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三五四話
しおりを挟むミラちゃん達に、『アンリミ』産作物の栽培を依頼した翌日のこと。
この日、昼食後、午後一に珍しい人物が屋敷を訪れていた。
「久しいな、スグミ」
「おおっ! 本当に久しぶりだな。最後に会ったの何時だっけ?」
そう言って、メイドさんの案内の下、俺の執務室へと入って来たのは、軍服にお団子頭姿のセリカだった。
俺の記憶が確かなら、最後にセリカの顔を見たのは、一緒にここ、第二王都予定地の下見をしに来た時以来だ。
この屋敷の改装に着手してからはもう会っていないはずだから、ざっくり一ヶ月ぶりくらいだろうか?
「最近は何んだか忙しそうにしているって話しを、マレアから聞いたぞ?」
これもマレアからのまた聞きなのだが、以前、エルフ拉致を行っていたクソ貴族……名前はすっかり忘れた……が残した資料から関係者が芋づる式に見つかり、そいつらをしょっ引くのに東奔西走していたとか。
ちなみに、あの時俺が戦った抜け忍ならぬ抜け騎士の何とかって奴も、軍事裁判にかけられ現在は投獄中らしい。
で、色々と丁寧にお話を聞かれているとかいないとか……
これも、マレア情報である。
てか、聞いてる俺も俺だが、あいつ軍事機密みたいなのホント、ペラペラ話すけど大丈夫なのか? と思ってしまう。
なんて話しはさておいてだ。
俺は座っていた執務机から立ち上がると、そう声を掛けつつセリカを出迎え、ソファーに座るよう身振り手振りで勧める。
で、俺がその対面に腰を下ろすと、続くようにしてセリカも腰を下ろした。
この後のことを考えたら、こうして対面で座っていた方が楽だからな。
ここで役目が終わったとばかりに、メイドさんは一礼すると静かに執務室から退出して行った。
「まぁな。そっちはそっちで、色々とやっているみたいじゃないか。
しかし、あの廃屋がこうも姿を変えるとはな……」
そう言うと、セリカは執務室をぐるりと見渡すように首を巡らせた。
そういえば、何気にセリカが改修後のこの屋敷に来るのはお初だったな……
プレセアや、セリカのとーちゃんであるラルグスさんは一度来ていたが。
「そうは言っても、ガワは殆どそのまま使っているし、カラっぽだった内装を少しいじっただけだがな」
「少し……ねぇ……」
で、俺がそう言うと、セリカは含みあり気にそう呟いた。
気にはなったが、敢えて言及はしないでおく。
「それに、遺跡の調査では多大な功績を上げたと聞いたが?
前人未到の領域に到達したとか、そこで古代文明の遺物を発見したとか……
王城じゃ、歴史的快挙だと上へ下への大騒ぎになっていたぞ?
それに、国からの報酬を断ったとも聞いたな」
「遺跡の件に関しては、俺一人の功績じゃないからな……」
事実、迷宮区画に関しては、セレスがいなかったら踏破するのにどれだけ時間がかかったか分かったものではない。
それこそ、期間以内に最深部に到達出来たかどうか……
実は迷路は使いまわしでした、なんて中にいる人間が早々気づけることでもないだろうからな。
俺にはオートマッピング機能があるので、それこそ虱潰しに通路を移動すればそのうちゴールには辿り着いただろうが、それとて掛かる時間が劇的に短縮されたことに違いはない。
セレス様様だ。
ん? マレア? 知らない子ですね。
「それと、報酬に関しては事前に交わしていた契約もあってな。そもそも、俺は受け取れないことになってたんだよ」
まぁ、セレスの話しでは受け取ることも出来たらしいが……
現状で生活するには十分な資金があるのに、これ以上カネが増えてもねぇ……
そもそも、あの調査では俺の個人的な成果としてはほぼゼロだ。
知りたいことは結局何一つ分からず終いだったわけだし。
それで、カネだけ貰って、わーい! 嬉しいなっ! なんて浮かれられる状況でもない。
「お前がそう言うのなら、そういうことにしておこうか。
さて、では世間話もほどほどに本題といこう」
そう言うと、セリカは今日来た目的、ベルヘモスのお披露目式典について話し出した。
実は、俺が屋敷に帰って来た当日に、メイドさんからベルヘモスのお披露目式典の日にちが決定したことは知らされていた。
ちなみに、帰って来た時に十日後だと聞いていたので、今日からだと五日後ということになる。
で合わせて、今日、その詳細を伝えるために、王城から遣いが来ることも知らされていた。
とはいっても、その使者がセリカだとは知らされてはいなかったがな。
