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24、寝る時は下着はつけない

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「よーし!全員休憩ぇー!!」
ラインの中央辺りで大声を張り上げたのは、契約社員の玉木さんだ。
玉木さんは日々の出勤者の配置を決め作業の流れ全般を指揮している。言わば出荷エリアの現場監督だ。
労力を惜しまず人の面倒見も良い。
物腰が柔らかく指示も的確だから誰からも人望が厚い。休日は副業でウェブコンサルタントをやってるって話しだ。
「そこの二人も休憩だぞー!」
「はい!了解です!」
「今日はすまなかったね。急きょ増員になっちゃってね。助かったよ、ありがとう!」
「いえいえ、そんな!」
「もうちょっと頑張ってくれよな!」
「はい!お疲れ様です!」
僕は玉木さんに手を振った。玉木さんも和かに手を振って返してくれた。
「感じ良いよね。あの人」
木立が不思議そうに僕を見る。
「お前なんか変わったな。アレか、好きな女でも出来たか?」
「そんなんじゃないよ。木立のお陰だよ」
僕はムフフと笑みを付け足した。
「ムフフ?気色わりーな!」

天馬さんはニューエイジと現実はリンクしていると言った。
僕が観察した人や物の詳細なデータがニューエイジのシステムにインプットされ、人工知能紅麗亜クレアが独自のアレンジを加えてVR化している。
平たく言うと元ネタがあり、それをリアルに再現してるだけなのだが、紅麗亜クレアが絡む事によって超仮想現実が生み出された。
VRの中の僕の言動の一つ一つが次期ストーリーを組み立て、常に新しい展開に更新されているのだ。
成長し、学習し無限に広がり続けるVRだ。
それだけじゃない。
嘘か真か、天馬さんによると紅麗亜クレアのアレンジは僕の潜在意識を反映しているとも。
紅麗亜クレアがもし僕の潜在意識を反映しているのなら、ニューエイジが示す世界観は僕の理想という事になる。
しかも紅麗亜クレアはプレーヤー、つまり僕自身のバイタルサインや脳波までリアルタイムで分析し、より現実的な擬似体験を実現してるというのだから、まさにこの世のパラダイス!天国に一番近い島!と言っても過言ではないだろう。
ただ残念な事は、ニューエイジの世界観が僕の理想にどれほど近いものなのか、潜在意識が意識出来ない以上、証明も出来ない。
果たしてそれが科学と言えるのか。
僕なんかには天才天馬さんの目指すゴールは想像もつかない。
想像はつかないけれど、僕はニューエイジにすっかりハマっていた。
ちょっとした中毒みたいなもんだ。
始めは例え馬鹿げた実験にしても、天馬さんが喜ぶならまあいいや程度に考えていた。
一回か二回付き合えば納得して開放してくれるだろうと高を括っていたのだ。
ところが、今ではニューエイジがそれまで無味無臭だった僕の毎日に彩りを添えてくれている。
ニューエイジと現実は確かにリンクしてる。
現実とバーチャルの連結部分で僕は終わりの無い思考を巡らす。

その日帰ったのは夜の8時を回っていた。
さすがに僕は疲れ果て、バーチャルで遊ぶ気にはなれなかった。
缶ビールを飲み、母特製の牛丼つゆだくをお茶漬けを啜るようにかき込んだ。
よろめきながら着ている物を脱ぎ捨てバスルームに辿り着いたが、バスタブでうっかり居眠りをして溺れそうになった。
目が覚めたので、母がチビチビやっているシャンパンを失敬してキールロワイヤルを作って飲んだ。
ここまでいつも通り真っ裸で。
キッチンで3杯飲んだら目が回ってきた。
グルグル揺れる時計を見るとシンデレラ・リバティーをとっくに過ぎていた。
母がやって来て何か言ったけどウッドストックが喚いてるようにしか聞こえなかった。
自分の部屋へ上がり、フレンチ風のランジェリー・チェストから今宵のパンティーを探してるうちにフラフラになりベッドへ倒れ込んだ。
最後に僕はスマホから自分のブログ「Cafe LAFESTA」へリンクして、「寝る時は下着はつけない」とタイトルだけ書き込んだ。
他に何も思い付かなかったので、お気に入りの美脚フェチ画像を一枚添付して投稿した。
そして僕は泥の様に眠った。
夢を見た記憶はない。それは久しぶりの事だった。
次の日、Cafe LAFESTAのアクセス数が一気に跳ね上がったのは言うまでもない。

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