43 / 49
第五章 撃癒師と一撃殺と暗黒街の花嫁
第43話 撃癒師と初めての夜会
しおりを挟む
「なっ、なんのことかな?」
「時系列がおかしい! ワニの幼生が夢の中に出て来た? もしそれが本当だとしても、君が特殊な能力を与えられたのだとしても、今の話だとそのワニはまだ魔石の中に封じ込められていることになる。そうじゃない? 自分が入ったままの魔石を、女と交換条件に渡されて喜ぶ奴がいったいどこにいるのさ! ええ、ほら、ちゃんと喋りなよ!」
指先で右の頬をグリグリと捻られながら、カールはロニーの暴言に耐えた。
「君みたいにこれまで彼女の一人もいなかった男がいきなり二人の女性を妻にする? それだって贅沢が過ぎるでしょ! 話の筋が通ってない! ほらちゃんと言えよ!」
今度は固く握った拳の先で、右の頬をぐりぐりとされる。
その拳は少女のように柔らかいものではなくて、10年余りの武術修行に耐えたカールのそれと同じほどに硬かった。
一体何を食べてどんな修行したらそんな拳になるんだよ! と心の中で毒づきながら、どこまで話したものかともう一度、目算を立てる。
「い、言い忘れてた! 先にそのワニ……ドラエナって言う、モーニングスーツを着こなした、二本足で立つワニなんだけど」
「……は?」
「嘘じゃないんだ。魔炎によって肉体を失ったヘイステス・アリゲーターの中から、ドラエナの入った魔石が出てきて。僕が預かった夜に、ドラエナがみんなに幻覚を見せた。船の上のはずなのにあたり一面ベッドの真横には水が溜まっていたんだ」
「はあ……」
「ドラエナは浴室でのんびりと水に浸かっていて、最初、僕が見つけたらいきなり消えてしまった。そこにダレネ侯爵がやってきて、ローゼを巡って争いになり、魔石を渡したんだ」
「ちょっと意味がわかんない」
「聞いたらわかるから……。それでまた眠ったら夢の中に彼が出てきて」
「それで特殊能力を授かった? どうして? なんで感謝されたの? 全くもって意味がわからない」
「ああ、もう!」
頭を抱えるカール。その額を指先で再びグリグリと弄り倒すロニー。彼女の鼻先とカールの頬が触れるか触れないかほどの距離で、相手の息遣いが柔らかく肌を刺激する。
「気を付けた方がいいよ。カールは嘘をつくとき、必ずと言っていいほど左手の薬指を握りこむ癖があるから」
「えっ、嘘っ」
言われて初めて気づく自分の新たな一面に、カールの頭脳が警鐘を鳴らす。
もうこれ以上嘘をつくことは無理だ!
「教えてくれないと新しい奥様達に君の秘密バラしちゃうからね」
「どんな秘密だよー!」
「宮廷魔導師になって、一番最初の社交界。誰に誘われてどんな感想をボクに告げたか、ボクはちゃんと知っている」
「悪魔ー! それ、君の策略じゃないか! 魔法で髪の色を変えてあんな美しいドレスを着てあんな素晴らしい優雅な作法で誘われたら……。あの後、僕がどれほど兄弟子たちに殴られたと思ってるんだよ!」
「でも君はちゃんと最後までボクのステップについてこれたものね。このまま夜を過ごしてもいいのですよって誘ったら拒否しなかったじゃない? 逃げたけど」
「……」
「腰抜け」
「ひどい!」
「これ以上悪く言われたくなかったら、ちゃんと吐け。さもないとありもしない噂をばらまいてやる。あの夜、ボクは君に純潔を捧げたって――」
「ワーワーワーワーッ! わかった、話す話すから。お願いだからもうやめてくれ!」
「フヒッヒ。最初からそう素直に言えばいいんだよ」
ロニーは悪女だ。
この世で最低最悪の本物の悪女だ。
生涯消えない汚点を、こいつは握られている。
ロニーの卑怯なところはあの夜の美しい女性が自分だとは誰にも公言しないことだ。自ら語るのではなく、後から彼女が魔法で髪の色を変え、別人になりすまして社交界を楽しんでいた。
そんな噂を流して冒険心のある楽しい女性だと皆に思わせる。
それほど策略に長けているからこそ、彼女はやり手の起業家として財産を築いていけるのかもしれないけれど。
「そのワニは何者?」
「……赤い月の女神ラフィネの御遣いだって言っていた」
「女神様の眷属! これはちょっと驚き。それでそれで」
「ある用事のために地上へと舞い降りたら、さっき話したダレネ侯爵たちの策略にはまってしまって、魔石に閉じ込められた。で、それをヘイステス・アリゲーターの中に入れて、侯爵たちが乗り込んだ船へと送り届けさせる。そんな計画だったみたい。ついでにあのドラゴンも……女神様の眷属を拿捕するための、策略の一つだったって言ってた」
「それはいつ聞いたの? 特殊な能力をもらった時?」
そうだ、とカールはうなづく。
不思議なことに二人の距離は変わらないままで、ロニーは人差し指をカールの額から外し、自分の額をくっつけるようにして、少年の目を覗きこんでくる。
