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最終章
やりちん。 最終回
しおりを挟む僕は雅博の先見の明のおかげでAVサイトが大成功して、願い求めていた力であるところの金を手にいれたのだった。
年収はいうに五千万を超えるほどになっていたのだ。
そして、チームやりちんドットコムをさらに拡大するため、僕は監督と男優をやめてAV制作会社の社長になったのだった。
撮影の方は潤沢な資金を使って雇われ監督に制作させていた。
そして、次々に監督達に撮らせた新作をサイトに投入して、益々、自身の懐を潤すのだった。
それから、雅博と三平は昨年結婚した。
雅博は中学時代から付き合っていた朱美さんと純愛を貫き、見事ゴールインしたのである。
実に盛大な結婚式で参加した僕は雅博の幸福に対して嫉妬するほどであった。
一方、三平は、撮影で知り合ったSMの女王様に一目ぼれしてしまい、本来もっていたであろうMの性質を開花させ、その女王様にサイト運営で稼いだ金を貢ぎまくり結婚した。
毎日、悶絶の日々を女王様と過ごしており、子供まで作っていたのだった。
僕は、そんな友人達の幸せそうな姿を見て、どうして自分だけは一人でいないといけないのだと落ち込んでしまう時もあった。
特に三平とそっくりな子供を抱かせてもらった時など、つくづく詩織との事を考えてしまい、子供は出来なくてもいいから、せめて詩織だけは自分のそばに戻ってきて欲しいと願うのだった。
そう言った時に限って、あの声が聞こえてくるのだ。
「いなくなった奴のことをいつまでひきづっているのだ! 新しい女を作って、欲求を満足させろよ、もっと自分に正直になれ」と囁くのだった。
しかし、僕はそんな声の言うことに耳を貸さず、詩織を探すことに専念していた。
最初はどうやって一人で探していいものかと途方にくれていたが、よくよく考えると、なにも一人で探す必要がないことに気がついたのだった。
その僕の気づいた考えとは、ありあまる金を使って人探しのプロを使って詩織を探すことだった。
つまり探偵を雇ったのだった。
僕は一流と呼ばれる探偵の事務所に行って、金はいくら使ってもいいから、探しだしてくれと依頼したのである。
でも、探偵を雇ってから一ヶ月待っても、三ヶ月待っても、詩織の消息は分からなくて手がかりさえもつかめなかった。
そして、僕はそんな結果の出ないことから、徐々にあの声に毒されていってしまったのである。
僕の周りには、いつも金の力に引き寄せられた女性たちが群がってきていた。
だから、どこに行っても正直もてたのである。
最初は、そんな女性たちの僕に対する下心が見えたので相手にもしなかったのだが、雅博の事業拡大の時に知り合った女性にだけは心を惹かれてしまったのである。
僕がその女性に惹かれてしまったのは女性は金の力など全く興味がなかったからだ。
なぜなら、その女性は僕より、もっと大きな力を持った大金持ちの令嬢だったからである。
そして、また、あの声が囁くのだった。
「この女にしとけよ! この女なら若いし、お前の子供をたくさん産んでくれるぞ……」
そうして、僕はあの声に後押しされるかのように、女性としばしばデートを重ねるようになってしまった。
まだ体の関係は持っていないが、そうなるのさえ、時間の問題のように女性との関係は深くなっていくのだった。
そんな時、探偵から連絡が入った。
それは、詩織の消息がようやく分かったというものだった。
しかし、僕は以前のように、その連絡に対して大きく手をあげて喜ぶことは出来なくなっていた。
それは、まもなく、付き合ってる女性にプロポーズしようかと、婚約指輪を買いにいっていた時に連絡が入ったからである。
僕は、連絡が入った次の日に、探偵から送られてきた詩織の所在等が細かく書かれた報告書に目を通していた。
それによると、詩織は名前を変えて、北海道の札幌でホステスの仕事をしているとなっていた。
詩織の母親は昨年、他界しており、それを機に札幌に移動したようである。そして、母親の病気の治療費の捻出のために消費者金融をはじめとした金貸しから、約六百万の借金があることも記載されていた。
その、報告書を見終わった時に、またあの声が聞こえてきた。
「もう、いいだろう。そんな借金まみれの女のことは放っておけ、それより、借金をお前が返してやろうとしてる金で、もっと婚約指輪のグレードをあげたらどうだ!」
しかし、僕は報告書を見て、目が覚めていた。
それは、僕が現在この地位にいれるのは、元々、詩織を救ってやるために始めた仕事がたまたま当たっただけであるからだ。
あの声の言うことを聞いていたら人としての道を踏み外してしまうに違いない。
それに天涯孤独になってしまった詩織をほっとけるわけがないからだ。
僕は探偵事務所に電話を入れると「今から、そっちに一千万振りこむから、その金で詩織の借金を完済してくれ、あまった金は成功報酬なので取っといてくれ」と言って電話を切ったのである。
それから、僕は秘書を社長室に呼ぶと、札幌までの航空券を手配させたのだった。
五時間後、僕は飛行機に乗って札幌に向っていた。
ちょうど飛行機の札幌に着く時間は夕方過ぎで、詩織の働くスナックが開店してる頃だと思ったので都合がよかった。
そして、札幌空港に到着した僕は、タクシーを拾うと詩織の働いてるスナックにすぐに向ったのであった。
