普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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5章 私が目指す聖女とは

85.神秘的な泉

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「星歌、一体何があったんだ? え、スピカも一緒なのか?」

 血相を変えたパパがパッと現れる。
 当然緊急事態だと思っているから声が裏返り私の心配をするけれど、隣にお母さんがいることにも気づく。我に返りキョトンとした。
 その姿がちょっと可愛い。

「セイヤの馬鹿」
「え?」

 涙を流し説教作戦はもう始まったらしく、お母さんはパパを悲しそうに見つめ涙をため言葉を漏らす。
 迫真の演技がアッパレ過ぎて、私の涙が出て来ない。

「今夜は無理しないで休んでおけと言ったよな?」
「ああ。別に無理はしてない。寝る前に軽い鍛錬を少ししていただけだ」    
「軽い鍛錬って……そんな異様な殺気を漂わせている事態、軽くはないと思うんだけが。一体どのぐらいのモンスターを狩った?」
「……十五匹以上……」

 そして始まる迫力あるお母さんの質問攻めに、イマイチ理解していないパパは素直に答えるだけ。
 ただ最後の問いは気まずさを感じたのか、視線をそらし小声で答える。

 そんなに倒したたんだ。パパ……。

「それは軽い鍛錬とは言わないよ。いい加減にしないと、そうだな離婚する」
「り離婚?」

 これも演技だと分かっていても迫力満点で、実は本気じゃないかって思ってしまう怖くなる。案の定真に受けたパパは顔色が真っ青になり、声が裏返りそのまま魂が抜ける。

「パパ、しっかりして。お母さん、いくらなんでも離婚はないんじゃないの?」
「んなの演技に決まってるだろう? あたしはどんなセイヤも愛しているのだから、離婚はないよ」

 本当はいくら演技でも離婚とか嫌いとかは言って欲しくなかったんだけど、ここまでしないと私達の気持ちは伝わらないから仕方がない。

 これで効果がなかったらがっかりだ。
 私もまたパパなんて大嫌いって言ってしまうかも知れない。
 そしたらパパショック死するだろうな。

「それなら良かった。だったら私も話を合わせるね。ねぇパパ起きて。私も手伝うから、少しずつ改善していこう」

 お母さんの本音がちゃんと聞けた所で、私はそう言ってパパを優しくたたき起こす。
 
「……え、ありがとう。それじゃぁ今夜は帰って休むよ」
「それは待って。私これからこの泉でチョピとみそぎをするから、ここで見張りをしてくれる?」

 不気味なほど大人しく素直になり帰ろうとするパパに、真逆のことを言って腕を掴み引き留める。よく考えなくても明らかにこれは矛盾で、困り果てるパパ。

 お母さんとの約束と私のお願いはどちらを優先するのだろうか?
 もし迷いなくお母さんを優先したら、……ちょっとだけ嫌だな?

「分かった。スピカ、すまない。俺の第一優先は星歌の安全だから」
「そりゃぁそうだ。もし断ったりしたら、それこそ速攻離婚」
「それは勘弁だな。星歌、チョピいってきなさい」
「ありがとう。いってきます」
「チュピ」

 それは余計な心配で私を迷いなく優先してくれお母さんもだったから、私が元気いっぱいになりそう言い泉に急ぐ。

 本当に良かった。




【セイカ、みそぎは光柱の中でやるんだよ】
「光柱に中に入れるの?」
【うん、光柱の中が一番神秘的な力を宿してるの】

 ファンタジーならではのあるある設定に私の心は弾み、言われた通りゆっくりと光柱を目指す。
 水深はそこまで深くないのかちゃんと地面に足がつく。肩ぐらいの深さだから水深1mぐらいだろうか? それに聖女の泉みたく水が冷たいとかではなく、気持ちいい冷たさである。
 聖女だから一時的に浅くなって水温も上がっているとか?


【セイカボク考えたんだけれど、ツヨシの贈り物の炎を司る魔剣じゃなくって、聖剣にしようよ】
「聖剣? それはどうやって作るの?」
「材料は鋼とスピリス。光柱の聖なる粉だけ。後は聖女が想いを込めて作ればいい」

 炎を司る魔剣が作れないことを気にしてくれているのかそんな提案を持ち掛けられ、作り方を聞けば意外と簡単に作れるものだった。

 多分聖女が想いを込めて作るのが重要なんだろう。だから聖剣。
 贈り物には最適だとは思うけれど、気持ちが重過ぎてドン引きされるかも知れない。
 そんなのいらないって言われたら、泣いちゃいそう。

「同じ素材でパパのメリケンサックも作れる?」
【うん。メリケンサックぐらいなら作れるよ。セイカのパパは大喜びだね】

 パパのついでで試しに作ってみた。

 と言って渡せば、少なくても重いとは思われない……はず。

 チョピの言う通り聖女のナックルをパパにプレゼントしたら、絶対に泣いて喜んでくれる。太に渡す口実だと言ったら落ち込むだろうから、それは秘密にしておく。

「明日は朝から頑張ろうね」
【うん。あ、セイカストップ!!】
「え?」

 ゴーツン

 チョピの声も虚しく光柱に激突。鈍い音が辺りに響き渡り痛いより恥かしいが先行する。

 光柱って光の粒子の集まりだから触れられないはずなのになんで?
 これもファンタジーならではの奴?

【セイカ、大丈夫? 神秘的な力を宿す光柱はボクにしか開けられないの】
「なんとかね。これからはそう言うことは最初に言ってくれると嬉しいな」
【うん、わかった。それじゃ行くね】

 心配してくれるチョピに怒るなんて出来なくて、目を見ながら優しく頼んで分かってもらう。

 そして二回目の聖女のみそぎが始まる。 

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