ETに出会えるアパートはここですか?

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保護者会

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 確かにリヒトは星來の好みのど真ん中だ。

(いや、あの顔と雰囲気で、ときめかない人なんていないんじゃない? )
 
 突然何だと思われそうだが、そんな事を思わずにいられないのはリヒトが格好良すぎるせいだ。と、星來は思う。

 
 *******
 
 今日は考紀のクラスの参観と保護者会である。
 
 ちなみに、この学校の6年は二クラスしかないので同じクラスになる確率が高く、考紀と楓も同じクラスだった。

 子供が主役のはずの参観だが、殆どの親の視線が、髪をきっちり整え、高級そうなスーツを着こなしているリヒトへ向いている。
 仕方ないだろう、マスクをしていても彼のオーラは隠しきれていないのだ。
 
 星來がそんな事を思いながら楓を見ると、彼は憮然とした表情で黒板を睨んでいた。
 よく見てみると、周りの席の女子が楓に小声でリヒトの事を尋ねている。
 
「あの人、宮島くんのお父さん? 恰好良いね」
「違う」
「いいなぁ、うちのパパと交換して」
「無理」
「きゃっ、目が合っちゃった」
「一緒に写真撮りたい!」
「王子様みたい~」
 既にアイドル並みの人気である。
 星來が隣に立っている、状況がよく呑み込めていないリヒトを見上げて苦笑いすると、リヒトは不思議そうな顔をした。
 

 暫く様子を見ていると、楓の隣の席に座る考紀が彼に何か言い、二人揃って楽しそうに笑い合った。
 直後にチャイムが鳴り、担任教師が教室へ入って来たので直ぐに止めてしまって結局何に笑っていたのか分からないままだったが、楓の機嫌があからさまに直ったので、星來は「考紀グッジョブ」と心の中で思った。
 
 それに、学校でも仲が良さそうにしている考紀と楓を見て、星來は嬉しくなった。
 考紀と言う子は誰にでも物おじせずに話す方だが、星來以外には一線を引いていて、大人びた感じで接する事が多かったからだ。
 そういうところが同級生には人気でクールで格好良いと人気らしいが、担任から友達にもそんな風だと聞いて心配になっていた。
 だから、学校でも二人が子供らしくふざけ合ったりしているのを見て安心した。


 子供たちの授業が終わった後は、親だけ残って保護者会だ。
 
 今回は2学期にある修学旅行の予定と保険関係の説明、いま決まっている持ち物などを説明され、最後に来月から始まる夏休みの話をして会は滞りなく終わった。
 
「先生、良いですか? 」
 何人か、リヒトへ話しかけたそうな保護者がいたが、リヒトは会が終わると真っ直ぐに担任のところへ向かった。
 一緒に聞いて欲しいと、星來も引っ張って来られて二人で担任を囲む。

「実は、あき……楓の父親から、今日は仕事で来られないので、代わりに楓が中学を受験する予定だと伝えて欲しいと言われました」
「ああ、受験希望なのですね。では、受験校が決まったら電話でも構わないので連絡をください」
「わかりました。それと、学校での楓の様子はどうなんでしょうか」
「そうですねぇ。前の学校では不登校気味と聞きましたが、今はクラスにも溶け込んで……」
 そのまま二人は楓の事を話し始めた。
 リヒトにはまだ近くにいて欲しいと言われたが、会話の内容にはプライベートな部分もあったので、聞いたら申し訳ないと思い、星來は教室に貼ってある掲示物を見て回る事にする。
 
 習字など、考紀の字は元気なだけだが、楓の字は大人も顔負けなくらい綺麗だ。
 自己紹介カードもしっかり書いてあって、将来の夢は天文学者になりたいと書かれていた。
 次に考紀の自己紹介カードを見ると、将来の夢はサッカー選手で一番仲の良い友達は楓、と子供らしい字で書かれていて微笑ましくなる。
(……考紀は楓くんが中学受験するの、知っているのかな)

「星來さん、先生と友達なんですってね」
 暫くすると話が終わったのか、リヒトと担任の加納が星來のところへやって来た。
 実は加納と星來は幼なじみで、高校まで一緒の学校へ通っていたのを聞いたので良く知った仲だ。
 別に隠していないので、保護者の中では知られている話だった。
 
「ああ、友達って言うか、同級生だったんですよ」
「酷い、俺は友達だと思ってたのに! 」
 加納はわざとらしく、がっくりと肩を落として見せた。
 相変わらずノリが良い。
 「ふふっ、友達ですよ。それも、赤ん坊の頃からの腐れ縁です」
 