というわけで、セリカが式典での服装だとか、式自体の流れ、またその中での俺の役割などを、持参した資料を見せながら説明してくれた。
まぁ、色々と言われたが、要はそれっぼい服装で言われた通りの行動をすれば、概ね問題はないみたいだ。
服に関しては一応、礼装……というのか、それっぽい物は持っているので、問題なし。
それに、俺が何を話さなきゃいけない、ということも特になし。
俺がやることといったら、プレセアの指示で所定の場所にベルヘモスとマキナバハムートを出し、プレセアから表彰されるくらいものだ。
式典の流れとしては、まずプレセアの挨拶があって、それからラルグスさんによる簡単な事情説明。
ただし、ベルヘモスが国内に侵入していたかもしれない、という事実は流石にそのまま話すわけにはいかないらしいので、適当に端折るようだ。
それから、ベルヘモスを討伐した俺が紹介されて、衆人環視の前でベルヘモスとマキナバハムートのお披露目。
で、討伐した俺を表彰して終わり。
という流れらしい。
正直、面倒以外の何ものでもないが、こちらも色々と世話になっている以上断ることも出来ない。
とにかく俺は言われたことをしていればいいようなので、難しく考えることはなさそうだな。
一応、式の後に招待した貴族に向けてベルヘモスの鑑賞会みたいなのを開催するらしいが、俺の参加は自由だそうだ。
行ってもいいし、行かなくてもいい。
ただし、出席した場合は招待された貴族連中に絡まれる可能性が高い、とセリカに忠告された。
なので、どんな絡まれ方をしそうなのかセレスに聞いたら、次の様なことを言われた。
まず、親王族派で、かつ、娘がいる家からは婚約なんかの申し出がある可能性が高い。
魔獣討伐の英雄を家に向かえれば、それだけで箔が付くとかなんとか。
ただ、俺がパンピーなので、その場合は婿養子という形になるそうだ。
ちなみに、参加する貴族家の中に、これに該当する家が二〇以上存在するとか。
で、反王族派からは、自分たちの派閥に入らないかという引き抜き工作が予想される、と。
しかし、婚約ねぇ……
こちとら、貴族にならないように今まで適当に距離を取ってきたというのに、それが婚約とか本末転倒でしかない。論外である。
とはいえ、まぁ、一体どんな子が紹介されるのか、一度あいさつするくらいなら……っていかんいかん。
既に四〇人ほど危険分子抱えてる状態で、変に接点持ってこれ以上地雷を増やしたところで百害あって一利なしだ。会わないのが正解だな。うん。
反王族派に関しては、まぁ、俺の力を使って王族を打倒しよう! といった感じかね?
こっちに関してはまったく興味なしなので端から会うつもりもない。
まぁ、どちらにしても自分からわざわざ絡まれに行くつもりもないので、こちらは辞退する方向で話しを進めてもらった。
セリカも「まぁ、妥当な判断だな」と同意してくれたしな。
ちなみに、ベルヘモスに関しては、数日に渡り市民向けに展示をするらしい。
ベルヘモスの状態如何では展示を取り止める可能性もあったそうだが、謎の腐敗しない現象もあり、実行することにしたそうだ。
ただ、学者連中からは、その間研究が出来なくなるっ! とかなりの反発があったとか……
コンコン
そんな感じで、概ね式典についての話しがまとまりかけた頃。
執務室の扉がノックされた。
「どぞ~」
「失礼します」
入室の許可を出すと、メイドさんの一人がポットやらカップやらのティーセットを乗せた、大型のワゴンを押して部屋へと入って来た。
「お飲み物をご用意いたしました」
押していたワゴンをテーブルの前で停止すると、メイドさんはそう言って俺達に向かって軽く頭を下げた。
そして、お茶の準備をしてもいいか尋ねられたので、これを許可。
セリカの話もキリが良い感じになっていたので、一旦休憩を入れるには丁度いいタイミングだったしな。
で、許可を出すや否や、メイドさんがテキパキとお茶の準備を進めていく。
ポットにお湯を入れたと思ったらすぐ捨てて、また入れて、捨てて……
これも作法なのだろうか? よく分からん……
とにかく、俺には分からない複雑な工程を次々とこなしていく。
ちなみに、ここノールデン王国ではお茶といえば、紅茶が主流であり、緑茶というのはないらしい。
以前、お茶について話しを聞いたことがあるのだが、緑茶について聞いたら、何それ? と言われてしまった。
ただ、色こそ紅茶だが、味はまったくの別物。
少なくとも、俺が知っている紅茶の味ではなかった。
なんというか……ハーブティー? の類というかなんというか……
だからといって、マズいとは思わないが……うん、悪くない、といった感じか?
