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第一章
総合ギルド
しおりを挟む「で、俺だけが夕方に総合ギルドを訪問するっていう、な……何の罰ゲームだよ。ここ最近、扱い酷くないかアンナローズのやつ……」
普段はお嬢様と呼びながらも、侯爵家の邸内や彼女の私的な用事の際は、アンナローズと呼んでいた時期もあった。それが王太子妃補の自覚を持ち、国母候補としての才媛の名を世間に知られ始めた頃から関係性は変わりだす。
あんなに可愛かった時期もあったのに。いやもう数年前だが。
いやまあ、何というか……この西の大陸にやって派遣された理由は理解しているのだ。
ラッセルは侯爵閣下に言われた娘を任せるぞ、という言葉の続きを思い出す。
「俺が残るとクレイグを暗殺しかねないからアンナローズの護衛を任せた、か。そこまで惚れたり女として見てないんだがなあ。よくて妹だ。それも可愛い実妹と感覚はかわらんのだが」
それにしても、この城塞都市ラズは広い。
故国であるルケイド王国も南の大陸ではそれなりに大きかったが、さすが西の大陸の半分を支配する大帝国の海の玄関と言われるだけのことはある。
王都にあった総合ギルドのルケイド支部と遜色ないほどの規模の支部が、ここラズにも存在した。
ぼやくを止めるとラッセルは定期便として市内を運航している馬車を降り、目の前にある十数階建ての複合施設を見上げていた。
「ここは大型飛行船まで離着陸できるのか。ということは……この支部の運営母体はまたあいつらか……」
いざ戦争となったら市街戦を想定して作られているその建物は二重の堅牢な壁に周囲を囲まれており、入り口まで続く街路の両端には高い石造りの建物がひしめき合っていた。
不思議なことにここには王都で見られたあれがない。
冒険者といえば食い詰めた農民や逃亡奴隷、ならず者や犯罪者の巣窟と相場は決まっていて、社会の底辺の職業と言っても過言ではなく。まだ正規の兵士のほうが待遇もまともだったりする。
必然的にその指揮や管理監督を行うギルドの建物前には浮浪者や、地方から出てきたはいいものの住所がなく、この場所に寝泊まりする者たちのテントが軒を連ねているものなのだが……。
「あれがないってことは、余程管理が行き届いているか、それともこの帝国が裕福か。そのどちらかになるよな。福祉まで手厚いとなると、東の神聖ムゲール王国、西のエルムド帝国、北の枢軸連邦。世界三大国家と言われるだけのことはある、か」
入り口前に立つとこちらの本体は石造りではなく、前面ガラス張りの高層建築となっていて陽光を照らし出す様がまぶしいほどだ。
自動開閉式のドアに、これまたアンナローズと共に乗った飛行船でも体験した自動昇降機が四階の受付へと運んでくれる。
その操作のどれもに特定の種族の男女が案内人として従事していた。
「猫耳族……南の魔王の配下が帝国の帝室に入り込んだって歴史は真実だったか」
故郷では見慣れた彼らをじろりと見渡すと、ラッセルは受付窓口を天井から下がったプレートを確認してそこに向かった。
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