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しおりを挟む「ありがとうございます。じゃあ、ビールもらってもいいですか」
「もちろん」
伊織がビールを取りに行って戻ってくるまでの間にも、星川は明日香の質問攻めに遭っている。
「ねえねえ、星川くんはいつから伊織のこと好きだったの? どこを好きになったのー?」
いらんことを聞くなと宏大に小突かれて「何よう、あんただって気になるでしょ?」と明日香がむくれている。そんなふたりを見て星川が笑っているので、伊織はすこし安心した。
本当は、今日ここに誘うにも、それなりの勇気が必要だった。
過去の彼女は明日香に嫉妬ばかりしていて、それが原因で別れたこともある。では宏大はうまくやっていたかと言われればそういうわけでもなく。基本的に約束は先着順が伊織のルールだが、自分を最優先にしてほしいという女性は一定数いる。そんなときに幼馴染との約束が先だからとそちらを優先しようものなら……そしてそれが一度や二度ではないのだから、悪感情は必然的に幼馴染のふたりに向く。伊織の要領の悪さが招いた事態ではあるが、途中でふたりに恋人を紹介することは諦めてしまった。でも、明日香も宏大も幼馴染で、家族みたいなものだから、できたら恋人になる人には、このふたりとも仲良くしてほしい。
「星川さん、ビールおまたせ」
しかし、明日香に絡まれた星川が嫌になってしまっては困る。伊織は遮るように缶ビールと脚付きのビアグラスを持って間に入った。
グラスにビールを注いだところで、じゃあ改めて乾杯しよう、と明日香が言った。
伊織と明日香はぐい吞みを、星川はビアグラスを、宏大は水の入ったグラスを持った。
「乾杯!」
*
「なんかすみませんでした。ふたりとも……っていうか、明日香、うるさかったでしょ」
うるさかったのは主に明日香だ。――宏大は途中から、またうとうとしていたし。
明日香たちが帰ったのはつい先ほど。電車があるうちに帰っていった。
騒がしいのが帰ったあとの部屋は、いつも以上に静かに感じて、伊織は内心落ち着かなかった。
星川は「そんなことないですよ」と穏やかに笑う。
「楽しい人たちで、会えてよかったです。紹介してもらって嬉しかったです」
そう言った星川の表情は本当に嬉しそうで、伊織も安心した。
明日香と宏大にふたりを紹介するのは急務だと思っていたが、実際星川がどう感じるのかわからなかった。星川がゲイにしろバイにしろ、当事者以外の人間に、関係を知られることに抵抗を感じないとは限らない。
「……ただ、俺の知らない遠田さんのこれまでを、全部近くで見てきた人たちなのかって思うと、ちょっと妬けちゃいますね」
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