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5、唾液にまみれたピーチ味
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D倉庫と表示された扉を開けて中に入る。
充電中のフォークリフトのそばを通って通路を渡ると左右に天井高くまで積まれた荷物の棚が現れる。
荷物の中身は有名メーカーのインテリアと生活雑貨。種類は豊富。大きさや形も色々。一つ一つが商品番号とバーコードで在庫管理されてる。
商品棚は碁盤の目に区画整理され広い倉庫の端から端まで続いてる。
品目ごとに区分けされたエリアはネステナーと呼ばれる簡易パレットラックで更に一マスずつに仕切られ、同一商品でも仕様やサイズ、カラーの異なる商品がみっしり格納されてる。
ネステナーの高さは通常3段。直接固定せず移設が簡単に出来る。
それぞれのネステナーにはロケーションを示す看板が付いてる。倉庫内でのみ通用する住所だ。
ネステナーはコンテナと保管棚の機能を併せ持つ多段積み可能な設備なのだ。
物流倉庫は製品や商品の一時保管場所だ。
受注に合わせて次の配送先にどれだけ正確に無駄なくタイミングよく出荷出来るかが倉庫管理の基本だ。
僕たちハケン社員が実際に任される仕事は、管理をし易くしてやる事。
具体的には検品、入庫、包装やラベル貼り、値札付けといった加工、入庫・日付順にロケーションから商品を取り出すピッキング、配送先別に行う仕分けや荷揃え、運行表に基づく出庫なんかに分けられる。
どんなに倉庫管理がシステム化されようと、一個一個の荷物を運んだり検査したりするのは人の手に頼らざるを得ない。それが僕らの存在意義。
荷物の大きさや重さは関係ない。一個は一個。欠品や破損、誤配は許されない。
特にピッキングで重視されるのは正確さとスピードだ。重い物を持ち運びする体力やロケを覚えておく記憶力も必要だ。
桜蘭は早足でどんどん先へ行く。右へ曲がったり左へ曲がったり。構内では人はグリーンのマーキングテープで縁取りされた歩行レーンを歩かなくてはならない。
方向音痴の僕は彼に付いていくのが精一杯で、元居た場所に一人で戻るのは不可能と思われ。
時折、フォークリフトがファンファン音を鳴らしながら二人の前や後ろを横断していく。安全対策用のLEDブルーライトで床面を照射しながら。
猫だったらあの光りを追いかけていくに違いない。
僕は何の気なしに桜蘭の形の良い尻を見ていた。
歩く度にキュッ、キュッと音が聞こえそうなヒップライン。
七分丈のブルージーンズに包まれたしなやかで長い脚。黒いランニングシューズ。細い足首。
腰から下げたキットソンのポーチが軽やかに揺れる。
「俺のケツになんかついてっか?」
不意に声を掛けられ僕はしどろもどろになった。
「いや別に。見てないけど。ケツはとくに」
「ならイイんだけど。この辺はNライン。通称ナンパラインだ。お前みたいなのはイチコロだぞ」
「そうかよ。ナンパなんて冗談だろ」
「フフ。そういうウブな所がさ。フォークマンが誘ってきてもホイホイ付いてくなよ。奴らの中には強引なのがいるからな」
「何だって?」
「ここはピッキングエリアだ。そういう所なんだよ」
「わかってるよ」
「やれやれ、ホントにわかってんのかよ。おし、着いたぞ。そっちに回れ。そだ。その中に入れ」
チラリと見えたのはHで始まる看板とロケ番号。ここが噂のHエリアか。
桜蘭はネステナーの中に僕を押し込んだ。押し込むついでに僕のお尻をしっかり撫でて。
「おい!」
「うるさい。もう少し奥行け」
荷物と荷物の間に入り込む。
「何を始めるんだ?」
「何も。待ってろ」桜蘭は座り込む。
僕も腰を下ろした。自分のウェストポーチからVICKSのピーチ味を出して口に含む。
「俺にも」
「ざーんねん!最後の一個だ」
「そうかよ。じゃそれでイイや」
そう言うと、桜蘭は僕の口を無理矢理こじ開けてドロップを取り出し、ポイと自分の口に放り込んだ。
「わっ!イテテ!」
無茶しやがって!
「強引なのはお前じゃないか!返せよ!」
「やなこった。ベエー。シッ!ほら、来たぞ」
一列先のロケにヘルメットを被った男が二人やって来た。仲良さげに手を繋いでる。
「前のが後ろの奴をピックアップしたんだ。意味わかんだろ」
「そのピッキングか!ナンパされたのか」
「そうとも言う」
僕から奪ったピーチ味を平気な顔で舐めながら桜蘭は親指を立てた。何がグーッ!なんだか。
他人の唾液にまみれたキャンディーがそんなに美味いのか!
