上 下
5 / 63

5、唾液にまみれたピーチ味

しおりを挟む
D倉庫と表示された扉を開けて中に入る。
充電中のフォークリフトのそばを通って通路を渡ると左右に天井高くまで積まれた荷物の棚が現れる。
荷物の中身は有名メーカーのインテリアと生活雑貨。種類は豊富。大きさや形も色々。一つ一つが商品番号とバーコードで在庫管理されてる。
商品棚は碁盤の目に区画整理され広い倉庫の端から端まで続いてる。
品目ごとに区分けされたエリアはネステナーと呼ばれる簡易パレットラックで更に一マスずつに仕切られ、同一商品でも仕様やサイズ、カラーの異なる商品がみっしり格納されてる。
ネステナーの高さは通常3段。直接固定せず移設が簡単に出来る。
それぞれのネステナーにはロケーションを示す看板が付いてる。倉庫内でのみ通用する住所だ。
ネステナーはコンテナと保管棚の機能を併せ持つ多段積み可能な設備なのだ。

物流倉庫は製品や商品の一時保管場所だ。
受注に合わせて次の配送先にどれだけ正確に無駄なくタイミングよく出荷出来るかが倉庫管理の基本だ。
僕たちハケン社員が実際に任される仕事は、管理をし易くしてやる事。
具体的には検品、入庫、包装やラベル貼り、値札付けといった加工、入庫・日付順にロケーションから商品を取り出すピッキング、配送先別に行う仕分けや荷揃え、運行表に基づく出庫なんかに分けられる。
どんなに倉庫管理がシステム化されようと、一個一個の荷物を運んだり検査したりするのは人の手に頼らざるを得ない。それが僕らの存在意義。
荷物の大きさや重さは関係ない。一個は一個。欠品や破損、誤配は許されない。
特にピッキングで重視されるのは正確さとスピードだ。重い物を持ち運びする体力やロケを覚えておく記憶力も必要だ。

桜蘭は早足でどんどん先へ行く。右へ曲がったり左へ曲がったり。構内では人はグリーンのマーキングテープで縁取りされた歩行レーンを歩かなくてはならない。
方向音痴の僕は彼に付いていくのが精一杯で、元居た場所に一人で戻るのは不可能と思われ。
時折、フォークリフトがファンファン音を鳴らしながら二人の前や後ろを横断していく。安全対策用のLEDブルーライトで床面を照射しながら。
猫だったらあの光りを追いかけていくに違いない。

僕は何の気なしに桜蘭の形の良い尻を見ていた。
歩く度にキュッ、キュッと音が聞こえそうなヒップライン。
七分丈のブルージーンズに包まれたしなやかで長い脚。黒いランニングシューズ。細い足首。
腰から下げたキットソンのポーチが軽やかに揺れる。
「俺のケツになんかついてっか?」
不意に声を掛けられ僕はしどろもどろになった。
「いや別に。見てないけど。ケツはとくに」
「ならイイんだけど。この辺はNライン。通称ナンパラインだ。お前みたいなのはイチコロだぞ」
「そうかよ。ナンパなんて冗談だろ」
「フフ。そういうウブな所がさ。フォークマンが誘ってきてもホイホイ付いてくなよ。奴らの中には強引なのがいるからな」
「何だって?」
「ここはピッキングエリアだ。そういう所なんだよ」
「わかってるよ」
「やれやれ、ホントにわかってんのかよ。おし、着いたぞ。そっちに回れ。そだ。その中に入れ」

チラリと見えたのはHで始まる看板とロケ番号。ここが噂のHエリアか。
桜蘭はネステナーの中に僕を押し込んだ。押し込むついでに僕のお尻をしっかり撫でて。
「おい!」
「うるさい。もう少し奥行け」
荷物と荷物の間に入り込む。
「何を始めるんだ?」
「何も。待ってろ」桜蘭は座り込む。
僕も腰を下ろした。自分のウェストポーチからVICKSのピーチ味を出して口に含む。
「俺にも」
「ざーんねん!最後の一個だ」
「そうかよ。じゃそれでイイや」
そう言うと、桜蘭は僕の口を無理矢理こじ開けてドロップを取り出し、ポイと自分の口に放り込んだ。
「わっ!イテテ!」
無茶しやがって!
「強引なのはお前じゃないか!返せよ!」
「やなこった。ベエー。シッ!ほら、来たぞ」
一列先のロケにヘルメットを被った男が二人やって来た。仲良さげに手を繋いでる。

「前のが後ろの奴をピックアップしたんだ。意味わかんだろ」
「そのピッキングか!ナンパされたのか」
「そうとも言う」
僕から奪ったピーチ味を平気な顔で舐めながら桜蘭は親指を立てた。何がグーッ!なんだか。
他人の唾液にまみれたキャンディーがそんなに美味いのか!
ドロップを舐める横顔にまたしても僕は見惚れてしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

昭和から平成の性的イジメ

ポコたん
BL
バブル期に出てきたチーマーを舞台にしたイジメをテーマにした創作小説です。 内容は実際にあったとされる内容を小説にする為に色付けしています。私自身がチーマーだったり被害者だったわけではないので目撃者などに聞いた事を取り上げています。 実際に被害に遭われた方や目撃者の方がいましたら感想をお願いします。 全2話 チーマーとは 茶髪にしたりピアスをしたりしてゲームセンターやコンビニにグループ(チーム)でたむろしている不良少年。 [補説] 昭和末期から平成初期にかけて目立ち、通行人に因縁をつけて金銭を脅し取ることなどもあった。 東京渋谷センター街が発祥の地という。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

後悔 「あるゲイの回想」短編集

ryuuza
BL
僕はゲイです。今までの男たちとの数々の出会いの中、あの時こうしていれば、ああしていればと後悔した経験が沢山あります。そんな1シーンを集めてみました。殆どノンフィクションです。ゲイ男性向けですが、ゲイに興味のある女性も大歓迎です。基本1話完結で短編として読めますが、1話から順に読んでいただくと、より話の内容が分かるかもしれません。

【 よくあるバイト 】完

霜月 雄之助
BL
若い時には 色んな稼ぎ方があった。 様々な男たちの物語。

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

男色官能小説短編集

明治通りの民
BL
男色官能小説の短編集です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...