終極の撃癒師【ヒーラー】~絶対無敗の撃破スキル【撃癒】を極めた治療師。どんな病気も困難もぶん殴って解決へ~

和泉鷹央

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第五章 撃癒師と一撃殺と暗黒街の花嫁

第43話 撃癒師と初めての夜会

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「なっ、なんのことかな?」
「時系列がおかしい! ワニの幼生が夢の中に出て来た? もしそれが本当だとしても、君が特殊な能力を与えられたのだとしても、今の話だとそのワニはまだ魔石の中に封じ込められていることになる。そうじゃない? 自分が入ったままの魔石を、女と交換条件に渡されて喜ぶ奴がいったいどこにいるのさ! ええ、ほら、ちゃんと喋りなよ!」

 指先で右の頬をグリグリと捻られながら、カールはロニーの暴言に耐えた。

「君みたいにこれまで彼女の一人もいなかった男がいきなり二人の女性を妻にする? それだって贅沢が過ぎるでしょ! 話の筋が通ってない! ほらちゃんと言えよ!」

 今度は固く握った拳の先で、右の頬をぐりぐりとされる。
 その拳は少女のように柔らかいものではなくて、10年余りの武術修行に耐えたカールのそれと同じほどに硬かった。

 一体何を食べてどんな修行したらそんな拳になるんだよ! と心の中で毒づきながら、どこまで話したものかともう一度、目算を立てる。

「い、言い忘れてた! 先にそのワニ……ドラエナって言う、モーニングスーツを着こなした、二本足で立つワニなんだけど」
「……は?」
「嘘じゃないんだ。魔炎によって肉体を失ったヘイステス・アリゲーターの中から、ドラエナの入った魔石が出てきて。僕が預かった夜に、ドラエナがみんなに幻覚を見せた。船の上のはずなのにあたり一面ベッドの真横には水が溜まっていたんだ」
「はあ……」
「ドラエナは浴室でのんびりと水に浸かっていて、最初、僕が見つけたらいきなり消えてしまった。そこにダレネ侯爵がやってきて、ローゼを巡って争いになり、魔石を渡したんだ」
「ちょっと意味がわかんない」
「聞いたらわかるから……。それでまた眠ったら夢の中に彼が出てきて」
「それで特殊能力を授かった? どうして? なんで感謝されたの? 全くもって意味がわからない」
「ああ、もう!」

 頭を抱えるカール。その額を指先で再びグリグリと弄り倒すロニー。彼女の鼻先とカールの頬が触れるか触れないかほどの距離で、相手の息遣いが柔らかく肌を刺激する。

「気を付けた方がいいよ。カールは嘘をつくとき、必ずと言っていいほど左手の薬指を握りこむ癖があるから」
「えっ、嘘っ」

 言われて初めて気づく自分の新たな一面に、カールの頭脳が警鐘を鳴らす。
 もうこれ以上嘘をつくことは無理だ!

「教えてくれないと新しい奥様達に君の秘密バラしちゃうからね」
「どんな秘密だよー!」
「宮廷魔導師になって、一番最初の社交界。誰に誘われてどんな感想をボクに告げたか、ボクはちゃんと知っている」
「悪魔ー! それ、君の策略じゃないか! 魔法で髪の色を変えてあんな美しいドレスを着てあんな素晴らしい優雅な作法で誘われたら……。あの後、僕がどれほど兄弟子たちに殴られたと思ってるんだよ!」
「でも君はちゃんと最後までボクのステップについてこれたものね。このまま夜を過ごしてもいいのですよって誘ったら拒否しなかったじゃない? 逃げたけど」
「……」
「腰抜け」
「ひどい!」
「これ以上悪く言われたくなかったら、ちゃんと吐け。さもないとありもしない噂をばらまいてやる。あの夜、ボクは君に純潔を捧げたって――」
「ワーワーワーワーッ! わかった、話す話すから。お願いだからもうやめてくれ!」
「フヒッヒ。最初からそう素直に言えばいいんだよ」

 ロニーは悪女だ。
 この世で最低最悪の本物の悪女だ。

 生涯消えない汚点を、こいつは握られている。
 ロニーの卑怯なところはあの夜の美しい女性が自分だとは誰にも公言しないことだ。自ら語るのではなく、後から彼女が魔法で髪の色を変え、別人になりすまして社交界を楽しんでいた。

 そんな噂を流して冒険心のある楽しい女性だと皆に思わせる。
 それほど策略に長けているからこそ、彼女はやり手の起業家として財産を築いていけるのかもしれないけれど。

「そのワニは何者?」
「……赤い月の女神ラフィネの御遣いだって言っていた」
「女神様の眷属! これはちょっと驚き。それでそれで」
「ある用事のために地上へと舞い降りたら、さっき話したダレネ侯爵たちの策略にはまってしまって、魔石に閉じ込められた。で、それをヘイステス・アリゲーターの中に入れて、侯爵たちが乗り込んだ船へと送り届けさせる。そんな計画だったみたい。ついでにあのドラゴンも……女神様の眷属を拿捕するための、策略の一つだったって言ってた」
「それはいつ聞いたの? 特殊な能力をもらった時?」

 そうだ、とカールはうなづく。
 不思議なことに二人の距離は変わらないままで、ロニーは人差し指をカールの額から外し、自分の額をくっつけるようにして、少年の目を覗きこんでくる。

 

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