49 / 157
2章 私が生まれた世界“トゥーラン”
30.人は見かけじゃない
しおりを挟む
「やっぱり星歌を聖女にさせるのは間違っていたんだろうか?」
「それはオレにも分からないが、星歌には最後まで味方になって支えてくれる仲間がいるだろう?」
俺の弱音をいつものように龍ノ介は受け止めてくれ、軽い口調で大丈夫だと言ってくれ肩をバッシッとカツを入れてくれた。昔からこう言うのは何も変わらない。
本当なら傷ついた星歌を父親の俺が支えるべきなんだろうが、星歌は俺のことを気にして弱音を吐かなくなっている。
さっきだってハーフ魔族の扱いを知り辛そうな表情になるも、俺を見た瞬間元に戻ってしまった。本人は隠しているつもりでも全員にバレているため、 太くんの陽ちゃんは気を遣い星歌を連れ出し俺達と別れた。
今頃星歌は二人に胸の内を話して、泣いているのだろう。
そんな星歌をキツく抱きしめ励ましてやりたいが、今の俺には無理だから二人に託すしかなかった。それに俺が龍ノ介に頼っているように、父親より仲間に頼った方が良いのかも知れない。
俺としては淋しい限りだが。
「そうだな。所で黒崎君、あの少女は本当にハーフ魔族なのか?」
「え、髪色が何より物証拠だと思います」
「黒崎、人は見かけだけで判断したらいけないと親に教えてもらわなかったのか? あの子からはまったくと言って良いほど魔族臭などしてなかったぞ」
前ぶりなしで黒崎にあの少女について疑問をぶつければ、やっぱりと言わんばかりの迷いなき答えが返ってくる。その答えに俺だけではなく龍ノ介も呆れかえり、龍ノ介が聞きたかった疑問を投げかける。
魔族臭など星歌の前で話せば、今以上に傷つき俺達とも距離を取るだろう。そんなことされたら俺は生きていけない。だからこうして黒崎君には同行してもらった。
オレンジ色の髪の少女。確かに見かけだけなら魔族なのだが、魔族臭は一切しなかった。今の星歌のように秘薬で匂いで消していたのであればそうかも知れないが、魔族臭を消す秘薬が作れるのならカツラなどつけなくても薬で染まらせられるはず。それにあの少女の言葉には嘘偽りはなかった。かと言ってエルフでもないだろう。
「──確かに? だったらあの少女は一体?」
「魔力量が多い先祖返りだな。時たまそう言う子が生まれて将来は有望だから、二十七年前までは大切に育てられたはずなんだが」
「だったらやっぱりあの少女は混血じゃないのですか?」
「まさか魔族は敵以外に、純人間以外はすべて排除と教育されたのか?」
「いいえ。魔族は敵、ハーフ魔族とは深く関わるな。クオーターは注意しろです」
未だに魔族は敵だという考えが根付いたままの黒崎君は少女に魔族臭がしないことには疑問を持つも、後は頑なに教えを正当化し問われた問いを坦々と答えるだけ。
純粋で情に厚い良い子だとは思うが、だからずるがしこい連中に良いように使われている。今のままでは知らず知らずの内に取り返しの付かないことに荷担して、気づいた時には罪悪感に押し潰され自ら命を落とすかも知れない。そうなる前になんとかして目を覚まさせたいんだが、それも難しい。
「もし今後もオレ達と一緒に行動したいと言うのであれば、その考えはすべて捨てろ。人間と魔族とエルフは同じ知能を持った生命体と考えろ」
「……セレス姫の元に一旦戻り考えさせて下さい」
龍ノ介も相当頭にきているのらしくキツく言うと、黒崎君はビクンと身震いさせそれだけ言いオレ達からさっていく。
意外に素直……昨日のこともあって脅えてるのだろうか?
