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第二章 魔王エルケニヒ
7 お肉、お肉
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「うっ……うっま」
「今ごろ感想か?」
ぷっと魔王がふき出した。嬉しそうににこにこ笑っている。
そのとたん、なぜかぴきっと侍従らが凍り付いた。
(……ん?)
なんだろう。なんとなく、取り巻きたちの様子がおかしい。いや、普段の彼らの様子なんて知らないのだから、この言い方は変かもしれないが。とはいえ少なくとも、これまで戦闘中に魔王に対して周囲の家来たちがこんな変な顔をして彼を見つめたことはない。
いや戦闘中なんだから当たり前なのか。
(う~ん……)
なんだろうか、この違和感は。
しばし考えこんでから、「あっ」と思った。
そういえば自分だって、こんな風に魔王が笑うところは見たことがない。この男、戦闘で対峙しているときにも笑わないわけではないが、それはあくまでも、いわゆる「悪役笑い」というヤツだ。というわけで、こんな風に妙に優しく温かい雰囲気で笑ったところは見たことがなかったのだ。
そう、あの洞窟での一件までは。
(へー。こんな顔して笑うこともあるんだな、こいつ)
なんだか鳩尾のあたりがムズムズする。妙な気分だ。それとともに感慨深くもなって、ついじっと見つめてしまっていたらしい。気が付けばエルケニヒが不思議そうにこちらを見返していた。
「どうしたのだ? 私の顔になにかついているか」
「いやそりゃ、アレよ? 俺らにはぜってーない角とか牙とか色々ついてっけども」
「……そういうことを訊いているのではない」
「うははは。わかってるわそのぐらい! いいからもっとメシよこせ!」
魔王が苦笑して、指先をまたくいと動かすと、侍従たちは呪縛を解かれたようになって再びすすす、と動きはじめた。スープの皿を下げ、こんどは分厚くて肉汁たっぷりの牛ステーキが現れる。とろりとして香りたつ、見るからにうまそうなソースが掛かっている。
リョウマの目がきらきら光った。と同時に、じゅわっと口内に唾液がわきあがる。
「おおお! にっ、にっくぅ……!」
「左様、肉だ。そちらの村では、なかなか食せぬ代物なのだろう?」
と魔王が訊ねる間にも、もうリョウマは肉にがっついていた。ナイフやフォークを使う手間も惜しんで、まるごとフォークにぶっ刺した肉にそのままかぶりついている。霜降りの上等な肉だ。口に入れた瞬間、嘘みたいにとろけてしまう。うますぎる。
「そーなんだよー。もぐもぐ、こんなすげえ贅沢品、そうそう食えねえっつの、むぐむぐ。うっはあ、うんめえ! 生きててよかった、マジサイコー!」
「わかったから、もう少し落ち着いて食せ」
「んぐんぐっ、大体よお、地下じゃあんまり牛や豚なんか飼えねえしよー。太陽の光があんまり入ってこねえから、野菜だってそんなに色々育たねえし」
「なかなか不便な生活なのだな」
「そうそう……って、あれ? いやちょっと待て。ぐふうっ!」
突然、リョウマはあることに気づいて喉を詰まらせた。
「どうした!」
魔王がすかさず背中をさすってくれる。侍従たちがまたもやぴきっと固まったが、リョウマ自身はそれどころではなかった。
「ごほ、ごほっ……いや、待ってくれ。これ、この肉ってまさか──」
「ん? 普通の肉だが」
「いやだから、なんの肉かって訊いてんだよっっ」
「ああ。そういうことか」
侍従が渡してくれた水を飲んでリョウマが少し落ち着いたところで、魔王は説明を始めた。
「安心するがいい。別にこれは、魔獣の肉ではない。普通の……というか、そなたらが一般に食している牛や豚、ニワトリなどの肉だ」
「あ……そーなんか」
なんだ。やれやれ、ほっとした。
「こう言ってはなんだが、こちらの世界ではかなりの贅沢品なのだぞ」
「え? マジ?」
「我ら魔族は、別にそなたらの牛や豚を食してもなんら問題ないからな。もちろん庶民は下級魔獣も食すが、人間らが同じものを食すと当然、魔素のためにひどい健康被害を生んでしまうはずだ。まあ《勇者パワー》を持つそなたなら大丈夫だとは思うが、病み上がりの今はやめておいたほうが無難であろう」
「あ、な……なっるほど?」
なんだろう。めちゃくちゃ気を遣ってもらっているらしい、この感じは。
敵とはいえ急に申し訳なくなってきて、リョウマはフォークを置き、後頭部をばりばり掻いた。
「なんか……悪ィな、いろいろ言っちまって。こーゆーとこがイエローとかに『ダメだ』って言われるんだよな、俺。そんで、ありがとな。なんかよくわかんねーけど、こんなよくしてもらって……」
魔王はふっと優しく笑った。
「いや気にするな。大事な我が妃のためだ。この程度のことは当然だ」
「そっか、お前のきさき……っはああああ!?」
トンデモ単語が耳に飛び込んできて、またもやリョウマは絶叫した。
「今ごろ感想か?」
ぷっと魔王がふき出した。嬉しそうににこにこ笑っている。
そのとたん、なぜかぴきっと侍従らが凍り付いた。
(……ん?)
