくことになれば、水や食料の確保だけでも非常に難しくなるはずだった。だから結局、反対する村人もついてくるしかないのではないかと思う。少数の人間だけでは、自分たちの暮らしを維持していくだけでもかなり大変になるからだ。日々、汚染されていない清らかな地下水をくみあげてくるだけでも、かなりの重労働なのである。
家畜の放牧がされている草地や、穀物、野菜などの畑のある区画を抜けると、やがて岩に囲まれた丸い区画が見えてきた。あれが《レンジャー》の訓練場だ。
「あっ、リョウマ」
「おお、ハルト、コジロウ! ここにいたのか」
「ああ。我らは長老どのの話し合いには遠慮するよう言われたのでな」
そこにいたのは《BLピンク》ことハルトと、《ブラック》のコジロウだった。リョウマは簡単に、かれらにダンパを紹介した。ハルトとコジロウはやや警戒した様子を見せたものの、ダンパが相変わらず「自分のことは空気と思ってくだされば」と言うのを聞いて、少し緊張を解いたようだった。
《レンジャー》はそれぞれ得意とする戦闘の分野が違うが、ハルトは飛行系の戦士であり、コジロウは剣技を得意とする戦士だ。
《レッド》である自分はリーダーであるぶん、戦闘時には集団の中心にいて全体の差配をするのが本分。だが、実際にそれをやっているのは視野の広いサクヤであることが多く、リョウマは直接敵に掛かっていって、要は前衛の役割を果たすことが多い。火力と防御力、双方をバランスよく持っているタイプと言える。火力としては、いま魔王城にいるであろうケントがメンバー中では最も高い。
リョウマは腕をぐうっと片方に引き寄せるなどの準備運動をしつつぼやいた。
「ここんとこ、ずっと魔王城で食っちゃ寝してて、鈍りまくっててよー。あっちじゃ《勇者パワー》も使えねーから、《武神鎧装》もできなかったし」
「あ。それはそうだよね」
「では今からやるのでござるか?」
「ああ。コジロウ、よかったら久々に手合わせしてくれる?」
「もちろんにござるよ」
「《鎧装》するの? じゃ、僕もしようかな!」
というわけで、ダンパには少し離れていてもらうようお願いし、三名で同時に、それは始まった。
片手を高く上げ、ゆっくりと回しながら両手で《鎧装》シークエンスをなぞっていく。要するに「変身ポーズ」だ。これは三者三様で、とくにみんなで揃えることはない。そうしながら、空気に充ちている《勇者パワー》をぐっと自分の中心に集めていく。
キィン、とあの独特な緊張感とともに体の中に熱く燃え滾る塊を感じたら、ぱっと目を開き、「決めポーズ」に入る。
掛け声はみんな同じだ。
「武神……鎧装っ!」
集めた《勇者パワー》が一瞬、ぱっと体の周囲に放散されたかと思うと、光り輝きながら空中で凝固して体の表面に戻り、装着されていく。
リョウマのそれは真紅の鎧だ。顔も含めて体のすべてを硬い装甲が覆い、戦闘力そのものも本人の数百倍から数千倍に膨れ上がる。これが《武神鎧装》なのだ。最後にひらりと肩から同じ色のマントが出現。
そして変身決めゼリフ。
「紅き炎は正義の鉄槌! 《BLレッド》!」
「桃色の剣は疾駆する翼! 《BLピンク》!」
「疾きこと、風の如し。猛き勇者の漆黒の剣、《BLブラック》!」
ダンパは離れた場所から、黙ってじっとこちらを見つめている。少し驚いているらしい。騎士団長の彼がこの変身シーンを見たことがあるのかどうかは知らないが、かなり興味を引かれているようだ。
決めゼリフについては先代のものをそのまま使ってもいいが、自分で考えてもOKということになっている。リョウマは先代のものを少しもじって、自分にしっくりくるものに変えさせてもらったクチだ。《ブラック》のがかなりカッコいいので、実はちょっと羨ましいのはナイショなのだが。
「お~、できたできた。なんか安心したわ~」
「え? 不安だったの、リョウマ」
「あ、うん……。正直ちょっと『できなくなってたらどうしよう』って思ってたんだけどさ」
「うむ。あちらに長く捕らわれておったゆえな。無理もない」
「よかったね、リョウマ」
「うん。ありがと、ハルト、コジロウ」
赤い手甲に包まれた自分の手を見て、ぐっぐっと力を入れてみる。漲る《勇者パワー》をしっかりと感じて、なんだかほっとしている自分がいた。
「よーし。そんじゃ、いっちょ手合わせといきましょうかっ」
「うん!」
「おうっ」
そんなわけで。その日はなごやかな雰囲気の中、三名での自主訓練とあいなった。
ぶつくさ言いながら、リョウマはいま、みんなから離れていつもの訓練場所に向かっていた。
もちろん《BLレンジャー》としての訓練場所である。ダンパはできれば外してほしかったのだが、「どうしても同行いたします。空気のように思って頂ければよいので」と言って聞かないので、仕方なくついてきてもらっている。
地下の深い穴にも、あちこち地上につながる大穴が開いている場所があり、そこだけは陽の光が入る。そこは畑をやったり、放し飼いの牛や羊を飼うなど、ここで暮らす人々にとって重要な場所になっているのだ。
それらの一角に、少し開け広場になっている場所があり、そこを歴代の《レンジャー》たちは戦闘訓練の場所として使ってきたのである。