詩織の働いてるスナックは“黒薔薇”という名前のこじんまりとした雰囲気のある店に外観から思えた。
店の入り口の書かれてる一見お断りの表札が少々痛いが、そんな事を気にしてる事情じゃないので、僕はスナックに入店した。
「いらっしゃいませ」とすぐに数名の女性の明るい声が聞こえてきた。
その中の一人の女性の声は聞き覚えのある詩織のものであって、僕はすぐにその声の持ち主のところに行った。
詩織は、僕にすぐに気がつき、目を反らすかのように下を向いてしまった。
「詩織、迎えにきたよ! もう逃がさないよ……」
僕が、そう言うと詩織は泣きながら体に抱きついてきた。
「祐一君はバカだよ……どうして、ここが分かったのよ」
僕は、詩織の頭を撫でながら「詩織も知ってるだろ、俺は大バカなんだよ。わざわざ、東京から逢いにきたんだしな……」
店のママが僕達のただならぬ様子を見て、「こゆみちゃん、何があったか知らないけど泣いてたらだめでしょ。他のお客様の手前もあるから、とりあえず、テーブル席に行ってやってちょうだい」と呆れた顔をして言った。どうやらこの店では詩織はこゆみって名前のようである。
すぐに、僕達はテーブル席につき、話をすることにした。
「いろいろあって大変だったね……詩織、すぐに東京に戻ろう。約束通り、借金は全部返した。だから、もう仕事しないでいいんだよ! 安心していいんだよ!」
詩織は、僕の言ってることがすぐに理解できないようである。
「ごめん、祐一君、あまりの事で話がよくわからない。そもそも、何故ここが分かったの? それに借金返済って……」
確かに、詩織の疑問は当然である。僕は、詩織に逢えた嬉しさから話の順序を間違えてしまっている。
僕は、今まで職業を偽ってAVの仕事に携わってきた事から、そこで成功をおさめて、探偵を雇い、ここに至る経緯を順序だてて詩織に全て話したのだった。
「詩織、いろいろ嘘言ってごめんな。でも、詩織を救ってやるために必死だったんだ。それだけは分かって欲しい……」
詩織は僕の話を聞いてまた泣き出してしまった。
「ありがとう、祐一君。なんてお礼を言っていいかわからない。それに謝るのは、私の方だよ……いつも祐一君に何の連絡もなしに姿けしちゃうんだもんね……」
「ほんと、詩織の放浪癖はなんとかして欲しいよ。でも、今度は絶対に逃がさない。逃げても地の果てまで追いかけてやるから覚悟しとけよ」
そう僕は笑いながら言った。そして、詩織に人生二回目のプロポーズをしたのだった。
「詩織、がんばって約束を果たしたのだから、結婚してくれ……いや結婚してください」
僕は、童貞を捧げた時のように、頭を下げてお願いしたのだった。
「でも、私でほんとにいいの? 私は、もしかしたら祐一君の子供産めないかも知れないよ……」
その詩織の言ったことを聞いた時、あの声がまた囁いてきた。
「この女と結婚したら、人生台無しになるぞ! お前の跡継ぎはどうするんだよ!」
しかし、僕はもうDNAの言ってることなど気にならなくなっていた。
なぜなら、詩織といたら心が癒されてしまうからだ。
それに、こんなバカな子供は分身である正宗だけで充分であると思ってしまうのである。
そして、僕はDNAの声を掻き消すかのように詩織に言った。
「俺は、詩織さえそばにいてくれたら、それでいい。それに子供だって出来ないと限ったことじゃないか。それに子供てものは、コウノトリが気まぐれで運んでくるもんだよ。だから、結婚してください!」
詩織は、僕の言ったことに対して「うん」と小さく頷いてくれた。
そして「詩織を奥さんにしたら、浮気とか絶対に許さないから……」
と、笑って結婚を承諾してくれたのだった。
詩織とのプロポーズに成功した僕は、その日は東京に戻らず、札幌のホテルに泊まることにした。
ホテルに向う途中に、僕はコンビ二に立ち寄り缶ビールを買った。
ホテルで、一人祝杯を挙げる為なのだが、レジに並んでる時に有線から流れてくる、モーニング娘の新曲ハッピー・サマーウエディングが、まるで僕と詩織のことを前祝いで祝福してくれるかのように流れていた。
ホテルに戻ると、ビールを飲みたい気持ちを抑えて、シャワーを浴びることにしたのだった。シャワー後の缶ビールが格別に旨いからである。
僕は、少しぬるめのシャワーの湯を体に浴びせながら、これまでの事を懐古してしまう。
初めてエロ本に出会ったこと、私を支えてくれた友人達のこと、仕事のこと、そして詩織のこと……いろいろな出来事が走馬灯のように僕の頭の中を回りめぐるのであった。
そして、様々な出来事の生き証人である正宗をボディーシャンプーで洗いながら、労ってやるのだった。
久々にまじまじと正宗を見ると、様々な女性の鞘に入ってきたためかどす黒く変色していた。
僕は、そんな正宗を見て、随分と私と共にがんばってきたのだと思い「ありがとう」と呟いていた。
それから僕は、DNAの指令に背いてまで決めた詩織との結婚のことを正宗に聞いてみるのだった。
「これで良かったんだよなぁ……」
すると、正宗は返事をするかのように、右曲がりした体を上に持ち上げ、ぴくんと一回動いて見せた。
その動きは、まるで「いいに決まってるじゃないかと!」僕に言ってるようであったのだ。
了。
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