普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

文字の大きさ
28 / 157
1章 再び動き始めた運命の歯車

9.家ごと転移

しおりを挟む
「黒崎が、どうして??」
「…………」
「あ、オレが入れた。門扉に突っ立ってたからなんとなく」

 リビングには龍くんと太の他に黒崎がいることに、私は驚きを隠せず声をあげ指を指す。
 すると軽いのりでそう答える龍くんに、パパは怒るの通りこして呆れてため息を付く。

 龍くんは知っている?

「なぁオレ達はどうして家ごと異世界なんて飛ばされたんだ?」

 何かを真剣に考え込んでいた つよしは、重い口を開け問う。

 私と陽以外は異世界に飛ばされた理由を知らない。
 龍くんの様子からして、うすうす気づいているのかも知れないけれど。

「それは私が聖女だから連れてきたみたい」
【それに聖女を護る戦士が全員揃っているから、家ごと連れてきたんだ。ボク、すごいでしょ?】
「すごくないから。ちゃんと本人に承諾を取ってからやってよね?」
「チュピ?」

 私が知っている範囲を伝えると、チョピの口から新たなる真実が発覚する。
 自分勝手な言い分に頭が痛くなり突っ込みを入れたのに、理解されないどころかキョトンと首を傾げられるだけ。
 その姿は可愛くもあったけど、張り倒したくなる。
 
 なぜこう次から次へと問題発言ばかりしてくる?
  聖女を護る戦士ってなんですか?

「やっぱり、あの伝承は本当だったんだな」
「伝承って何?」

 やっぱり龍くんには心当たりがあるらしく一人で納得するから、伝承が知りたかった私は首を傾げ問う。

「トゥーランには歴代の王(女)とその側近だけに伝わる伝承があってな。オレも詳しくは知らないんだが、遙か昔魔族と人間との間で大きな戦があったとかでその時その戦を終結させたのが魔王と英雄の娘とその仲間達だったらしい。その娘は浄化の魔術を使えたとかで、二ヶ月前星歌が浄化の魔術を使った時もしやとは思っていたがオレ達には関係がないと思って隠していた」

 と龍くんは分かりやすく簡潔に話してくれた。
 
 それを聞いて魔王の孫娘である私が、どうして聖女候補に選ばれたか分かった気がする。
 魔族と異世界人の血が流れた私だから選ばれた。
 聖女になれるのは私だけって言われるのは、光栄なことなんだと思う。
 だけど私は……。

「そうなんだ。だけど私は聖女になんかなりたくない。トゥーランの人達は昔私とお母さんを否定したんだよ。それに魔族と言うだけで黒崎は私を殺そうとした。そんな最低な人達なんかのために、命を掛けるなんて私には出来ない」

 例えそうであっても私の考えは変わらず自分の気持ちを強く言い捨て、絶句している黒崎を睨みつけプイッと視線をそらす。
 強情な私をパパと つよしは呆気に取られているようで、陽と龍くんはおかしそうにクスクス笑う。

【セイカ、何か誤解していない? ボクは昔のように魔族と人間が手を取り合える平和な世の中に導いて欲しいだけだよ】

 そんな私にチョピはブレーキを掛けるように、解釈の違いを指摘され違う言い方で真意を告げられる。

 確かに解釈が違っていた。
 黒崎が魔族を恨んでいたから、私は魔族を倒すことが目的だと思い込んでいた。
 だから強情になって拒否を……あれ?
 魔族と人間が手を取り合える平和な世の中にしたいって、誰かの望みだった気がする。
 
 ……………。
 ……………。
 お母さん?

「ねぇパパ、魔族と人間が手を取り合える平和な世の中は、お母さんの夢だったよね?」
「え、そうだな。だけどそれが?」
「聖女の役目は、魔族と人間が手を取り合える平和な世の中へと導くことみたい」

 すぐにお母さんの望みだって思い出し確信を得られた所で、聖女の本来の役目を話す。

 聞く耳持たずで断固拒否するつもりでいた聖女だったけれど、お母さんの夢と同じなら話は別になる。
 お母さんの遺志を継いで私がその望みを叶えられたら、きっとお母さんは天国で喜んでくれるはず。
 だけどそんなこと私に出来るんだろうか?
 トゥーランの人間は私を煙たがっていて、魔族は私を魔王の器にしようとしている。
 聖女の役目を果たすには、想像以上の危険が伴う。

「ふざけるな。魔族は人類の敵だ。あいつらは人間だと分かれば、理由を聞かず無差別に殺す連中だ。そんな世界などありえない」
「そんなの人間だって同じじゃないの? 私が魔族だって分かっただけで、理由も聞かずに殺そうとしたじゃない?」

 テーブルをバンと強く叩き今朝同様黒崎は憎しみを込め魔族を悪だと決めつけるけれど、私にしてみれば聞き捨てならない言葉だったため黒崎を睨み付け負けじと言い返す。
 ここで弱気になっていたら甘く見られるだけ。

 でもそれってつまり魔族も同じ理由で人間は敵だと思っているから、人間を見ただけで無差別に殺しているだけ? 
 私だって会ったこともないトゥーランの人間を、黒崎の言葉と態度だけで毛嫌いしている。歩み寄りたいとも思わない。
 だから人間VS魔族となったんだろうか?
 そしたら案外話し合いの場を設けたらなんとかなりそうだと思うけれど、お互いに不信感を募らせている以上それは難しい。
 
「確かにそれはすまなかったとは思っている。だがやっぱり自分には魔族のお前が聖女になるのは認めない」
「あんたが認めないって言っても、チョピはあんたが女王から預かった精霊でしょ? そのチョピが私を選んだの。文句があるならこのチョピに言いなさいよね?」
【クロサキは聖女を護る戦士の一人だよ】
「黒崎は聖女を護る戦士の一人。……え、そうなの?」
「…………」

 ほんの一瞬低姿勢になるもすぐに頭ごなしに猛反発するから、私は負けじとばかりにチョピを指しだしけんか腰のまま言い返す。そしてチョピのケロッと言う言葉を何も考えず呟き、少し考え意味を理解するなり拍子抜けする。

 メチャクチャ嫌なんだけど。


  黒崎もそれは同意見のようで顔を真っ赤に染まらせ、無言のままリビングを飛び出して行く。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

【完結】大魔術師は庶民の味方です2

枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。 『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。 結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。 顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。 しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...