ぼくのともだち 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 番外編 その1】 北の野蛮人の息子、帝都に立つ

take

文字の大きさ
12 / 24

11 イワンとタオの吉報

しおりを挟む

 青い空を、銀色の飛行機が白い雲をひいて北の空に向かって駆け抜けていった。

 最近はこの「ていさつき」が日に何回か飛ぶようになった。いつかはあれに乗って空を飛んでみたいな・・・。


 

 ぼくは帝国語の講習を「卒業」することになった。10人の北の仲間の中では一番乗りになる。

「ミハイルが来なくなるから講習の場所をドミートリーの小学校に移すけど、わからないことがあったらいつでも聞きにおいで」

 イリアはそう言ってくれた。

 よし! これで思う存分サッカーをすることができるぞ!

 6年生のキャプテン、栗色の髪のゲオルクとの約束通り、ぼくはウチの小学校のチームに加わった。毎日放課後は校庭でボールを追いかける日々が始まった。


 

 

 タオは閣下の家じゃないところで練習するようになった。

「まだ日は決まってないんだけど、そろそろ仕上げにかかってるんだ。それで貴族さんの家で楽団の人に聴いてもらってるんだ。かっかもギターやピアノを弾くけど、軍人だからね。やっぱり、『ぷろ』の人に聴いてもらわなくちゃ。それにかっかは今忙しいみたいだし。

 もともとこの音楽会は今行っているブランケンハイムこうしゃくという貴族さんがホッキニン? だしね」

 貴族の全部がそうじゃないらしいんだけど、金持ちの貴族の中にはお抱えの楽団を持っている家もあるという。

 ブランケンハイム侯爵という人はビッテンフェルト准将と同じように近衛軍団の歩兵旅団長をしている軍人なのだけれど、音楽にゾウケイガフカイ? らしくて自前の室内楽団を持っているのだそうだ。もちろん、お屋敷にはピアノもあるらしい。

 それで、舞踏会や晩餐会といった華美? な催しを嫌う皇帝陛下のために、同じように音楽を愛好している貴族たちと誘い合わせて今回の音楽会を企画? したのだという。

「こうしゃくはね、もっと多くの人たちに音楽のスソノ? を広げたいとお考えなんだよ」

 とタオは言った。

 

 ごくたまに降る雨の日やタオと会えない日は本を読むようになった。

 リタやクララに小さな子供向けの絵本を読んでやったりもしたけど、学校の図書館から借りてきた本をひとりで読んだりもした。

 手始めに教科書にも一部が載っている神君カエサルの「ガリア戦記」の小学生向けのヤツを読みはじめた。もともとはラテン語という今は使われなくなった古い言葉で書かれたもので、3000年も前に書かれた書物だというから驚く。

「へえ! ミーシャ、あんたそんなムズいの読むの? 飽きない? 」

 コニーにそう言わせるほどに本に没頭? できるのが自分でも不思議だった。戦争の話が多くてむっちゃおもしろいせいじゃないかと思う。

 わからない単語は前後のわかる単語から想像したりして読み、紙に書きとめておいて後からイリアに意味を聞きに行ったりした。自分が想像した通りの意味だったりしたときはちょっと嬉しかったりもした。


 


 

 そんな日がしばらく続いたある日。

 校庭でサッカーをしていたら青い肌の大男が2人、やってきた!

「よお、ミハイル! しばらくだな。ちったあ、アタマ良くなったか」

「うわ、イワン!」

 なんと、北の里を出るとき国境の川までぼくたちを送ってくれたイワンがアレックスに連れられてやってきたのだった。久しぶりに故郷の言葉を聞いたぼくはたちまちに感極まってしまってイワンに抱きついて泣いてしまった。