「時系列がおかしい! ワニの幼生が夢の中に出て来た? もしそれが本当だとしても、君が特殊な能力を与えられたのだとしても、今の話だとそのワニはまだ魔石の中に封じ込められていることになる。そうじゃない? 自分が入ったままの魔石を、女と交換条件に渡されて喜ぶ奴がいったいどこにいるのさ! ええ、ほら、ちゃんと喋りなよ!」
指先で右の頬をグリグリと捻られながら、カールはロニーの暴言に耐えた。
「君みたいにこれまで彼女の一人もいなかった男がいきなり二人の女性を妻にする? それだって贅沢が過ぎるでしょ! 話の筋が通ってない! ほらちゃんと言えよ!」
今度は固く握った拳の先で、右の頬をぐりぐりとされる。
その拳は少女のように柔らかいものではなくて、10年余りの武術修行に耐えたカールのそれと同じほどに硬かった。
一体何を食べてどんな修行したらそんな拳になるんだよ! と心の中で毒づきながら、どこまで話したものかともう一度、目算を立てる。
「い、言い忘れてた! 先にそのワニ……ドラエナって言う、モーニングスーツを着こなした、二本足で立つワニなんだけど」
「……は?」
「嘘じゃないんだ。魔炎によって肉体を失ったヘイステス・アリゲーターの中から、ドラエナの入った魔石が出てきて。僕が預かった夜に、ドラエナがみんなに幻覚を見せた。船の上のはずなのにあたり一面ベッドの真横には水が溜まっていたんだ」
「はあ……」
「ドラエナは浴室でのんびりと水に浸かっていて、最初、僕が見つけたらいきなり消えてしまった。そこにダレネ侯爵がやってきて、ローゼを巡って争いになり、魔石を渡したんだ」
「ちょっと意味がわかんない」
「聞いたらわかるから……。それでまた眠ったら夢の中に彼が出てきて」
「それで特殊能力を授かった? どうして? なんで感謝されたの? 全くもって意味がわからない」
「ああ、もう!」
頭を抱えるカール。その額を指先で再びグリグリと弄り倒すロニー。彼女の鼻先とカールの頬が触れるか触れないかほどの距離で、相手の息遣いが柔らかく肌を刺激する。
「気を付けた方がいいよ。カールは嘘をつくとき、必ずと言っていいほど左手の薬指を握りこむ癖があるから」
「えっ、嘘っ」
言われて初めて気づく自分の新たな一面に、カールの頭脳が警鐘を鳴らす。
もうこれ以上嘘をつくことは無理だ!
「教えてくれないと新しい奥様達に君の秘密バラしちゃうからね」
「どんな秘密だよー!」
「宮廷魔導師になって、一番最初の社交界。誰に誘われてどんな感想をボクに告げたか、ボクはちゃんと知っている」
「悪魔ー! それ、君の策略じゃないか! 魔法で髪の色を変えてあんな美しいドレスを着てあんな素晴らしい優雅な作法で誘われたら……。あの後、僕がどれほど兄弟子たちに殴られたと思ってるんだよ!」
「でも君はちゃんと最後までボクのステップについてこれたものね。このまま夜を過ごしてもいいのですよって誘ったら拒否しなかったじゃない? 逃げたけど」
「……」
「腰抜け」
「ひどい!」
「これ以上悪く言われたくなかったら、ちゃんと吐け。さもないとありもしない噂をばらまいてやる。あの夜、ボクは君に純潔を捧げたって――」
「ワーワーワーワーッ! わかった、話す話すから。お願いだからもうやめてくれ!」
「フヒッヒ。最初からそう素直に言えばいいんだよ」
ロニーは悪女だ。
この世で最低最悪の本物の悪女だ。
生涯消えない汚点を、こいつは握られている。
ロニーの卑怯なところはあの夜の美しい女性が自分だとは誰にも公言しないことだ。自ら語るのではなく、後から彼女が魔法で髪の色を変え、別人になりすまして社交界を楽しんでいた。
そんな噂を流して冒険心のある楽しい女性だと皆に思わせる。
それほど策略に長けているからこそ、彼女はやり手の起業家として財産を築いていけるのかもしれないけれど。
「そのワニは何者?」
「……赤い月の女神ラフィネの御遣いだって言っていた」
「女神様の眷属! これはちょっと驚き。それでそれで」
「ある用事のために地上へと舞い降りたら、さっき話したダレネ侯爵たちの策略にはまってしまって、魔石に閉じ込められた。で、それをヘイステス・アリゲーターの中に入れて、侯爵たちが乗り込んだ船へと送り届けさせる。そんな計画だったみたい。ついでにあのドラゴンも……女神様の眷属を拿捕するための、策略の一つだったって言ってた」
「それはいつ聞いたの? 特殊な能力をもらった時?」
そうだ、とカールはうなづく。
不思議なことに二人の距離は変わらないままで、ロニーは人差し指をカールの額から外し、自分の額をくっつけるようにして、少年の目を覗きこんでくる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる