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第二章
見知らぬ台所
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「ねえ、ラッセル……」
早い。
台所に入ってアンナローズが出て来たのは十分も経過しない頃だった。
「何か?」
一体どんな料理を作ったんだ?
貴族のそれも国母候補としての教育を受けた令嬢の作る手料理だから、味も体裁もそれなりに凄いに違いない。
ラッセルは勝手にそう決め込んでいた。
だから、次にアンナローズの口を突いて出た言葉には、唖然としてしまったのだ。
「どうやって使えばいいの、ここのかまどとか、水道とか……」
「……は? え?」
一瞬、ラッセルの思考が停止した。何を言っている? 、と。
「何よ? 使い方!」
「じょうだん、でしょ? お嬢様??」
口をあ、の状態に当けたまま質問してくるラッセルに、アンナローズの鋭い視線が突き刺さる。
「冗談でこんなこと言わないわよっ! 世間知らずで悪かったわね!」
「あ、そう……か。だが、王国でも一般的には同じはずだが……」
アンナローズはよりキツい視線を放っていた。
それ以上言うなら、もう料理なんてしない!
そんな目つきだった。
「冗談や嫌味でこんな恥ずかしいこと聞けません!」
「えっと。自分で火を起こしたことや、水を汲んだことは……?」
「ある訳、ないじゃない。これでも元王太子妃補よ……刃物の扱いや、切り方、鍋やフライパンの扱い方なら分かるけど。あと、火加減の調整や調味料の分量も」
「しかし、そう難しいことじゃないんだが」
「王国にあったかまどとかなら、分かるわよ! でも、どこを探しても薪を燃やす火元すら見つからないんだもの」
なるほど、そういうことか。
ラッセルはようやく合点がいった顔をする。
この西の大陸、特にラズは大陸間における国際貿易の要所ということもあり、自分たちの王国よりは文明の進んだ北の大陸や天空大陸の技術が一般にも普及しているのだと。
「こっちの大陸は俺たちの住んでいた南よりは、文化的には進んでいるので。そういう意味では、まあ……」
「いいから教えなさいよ。どうすればいいのかを……」
やって見せた方が早いかな。
それでも王宮の厨房にはきちんと導入されていたはずなんだが。
侯爵家にも。
なぜわからないのだろうと思いながら、ラッセルは台所に立った。
「食材は用意しているのに、調理器の方法が分からないなんて、さすが貴族令嬢」
「嫌味はいいから。教えてよ!」
説教臭いのは嫌い。
アンナローズはそんな顔をしてラッセルをにらんでいた。
早い。
台所に入ってアンナローズが出て来たのは十分も経過しない頃だった。
「何か?」
一体どんな料理を作ったんだ?
貴族のそれも国母候補としての教育を受けた令嬢の作る手料理だから、味も体裁もそれなりに凄いに違いない。
ラッセルは勝手にそう決め込んでいた。
だから、次にアンナローズの口を突いて出た言葉には、唖然としてしまったのだ。
「どうやって使えばいいの、ここのかまどとか、水道とか……」
「……は? え?」
一瞬、ラッセルの思考が停止した。何を言っている? 、と。
「何よ? 使い方!」
「じょうだん、でしょ? お嬢様??」
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それ以上言うなら、もう料理なんてしない!
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「冗談や嫌味でこんな恥ずかしいこと聞けません!」
「えっと。自分で火を起こしたことや、水を汲んだことは……?」
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「しかし、そう難しいことじゃないんだが」
「王国にあったかまどとかなら、分かるわよ! でも、どこを探しても薪を燃やす火元すら見つからないんだもの」
なるほど、そういうことか。
ラッセルはようやく合点がいった顔をする。
この西の大陸、特にラズは大陸間における国際貿易の要所ということもあり、自分たちの王国よりは文明の進んだ北の大陸や天空大陸の技術が一般にも普及しているのだと。
「こっちの大陸は俺たちの住んでいた南よりは、文化的には進んでいるので。そういう意味では、まあ……」
「いいから教えなさいよ。どうすればいいのかを……」
やって見せた方が早いかな。
それでも王宮の厨房にはきちんと導入されていたはずなんだが。
侯爵家にも。
なぜわからないのだろうと思いながら、ラッセルは台所に立った。
「食材は用意しているのに、調理器の方法が分からないなんて、さすが貴族令嬢」
「嫌味はいいから。教えてよ!」
説教臭いのは嫌い。
アンナローズはそんな顔をしてラッセルをにらんでいた。
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