残念ですが、殿下。浮気ばかりするあなたには愛想が尽き果てました。これにて絶縁させて頂きます!~婚約破棄&国外追放?お好きにどうぞ~

和泉鷹央

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第二章

秘密

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「まあ、そういうわけで。こんなものをもらって来ました……来たよ、アンナローズ」

 ギルドの採用試験のあと、二人が共同で借りている4LDKのアパートの居間でアンナローズに睨みつけられてラッセルは言葉を言い直した。

「睨むことはないだろう?」
「睨んでなんかないわよ。ただ、言葉遣いを崩すって言い出した方が出来てないなんて、情けないってそう思っただけよ」
「手厳しいな……明日、お前が行くんだぞ?」
「明日って。採用試験? そんなに毎日やっているものなの?」
「毎日どころか、日に二回行われているらしいぞ。何でも戦争があるそうだ。今度はこの西の大陸の狭間でな」
「戦争、戦争、戦争。どこに行っても何をしていても、争いばかり。大陸を隔てても……悲しいことばかりだわ」

 王国も戦争にかまけて私を忘れてくれたらいいのに。
 あり得ないかもだけどとあくびをしつつ、ラッセルに夕飯はまだ? そう催促してみる。

「俺が――作るのかい? 殿下のためにと色々な料理を習っていただろう?」
「あれはあのバカの為に一生懸命になって覚えたし……今更、披露するような腕前でもないし。主人の娘に食事の世話までさせる気なの?」

 つんっと澄ました顔でアンナローズはやだやだと首をふり、居間の長いソファーに足を投げ出して横になってしまう。
 一度、王太子妃補という重責から逃れてしまったら、それまで我慢してきた自分の意見が噴出してきたのかもしれない。
 自由を知り、表現することを知ったアンナローズを、ラッセルはしっかりしろもう生きる世界は変わったんだと、一概に叱る気にはなれなかった。

「俺の主は侯爵閣下だったが、いまは貴方だろうな。アンナローズ」
「え? それはそうでしょう」
「だが、主を守るためにするべきことと、主でもできることまで俺が手を貸すことはまた別だ」
「……つまり、自分のことはできるだけ自分でやれ、と?」
「十六歳。庶民の女子はもう結婚し、子供を産み、自立するのが当たり前の世界だ。つまり、今の貴方――いや、お前は庶民の世界で言えば落第生。出来損ないってことになるな」
「そんな……そんな言い方、しなくてもいいじゃなにの」
「しますよ、アンナローズ。ここで生きていくなら、甘えはゆっくりでいい。消しながら順応するしかない。それでも貴族の娘としての誇りだけは捨てないで欲しい。無茶な願かもしれませんがね」

 だから、自炊できるようになれ。
 ラッセルは片方の眉を上げて見せると、そのまま顎で台所を示していた。
 
「厄日だわ……」
「心配するな。ドレスを一人で着れるようになったら一人前だとしたら、まだベッドから這い出ようかどうしようかってとろだよ、お嬢様」
「馬鹿ね。ドレスなんて一人じゃ着れないわよ。腰回りを締めるのにどれほど苦しいか知らないでしょう?」

 締める?
 ああ、そういえば違和感の正体にようやく思い当ったとラッセルは気づいた。
 細くない。そして、出るべきところが……しかし、それを言えば魔法で焼殺されそうだからそれは言わない。
 夕食を宜しくと皮肉にとどめて、アンナローズを台所に案内すると、自分は居間に戻り総合ギルドから渡された書類のいくつかに再度、目を通すのだった。
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