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第1章 進学校の日常と非日常
チラシまきのメイド
しおりを挟む「やっぱり、むりなのかなー」
うつむきながらつぐさがそうつぶやく。
「文芸部は諦めたら。もっと、つぐさが興味あるものに熱中したほうがいいよ」
都トがなぐさめの言葉をかける。
「それがないから、困っているんじゃん......」
思わずため息をつく都ト。
帰り道、気分転換にいつもとは違う道を行く。
フードコートのあるショッピングモールを出て、駅前へと向かう。
とりあえず新幹線の停まる駅である。駅近くの大きなアーケード街に近づくと、雰囲気が変わる。
チェーン店系の喫茶店やパチンコ屋。ゲーセンやカラオケ店などが並ぶ。
それを横目に歩みを進める二人。
平日とはいえ、人の通りは多い。
ティッシュをくばっている販促の人。チラシを配っている人もいる。
「へぇ~。うちの街にもメイド喫茶とかあるんだ」
つぐさの声に、そちらの方を都トは向く。
チラシをまくメイドたち。数人が輪になって愛嬌を振りまいている。
「ん......?」
つぐさが目を細める。
「どしたの?」
「いや.....あそこの一人......」
指差すつぐさ。
都トがそちらを見つめると、メイド姿の小柄なメガネを掛けた少女が一人でチラシをまいていた。
「アンドレア・デル・サルト......の先輩......?」
都トが思わず声に出す。間違いない。文芸部にいた本吉先輩だった。
どうしようかな、と都トは躊躇するが時すでに遅し。
つぐさが突進していた。
「本吉先輩!こんにちわ!」
いかん、と都トは青ざめる。普段、おとなしいくせにこういうときには暴走しがちなつぐさの性格。都トはそれを熟知していた。その後に本人が自己嫌悪に陥ることも。
時すでに遅し。
名前を呼ばれた文芸部員、現在メイドの本吉イチ架はぎょっとしてこちらを向く。
「本吉先輩!ですよね!こんなところで偶然というか.....」
じっとつぐさを見つめるイチ架。
そしてちらしをぺたんとつぐさの顔に貼り付ける――
「すいませんでした!ついかっとなって」
頭を下げるつぐさ。
「......犯罪の同期聞いているんじゃないんだしさ」
不機嫌そうにこちらを見つめるイチ架。
事件の次の日、文芸部室を訪れたつぐさと都トを迎えたのは制服姿のイチ架であった。
「だいたい、町中で名前を叫ぶって......」
それもそうである。ましてメイド姿の少女に。
「でも」
都トがきりだす。
「なんであんな格好してたんですか?」
ギクッという擬音が聞こえてくる。
「まあ、コスプレというか......」
「町中で?」
さらに顔色が悪くなるイチ架。
「うちはアルバイト禁止でしたよね」
都トがたたみかける。
「もしかして先輩......メイド喫茶のアルバイトとか......」
「わかった」
右手を差し出すイチ架。手のひらは体に似合い、とても小さい。
「黙っててくれ。そうしたら悪いようにはしない。約束する」
都トはつぐさの方を振り向く。
この瞬間に二人の文芸部入部が許可されることとなったのだ――
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