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第一章
かりそめの……
しおりを挟む「それで、貴方は何をさせるつもりなの? 総合ギルドは受け入れてくれると仮定するとして、私はどこで何をすればいいの?」
「その気になりましたか? 残念ながらツテがあるとかそういった都合のよいものはありませんので、登録してからもしくは採用試験を受けてからということになりますな」
「……採用試験? どんなことをするのよ?」
「さあ? それは行ってみないと。俺はずっと銃士隊ですからね、外のことには詳しくない。なのでまずは俺が行きますよ。その後にお嬢様――いや、アンナローズに受けていただくことにしましょうか」
「それはいいけど、呼び捨てにするならきちんと敬語も止めないと違和感があるわよ? 私の身分はどうするの? 貴方の家族?」
「あー……気を付ける。そうだな、俺は平民だし、アンナローズより十は離れてる二十六だから。兄と妹というのも少し無理がある……。夫婦にするか?」
「は? 嫌よ、十も離れたおじさんなんて恋愛の範囲外だわ」
あり得ないからもっといいアイデアを出しなさい、とアンナローズにけなされてラッセルは渋面になる。彼女の言動のせいで自分はここにいて、もしかしたら生涯、王国に戻れないかもしれないのに。そんな運命を共に生きなければいけない部下に対して、もっと可愛げはないものかとラッセルはついつい思ってしまう。
娘のために命をかけてくれるか、とはアンナローズの護衛に任命されたあの時に侯爵に問われた言葉だ。
あれから十年。
ずっと見守ってきた主人の娘は――どうにも自分には優しくない。
「戻りたい気分だ」
「戻れば? でもお父様は貴方を許さないでしょうね?」
「……ああ、もう! なら母方の従姉妹では? それなら問題はないはずだ」
「まあ……貴方と夫婦なんて演じたら同じ室内で寝起きしているんだもの。いつかは襲われそうだから、焼かないか心配だわ」
「任務を放り出して王国に戻りたい気分ですよ。なんてひどい言いざまだ」
「だって、あり得ないことを言い出すんだもの。結婚したいなら、きちんと手順を踏んでいただきたいわ」
「いや、俺は仮の夫婦としてだな。何もアンナローズに手を出すとは言ってない……誤解だ」
「知ってる」
「嵌めましたね? 俺で遊ばないでくださいよお嬢様」
「おとしめてはないわよ? ただ、貴方がその気があるなら、きちんと手順を踏んでちょうだいとお願いしているだけ」
「いいえ、主にそんな思いは抱きませんよ。ただ――まあ、いいか」
「? 変なラッセル。じゃあ、貴方は戻ったらすぐに行きなさい。その総合ギルドとやらに」
「かしこまりました。さっさと地上に着かないかな、この飛行船……」
「あと一時間くらいかな? 多分。眺めが綺麗ね」
まだ一時間もあるのかよ。
ラッセルは食事を胃から戻さないようにとなるべく外を見ないようにして、座る位置を変えるのだった。
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