なんだろう。なんとなく、取り巻きたちの様子がおかしい。いや、普段の彼らの様子なんて知らないのだから、この言い方は変かもしれないが。とはいえ少なくとも、これまで戦闘中に魔王に対して周囲の家来たちがこんな変な顔をして彼を見つめたことはない。
いや戦闘中なんだから当たり前なのか。
(う~ん……)
なんだろうか、この違和感は。
しばし考えこんでから、「あっ」と思った。
そういえば自分だって、こんな風に魔王が笑うところは見たことがない。この男、戦闘で対峙しているときにも笑わないわけではないが、それはあくまでも、いわゆる「悪役笑い」というヤツだ。というわけで、こんな風に妙に優しく温かい雰囲気で笑ったところは見たことがなかったのだ。
そう、あの洞窟での一件までは。
(へー。こんな顔して笑うこともあるんだな、こいつ)
なんだか鳩尾のあたりがムズムズする。妙な気分だ。それとともに感慨深くもなって、ついじっと見つめてしまっていたらしい。気が付けばエルケニヒが不思議そうにこちらを見返していた。
「どうしたのだ? 私の顔になにかついているか」
「いやそりゃ、アレよ? 俺らにはぜってーない角とか牙とか色々ついてっけども」
「……そういうことを訊いているのではない」
「うははは。わかってるわそのぐらい! いいからもっとメシよこせ!」
魔王が苦笑して、指先をまたくいと動かすと、侍従たちは呪縛を解かれたようになって再びすすす、と動きはじめた。スープの皿を下げ、こんどは分厚くて肉汁たっぷりの牛ステーキが現れる。とろりとして香りたつ、見るからにうまそうなソースが掛かっている。
リョウマの目がきらきら光った。と同時に、じゅわっと口内に唾液がわきあがる。
「おおお! にっ、にっくぅ……!」
「左様、肉だ。そちらの村では、なかなか食せぬ代物なのだろう?」
と魔王が訊ねる間にも、もうリョウマは肉にがっついていた。ナイフやフォークを使う手間も惜しんで、まるごとフォークにぶっ刺した肉にそのままかぶりついている。霜降りの上等な肉だ。口に入れた瞬間、嘘みたいにとろけてしまう。うますぎる。
「そーなんだよー。もぐもぐ、こんなすげえ贅沢品、そうそう食えねえっつの、むぐむぐ。うっはあ、うんめえ! 生きててよかった、マジサイコー!」
「わかったから、もう少し落ち着いて食せ」
「んぐんぐっ、大体よお、地下じゃあんまり牛や豚なんか飼えねえしよー。太陽の光があんまり入ってこねえから、野菜だってそんなに色々育たねえし」
「なかなか不便な生活なのだな」
「そうそう……って、あれ? いやちょっと待て。ぐふうっ!」
突然、リョウマはあることに気づいて喉を詰まらせた。
「どうした!」
魔王がすかさず背中をさすってくれる。侍従たちがまたもやぴきっと固まったが、リョウマ自身はそれどころではなかった。
「ごほ、ごほっ……いや、待ってくれ。これ、この肉ってまさか──」
「ん? 普通の肉だが」
「いやだから、なんの肉かって訊いてんだよっっ」
「ああ。そういうことか」
侍従が渡してくれた水を飲んでリョウマが少し落ち着いたところで、魔王は説明を始めた。
「安心するがいい。別にこれは、魔獣の肉ではない。普通の……というか、そなたらが一般に食している牛や豚、ニワトリなどの肉だ」
「あ……そーなんか」
なんだ。やれやれ、ほっとした。
「こう言ってはなんだが、こちらの世界ではかなりの贅沢品なのだぞ」
「え? マジ?」
「我ら魔族は、別にそなたらの牛や豚を食してもなんら問題ないからな。もちろん庶民は下級魔獣も食すが、人間らが同じものを食すと当然、魔素のためにひどい健康被害を生んでしまうはずだ。まあ《勇者パワー》を持つそなたなら大丈夫だとは思うが、病み上がりの今はやめておいたほうが無難であろう」
「あ、な……なっるほど?」
なんだろう。めちゃくちゃ気を遣ってもらっているらしい、この感じは。
敵とはいえ急に申し訳なくなってきて、リョウマはフォークを置き、後頭部をばりばり掻いた。
「なんか……悪ィな、いろいろ言っちまって。こーゆーとこがイエローとかに『ダメだ』って言われるんだよな、俺。そんで、ありがとな。なんかよくわかんねーけど、こんなよくしてもらって……」
魔王はふっと優しく笑った。
「いや気にするな。大事な我が妃のためだ。この程度のことは当然だ」
「そっか、お前のきさき……っはああああ!?」
トンデモ単語が耳に飛び込んできて、またもやリョウマは絶叫した。
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