 もじゃもじゃのアタマにもじゃもじゃのひげを蓄えたイワンはとても元気そうだった。

「おいおい! 久しぶりに会ったってのに、泣くやつがあるかい!」

 そう言ってイワンはぼくのほっぺたをやさしくぺしぺし叩いて笑った。

「いやな。お前たちが出発したのは満月の日だったと思うが、それからもう一度月が満月になりかけたころにな、ヴォルゴグラードのやつらが襲って来たんだ」

「ええっ?!」

「予想もしてなかったから不意を突かれてな。畑に出ていたやつが何人か矢で手傷を負った」

 一瞬で、ぼくは血の気が引いた。

「それで、それでどうなったの? 誰か死んだ? 父は? お母さんたちは? 姉ちゃんや兄ちゃんは? ヨハンやイワノフやカーチャは!」 

 びっくりして焦ってしまったぼくはついイワンを質問攻めにしてしまった。ふるさとをはるか遠く離れているうちに自分の村が襲われたと聞いては気が動転しない方がどうかしている。

「おいおちつけ、ミハイル。オレの顔をよく見ろ。もし村やお頭やお前の家族に何かあったら、こんなに笑ってると思うか?」

「・・・大丈夫だったんだね」

「大丈夫も大丈夫。畑に出ていて手傷を負ったヤツ以外は誰一人怪我してねえし、死んじゃいねえし、攫われたりもしてねえよ」

 そう言ってイワンはドンッと胸を叩いて胸を張って見せた。

「お頭の命でな、オレは川を渡って第13軍団の砦に急を知らせに行ったんだ。で、次の日の朝イチにゃあ村に援軍を送ろうって話になった。

 そしたら、朝になってルカのヤツが来やがってな。こう言いやがった。

『おい、イワン! ヴォルゴグラードのヤツら、しっぽ巻いて逃げてったぜ』。ってな」

 そうして、イワンは、笑った。

「テッポーだよ、ミハイル。

 帝国からもらったテッポーが、俺たちの村を救ったんだ。ありゃ、スゲーもんだなあ、おい!」

 村と家族が無事だったのを知って身体じゅうからどっと力が抜けた。

「でな、第十三軍団のしれいぶってとこに連れていかれてな。ありゃ、なんていうなまえだったっけな、黒い森の・・・」

「シュバルツバルト・シュタットでしょ?」

「そう、それだ! そこへ連れて行かれたんだ。いくさの報告でな。そしたらよ、シレイカンってオヤジがよ、

『せっかく国境を超えて来たんだから、どうせならお前らに会っていけ』って言ってくれてよお・・・。

 あれだな、帝国のヤツも気の利いた事してくれるもんだな、なあアレックス」

「まあ、お前たちとの友好を深めたいという現れなのだろうな」

 イワンはすっかりアレックスとも仲良くなったみたいだった。

 せっかくはるばる来てくれたイワンにはみんなに会って欲しかった。馬でそれぞれの学校に知らせに行こうかと思っていたら、

「そんなことしなくていい、ミハイル。じつは、アレで来たんだ」

 アレックスが指さした校庭の外の街路にカーキ色のトラックが止まっていた。


 

 それぞれの学校を回って北の留学生10人とイワンを乗せたトラックはアレックスの運転で帝都の南に向かった。

 そこは「飛行場」だった。

 いつも空を見上げて憧れていた「ヒコーキ」が何台かとまっていた。

「うお、ホンモノだぜ! すっげー・・・」

「なあ、ひょっとしてアレに乗せてくれるってのかな」

 ヨーゼフやゲオルギーは今にもヒコーキに飛びかからんばかりにして驚いていた。

 アレックスは言った。

「残念だがお前たちを乗せてやることは出来ん。だが、あれをバックにして記念写真を撮ってくれるそうだ」

 きねんしゃしん?

 

 一時間ほど飛び上がって行ったり降りてくる飛行機を眺めながら待っている間に、ぼくたち留学生とイワンの分11枚の焼き増しができた。

 飛行機をバックにしてぼくら10人がイワンを囲んで並んだ。端っこにアレックスも一緒に写った。

 写真の裏側に、ぼくは短いメッセージを書いた。村で唯一わずかに帝国語が読める父に宛てたものだ。

「お父さん。マリーカお母さんとエレナお母さん。ハナ、ボリス、ヨハン、イワノフ、カーチャ。げんきですか? ぼくとシビルのりゅうがくせい10人はみんなげんきでべんきょうしています。ていこく語やがっこうにも慣れ、ともだちもたくさんできました。えんそくにいってていこくのぐんかんに乗り、せんしゃも見ました。とてもかっこよかった。

 村が襲われたと聞いてびっくりしましたが、けが人だけで済んだと聞きホッとしています。テッポーがかつやくしたときき、あんしんしました。

 ていこく軍のこういでひこーきのまえでとったきねんしゃしんを送ります。よこにうつってるのはアレックスです。お父さんのともだちなんでしょ? 