ドロップを舐める横顔にまたしても僕は見惚れてしまう。
充電中のフォークリフトのそばを通って通路を渡ると左右に天井高くまで積まれた荷物の棚が現れる。
荷物の中身は有名メーカーのインテリアと生活雑貨。種類は豊富。大きさや形も色々。一つ一つが商品番号とバーコードで在庫管理されてる。
商品棚は碁盤の目に区画整理され広い倉庫の端から端まで続いてる。
品目ごとに区分けされたエリアはネステナーと呼ばれる簡易パレットラックで更に一マスずつに仕切られ、同一商品でも仕様やサイズ、カラーの異なる商品がみっしり格納されてる。
ネステナーの高さは通常3段。直接固定せず移設が簡単に出来る。
それぞれのネステナーにはロケーションを示す看板が付いてる。倉庫内でのみ通用する住所だ。
ネステナーはコンテナと保管棚の機能を併せ持つ多段積み可能な設備なのだ。
物流倉庫は製品や商品の一時保管場所だ。
受注に合わせて次の配送先にどれだけ正確に無駄なくタイミングよく出荷出来るかが倉庫管理の基本だ。
僕たちハケン社員が実際に任される仕事は、管理をし易くしてやる事。
具体的には検品、入庫、包装やラベル貼り、値札付けといった加工、入庫・日付順にロケーションから商品を取り出すピッキング、配送先別に行う仕分けや荷揃え、運行表に基づく出庫なんかに分けられる。
どんなに倉庫管理がシステム化されようと、一個一個の荷物を運んだり検査したりするのは人の手に頼らざるを得ない。それが僕らの存在意義。
荷物の大きさや重さは関係ない。一個は一個。欠品や破損、誤配は許されない。
特にピッキングで重視されるのは正確さとスピードだ。重い物を持ち運びする体力やロケを覚えておく記憶力も必要だ。
桜蘭は早足でどんどん先へ行く。右へ曲がったり左へ曲がったり。構内では人はグリーンのマーキングテープで縁取りされた歩行レーンを歩かなくてはならない。
方向音痴の僕は彼に付いていくのが精一杯で、元居た場所に一人で戻るのは不可能と思われ。
時折、フォークリフトがファンファン音を鳴らしながら二人の前や後ろを横断していく。安全対策用のLEDブルーライトで床面を照射しながら。
猫だったらあの光りを追いかけていくに違いない。
僕は何の気なしに桜蘭の形の良い尻を見ていた。
歩く度にキュッ、キュッと音が聞こえそうなヒップライン。
七分丈のブルージーンズに包まれたしなやかで長い脚。黒いランニングシューズ。細い足首。
腰から下げたキットソンのポーチが軽やかに揺れる。
「俺のケツになんかついてっか?」
不意に声を掛けられ僕はしどろもどろになった。
「いや別に。見てないけど。ケツはとくに」
「ならイイんだけど。この辺はNライン。通称ナンパラインだ。お前みたいなのはイチコロだぞ」
「そうかよ。ナンパなんて冗談だろ」
「フフ。そういうウブな所がさ。フォークマンが誘ってきてもホイホイ付いてくなよ。奴らの中には強引なのがいるからな」
「何だって?」
「ここはピッキングエリアだ。そういう所なんだよ」
「わかってるよ」
「やれやれ、ホントにわかってんのかよ。おし、着いたぞ。そっちに回れ。そだ。その中に入れ」
チラリと見えたのはHで始まる看板とロケ番号。ここが噂のHエリアか。
桜蘭はネステナーの中に僕を押し込んだ。押し込むついでに僕のお尻をしっかり撫でて。
「おい!」
「うるさい。もう少し奥行け」
荷物と荷物の間に入り込む。
「何を始めるんだ?」
「何も。待ってろ」桜蘭は座り込む。
僕も腰を下ろした。自分のウェストポーチからVICKSのピーチ味を出して口に含む。
「俺にも」
「ざーんねん!最後の一個だ」
「そうかよ。じゃそれでイイや」
そう言うと、桜蘭は僕の口を無理矢理こじ開けてドロップを取り出し、ポイと自分の口に放り込んだ。
「わっ!イテテ!」
無茶しやがって!
「強引なのはお前じゃないか!返せよ!」
「やなこった。ベエー。シッ!ほら、来たぞ」
一列先のロケにヘルメットを被った男が二人やって来た。仲良さげに手を繋いでる。
「前のが後ろの奴をピックアップしたんだ。意味わかんだろ」
「そのピッキングか!ナンパされたのか」
「そうとも言う」
僕から奪ったピーチ味を平気な顔で舐めながら桜蘭は親指を立てた。何がグーッ!なんだか。
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