とはいえ、俺が知っている紅茶なんて、所詮、自販機で売ってるシリーズくらいなものなので、善し悪しに関してはさっぱりだ。
バカ舌の俺に食レポなど期待してはいけない。
なんてことを考えているうちに、お茶が注がれたティーカップが俺とセリカの目の前に置かれ、ワゴンの下の部分からお菓子が複数乗せられたタワー状になった皿……あれ、なんて言うんだ?……が、取り出されて目の前にデンっと並ぶ。
「ありがとさん」
「っ!! ……そんな、この程度で滅相もございません」
そうして準備が終わったところでメイドさんに礼を言う。
と、何故か酷く恐縮したように数歩下がって行ってしまった。
何が起きたのかと思ったら、
「普通、この程度で侍女に礼など言わないものだ」
察して、セリカがそう説明してくれた。
少し詳しく聞くと、どうやら使用人が自分の仕事をした程度で、主が礼を言ったりすることはないらしい。
仕事だとしても、礼の一つくらい言ってもよさそうな気はするが……
そういえば、セレスもこの間、似たようなことを言っていてたか?
どうやら、この感覚がこの国でのスタンダードであるらしい。
「そういうもんなのか? なかなか慣れないもんだな……」
多少この生活にも慣れてきたと思っていたのだが、まだまだの様だ。
で、こういう場合は礼を言うのではなく、手際が良い、とか、お茶がおいしい、とか、とにかく良いところがあればそれを褒めるものだ、とセリカから教えてもらった。
なるほど。では、次からはそうすることにしよう。
なんとも妙な感覚ではあるが、郷に入っては郷に従えとも言うからな。
と、反省しつつ、折角メイドさんがお茶を入れてくれたので、冷めてしまう前に一口。
「……ん。おいしいよ」
「ありがとうございます」
早速実戦も兼ねてそう言うと、メイドさんが恭しく頭を下げる。
それに倣うように、セレスも一口。
「うむ。良い茶葉を使用ているのは勿論だが、何より腕が良いな。茶葉本来の味をよく引き立てている」
「お褒めに預かり恐縮です」
そして、俺に続く様にセレスも一言二言。
それに対して、メイドさんも改めて頭を下げる。
にしても、流石はお貴族様。俺よりずっと表現が豊かでいらっしゃることで。
真似をしろといわれても、俺には無理そうだ。
と、セレスの所作を観察していると、メイドさんがすすすっと俺へと近づいて来た。
「あの旦那様。実は、この会談にご参加したい、というお申し出がありまして……」
なんだ? と思っていると、メイドさんがそう耳打ちをした。
「参加したい方? 誰?」
「マクレーン様です」
「セレスが?
……なんかセレスが話したいことがあるみたいなんだが、呼んでいいか?」
「セレス殿が? 私は構わんよ」
一応、相手方がいる状況だ。
俺の独断で決めるわけにもいかないので、セリカにも確認を取ると、これをあっさり了承。
セレス自身は自室にいるそうなので、メイドさんにセレスを呼んで来てもらうようお願いすると、心得たとばかりメイドさんは部屋を出て行った。
しかし、セレスから話しとはなんだろうか?
会談に参加したい、ということは多分セリカにも関係すること、だろうな。
俺にだけ用があるなら、いつでもいいわけだし……
まぁ、詳しくは着た時に聞けばいいか。
ということで、セレスが来るまでの暫くの間、セリカと雑談でもしつつ、お茶を飲みながら待つことに。
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