普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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7章 すべてを終わらせる

115.チョピの見立て

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 洞窟をすんなり抜けると、太陽の日差しはなく薄暗くどんよりとした空気が流れている。中でもひと際邪気の巣窟となっているのはお城だった。

 これが魔王城……。

「ここにシノブはいるんだね?」
「おそらくな。オレ達の気配は洞窟に入る時点で消してあるから、シノブには気づかれてないだろう」
「いつの間に?」

 唾をのみ込みゆっくりと問うと、少しだけホッとする答えに胸をなで下ろす。
 これでもう監視されていると言われたら、今後迂闊な行動が出来なくなり胃痛になりそう。
 シノブのことだからパパが苦しむ罠ばかりして、それを見てほくそ笑んでいるに違いない。性格がひん曲がっている。

【セイカって生き別れになった兄弟いる?】
「え、それってマヒナのこと?」
【ううん、違うよ。セイカと同じセイカのパパとセイカのお母さんと子供】

 考えるだけでシノブへの怒りが再加熱している中、何かを察ししたチョピがやって来てよく分からないことを問う。見当違いの私の答えに首を横に振り、分かりやすく説明をしてくれる。

 爆弾発言だった。

「!! パパ、龍くん。少し休憩しよう」

 あまりのことに絶句しつつ、慌てて休憩の提案。

 出発してから四時間近く経っているはずだから、いきなり言ってもおかしいとは思われない……はず。
 絶対パパに聞かれたくないし、感づかれたくもない。

「そうだな。いくら何でも城の中で休憩は出来ないしな。でもあんまり遠くに行くんじゃないぞ」

 やっぱり不振がられずすぐに許可してくれる。魔王城近辺の手前、子供扱いされるのは仕方がない。

「分かってる。太陽、あっちで作戦会議しよう」
「え?」
「だな」
「うん」

 私の言葉にパパはちょっと寂しそうに声を上げるけれど、そこはスルーして太陽とちょっと離れた場所に移動する。




「私は一人っ子だよ。弟は産まれる前に殺されている」
【でもあのお城の中にいるよ】
「え、うそ? 魔王城に弟がいる?」

 太陽にしか聞こえないよう話しを再開すれば、爆弾発言は更に威力を増す。さすがにこればかりは耳を疑い驚きを隠せない。
 お母さんは臨月の時、村人達に殺されたって、パパと龍くんに教えられている。詳しいことはまだ聞けてないけれど、噓はついていないはず。

「ひょっとしてホムンクルス?」
【ううん。ちゃんとした生身の人間と魔族だよ。でも魂がすごく穢れていて、苦しんでいる】

 考えられる可能性を言っても却下され、ますます混乱して頭を抱える。

 そんなことがあるんだろうか?

「星歌の弟ってなんなんだ?」
「チョピが弟が魔王城にいるって言うの。ホムンクルスじゃなくって、生身の身体なんだって」
「え、弟くんって生まれる前に亡くなってるんだよね?」
「そのはずなんだけど……」

 こうなってくるとその該当人物に直接会うしかなさそうだけれど、魔王城にいるってことはシノブの協力者。そんな人と私達だけで会うのは危険すぎる。
 龍くんになら話しても

「なるほどな。だから突然休憩と言い出し、太陽を連れ出したのか」
「え、龍くん?」
「オレに隠しごとするなど一億年早い」

 龍くんに助けを求めようとした直後。背後から龍くんの声がして、振り向くと軽くデコピンされる。冗談っぽく言う辺りそんなこまで怒ってないようでホッとするも、パパとお母さんがいないか辺りを慌てて見まわす。

「師匠は星歌の弟のこと知ってるのか?」
「そりゃぁな。実はこれは星夜には黙っていたんだが、スピカの遺体のお腹には赤子がいなかった」
『はい?』

 なんで今さらそんな大切なことを言うのだろうか?
 正気を疑い信じられず、三人揃って龍くんをガン見。
 チョピはポケッと私達を見つめている。

「今の今まで村人が引きずり降ろしたとばかり思ってたから、言わぬが花だと思っていた。んなこと言ったら、いくら星夜でも怒り狂うだろう?」
『…………』

 あまりのことに、今度は顔を青ざめ無言のまま頷く。

 確かにそう言うことなら、言わぬが花。
 そんなこと言ったら、パパは壊れていたかも知れない。
 私も出来れば聞きたくなかったけれど、聞かなかったら龍くんが鬼畜になっていた。

「だとしたら星歌の弟は生きていて、シノブと手を組んでいるってことか?」
「ああ。あまり考えたくないんだが」
【それも浄化の光があるから、大丈夫だよ】
「そうなの? ──弟も浄化の光でなんとかなるらしいけど、なんかここまで万能だと逆にうっさん臭いな」

 聖女の癖して万能すぎる聖女の力を疑ってしまい素直に喜べない。ここまで来るとパパじゃないけどいろいろ疑ってしまう。

 回数制限をちゃんと守って使ったとしても、代償として戦闘モードのように数日寝込みそうで怖い。

【聖女の力は偉大なの。だけどそうだね。一番大切なのはセイカの命だから、無理なく使ってね】
「うん。それは分かってる。無理は絶対しない」

 無理せず頑張る。
 聖女らしくなくてもこれが私。今のトゥーランの聖女だ。

「ちゃんと協力してやるから、そう緊張するな。もちろん星夜とスピカには内密で」

 心強い龍くんの言葉に不安はさっと消え、なんとかなる気がしてくる。龍くんがいれば百人引き。

 お母さんがいて弟がいる生活って、どんな暮らしなんだろう?
 お母さんが加わっただけでも賑やかなのに、更に弟ってもう夢のような生活なんだと思う。想像するだけでもワクワクする。
 俄然やる気が出てくる。

「よし、絶対にシノブから弟を取り戻すぞ!!」
「チュピ!!」

 気合を入れるためエイエイオーをしたのに、一緒にやってくれたのはチョピだけ。龍くんから視線をそらされ、陽は気まずそうに太の口を塞いでいる。

 ひょっとしなくても幼稚な行動だった?
 ……恥ずかしい。
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