(しっかし、大丈夫なんかな……。ほんとに俺なんか、魔王に発言権があるわけでもなんでもねーのに。あんな期待されても、マジ困るんだけど)
あれから結局、長老会は「こちらの村の人民を魔王に保護してもらう」という方向で話を決めていくことになった。村人の反対はあるかもしれないが、ここに残りたい者については本人の自由意思に任せるのだそうだ。
とはいえ、今でもすでに「限界集落」に近い村だ。大勢が転出していくことになれば、水や食料の確保だけでも非常に難しくなるはずだった。だから結局、反対する村人もついてくるしかないのではないかと思う。少数の人間だけでは、自分たちの暮らしを維持していくだけでもかなり大変になるからだ。日々、汚染されていない清らかな地下水をくみあげてくるだけでも、かなりの重労働なのである。
家畜の放牧がされている草地や、穀物、野菜などの畑のある区画を抜けると、やがて岩に囲まれた丸い区画が見えてきた。あれが《レンジャー》の訓練場だ。
「あっ、リョウマ」
「おお、ハルト、コジロウ! ここにいたのか」
「ああ。我らは長老どのの話し合いには遠慮するよう言われたのでな」
そこにいたのは《BLピンク》ことハルトと、《ブラック》のコジロウだった。リョウマは簡単に、かれらにダンパを紹介した。ハルトとコジロウはやや警戒した様子を見せたものの、ダンパが相変わらず「自分のことは空気と思ってくだされば」と言うのを聞いて、少し緊張を解いたようだった。
《レンジャー》はそれぞれ得意とする戦闘の分野が違うが、ハルトは飛行系の戦士であり、コジロウは剣技を得意とする戦士だ。
《レッド》である自分はリーダーであるぶん、戦闘時には集団の中心にいて全体の差配をするのが本分。だが、実際にそれをやっているのは視野の広いサクヤであることが多く、リョウマは直接敵に掛かっていって、要は前衛の役割を果たすことが多い。火力と防御力、双方をバランスよく持っているタイプと言える。火力としては、いま魔王城にいるであろうケントがメンバー中では最も高い。
リョウマは腕をぐうっと片方に引き寄せるなどの準備運動をしつつぼやいた。
「ここんとこ、ずっと魔王城で食っちゃ寝してて、鈍りまくっててよー。あっちじゃ《勇者パワー》も使えねーから、《武神鎧装》もできなかったし」
「あ。それはそうだよね」
「では今からやるのでござるか?」
「ああ。コジロウ、よかったら久々に手合わせしてくれる?」
「もちろんにござるよ」
「《鎧装》するの? じゃ、僕もしようかな!」
というわけで、ダンパには少し離れていてもらうようお願いし、三名で同時に、それは始まった。
片手を高く上げ、ゆっくりと回しながら両手で《鎧装》シークエンスをなぞっていく。要するに「変身ポーズ」だ。これは三者三様で、とくにみんなで揃えることはない。そうしながら、空気に充ちている《勇者パワー》をぐっと自分の中心に集めていく。
キィン、とあの独特な緊張感とともに体の中に熱く燃え滾る塊を感じたら、ぱっと目を開き、「決めポーズ」に入る。
掛け声はみんな同じだ。
「武神……鎧装っ!」
集めた《勇者パワー》が一瞬、ぱっと体の周囲に放散されたかと思うと、光り輝きながら空中で凝固して体の表面に戻り、装着されていく。
リョウマのそれは真紅の鎧だ。顔も含めて体のすべてを硬い装甲が覆い、戦闘力そのものも本人の数百倍から数千倍に膨れ上がる。これが《武神鎧装》なのだ。最後にひらりと肩から同じ色のマントが出現。
そして変身決めゼリフ。
「紅き炎は正義の鉄槌! 《BLレッド》!」
「桃色の剣は疾駆する翼! 《BLピンク》!」
「疾きこと、風の如し。猛き勇者の漆黒の剣、《BLブラック》!」
ダンパは離れた場所から、黙ってじっとこちらを見つめている。少し驚いているらしい。騎士団長の彼がこの変身シーンを見たことがあるのかどうかは知らないが、かなり興味を引かれているようだ。
決めゼリフについては先代のものをそのまま使ってもいいが、自分で考えてもOKということになっている。リョウマは先代のものを少しもじって、自分にしっくりくるものに変えさせてもらったクチだ。《ブラック》のがかなりカッコいいので、実はちょっと羨ましいのはナイショなのだが。
「お~、できたできた。なんか安心したわ~」
「え? 不安だったの、リョウマ」
「あ、うん……。正直ちょっと『できなくなってたらどうしよう』って思ってたんだけどさ」
「うむ。あちらに長く捕らわれておったゆえな。無理もない」
「よかったね、リョウマ」
「うん。ありがと、ハルト、コジロウ」
赤い手甲に包まれた自分の手を見て、ぐっぐっと力を入れてみる。漲る《勇者パワー》をしっかりと感じて、なんだかほっとしている自分がいた。
「よーし。そんじゃ、いっちょ手合わせといきましょうかっ」
「うん!」
「おうっ」
そんなわけで。その日はなごやかな雰囲気の中、三名での自主訓練とあいなった。
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