「後は本人次第だな?」
「だな。そんじゃぁオレらそのカツラを返しに行くとするか?」
「ああ。ってあれは?」
黒崎の後姿を見ながら少女を探しに行こうとすれば、路地から恐る恐るオレ達を見つめる少女の姿を見つけた。
髪を隠すためなのか紙袋を被って随分周囲を警戒しているようだが、その姿は俺にとって懐かしく愛らしい物だ。星歌が保育園の時、気に入ったのか良くやっていた。
俺の視線は少女にすぐに見つかり逃げようとするが、
「待って、おじさん達はこれを君に返しに来たんだ」
少女と視線の高さを合わせしゃがみ込み、怖がらせないようゆっくり少女に声を掛ける。
「……おじさんじゃない……」
おじさんに未だ抵抗がある龍ノ介は嫌そうに小声で突っ込むが、残念ながら俺達はもう立派なおじさんである。星歌の友達からそう呼ばれているため、俺にはもう抵抗がない。
とにかくその突っ込みはスルーだ。
「返してくれるの?」
「もちろんだよ。それに君は魔族じゃないんだろう?」
警戒しながらも俺の言葉を少しは信じてくれたのか、俺達の側にやって来てくれる。恐る恐る聞かれる問いに、不審に思われないよう言葉を選びながら答える。
魔族でも関係ないと言いたいのだが、さすがにそれを言ったら違う意味で警戒され憲兵に報告されたら面倒だ。理不尽で納得が行かなくても対策方法が見つかるまでは、表向きだけでも郷に入れば郷を従え。
「うん、そうだよ。おじちゃん達はあのお兄ちゃんと違って、ちゃんとあたいを見てくれるいい人となんだね?」
「オレはおじさんじゃなくお──ッグフ!!」
「(今はどうでも良いだろうそんなこと?)そう言ってもらえると嬉しいよ。きれいにセットしてあげるから後向いて」
ようやく少女が心を開き笑顔になってくれたと言うのに、龍ノ介はまだくだらないことにこだわってるため肘鉄を食らわし黙らせ、少女との交流を深める。けして変な意味ではない。
「うん!! そっちのおじちゃんは大丈夫?」
「大丈夫だよ。そのうち復活するから」
脇腹を抱えうずくまっている龍ノ介を心配する少女だがそれでも俺は雑に扱い、紙袋とカツラを素早く変え違和感がないようセットする。
「ありがとう。あたいの名前はミシェル。おうちは衣類専門の装備屋なんだ」
「どういたしまして。そうなんだ。だったら今から行っても良い?」
「いいよ、あたいが案内してあげる。おじちゃん達冒険者なんだね?」
ご機嫌となった少女ミシェルの自己紹介により次の行き先が決まった。
「それはオレにも分からないが、星歌には最後まで味方になって支えてくれる仲間がいるだろう?」
俺の弱音をいつものように龍ノ介は受け止めてくれ、軽い口調で大丈夫だと言ってくれ肩をバッシッとカツを入れてくれた。昔からこう言うのは何も変わらない。
本当なら傷ついた星歌を父親の俺が支えるべきなんだろうが、星歌は俺のことを気にして弱音を吐かなくなっている。
さっきだってハーフ魔族の扱いを知り辛そうな表情になるも、俺を見た瞬間元に戻ってしまった。本人は隠しているつもりでも全員にバレているため、 太くんの陽ちゃんは気を遣い星歌を連れ出し俺達と別れた。
今頃星歌は二人に胸の内を話して、泣いているのだろう。
そんな星歌をキツく抱きしめ励ましてやりたいが、今の俺には無理だから二人に託すしかなかった。それに俺が龍ノ介に頼っているように、父親より仲間に頼った方が良いのかも知れない。
俺としては淋しい限りだが。
「そうだな。所で黒崎君、あの少女は本当にハーフ魔族なのか?」
「え、髪色が何より物証拠だと思います」
「黒崎、人は見かけだけで判断したらいけないと親に教えてもらわなかったのか? あの子からはまったくと言って良いほど魔族臭などしてなかったぞ」
前ぶりなしで黒崎にあの少女について疑問をぶつければ、やっぱりと言わんばかりの迷いなき答えが返ってくる。その答えに俺だけではなく龍ノ介も呆れかえり、龍ノ介が聞きたかった疑問を投げかける。
魔族臭など星歌の前で話せば、今以上に傷つき俺達とも距離を取るだろう。そんなことされたら俺は生きていけない。だからこうして黒崎君には同行してもらった。
