普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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4章 それぞれの愛のかたち

60.プレゼント

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「セイヤ、セイカ。急で悪いんだが、今から私と一緒に来てくれないか?」
「どこにですか?」
「セイヤが領主をしていた村だ」

 ジョギングからお腹を空かして帰ると玄関でルーナスさんが待っていて、挨拶もなしに深刻な表情でそう言われ場所を聞くと一瞬で緊張感が走る。

「分かりました。用意をするので少し時間を下さい」
「ああ。三十分以内で頼む」

 いつにもなく上機嫌だったパパもたちまち真顔に変わり、時間をもらうと急いで階段を駆け上がって行ってしまった。
 私と言えば緊急事態と言うのは分かったけれど、いまいち状況を飲み込めずルーナスさんを見つめた。

「セイカも用意をしてきなさい」
「分かった。全員で行くんですよね?」
「いいや、私達三人だけで行く。あちら様のご使命だ」
「え、ってことは誰かと会うんですか?」
「まぁな。詳しいことは着いたら話す」

 ますます訳が分からなくなるも、後でと言われたらそれ以上聞けない。不思議に思いながら、私も自分の部屋に急いだ。






「一体何しに行くんだろうね?」
【セイカのパパは疲れているから、静養?】
「え、それはないと……龍くんがルーナスさんに頼んで計画したならありえる? でもそしたらパパにとって辛い場所は選ばないと思うけどな」

 分からない同士が推測しても答えなんて出てくるはずもなく、あっという間に推測するのを諦める。

 もし本当に静養なら計画した人は鬼だ。

「パパ、大丈夫かな?」
【セイカと一緒なら大丈夫だよ。手を繋げばいいって言ってたでしょ?】
「そうだね。村に着いたら真っ先に手をしっかり繋ごう」

 悩みの種は結局そこで、パパの心が心配になる。

 今朝のパパは悩みなど一切感じられない晴れ晴れとした笑顔で、ジョギング中はずーと鼻歌交じりだった。そんなパパの笑顔に私まで癒されていたのに、こんなにすぐ突き落とすなんていくらなんでも酷過ぎる。
 私が手を繋ぐだけでどうにかなればいいんだけれど、なんとなく嫌な予感がするんだよね?
 ルーナスさんの雰囲気からしてただごとではない感じだった。


「星ちゃん、陽だけど入ってもいい?」
「もちろんだよ」

 見覚えがあるクマさん柄の包みを持った陽が入ってくる。

「はい、これ朝食のお弁当。おにぎりと卵焼きだよ」
「ありがとう。そう言えばお腹空いてたんだ」
【ボクも!!】

 言われてお腹が空いていたことを思い出し、包みを受け取る。まだ温かく大きくて重い。多分三人前はあるだろう。
 チョピは目を輝かしよだれジュルジュルでもうお弁当に夢中。渡したら高い確率で食べられそう。

「それからこれはつよしから、こないだのお詫びだって」
「こないだのお詫び? ……うわぁ可愛いバラのピアス」

 続けてポケットから小箱取り出し渡されて、お弁当をテーブルに置き受け取る。中に入っていたのは、透き通った赤い小さなバラのピアスだった。

 お詫びの品だって言われるとなんだか気を使わして悪いなと思う物の、思いも寄らぬ素敵なプレゼントがすごく嬉しい。
 ううん。つよしからのプレゼントだったら、例えあめ玉一つだとしても嬉しい。 

つよしが初めて一人で倒した上級モンスターの戦利品見たいよ」
「え、そんな貴重な物もらえないよ」

 とんでもなく太にとっては価値ある物に驚き、もらうのを躊躇してしまう。

 いくらバラのピアスが多分女性物で使い道がないとしても、初めての戦利品だったら宝物のはず。
 そんな大切な物、どうして私にくれるの?
  まさか中身を間違……それはないか。
 それともそれだけつよしは気にしてるってこと?

 考えれば考えるほどこのピアスがお詫びになった理由が分からないけれど、少なくても誤解はしないように心の中で強く言い聞かせる。

 つよしと私は友達以上恋人未満の関係なのに、こんな物をもらったら私は馬鹿だから期待してしまいそうで怖いんだよね?
 恋愛感情がなくても、意識はしてくれてる。
 大切に思われているんだから、振られる可能性はない。
 
 確証が薄いくだらない自信を持って告白して振られでもしたら、ショック以上に傲慢だった自分が恥ずかしい。それでいて立ち直るのにも時間が掛かる。

「もらってくれないと星ちゃんに嫌われたと思って、つよしの奴相当落ち込むと思うよ。だったら星ちゃんも上級モンスターを倒した時、ゲットした戦利品をプレゼントしたら良いんじゃない?」
「あ、そうだね。そうしよう」

 マイナスなことしか考えられなくなり気分が沈む中、陽から嬉しい情報とナイスな助言をもらい気分は瞬時に浮上する。
 よくよく考ると誤解して期待するのには変わりないけれど、この時の私はそこまで考えられず。
 あっと言う間にルンルン気分で鏡を見ながらピアスをつける。
 瞳の色と同じだからなのかもう耳元になじでいて、変な主張せずキラキラ輝いている。
 つよしからのプレゼントじゃなくてもしお店で売っていたとしても、気に入っていて買っていたと思う。
 
「星ちゃんにすごく似合ってるよ。ねぇチョピちゃん?」
【うん、すごく可愛い!!】
「二人ともありあとう……ってチョピ??」

 ピアスを褒めてくれる二人に私は照れ隠ししながら目を泳がすと、笑顔のチョピの口の周りはご飯粒だらけ。慌ててお弁当箱に視線を向けると、あろうことかお弁当箱の中は空っぽ。
 あまり衝撃的な光景に血の気はサッと引き、これ以上ないぐらいに大きなお腹の音が鳴る。

 お腹空いた。

【セイカ、ごめんなさい。……ボク、すごくお腹空いてたの】
「それは私も同じ。パパだってお腹を空かしてるの。一人いじめは駄目だよ」

 滅茶苦茶落ち込みショボンとして謝るチョピだけれど、私はそれを許さず厳しく叱りチョピを抱き上げデコピンする。
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