 イワンがたずねて来てくれてうれしかった。またキカイがあったらてがみします。

 おげんきで。ミハイル」

 北駅で北の里に帰るイワンを見送った。

「いや、いい土産が出来たなあ。お頭やお前たちの親、喜ぶぞう!」

 そう言って写真のはいった袋を叩いた。

「元気でね、イワン。体に気を付けて。ぼくらの家族によろしく伝えて」

「おう、まかしとけ。お前らも元気でべんきょう、ガンバレ。じゃあな」

 そうしてイワンは車上の人? になった。

 北駅からアレックスのトラックに乗って小学校に帰って来たぼくは、タオの住んでいるライヒェンバッハ家に走った。イワンが来てくれたのが嬉しくて、どうしても彼にそのことを聞かせたかったのだ。

 そうしたら・・・。

 ぼくはそこでも嬉しいニュースに接した。

「おお、ミハイル様。タオ様は今パラティーノのブランケンハイム侯爵様のお屋敷においでなのです」

 門番のハンスが教えてくれた。

「なんでも、音楽会が明日になったとか。その総仕上げの練習とかで・・・」

「ホントに?」

 ああ、いよいよ、か。

 あれだけ一生懸命に練習して来たタオの成果が披露されるのだ。ともだちとして、これほど嬉しく、同時に上手くいくように、なにか力になれることがあればと思わずにはいられなかった。

 ぼくは納得してビッテンフェルト家に帰った。


 

 夕食の席で故郷のイワンが訪ねてきてくれたことを話し、飛行場で写真を撮ったことを話した。

「しゃしん?」

 コニーは怪訝そうな顔をした。

「そう。あの、カメラでパチって・・・」

「あんた、そんなのやったの? 」

 よほどビックリさせてしまったのか、コニーは口に運ぼうとしていた肉の切れ端をポロッと落とした。

「ままー、おぎょーぎ悪いです」

 クララが母親を窘めた。

「そんなに・・・。スゴいことなの?」

「あのね、ミーシャ。スゴいもなにも・・・。しゃしんなんて。たいそうな貴族の家でも撮ったことない家多いと思うよ」

「ええっ、そんなに?」

「そうよ、ミーシャ」

 と、奥様も娘に同調して言った。

「やんごとない身分の貴族でも、そんなことはおいそれとできないわ。

 きっと帝国の政府は、それだけあなたたち北の人たちに期待しているのね」

「きたいしているのね」

 いつものように、リタが口真似して奥様と顔を見合わせうんうん頷いていた。

 嬉しいながらも身の引き締まる思いがした。

「ミーシャ。・・・あんたってさ、ナニモノなの?」

 コニーはスプーンで片方の目を塞ぎ、もう片方の目でぼくをじーっと、睨んだ。

 もちろん、クララも母親のマネをした。

「・・・」

 そこへ・・・。

「奥様! お食事中に失礼いたします。ミハイル様のご学友という御方が・・・」

 執事のフランツがダイニングに入って来るやいなや、

「ミーシャ!」

 フランツを追ってタオがダイニングに飛び込んできた。

「ミーシャ、聞いた? 」

 よほど急いできたのか、タオの息は上がっていた。

「聞いたよ。皇帝陛下の御前音楽会が明日に決まった、って・・・」

「きみも来て欲しいんだ、ミーシャ」

 と、タオは言った。

「きみに傍にいて欲しいんだよ。ぼく・・・怖いんだ」

 ぼくより3つも年下で、頼りなげにぼくを見上げてくるタオ。

 そんなタオの願いを断るなんて、ありえなかった。

「行くよ。断られたって、絶対に一緒に行くよ、タオ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...