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第五章 撃癒師と一撃殺と暗黒街の花嫁
第42話 一撃殺と心の距離
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どこから関係しているのさ、と話題に興味をそそられたらしく、ロニーは四つん這いになって長椅子の上を張って来た。
獲物にのしかかる獰猛な大型犬のようになり、彼女のあくなき好奇心はその魅力的な秘密を聞かせろと、薔薇色の可愛い唇を寄せて来る。
「近い、近い、距離が近い!」
「君にはこのくらいが丁度いいんだよ。どうせ、話しの要点も満足に説明できないまま、馬車が宮廷に着いてそれで終わり、とか呆気ない幕切れを迎えるんだから。いまはそんな心配はしなくて良いんだよ?」
サキュバスが無垢な少年に性欲の解放を説くがごとく、ロニーはここなら誰も聞いていないからバレることはないんだよ、と仄めかす。
「どっちにしたって、王宮に着いたら終わりー……あれ? この馬車、いつもと道が違う……」
「あっはは。もうバレたか。そう、王都の周りをぐるっと一周してくるように、御者には賄賂を渡してある。誰にも邪魔されないよ?」
このままボクが近づいたら大変なことになるねえ、奥様達にバレないといいんだけれど。
ロニーは本気が冗談か、そんなことをうそぶいて、カールの目を白黒させる。
こいつはこれまで何人のパトロンをこうやって口説き落として来たんだ?
やめろ! 僕の純粋な心の中に踏み込んでくるな! 汚れきった大人なんて大嫌いだ!
「邪魔されないのはどうでもいいけど、それ以上近づいてきたらこっちにも考えがあるからな」
「おやおや。噂に名高い接近戦の名人が僕とここでやり合うっていうの?」
「不毛な結果にしかならないからやりたくないんだけどね」
考えてみたら、ロニーは美しい美少女だがまだそれだけでしかない。
大人の女性二人の成熟した魅力に包まれた時間と比べれば、どんなに美しい美少女でもカールの心の壁を破るのはちょっとばかり難しかった。
人差し指を持ち上げると、ロニーのおでこを軽く弾いてやる。
「いったあー!」
「痛くない」
「痛いよ! これ赤くなってるじゃん!」
どこから取り出したのかロニーは手鏡に自分の顔を映し出して、唸るように抗議の声をあげた。
だって仕方ないよね。こうでもしなきゃ、あのまま食べられそうだったし。他の男子なら喜んでそれを受け入れたような気がするけど。
「赤くなっただけでよかったでしょ。それより真面目な話。犯罪組織に加担するって言うけど、この王国そのものを転覆させるような重大な事件が発生しているとしたら、君はどうする?」
「えー……? 面倒くさい質問だなあ。さっさと逃げる?」
「なんで逃げるのさ!」
「だって王国がなくなるんだったら雇い主がいなくなるって事じゃん。それだったら他の国にさっさと逃げたほうがましだよ」
「現実主義者だなあー。国王陛下のために戦おうとか思わない?」
んー……とロニーはおでこの赤味を気にしつつ、眉根を寄せる。
頭の中ではたくさんのそろばんがパチパチと音を立てて弾かれているに違いない。
この現金主義者め。
「難しいかな。だってボク、魔石を加工して細工することにしか能がない、ただの職人だもの」
「一月前、聖戦に張り出された上に、魔王軍の将軍を遠距離狙撃したのは一体誰だったっけ」
「誰だったかな?」
「一撃殺。ロニー・アトキンス。有名だよ? 魔石彫金技師としてよりも、もっと重宝されると思うんだよね。この国の王様はゆるいから、あまりロニーのことを束縛しないようにしてくれているけれど、君のその美しさ。他の国の王様が目を着けないはずがないと思うんだよね。40代とか50代の脂の乗った立派な紳士たちが、ね?」
「うひいいいっ、やめて! 想像しただけで怖気が立つ!」
ロニーは膝立ちになると両方の手でそれぞれの肩を抱きしめて、身を屈めてしまった。
まるで防御態勢に入った亀みたいだ。
甲羅の中に入ったまんまで、コロコロと転がして、ケリーのもとへと宅配出来たら、楽なんだけどな。
「君はそんなに冷たい人間だったんだね。今までの雇い主をさっさと見限って自分が自由になるためなら、好き勝手に生きる人間なんだ? 僕はがっかりだな」
ちょっとばかり芝居がかった口調で、カールはロニーをしかってみる。
そうすると彼女は全くもって面白くなさそうな顔をしながら、「分かったよ」と、短く一言返事をした。
一番最初に貴族院に行き、妻たちの登録を済ませるつもりだったけれど。
半ば強制的にロニーに拉致をされてしまってはどうしようもない。
先にこちらを味方につけることにしよう。
そう考えたカールは、前回、旅に出てから戻ってくるまでの間のことをなるべく簡潔に、ロニーに経緯を説明した。
治療の旅から戻る途中、野生のドラゴンに出くわしてしまい、撃退したこと。
体力が尽き果て、死にかけていたところをサティナに救われ、妻として連れて行くことになったこと。
船でケリーたちブラックファイアの一族と同席したこと。
ヘイステス・アリゲーターの襲撃に遭い、黒狼の魔炎使いが撃退して、巨大な魔石を手に入れたこと。
その魔石にはヘイステス・アリゲーターの幼生が封印されていて、これから王国の脅威となるであろうダレネ侯爵一派とやりあったこと。
魔石は奪われてしまい、交換条件として奴隷に堕とされたローゼをサティナの意思で、第二夫人に迎えたこと。
夢の中に魔石から抜け出したヘイステス・アリゲーターの幼生が出て来て、特殊な能力を与えてくれた、などなど。
「おかしい、嘘だ。なにか隠している!」
真っ先に戻ってきたのは、否定の言葉。そして、王都の貴公子たちなら諸手を挙げて歓迎する、ロニーの壁ドンだった。
獲物にのしかかる獰猛な大型犬のようになり、彼女のあくなき好奇心はその魅力的な秘密を聞かせろと、薔薇色の可愛い唇を寄せて来る。
「近い、近い、距離が近い!」
「君にはこのくらいが丁度いいんだよ。どうせ、話しの要点も満足に説明できないまま、馬車が宮廷に着いてそれで終わり、とか呆気ない幕切れを迎えるんだから。いまはそんな心配はしなくて良いんだよ?」
サキュバスが無垢な少年に性欲の解放を説くがごとく、ロニーはここなら誰も聞いていないからバレることはないんだよ、と仄めかす。
「どっちにしたって、王宮に着いたら終わりー……あれ? この馬車、いつもと道が違う……」
「あっはは。もうバレたか。そう、王都の周りをぐるっと一周してくるように、御者には賄賂を渡してある。誰にも邪魔されないよ?」
このままボクが近づいたら大変なことになるねえ、奥様達にバレないといいんだけれど。
ロニーは本気が冗談か、そんなことをうそぶいて、カールの目を白黒させる。
こいつはこれまで何人のパトロンをこうやって口説き落として来たんだ?
