墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

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第二章 魔王エルケニヒ

8 憤慨

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「きききききさっ、どっ、どどどどゆっ、どゆことっ……げへっごほっ」
「まず落ち着け。さあ水を」
「うっ、うくうくうくっ」

 渡されたコップの水を一気に飲み干して、リョウマは「だはーっ」と息を吐きだした。

「なんか今、とんでもねーこと言わなかったかオマエ。キサキってなんだ。それともこっちの世界にゃ、俺のしらねえ『キサキ』ってもんが存在するとか?」

 エルケニヒが一瞬黙る。
 もはや完全にイヤな予感しかしないが、リョウマは下からそろそろと体格のいい魔王の表情をうかがった。魔王は珍しくもちょっと首をかしげ、キョトンとした顔になっている。「はて?」と言わんばかりだ。

「……いや。恐らくそなたの言う『きさき』以外の言葉はこちらにもなかったと記憶しているが」
「ざっけんな、ゴラア!」
「きゃあああ!」

 いきなり立ち上がろうとしてしまい、目の前の小さな食卓を跳ね飛ばしてしまったために女官らしい人が悲鳴をあげた。

(あっ。しまっ……)

 乗っていた料理が無残に飛び散るかと思って、ヒョッと血の気が引いたのだったが、そこはさすがに魔王であり、優秀な魔族の侍従たちだった。次の瞬間にはもう、飛びはねた肉や野菜などはもちろん、コップの中身も飛び散ったスープの汁の一滴まで、光の速さで受け止めて元通りにしてしまっていたのだ。
 これにはさすがのリョウマも口をぽかんと開けたまま、ちょっと呆然としてしまった。

(なんっ……? す、すげ……)

 ちょっと見たものが信じられない。
 しかも、こんな状況で料理を素手でとらえた者は一人もいないのだ。汁ものはもとの器にそのまま受け止めているし、肉などはそれぞれに手にしたトングなどを使って巧みにとらえ、元通り皿に戻されている。そして卓は、すべて何事もなかったかのように、元通りにベッドに戻っていた。
 リョウマは完全に毒気を抜かれた形だった。

「えっ……えーと。ご、ごめんな……? 大事な食い物を」
「気にするな。これがこの者らの仕事だ」
「いや、そんでもごめん……じゃなくって!」

 今度は慎重に、自分の前から卓を脇へどけておいてから、リョウマは改めて魔王の胸元をむんずと掴んだ。

「てめえはアホか!? どわぁれが、てめえの『妃』だとう?」
「だから、そなたが」
「だーっから! ワケわかんねーしっ。大体、妃っつーのは女のことだろーがよ。俺は正真正銘、男だっつーの!」
「それは承知している。最初から一目瞭然だったが、先日はきちんと服の下も確かめさせていただいたことでもあるし」
「んぐっ……なっなななななに言ってんだボケェ!」

 リョウマは真っ赤になって爆発した。こんな衆人環視の中で何を言いだす。
 お前のような「貴人」は平気かもしれないが、ただの庶民な自分は夜のアレコレを他人に赤裸々に聞かれるなんてまったく慣れていないというのに!
 思わず手近にあった枕を魔王の顔にブン投げてやったが、魔王は涼しい顔でごくわずかに顔を動かし、それをよけただけだった。なお、彼の背後にいた侍従のひとりがスッと受け止め、ささっと元通りにベッドに戻すまでの流れが当然のように展開されたのだが、今のリョウマには見えていなかった。

「よけんなやボケエエエ! てめえちょっとそこへ座れ!」
「もう座っているが?」
「そっ、そうか……じゃなくって正座じゃボケえええ!」
「正座……ふむ」

 エルケニヒはわざとらしくもめんどくさそうな顔をしながら、もぞもぞとベッドの上へ上がり、それでも一応きちんと正座をして見せた。この男、一応「正座」がどんなものかぐらいは知っているらしい。

「あと、その人たちは外へ出せ!」
「ん? 使用人たちのことか?」
「そーだよっ」
「かれらのことは気にするに及ばぬ。かれらはプロフェッショナルだ。貴人の私生活についてはすべて『見ざる・言わざる・聞かざる』を貫くのがかれらの仕事なのだから」
「ゴタクはいーんだよっ。いいから、外へ出てもらえっつの! ちゃんと話ができねーだろっ」
「……わかった」

 言って魔王がまたわずかに人差し指を動かしただけで、現れた時と同様、またもや侍従たちが音もなく部屋から出ていった。
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