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第二章
詩織の影
しおりを挟む「うん、分かった。明日、お前の家に行かせてもらうよ」
僕は電話を切るとバイトに向かった。
バイト中、雅博の電話のことが気になってしかたがなかった。
一緒にバイトに入っていた僕に処女を奪われてしまった女子高生のゆこさんが熱心に話しかけてきても心ここにあらずってぐらいに電話のことが気になってしまうのだ。
でも、なんで雅博は新宿なんかにいったんだろう? そして詩織が新宿に何故いるんだ?
僕はそんなことばかり考えて、その日のバイトを終わらせたのだった。
次の日になって、学校が終わると自宅には戻らずに雅博の家に直接向った。
直接行ったのは、雅博の話が昨日から気になって仕方がなかったからにほかならないからだ。
忘れようと頭の片隅においやったはずの詩織が脳裡に鮮明になって現れ出す。
もしかしたら、「また連絡するね」と言ったきり、姿を消してしまった詩織のことが雅博に会えば分かるのではないかと仄かな期待を持ってしまうのであった。
ひさしぶりに雅博の自宅玄関に立って呼び鈴を鳴らすと、メガネ姿の雅博が現れた。
「おい、お前いつから?」
僕は、雅博がメガネをかけてる姿に驚いておもわず聞いてしまった。
「あぁ、これかぁ。つい最近だよ。まぁいいから入れって」
雅博はそう言って、僕を自室に招き入れた。
雅博の部屋は、前回訪れた時と違って随分と様変わりしていた。
前は趣味のギター関係が目立つ部屋だったが、今は大きなパソコンが机の上に置かれていて何やら見慣れない機材がパソコンにつながれていた。
「なんだ、これ?」
部屋で一番目立ってしまってるパソコンを指さして聞いていた。
「自作パソコンなんだ。市販されてるパソコンだと能力が低いので性能のいいパーツを秋葉原で買ってきて自分で作ったんだ」
雅博の言ったことは意味がわからない。
「なんで、そんな面倒なことまでしてパソコン作るんだ。市販されてる奴で十分だろ?」
「だから、言ってるだろ。市販されてるものでは能力が低くて自分のしたい事ができないんだよ」
パソコンのことに無知な私は、雅博が何をしたいのかわからないのであった。
そんな僕に、雅博は自分のしたい事を熱く語ってきた。
「俺、プログラムの勉強してるんだ。今はパソコンはまだまだ普及してないけど、将来きっとこいつの時代がくる。そのために今のうちから、こいつをマスターしようとして必死なんだよ。まぁ、そのせいでメガネかけることになっちまったけどな。祐一、こいつはなぁ、金の卵なんだよ。将来きっとビジネスになる」
雅博は嬉しそうにパソコンを撫でて言っている。
僕は、雅博の言ったチンプンカンプンな話は全く理解出来なかったが、今の段階で将来やらビジネスの事を考えているのは素直に凄いと思ってしまうのであった。
「それで、詩織を見たって本当か?」
僕は、雅博のベッドに腰かけると、ここに来た理由である本題をきりだした。
「あぁ、確かに見た。新宿で……」
雅博は、少しいいにくそうな感じである。
「そもそも、何でお前がここから数百キロも離れてる東京なんかに言って詩織を見かけるんだよ」
一気に聞きたい事を雅博にぶつけてみる。
「ショックを受けるかも知れないが聞いてくれ」
雅博はそう前置きをして話しだした。雅博の深刻そうな顔からよくない話であることは、飲み込みの悪い僕でもすぐにわかるってものである。
「実はなぁ、お前には言ってなかったが、朱美は東京で看護婦してるんだ。だから時どき東京に逢いに行ってる。それで、先週の土日にかけて朱美に逢いに行ったんだ。恥かしいのだけど、久々にあったら、やっぱりエッチしたくなるだろう。朱美は寮生活してるんで、エッチする場所はラブホしかない。だから一緒にエッチする場所を求めて歌舞伎町のラブホが密集してるとこに行ったんだ。そこで、詩織ちゃんを見かけた……」
雅博はそこまで一気に話すと肝心なところで、言いにくいことなのか言葉をつまらせて黙りこんだ。
「で……詩織はそこで何をしてたんだよ! 話があると言って途中で話をやめないでくれよ……」
僕は雅博の話の続きが聞きたくて声を荒げてしまう。
そして、雅博はしばらく黙っていたが決心がついたのか話しの続きを言ってくれた。
「詩織ちゃんはラブホテルの前でたちんぼしてた……」
初めて聞くたちんぼの意味がわからない。
「なぁ、たちんぼって何だ? 立ちションの女バージョンのことなのか」
雅博は僕が的ハズレなことを言ったみたいで、固まってしまったが、すぐに説明してくれた。
「たちんぼってのは、ラブホの前を歩いてるみず知らずの人に声をかけて。体を買ってくれって交渉することだ……」
僕は、たちんぼの意味を知って、あまりのショックで頭の思考が一瞬止まってしまった。
ぼっとしてしまってる中、雅博は話を続けていた。
「最初は朱美が詩織ちゃんを見つけたんだ。あれ詩織ちゃんじゃないかって。でも、まさかこんなところで会うわけないと思いながら確認したら、朱美の言う通り詩織ちゃんだった。おい祐一聞いてるのか?」
雅博は完全に固まってしまってる僕に声をかけてくる。
雅博の呼びかけによって、ようやく思考が再開しだした。
「ごめん、あまりにショックで話しは聞いていたよ。それで……どうなった?」
これ以上聞きたくない気にもなったが、心の方は続きを求めているようだ。
「で、声をかけようと思ったのだがやめたんだ。もし、声をかけたら、きっと逃げ出すのじゃないかと思った。それに、もう二度とあの場所ではたちんぼをしないだろうと思ったんだ! そしたら、お前が詩織ちゃんに逢えなくなってしまうだろう。だから声はかけなかったんだ……」
雅博は遠まわしに私に歌舞伎町に行けと促したのであった。
「たぶん、たちんぼってのは、縄張りとかあって同じ場所で客を取ってると思う。だから、近いうちなら逢える可能性はあると思う。詩織ちゃんのいた場所は歌舞伎町二丁目にある“ラブ&ピース”って名のラブホテルの前だ!」
今度、雅博の言ったことは、僕に歌舞伎町に行けとストレートに促すものであった。
そして、僕は雅博の言ったことを聞いて決心がついたのである。
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