やめろ! 僕の純粋な心の中に踏み込んでくるな! 汚れきった大人なんて大嫌いだ!
「邪魔されないのはどうでもいいけど、それ以上近づいてきたらこっちにも考えがあるからな」
「おやおや。噂に名高い接近戦の名人が僕とここでやり合うっていうの?」
「不毛な結果にしかならないからやりたくないんだけどね」
考えてみたら、ロニーは美しい美少女だがまだそれだけでしかない。
大人の女性二人の成熟した魅力に包まれた時間と比べれば、どんなに美しい美少女でもカールの心の壁を破るのはちょっとばかり難しかった。
人差し指を持ち上げると、ロニーのおでこを軽く弾いてやる。
「いったあー!」
「痛くない」
「痛いよ! これ赤くなってるじゃん!」
どこから取り出したのかロニーは手鏡に自分の顔を映し出して、唸るように抗議の声をあげた。
だって仕方ないよね。こうでもしなきゃ、あのまま食べられそうだったし。他の男子なら喜んでそれを受け入れたような気がするけど。
「赤くなっただけでよかったでしょ。それより真面目な話。犯罪組織に加担するって言うけど、この王国そのものを転覆させるような重大な事件が発生しているとしたら、君はどうする?」
「えー……? 面倒くさい質問だなあ。さっさと逃げる?」
「なんで逃げるのさ!」
「だって王国がなくなるんだったら雇い主がいなくなるって事じゃん。それだったら他の国にさっさと逃げたほうがましだよ」
「現実主義者だなあー。国王陛下のために戦おうとか思わない?」
んー……とロニーはおでこの赤味を気にしつつ、眉根を寄せる。
頭の中ではたくさんのそろばんがパチパチと音を立てて弾かれているに違いない。
この現金主義者め。
「難しいかな。だってボク、魔石を加工して細工することにしか能がない、ただの職人だもの」
「一月前、聖戦に張り出された上に、魔王軍の将軍を遠距離狙撃したのは一体誰だったっけ」
「誰だったかな?」
「一撃殺。ロニー・アトキンス。有名だよ? 魔石彫金技師としてよりも、もっと重宝されると思うんだよね。この国の王様はゆるいから、あまりロニーのことを束縛しないようにしてくれているけれど、君のその美しさ。他の国の王様が目を着けないはずがないと思うんだよね。40代とか50代の脂の乗った立派な紳士たちが、ね?」
「うひいいいっ、やめて! 想像しただけで怖気が立つ!」
ロニーは膝立ちになると両方の手でそれぞれの肩を抱きしめて、身を屈めてしまった。
まるで防御態勢に入った亀みたいだ。
甲羅の中に入ったまんまで、コロコロと転がして、ケリーのもとへと宅配出来たら、楽なんだけどな。
「君はそんなに冷たい人間だったんだね。今までの雇い主をさっさと見限って自分が自由になるためなら、好き勝手に生きる人間なんだ? 僕はがっかりだな」
ちょっとばかり芝居がかった口調で、カールはロニーをしかってみる。
そうすると彼女は全くもって面白くなさそうな顔をしながら、「分かったよ」と、短く一言返事をした。
一番最初に貴族院に行き、妻たちの登録を済ませるつもりだったけれど。
半ば強制的にロニーに拉致をされてしまってはどうしようもない。
先にこちらを味方につけることにしよう。
そう考えたカールは、前回、旅に出てから戻ってくるまでの間のことをなるべく簡潔に、ロニーに経緯を説明した。
治療の旅から戻る途中、野生のドラゴンに出くわしてしまい、撃退したこと。
体力が尽き果て、死にかけていたところをサティナに救われ、妻として連れて行くことになったこと。
船でケリーたちブラックファイアの一族と同席したこと。
ヘイステス・アリゲーターの襲撃に遭い、黒狼の魔炎使いが撃退して、巨大な魔石を手に入れたこと。
その魔石にはヘイステス・アリゲーターの幼生が封印されていて、これから王国の脅威となるであろうダレネ侯爵一派とやりあったこと。
魔石は奪われてしまい、交換条件として奴隷に堕とされたローゼをサティナの意思で、第二夫人に迎えたこと。
夢の中に魔石から抜け出したヘイステス・アリゲーターの幼生が出て来て、特殊な能力を与えてくれた、などなど。
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