オレンジ色の髪の少女。確かに見かけだけなら魔族なのだが、魔族臭は一切しなかった。今の星歌のように秘薬で匂いで消していたのであればそうかも知れないが、魔族臭を消す秘薬が作れるのならカツラなどつけなくても薬で染まらせられるはず。それにあの少女の言葉には嘘偽りはなかった。かと言ってエルフでもないだろう。
「──確かに? だったらあの少女は一体?」
「魔力量が多い先祖返りだな。時たまそう言う子が生まれて将来は有望だから、二十七年前までは大切に育てられたはずなんだが」
「だったらやっぱりあの少女は混血じゃないのですか?」
「まさか魔族は敵以外に、純人間以外はすべて排除と教育されたのか?」
「いいえ。魔族は敵、ハーフ魔族とは深く関わるな。クオーターは注意しろです」
未だに魔族は敵だという考えが根付いたままの黒崎君は少女に魔族臭がしないことには疑問を持つも、後は頑なに教えを正当化し問われた問いを坦々と答えるだけ。
純粋で情に厚い良い子だとは思うが、だからずるがしこい連中に良いように使われている。今のままでは知らず知らずの内に取り返しの付かないことに荷担して、気づいた時には罪悪感に押し潰され自ら命を落とすかも知れない。そうなる前になんとかして目を覚まさせたいんだが、それも難しい。
「もし今後もオレ達と一緒に行動したいと言うのであれば、その考えはすべて捨てろ。人間と魔族とエルフは同じ知能を持った生命体と考えろ」
「……セレス姫の元に一旦戻り考えさせて下さい」
龍ノ介も相当頭にきているのらしくキツく言うと、黒崎君はビクンと身震いさせそれだけ言いオレ達からさっていく。
意外に素直……昨日のこともあって脅えてるのだろうか?
「後は本人次第だな?」
「だな。そんじゃぁオレらそのカツラを返しに行くとするか?」
「ああ。ってあれは?」
黒崎の後姿を見ながら少女を探しに行こうとすれば、路地から恐る恐るオレ達を見つめる少女の姿を見つけた。
髪を隠すためなのか紙袋を被って随分周囲を警戒しているようだが、その姿は俺にとって懐かしく愛らしい物だ。星歌が保育園の時、気に入ったのか良くやっていた。
俺の視線は少女にすぐに見つかり逃げようとするが、
「待って、おじさん達はこれを君に返しに来たんだ」
少女と視線の高さを合わせしゃがみ込み、怖がらせないようゆっくり少女に声を掛ける。
「……おじさんじゃない……」
おじさんに未だ抵抗がある龍ノ介は嫌そうに小声で突っ込むが、残念ながら俺達はもう立派なおじさんである。星歌の友達からそう呼ばれているため、俺にはもう抵抗がない。
とにかくその突っ込みはスルーだ。
「返してくれるの?」
「もちろんだよ。それに君は魔族じゃないんだろう?」
警戒しながらも俺の言葉を少しは信じてくれたのか、俺達の側にやって来てくれる。恐る恐る聞かれる問いに、不審に思われないよう言葉を選びながら答える。
魔族でも関係ないと言いたいのだが、さすがにそれを言ったら違う意味で警戒され憲兵に報告されたら面倒だ。理不尽で納得が行かなくても対策方法が見つかるまでは、表向きだけでも郷に入れば郷を従え。
「うん、そうだよ。おじちゃん達はあのお兄ちゃんと違って、ちゃんとあたいを見てくれるいい人となんだね?」
「オレはおじさんじゃなくお──ッグフ!!」
「(今はどうでも良いだろうそんなこと?)そう言ってもらえると嬉しいよ。きれいにセットしてあげるから後向いて」
ようやく少女が心を開き笑顔になってくれたと言うのに、龍ノ介はまだくだらないことにこだわってるため肘鉄を食らわし黙らせ、少女との交流を深める。けして変な意味ではない。
「うん!! そっちのおじちゃんは大丈夫?」
「大丈夫だよ。そのうち復活するから」
脇腹を抱えうずくまっている龍ノ介を心配する少女だがそれでも俺は雑に扱い、紙袋とカツラを素早く変え違和感がないようセットする。
「ありがとう。あたいの名前はミシェル。おうちは衣類専門の装備屋なんだ」
「どういたしまして。そうなんだ。だったら今から行っても良い?」
「いいよ、あたいが案内してあげる。おじちゃん達冒険者なんだね?」
ご機嫌となった少女ミシェルの自己紹介により次の行き先が決まった。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです


〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる