普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

文字の大きさ
78 / 157
4章 それぞれの愛のかたち

59.娘の黒歴史

しおりを挟む
「こんな小さいオレ達のお姫様が、いつの間にかあんなに大きくなっちまったよな?」
「ああ、そうだな。でもまさか非行に走るとは思いもしなかった」
「よりにもよって夜遊びにパパ活するとわな。まったく純真無垢は時として怖ろしい」

 三歳の星歌のDVDを見ながら、俺達は二年前のことを思い出す。
 今となっては微笑ましい思い出(?)なんだが、当時の俺には地獄の日々だったんだ。

 中学生になっても俺にべったりでなんでも話してくれていた星歌が中二になった頃から、徐々に俺と距離を取るようになっていった。
 それだけなら思春期を迎えた娘は父親を毛嫌いすると聞かされていたため、淋しくても娘の成長を喜ぶことにした。まぁ毛嫌いまではされなかったが。
 それがいつしか平気で門限を破るようになり成績も徐々にイヤありえないほどガタ落ちで、これでは高校進学が危ういと思い少し強めに叱った。
 そしたら星歌に嫌われ会話どころか無視され続け、夜遊びまで始まる始末。後から聞けば、結構前から夜中に抜け出し夜遊びをしていらしい。

 師匠を失いスピカと産まれくる子を失い。これ以上の地獄はもうないと思っていたが、その時三度目の地獄を味わった。悩み苦しみ気が狂いそうで絶望。

 龍ノ介に相談すれば父親だったら力尽くで止めろと激怒されたが、それで家出をされ絶縁されたら俺は死んでしまう。会話がなくても無視をされても星歌が家にいるだけで良かった。
 そんな父親としてあるまじき行為をしてしまったのがいけなかったのか、ある日龍ノ介からパパ活を募集している少女達の一人が星歌じゃないかと言い出した。いくらなんでもそれはないだろうと半信半疑で現場に行けば、そこにいたのは星歌と友達。
 あの時の衝撃は今でも思い出すだけでゾッとする。

 俺の育て方がいけなかったんだろうか?
 何か悩みがあるんだろうか? 

 何度となく自問しても分からない。
 あの時ばかりは星歌が俺の前からいなくなる恐怖よりも、道を踏み外した娘を更生させる思いが先行したね。
 嫌がる星歌を無理矢理家に連れ戻し、心を鬼にして説教を続けた。
 パパ活の最悪の末路を教えた途端、ようやくいけないことだと気づきいた星歌は泣き出し、二度とパパ活と夜遊びをしないと約束してくれた。
 門限は今でもたまに破っているが、まぁそのぐらいは罰を与えて多目には見ている。


「そう考えると星歌はまだまだ手がかかる子供だな?」
「そうそう。さっきは太の洗脳が解けたら巣立つと言ったが、相手があの太だから当分それはないな。肝心な場面でやらかして騒ぎを起こしそうだ」

 顔の表情を緩め思わず声にしてしまえば、龍ノ介はさっきとは真逆のことを言いながら苦笑する。

 そうなった欲しい。

 心の奥底で強く願ってしまう自分がいる。
 もちろん二人にはうまく行って欲しいとは思っているが……。
 星歌が生き甲斐にしてきた長いようで短いこの十四年。星歌が俺から巣立っていったら、何度も言うようだが俺はどうしたらいい?
 どうやら星歌の心配よりも、俺自身の心配をした方が良いらしい。 




-星ちゃんとパパはずーと一緒だよ 約束!!
-もちろんだよ。
-なんだよ星歌、オレとは一緒じゃなくって良いのかよ?
-龍くんも一緒。三人で仲良くずーと暮らすの。

 TVに流れる幼い星歌は無邪気な笑顔を浮かべそう言って俺に抱きつき、俺は嬉しそうに星歌を抱きしめている。すると少しいじけた龍ノ介の声だけが聞こえると、星歌はカメラ目線になって当たり前とばかりにそう良い頷く。

 この頃の俺は星歌を育てるのに必死でいつか星歌が巣立っていくなど考えられず、この約束は永遠に続くとばかり思っていた。
 でもそれは違って……?

「そう言えば星歌は婿養子を取って、俺と暮らすんだった」

 見ているうちに今も似た約束を交わしたことを思い出すと、沈んでいた気持ちが一気に浮上する。思わず声に出してしまえば、龍ノ介は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべ俺をガン見。

「は、同居? それ正気で言ってんのか?」
「ああ、駄目なのか?」
「駄目ではないが、同居前提の結婚条件はハードルが高い。……まぁつよしなら三男坊で、お前を尊敬していて案外優良物件かもな?」

 呆れ果てため息を付かれ言われるのだが、助言は的確だった。

 優良物件と言ういい方はどうかと思うが。

 確かにつよしくんが星歌の旦那になれば、婿養子はともかく同居は可能だ。
 つよしくんなら俺と星歌の仲をある程度は認めてくれるだろうし、俺もつよしくんとなら仲良く出来る。そしたら俺の目の前で二人だけの世界になっても、微笑ましく思うだけ。
 三人仲良く……孫が産まれたら賑やかになるだろうな。
 そんな未来が来るのならば、星歌の巣立ちを素直に喜べる。

 さっきまで悩みが嘘のようだ。

「それ最高だな」
「よ良かったな。悩みが解決して。……馬鹿馬鹿しい……」
「ああ。俺の老後はハッピーだ」
「ろ老後って……俺達はまだアラサーなんだが……」
「ん? なんか言ったか?」
「いいや別に」

 輝かしすぎる未来にますます心が浮かれている中、なぜか凹んだ龍ノ介に何かを言われるのだか聞き取れず聞き返しても教えてくれず。
 グラスに半分以上残っていた酒を一気呑み干し、庭へと出ていく。
 不思議に思いながらも俺はDVDを最後まで見終え、自分の部屋に戻り星歌の隣で眠りについた。


 翌朝


「パパ、おはよう」
「おはよう星歌。まだ早いから寝てなさい」
「ううん、一緒にジョギングしようよ。パパには散歩程度でしかないと思うけど、今日は休息日だから、ちょうどいいんじゃない?」

 いつもの時間に起きてしまい少しだけ星歌の天使の寝顔を見ながらまどろんでいると、星歌は目を覚まし愛らしい表情を浮かべ声は俺を呼び挨拶をする。この表情も幼い時と何一つ変わらない。
 俺の言葉に星歌は首を横に振り、体調を気遣いながら嬉しい申し出をされる。

「そうだな。龍ノ介からも軽くしろと釘を打たれたよ」

 断る理由もなく二つ返事で頷き、俺と星歌は同時に起き上がる。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

【完結】大魔術師は庶民の味方です2

枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。 『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。 結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。 顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。 しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...