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最終章
再度、消えてしまった詩織
しおりを挟む病院に着くと、僕は入院受付に行って、詩織の入院してる病室を聞くと逢いたくて仕方がないので急いで病室に向った。
病室では、詩織はベッドに横になりながら本を読んでいた。
詩織の顔色は昨晩の血の気の引いた顔が嘘のように血色がよくなっていて私は安心した。
「大丈夫か? 昨日はびっくりしたよ!」
僕は、ベッドの下にある椅子を引っ張りだすと腰を下ろし、詩織の手を握った。
「うん、昨日はごめんなさい。もう、お腹が痛いのも治まったし大丈夫だよ」
どうやら、薬が効いて詩織の痛みも治まったようであった。
「そっか、安心した。昨日は詩織が死んでしまうのじゃないかと思ってしまったよ」
「もう、祐一君は大袈裟なんだから……」
「大袈裟って、死にそうな声あげてたじゃないかよ」
そう言って、僕たちはお互いの顔を見て笑ったのだった。
「ところで祐一君。昨日、先生から私の事何か聞いた?」
突然、詩織は表情を曇らせてそのような事を聞いてきた。
「聞いたって何を?」
詩織が僕に聞きたい事は自身の病気のことを言ってると思ったのだが、しらを切ることにした。
「私の病気のこと……」
詩織は、少し言葉をつまらせて言った。
「あぁ、聞いたんだけど……詳しいことは家族にしか教えたらダメなんだって、とにかく大丈夫の一点ばりだったよ。詩織は先生に何か言われたの?」
「うん、生理痛だって言われただけだよ……」
僕は、詩織のその言葉を聞いて、しらを切って正解だと思った。
「全く……詩織はたいそうなんだから、心配して損しちゃったよ!」
「ごめんね、祐一君。でも、ほんとに痛かったんだから」
「謝らなくていいよ! いつでも困ったことがあったら連絡してくれよな、昨日みたいに飛んでいくよ」
僕は、自分でそう言いながら、これからは詩織の体のことも考えてやらないといけないと思うのだった。
「どうですか? お体の具合は大丈夫でしょうか」
昨日、詩織を診察した医師が詩織の具合を確認しにきた。
僕は軽く、医師に会釈をして問診が終わるの待った。
「大丈夫そうですね! 明日、もう一日様子を見て問題がなかったら、退院にしましょうか?」
医師はそう言って、詩織に確認した。
「はい、それでお願いします」
詩織は、退院が決まって嬉しそうに声を弾ませていた。
そうして、医師が病室から退室しようとした時に、医師の口から僕達を凍りつかせる事が言われたのだった。それは、僕達お互いの嘘を暴くものだった。
「あ、そうだ。今後の治療方針なのですが――フィアンセの方と話されましたか? ――最初は月経を止める投薬治療で様子を見て、それでも痛いようでしたら、手術で病巣取る方向でいきましょうか……」
僕は、デリカシーも何もない医師が腹立たしく思った。
「まだ、何も話してないですから……あとで話して決めますよ!」
「分かりました。早く決めないといけない話でないですから、ゆっくりご相談なさってください」
そう言って、医師は病室から出ていったのだった。
医師が出ていってから、さきほどまでの和やかだった病室の空気は一変していた。
詩織は目に涙を浮かべて、そして、ぼつりと言った。
「祐一君、知っていたんだ……私の病気のこと……」
この病室の空気を変えてしまった核心が詩織の口から出てしまった。
「そんなに詳しいことまでは、知らないけど、ある程度は説明を受けてた。嘘ついてごめん……」
詩織は僕の言った事を聞いてしばらく黙っていたが、ほどなくして心に突き刺さることを言った。
「何で、祐一君、嘘つくの? 嘘つくのは詩織のことが可哀想な女だと思ってるからでしょ。そう、子供の産めないかも知れない女だと思ってるからなんでしょ……」
詩織の言ったことは、図星であった。
僕は何も反論できずに固まってしまった。
「ねぇ、何か言ってよ……何もないなら……お願い、祐一君、今日は一人にさせて……」
僕は、詩織にどう答えてやったらいいのか分からなくなってしまった。
なので、とりあえずは詩織が言ってるように一人にさせてやろうと今日は帰ることにした。
そして、また明日お互いの気持ちがおさまってから、今後のことをゆっくりと話そうと思い病院を後にしたのだった。
しかし、次の日になって私に詩織と話す機会はあたえられなかった。
なぜなら、翌日、夕方に見舞いに行ったら、すでに病室に詩織の姿はなかったからだ。
ナースステーションに行って、詩織のことを聞いたら「昨日、三時すぎに担当医と話されて、慌てるように退院されましたよ」と言われたのだった。
僕は、それを聞いて、詩織のアパートに急いでいったが、部屋はもぬけの殻ですでに引越しがされてしまっていた。
もちろん、携帯も電源が切られていて、詩織は完全に僕のもとから姿をくらましてしまったのだった。
僕は、詩織が消えてしまったショックでアパートの前で膝をつくと立っていられなくなってしまった。
僕は、自分の不甲斐なさと悔しい気持ちから涙がとめどもなく頬を伝わって流れおちるのであった。
そして、頭が真っ白になって放心状態になっていた時、僕の頭を揺り動かすかのように、また、あの低い声が聞こえてきたのだった。
「よかったじゃないかよ、向こうから消えてくれて……別れる手間が省けたってもんだ」
僕は心の中で、絶対に詩織を探し出してやるとその声に反論する。
「無駄なことは止めておけ、あいつとは縁がなかったのだよ」
あの声は、そう僕に釘をさすような事を囁くと、また細胞の奥深くに戻っていった。
僕は、あの声のおかげで、逆に闘志が起こってきたのだった。
そして、絶対に詩織を救ってやると心に強く誓ったのだった。それは、まもなく三十路に入ろうかとしていた日の出来事だった。
病院で逢ったのを最後に詩織が姿を消してから二年の歳月が流れていた。
その二年の間に、僕を含めて友人達の生活は大きく変化していた。
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