 加納はちょっと小太りになってしまったが、子供の頃と変わらない快活な人物のままだった。
 黒縁メガネなのも変わっていない。
 そして付き合いが長いので、星來の性的志向も知っている。
 あんな事を言ったが、今でもこうして変わらず付き合ってくれる大切な友人だと、星來だってちゃんと思っているのだ。
 それに彼は教師になりたいと言う夢を叶えた、尊敬すべき人物でもある。
 星來とは、考紀の転入手続きへ来た時に10年ぶりの再会したのだが、彼が夢を実現させた事を知り、感動して少し泣いてしまったものだ。
 
「今はこんなだけど、星來は子供の頃すごく可愛かったんだよ」
 と、急に加納はリヒトに子供時代の星來の話をし始めた。
 星來が女の子だと思っていたとか、算数が苦手だったとか、中学の運動会で転んで大騒ぎになったとか、高校の文化祭でメイドの恰好をして大人気だったとか……。
 加納は気付いているのかいないのか、話しの内容は黒歴史ばかり。
 その上、星來は自分が話の中心となるのに慣れていないので、居た堪れなくなり「先に帰るね」と言って、逃げるように教室を後にした。

 それに焦ったのはリヒトだ。
 彼はすぐに星來の後を追いかけ、下駄箱でなんとか追いついた。

「星來さん」
「リヒトさん……もういいんですか? 」
「はい、一緒に帰りましょう」
「でも、俺は買い物して行きますよ」
「じゃあボクも」

 そう言って玄関を出ると、しとしとと雨が降り出していた。
「リヒトさん、傘持ってますか? 」
「いいえ」
 
 二人が持っているのは星來の折り畳み傘ひとつきりだ。
 星來はいいけれど、リヒトの高そうなスーツが濡れてしまうのは忍びない。
 目当てのスーパーは学校の目の前にあるので、リヒトに傘を譲ろうと思した。
 星來は濡れても良いからそこまで行って、もう一本傘を買えばいい――と思っていたら、急にリヒトに手を握られた。

「走って星來さん! このくらい平気! 」
「ええぇ」

 子供みたいにはしゃぎながら走るリヒトに手を引かれて、星來も何だか楽しくなってきた。
 他の保護者が目を丸くして見ていたが構うもんか、と思う。
 
 
 スーパーへ着いて、星來は店へ入る前にリヒトのスーツをハンカチで拭いた。
 上は大丈夫そうだが、下はだいぶ泥はねしていたのでクリーニングへ出す事を勧めておく。
 
「買うのは牛乳と、朝のパンと……夕食は何にしようかな」
「星來さん、この魚はどうやって食べるんですか」
「これはですね……」
「あ、これはこの間食べたやつ」

 二人で1つのカートを押して、お喋りしながら店内へ入ると、まだ早い時間だからなのか客はまばらだった。
 リヒトはこういう場所にはほとんど来た事がないそうで、興味深々で色々聞いてきたので、星來はそれに丁寧に答えながらゆっくり店内を回った。

(そう言えば、森山さんやたけしとこんな風に買い物した事なかったな……)
 森山と武こと長谷川 武は星來の昔の恋人たちだ。
 彼らは星來の作った料理を美味しそうに食べてくれたけれど、こうやって星來がどこで買い物したのかや、どうやって作っていたのかなんて、ひとつも興味が無かったように思える。
 出されたものを当たり前のように食べて……当たり前のように星來も……。
 無邪気に質問してくるリヒトを前に、つい二人との事を思い出してしまい、感傷に浸ってしまった。

「大丈夫ですか? しゃべり過ぎましたね」
「違います、ちょっと昔の事を思い出してしまって……大丈夫です。ところで今日も夕ご飯食べに来ますか?」
「はい! お願いします」
 今日の買い物は、いつものお礼だと言って、リヒトが全ての支払いをしてくれたので助かってしまった。
 そして、忘れずに傘をもう一本買う。
 
 ちなみに今日は小さいアジが格安で売られていた。
 少し手間が掛かるけれど、これをショウガやネギと一緒に蒸すと美味しいのだ。
 リヒトも初めて食べると言うので、頑張って作ろうと思う。
 
 
 帰り道、二人で荷物を分け合って持ち、並んで歩きながら「考紀は肉が好きだから、肉と野菜を炒めようか、楓くんはサラダが美味しいと言っていたなぁ。そうだ、リヒトさんは何が好きですか」と、スーパーとは逆に星來が一人で喋り続けていた。
 が、途中で視線を感じてリヒトと見上げると、彼が優しい目で自分を見ている事に気付く。
 それを見て、一緒に歩いて帰るのが嬉しくて、ちょっと浮かれてしまったかも……、と思ったら顔が赤くなってしまうのが止まらない。

「ボクは、星來さんが作ったものなら何でも好きですよ……あれ、顔が赤い。熱でも? 」
「いいえ、違います。何でもありません」
 そう言ったのに、そっと額に当てられた手の甲は、やっぱり少し冷たくてしっとりしていた。

 
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